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ある年の冬

作者: 雪宮ゆき

昔々のそのまた昔。あるところに美しい四季が訪れる国がありました。その国にはそれぞれ、春、夏、秋、冬を司る女王がおりました。それぞれの四季を司る女王たちが決められた期間、交代で塔へ住むことでその国には季節が訪れるのです。どの国にも負けないほどの美しい季節を持ち、冬が長引く事も夏が長引く事もなく、暮らしやすい国でありました。他国では度々起こる水害や冷害とも無縁であり、人々は幸せに暮らしていました。

いつもであればとうに春になっているはずの頃。その国は雪で覆われていました。そう、いつまでたっても冬の女王様が塔から降りてこなかったのです。この国が始まって以来初めての事でありました。最初は深く考えることのなかった国民も、次第に冬が長いことに気がつきました。

長引く冬に森さえも深く凍りつき、重く積もった雪は溶ける事なく村を閉ざします。

春が来なければ草木は芽ぶかず、種を植えることも叶いません。いずれ備蓄された食料が底をついて国民が飢えてしまいます。それに、薪も足りなくなってしまうでしょうし、国民の過半数を占める農民は春が来なければ仕事になりません。この寒さです。薪がなくなってしまえば命を失う国民が出てくるでしょう。

近隣諸国ではもう雪が溶け、春が訪れようとしている時期になっても冬の女王様は塔から出て来てはくれません。


国王は困りました。王には国民を守る義務があります。それは当然国民を飢えさせない事も入っています。



どうにかして塔から冬の女王に降りてきてもらい、春の女王に入ってもらわなければなりません。

そこで、王はあるお触れを出しました。


《冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取 らせよう。

ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 季節を廻らせることを妨げてはならない。》



 沢山の人達が冬の女王と春の女王を交代させようと塔へと訪れました。朝から晩まで、列が途絶えることはなく、人々は冬の女王に塔から降りてもらえるように様々な事を行いました。


 ある力自慢の男は無理やり塔から冬の女王様を連れ出そうとしました。しかし押しても引いても塔の扉は開きません。

 凍りついた扉を開けることができなかった男はすごすごと帰って行きました。


それを見たある男は氷を溶かそうと火を燃やしましたが、吹雪に火はすぐに消えてしまいます。何度試しても氷が溶けることはありませんでした。


 ある女は冬を讃え春を待つ歌を歌いました。しかし冬の女王様は出てきてはくれません。


またある者は家畜を捧げ、またある者は森の奥に咲く冬の花を捧げました。またまたある者は冬の間に作った衣服を捧げ、またある者は自作の詩を捧げました。しかし冬の女王は塔から出てきてくれませんし、何の反応もくれません。


 そのあとも何人も何人も挑戦していきますが上手くいきません。


力づくでどうにかしようとするもの、歌を歌うもの、塔の前で楽しげな宴を催すもの、火を使うものなど様々でしたがどれ一つとして成功はしませんでした。

痺れを切らし、冬の女王を害そうとするものまで現れだしました。しかし成功する者はありません。王は万が一にも冬の女王を害されてはたまらないとその場に立ち会う事にしました。お触れを破ってまで冬を終わらせたいと思うほどに国民は追い詰められていましたが王の前でまでその様な事をする勇気はありません。王が立ち会う様になってからも、冬の女王と春の女王とを交代させたい人々は毎日の様に訪れます。それは国民だけでなく、隣国の者もおりました。

どれくらい経ったでしょうか、もうすべての国民が一度は試した頃だったか、その頃にはもう日に一人いればいい方というくらいに皆が諦め始めていた頃です。ある一人の美しい娘が現れました。



「冬の女王様、ありがとうございました。貴女様のおかげで、母を看取ることができました。これで心残りなく、隣国へと行くことができます。もしも私が願ったがために春が来ないのであればどうか、塔からお出になり春の女王様と交代してくださいませ。」


