3話 受けて立ちましょう
諸事情でかなり遅れました。
チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。それが耳に届くと同時に我は目を覚ました。
「はっ!……もう夜明けか」
起き上がるともうほぼ太陽が昇りかけているのが見え、この時期ならば(と言ってもこの世界で通じるかは知らぬが)大体6時頃だろう。
少し体を動かしてみれば人間はいない。
慌てることはない。少し森を見回っているようだ。
魔力探知があればこれくらいのことも大差ない。
「おい、人間。戻ってこい」
我は少し遠くにいる人間に声をかけた。
と言っても一キロあるからここからだとこの声量じゃ聞こえない。
普通なら、だが。魔気を少し空気に乗せてれば遠くにいる相手にも空気を伝わり聞こえる。
しかも少し練習すれば特定の人間だけに伝えることができるから便利だぞ!
もう一つ伝言に便利で声に出さずともいいものがあるが、それは上位のモノしか使えんのだ。
ま、それのおかげで機密情報漏出に防げるのだがな。
「呼びましたか?」
お、人間がやっと来たようだな。数分しか経ってないが。
「ん?人間、その木の実はどうした?」
「集めました」
「ほう……ふむ。毒は無いな。この森はかなりの食物があるが、大半は毒のようだ。お主、よく毒がないものだけを集めたな」
「少しだけですけど、植物には詳しい方なんですよね」
人間はさして表情を変えずに応える。
「川で洗ってきますね」
「うむ」
我が返事をすればすぐにこの場を離れ、川に向かう。川からここまでは少し距離がある。
戻ってくるのは少しかかるだろうな。
我は人間が戻ってく間に肉でも焼いておいてやろう。
流石我。人間とゆう弱い生物にも優しいのだ!
「あ、肉焼いたんですね」
「うむ。お主はいいかもしれんが我には足らんからな。勿論お主分もあるから安心せい」
「ありがとうございます」
パチパチと音を立てる焚き火の前で今後の予定について話し合う。
「取り敢えず我は雑魚……ゴブリンの村に向かう」
「(雑魚って)ちなみにそれには自分……」
「付いて来てもらうぞ!」
「ですよね」
とうゆうかこいつにとってはそれの方が安全だろう。
一人で無駄にでかい森を彷徨くより最強たる我と行動した方が確実に良い。
それを知ってか知らずか人間は特に反論をしなかった。
その後もゴブリンの村に着いたら何をするかを話しあったりした。
肉を食い終われば人間が持ってきた木の実を食う。
人間によればこれはリンゴ、モモとか言う奴に似ているらしい。
我の世界でも似たのはあったかもしれんが我の魔気で消えたから知らん。
「あの、聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ?」
我が最後のリンゴをひと飲みしたところで人間が口を開いた。人間はまだモモをゆっくり食っている。
「ゴブリンは弱い魔物何ですよね?それだと、あの……良く分かんないんですけど、その姿だと面倒なことになりません?」
……あーそういえばそうだったわ。
雑魚が大抵最強なドラゴンを間近で見たら失禁するな。
今はかなり魔気の量を抑えているが、魔物は本能で基本動く。抑えていようが本能で分かるだろう。
『"これ"には逆らうな』
だからどんな姿にしろ分かるが、ドラゴンの姿だとあからさま過ぎる。人間の言うとおりだ。
「お主の言うとおりだな。では、どんな姿が最適だろうか」
魔物にも色々ある。大鬼から悪魔。天使に蛇。大から小まで。
「そうですね……なるべく動きやすく、魔物には油断されやすくて人間とも関わるとするなら__」
_________
「人間、とか」
ビリリっ
肌を突き刺すような感覚が突如した。
この感覚はどこから?なんて疑問さえ出ない。
息が詰まって呼吸が出来ない。やばい。
「人間、か」
ぼそりと目の前のドラゴンが呟く。
それはさっきまでとは違いとても低く響いた。
「なるほど。つまり貴様は、弱く姑息で卑怯な生物に化けろ、と。この我に?」
草木が揺れる。
鳥達が一斉に飛び立ったからだろう。
それはきっと目の前のドラゴンが魔気とやらを開放したせいだと推測する。
なんかよく漫画とかである表現だよね、はは……はぁ。
そしてこんな間近でいるのにただの人間の自分か起き上がっていられるのが不思議でたまらない。何、(ある意味)自分って、勇者だったの?
……けどさ、分かるんだよね。多分自分は人よりも感が鋭いし、観察眼もあると思う。
だから、今、この目の前にいるドラゴンが本気でキレてるかどうかなんて__
人間は表情を変えた。始めは恐怖によって。
だがそれはすぐに変わる。
少しの間だけだったが、恐怖で歪んだ顔をすぐに元の仏頂面に戻した。
それは先程の表情と変わらない、ように見える。__だが違うな。
これは決意した者の顔。
人間らしい表情だ。目に意思が宿っているのが分かる。
「ふ……ふ、ふはははははは!!!」
なんといい表情か。
「大した度胸だ!こんな我の間近にいながら怯えないとは!普通の人間なら失神してもおかしくないぞ!ふははははは!!」
我は空を向きながら高笑いをした。
こんな気持ちになったのは久し振りだ。確か最後に感じたのは我を消滅させかけた勇者ぐらいだったか。
別に人間に化けるのはいい。
ただ目の前にいる"人間"の表情を変えたかっただけだのお遊び。
この人間に拒否権がない、卑怯だからと言って甘えるような軟弱な奴など邪魔なだけだ。
我に付いて来るならこうゆう奴じゃないとな!