6話 面倒な事
「ホントそーゆうのどうかと思いますね」
「まぁまぁ。さて!さっさと雑魚の村へ行こうぞ!」
カナトはわざとなのか大きいため息をつきながら面倒くさそうな顔をして荷物を担ぐ。
カナトの荷物には果物、我の荷物にはやけに牙がデカイ熊やら羽が付いている鹿やらなんやらの大量の肉が入っている。
大抵の魔物共は肉が好きだからな。きっといい顔して受け取るだろう。
ザッザッザッ
何処か軽やかな足で村の方へと進む。
そして、我の嗅覚がゴブリン達の村の惨状を教える。
「カナト」
「どうしました?」
「これは思ったよりも面倒な事になってそうだぞ」
そう。一歩一歩進むごとに鼻を劈くようなとてつもなく不愉快な腐敗臭がする。
普通なら魔物が死ねば種族にもよるが、埋葬だの共食いだの解体して売られたりだのとされて死体は残らない筈なのだ。
だからこんなにも腐敗臭が残ることはない。
「死んでいなく怪我人が多いのか。はたまた死体を片付けるほどの力さえもないのか」
カナトもだんだんと村に近づいてくると顔を顰める。
更に近づいていけば、今にも吐いてしまいそうなぐらい体調を崩しはじめた。
「仕方ない。我が嗅覚低下の術をかけてやる」
「ここで待つって選択は無いんですね」
「理由は簡単よ」
足を動かすことはやめず、魔法をかけると、同時にカナトの顔もマシになっていった。
さっきまで顔が青白かったが、今は血の気も戻っていくのが分かる。
さて、別にカナトを待たせることも出来た。
なのにしない理由は……
「あの、さっきから見られてますよね……?」
「鋭いな。気配からして衰弱や怪我はしておらん。どうせゴブリンの村を襲った奴等だろう」
実は昨日の夕飯頃から気配は感じていたのだ。
何で何もしなかったかと言うと、あちらも我々の動きに警戒していたのか遠くから気配を察知しかしていなかったから。
流石に監視されてたら創造の力も使わんし、今日の作戦も話し合いなんてせんわ。
「まあどうせ我の方が強いし。連中も今のところ特には何もしてこない。無視だ」
「分かりました」
そんな事を小声で話しながらいると、恐らく、村の入り口だと思われる場所に着いた。
「おいおい」
「ひっ……!ひっ、酷い……」
簡単に作られていただろう柵は全て壊れており、家はほとんどが壊滅状態。
これはぶっちゃけ予測出来ていた、が。
これは流石に……
「まさかこんなにも死体の山があるとはなぁ」
そう。死体の数が尋常じゃない。
老若男女関係無く死体が周りの木の高さまでいくつか積み上げられていた。
そしてそこには、何故だかゴブリン以外の魔物の姿も混じっていた。
「狼に鬼、トカゲの死体も少しだが混じっておるな」
「…………」
「カナト、そのまま我の背中に着いておれよ」
やはり人間のカナトにはキツかったのだろう、ここに来て死体を見てからずっと背中に顔を押し付けている。
生きているものは……ふむ。
村の奥に2つほど家が半壊だが残っているようで、生物反応もそこから感じられる。
と言っても、10人ぐらいだが……
「カナト、そのままだと動き難い。我がおぶってやるから背中に乗れ。荷物は手で持つ」
「お言葉に甘えて……」
「全く、まさかここまで酷いとはな。予想外だ」
そのままカナトを後ろに背負いながら家……いや、普段使いでは無いのだろう、粗末な小屋に着く。
その間に誰か会わないかと思ったが、相当な被害なのだろう。
誰とも会わなかった。
扉の前でカナトを下ろす。
「邪魔するぞ!旅の者だ!!」
「ゆっくりと開けましょうよ」
バーン!と効果音がつきそうなぐらいの勢いで扉のを開ける。中には10人の(匹か?)魔物達がいた。
種族が違うのもいる。
そしてその半数以上が毛布の上で横たわっていた。
「なっ何者だ……!?」
「なーに、安心せい。敵でもないし危害を加える気もない」
まず初めに話しかけてきたのは一本角が立っている青年。
あー……多分鬼じゃないか?赤髪の見た目がいわゆるイケてる系だ。
ま、この状態では感じ取られないがな。
「貴様らっ!あれだけ殺しておいて、まだ飽きたらず俺等を殺しにしたのか!?」
「だーかーらー、旅の者と言ってるだろ。適当に歩いてたらこの村についたのだが、まさかのこの有り様。せめて事情を聞かせてくれ」
「何を根拠に……っ!?」
「ん?」
なんだなんだ、こいつ。
この視線だと……カナトを見て急に固まったぞ。