 塔の扉の前で冷たい雪の上に額を擦り付けながら娘はそう言いました。

 すると塔の扉が開き、冬の女王は出てきたのです。


「立ちなさい、娘よ。凍えてしまう。」






 ある冬と春がちょうど交差する日、一人の娘が生まれました。娘の肌は雪のように白く、その瞳は若葉の様に生き生きとしていました。四人の女王は国民を国を愛していましたが、冬と春の女王はその娘に殊更愛情を注ぎました。自分たち二人の色を持つ子供です。普通であれば聞き届けることなどない願いを善い事ではないと知りながら聞き届けたのは二人の女王にとって娘が大切な存在であったからです。


 美しく育った娘。偶然やってきた隣国の貴族の青年にその美しさを見初められ、春になれば隣の国へとお嫁に行かなければなりませんでした。しかし、病気の母と共にいたいと願っていました。娘の母は病気でもう長くは生きられず、娘は母を愛していました。嫁ぐことは嫌ではありませんでしたが、母に残された短い時間くらいは共にいたいと願っていました。


「春なんて来なければいいのに。今嫁いでいけばお母さんを看取ることもできない。」


 冬の女王と春の女王の元に娘の願いが風によって届けられました。娘の願いを叶えたいがための我儘が今回の出来事でした。


 母を看取り、気持ちが落ち着いた頃やっと冬がいつもよりも長いことに娘は気がつきました。そして、王様のお触れを思い出しやってきたのです。もしかしたら自分の願いのせいなのではないかと。



 娘は塔から出てきた冬の女王に立つように言われても一向に立とうとはしませんでした。冬の女王が現れて、娘は自分の願いのせいで沢山の人の迷惑をかけてしまったと心から悲しんで申し訳ないと思っていたのです。

 立ち合いの王や騎士は娘の短慮な願いを責めました。


「私が春が来なければいいと自らのエゴで願ったことで沢山の迷惑をかけ....。」


 涙で言葉が出ません。


「冬の女王と春の女王を交代させることができれば褒美を取らせる。そうは言ったが此度の原因がそなたにあるのであれば罪人に取らせる褒美はない。」


 王はそう言いました。塔の周りを守護する騎士や、王の護衛の近衛もこぞって娘を責めました。

 娘はますます体を小さくします。



「いいえ、私の愛しい子。私にとってあなたは娘も同じ。子の願いを叶えたいと思うのは親の性。」


 冬の女王はそう言いました。


「なれば子に罪はなく、罪を負うとすれば親である春と冬。故に娘に罪はない。」


 春の女王がどこからともなく現れそう続けます。


「人は誰しも、冬が短ければ、夏が早く来て欲しい、春まだかな、秋もう少し長くてもいいのになどと望む生き物。人によって願いは様々で四季はそれを聞き届けることはない。他国では気まぐれな四季の順番が変わることはなけれども長さが変わることはあるという。此度のことも気まぐれな四季の様相なれば誰に罪があるという?」



 冬の女王はそう言うと娘を立たせます。

 いつの間にか四人の女王が全員揃っていました。夏の女王が雪によって冷えてしまった娘を温めます。


 王も騎士も近衛も皆が己の発言を悔いました。

 娘を責めていた自分を恥じたのです。

 なぜなら、確かに誰もが願いは違えど四季に対して願ったことがあったからです。

 そして、王は知っていました。他国では四季は長さが変わる事を。この国のように一定の期間で巡らないことを。

 王は娘に謝罪します。

娘は臣下に頭を下げてはいけないと王に告げ、自分の母を思う願いのせいであると自分の方こそ悪いのだと謝罪をします。王は娘の美しい心に感動しました。

 娘は褒美として、美しいドレスとそれに揃いの装飾品をもらいました。それは結婚式に着るためのドレスで娘にとても似合うものでした。


 こうして冬は終わり、春がやってきました。


 娘は隣国へと嫁ぎ、幸せに暮らしました。


 この国ではたまに気まぐれな四季が長さを変えることがありますが、今でも美しい四季が見られるのであります。


読んでくださりありがとうございました。

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