2話 案外図太い
「落ち着いたか、人間よ」
「あ、はい」
いやー、あの後少し表情がやわらいだと思ったらそのまま固まってな……大体三分くらいか。
多分驚きすぎて脳が一時停止でもしたのだろうな。
そりゃあ目の前に今まで見たことないモノが話しかけてきたら驚くか。
面白かったからいいがな!我もその様子には少し驚いたが。
しっかしこの人間、先程までの驚きようとは別に一気に冷静になったな。
恐らくだが通常の人間ならもっと混乱してもおかしくない筈。あれか?驚きすぎて一周回って冷静に~とかいうやつか?こっちの方が状況が教えやすいから別にどうでもいいのだが。
「取り敢えず、助かりました。貴方が居なければ凍え死ぬか飢え死してました」
「うむ。ただの人間にはこの森を抜けていく事など出来なかっただろうしな」
実は、我には効かないから無視してたが、迷い花(方向を狂わせる幻惑の花)や熊や狼とか普通に居たからな。
獣の類は我を見たらすぐさま逃げていったからなぁ……気にもせんかったわ。
あ、熊は倒したぞ?この人間の飯を用意してやるためにな!ハッハッハッ!!
「熊って初めて食べるけど美味しいですね」
「我も初めてだったが焼いて食うだけでも普通にいけるな!」
「塩胡椒が欲しい……」
「シオコショウ?」
シオコショウ……ああ、塩と胡椒とかいうやつのことか。
我は食いもんにこだわらんから使ったことないが人間や食事をする魔物共でもなかなかの高級食材だぞ?そんな物を欲するとは……かなりの貴族か、その高級食材が普通に手に入る世界の人間だったのか?
我も一度使ってみたいな。
「で、だ。お主も我と同じようにこの世界の住人ではないのだろう?」
「……やっぱり夢じゃないんだ。そうですね、取り敢えずこの森は知らないし、なんでいるかも分かりませんし」
「だろうな」
うーむ、やはり予想通りだったか。しかしだとすると、これからどうしようか。
我一人だったらどうにかなったかもしれぬが。人間がいるなら少しは状況を把握したいな。
ん?何故人間がいると状況把握しなくてはならないって?フフフフフ、簡単なことよ。
我のこの世界の攻略に、こいつも巻き込むからだ!!我は最強なる力があるから襲われても構わんが、人間にとってはそうでもないだろう。
我は最強だからな、こうゆうこともちゃんと分かってやれるのだ!
それと、人間の様子から見るに、こやつも我と同じタイミングでこの世界に来たと思われる。
そこまでやつれていないし汚れてもいなかったからな。
これってかなりの確率だとは思わんか?異世界に飛んでしまうのもかなりの確率だが、それが恐らくほぼ同時に起きて、大体同じところに飛ばされたんだぞ?一体何億分の一なのか!!これはもはや運命みたいなものだろう。
だったらこやつも(強制的に)連れて行くのが面白い……いや、定めと言うやつだろう!ま、そのへんはまた明日とかでいいだろう。
今はひとまず、この人間に我を信用させとかねばな。
出来ることも出来ん。
辺りはもう真っ暗で自分達が焚き火をしているところ以外は見えない。たまに鳥の羽音だと思われるバサバサッとした音が聞こえてくる。人間は疲れていたのか少しまどろみ始めていた。
「眠いか?人間よ」
「えっと……少し」
ふむ。どうせなら寝かしてやりたいが、焚き火を起こしてるとはいえ人間には寒いだろう。
人間は弱い。
もしこのまま寝てカゼでも引かれたら困るな。
人間もそれを知ってかは知らぬが寝そうになってハッと目が覚める、とゆうことを数回繰り返している。
無理に起こしていても明日に響くか。
「別に寝ても良いぞ。我がいるから敵の心配は無用」
「えっ」
ん?なんだなんだ、その反応。
遠慮でもしてるのかこの人間は。確かに最強たる魔王の前にして寝ることなど難しいか!フハハハハハ…………
「じゃあ、お言葉に甘えて」
あ、うん。
……いや、うむ!我が良いと言ってるのだから良いのだ!遠慮は無用!
人間はそう言うと近くの木に背を預けながら両足を立て膝に顔を隠しながら手を膝に回す……窮屈じゃないのかあの格好?
しかし人間はそんなことお構いなしにもう寝てしまった。
どんだけ眠たいんだ……お主さっきまでも寝てただろう。
それにコヤツにとってはかなり緊急事態じゃないのか?我がいくら魔気を抑えてるからといって初めて見る生物だろう。
……この人間見た目は中性的で弱そうに見えるが、案外図太いのかもしれん。
こうゆう奴こそ鍛えたら強かったりするんだ。我知ってる。だって今まで一番倒すのに苦労した人間の勇者も見た目はただの優男だったからな。
その時の我は少し油断してかなりのダメージを食らわされたことを覚えてるおるぞ。
まぁ最終的には我が勝ったのだがな!フハハハハハ!!
……暇だ。
話し相手が寝たら我何もすることないな。
魔力探知でこの森のマップは大体把握できたし、雑魚魔物の小さい村らしきものもあった。明日はそこに向かって色々するか。
「どれ、我も久しぶりに寝てみるか」
寝る必要も無かったから寝なかったが、人間がやけに気持ちよさそうに寝てるからな。
なーに、雑魚に見つかっても雑魚は我の姿に驚いてどっか逃げてくだろう。雑魚は雑魚だ。
あ、そうだ。どうせなら寒そうにしている人間にくっついてやろう。そしたら人間も寒くないだろう!我ってば気が利くな!
…………いやそんな、人間が寝てて暇だし寂しいからとかではないぞ?
そして我も久しぶりの睡眠をとったのだった。