とか思ったら今にも殴りかかって来そうな手を下におろし、舌打ちしながらこちらを向いた。
いや、何なんだお前。
「落ち着き給え、鬼の青年よ」
「村長!動いてはお体に……!」
「他のものよりかは動けるよ。それよりも、旅人方よ。何も知らずにここに来たのかい?」
「なんせ無鉄砲なもんでな!」
「はっはっは、元気が良いのぅ。何も出せないが、話ぐらいは出せるさ」
ゴブリンの村長から話を聞くには、此処らは元々種族関係無く暮らしていたそうだ。
元々森が深く魔気が強く(ちなみにどうやら大体は我がいた世界と単語の名が変わらないようだ)他のものが寄り付かなかったらしい。
そしてその強い魔気から魔物達が偶に産まれるらしく、そうして出来た種族達は特に対立もせず共に生活をしていたらしい。
「霧狼とゴブリンは本来なら対立する立場。だが、ここしか知らない俺等には対立する理由がなかった」
「なるほど。ここらの魔物は本能より理性が強いようだな。同じ環境で産まれたのも関係していそうだな」
「そもそも我々が住める範囲が小さいのです。始めこそ対立はしていたそうですが、お互いに都合がよい条件を出し合い解決したそうです」
「俺等、鬼は途中で加わった。親父によると元々は違う所で暮らしていたそうだが、住むところを追われてしまったらしい」
はーなるほどなるほど、だから狼とか鬼とか混じってたのか。
しかしこいつら魔物よりも人間に近いな。
何と言うか、臆病でせこく、弱いゴブリンと無駄にプライド高い奴が多くてしかし確かに実力を持つものも多い鬼達が仲良ししているのは、奇跡に近いだろう。
「つい先週の事でした。突然他の種族が我々の村を襲ったのです」
「そいつらも色々な奴等がいた。そして、後ろで指揮をとってたのは……」
そこから、鬼は黙った。
そうゆうのいいんで速くしてくれ。
カナトはそんな我の考えが分かったのか、肘で腹をつついてくる。はいはい悪かった。
「その青年の様子を見るに__ 鬼か?」
「…………えぇ。そして、人間も居ました」
あ、人間もいたのか。そりゃ我等を疑うわな。関係ないが。
「あいつら突然俺等を襲って来やがったんだ!理由も目的も言わず、ただ村のみんなを殺していった!!」
「年も性別も関係無く皆死んでいきました。勿論抗いましたとも。そして、死んだのです」
「笑ってやがったんだ。そして俺等を腑抜けだとか、鬼の面汚しだとか勝手に……っ!」
ドンッ
青年が床を殴る。
床を見れば、泣いているのだろう。水滴が落ちていた。
「今こうして生き延びたのは隠れたもの、死んだと思われたもの達ばかりです。怪我の手当をしようにも何もないし、回復魔法を使えるものも死にました。食べ物だってありません。ただ、死ぬのを待つだけでした」
「そして、我等が来たと。なるほど、貴方方は運がいい」
「え」
クイッと首を捻らせカナトに合図を送る。
カナトも察したのかすぐに動いた。
いや、本当にこいつらは運がいい。
「こちらを見てください」
「こっこの大量の肉は……!?」
「そ、村長!果物もあります!」
「なーに、これも縁でしょう。差し上げます」
「そ、そんな、こんなにもですか!?」
ふふふふふ、驚いておるな。
ぶっちゃけ我等は簡単に肉を得られるしこれくらいなんともないからここで荷物を軽くするのも悪くない。
さて、食糧をやって恩を売ったし後は情報を得て出発____
そう思うが早いか、急にカナトに服を引っ張られる。
「クレエ」
「……なんだろうな?嫌な予感がするのだが」
「流石自分、彼らを見捨てて次に行く度胸はないんですよ」
「つまり……?」
「お手伝い、しましょう」
カナト、お主全てに興味なさそうな顔をしておいて、お人好しか!?いや、確かに人間は面倒臭い正義面野郎が多いが!
「それに恐らくこの村を襲った奴等に監視されてるんでしょう?やっちゃいましょうぜ」
「いや、それ我に利益が……」
「大抵こうゆうのは強かったりします。後ろで四天王の部下とかいたり。そして、そいつらを倒し名を上げれば__」
「な る ほ ど」
その考えはなかった。面倒臭いとしか思ってなかった。
もしかすると、コレってかなりのチャンスでは?なら逃がす理由もない。
是非とも利用してやろうではないか!
「ふっふっふっ。見ておれよぉ……」
「(チョロいなぁ)」
ニヤける顔を抑えながら口を開く。
さぁ感謝するがいい。尊敬しよ、信仰しよ!
__あぁ、これは面倒な事になった!