(Ⅷ)不審な人影
授業も終わったので、僕は急いで帰り支度をする。
「随分と急いでるね。何かあったの?」
「実はちょっと用事があってね」
「ふ~ん、そうなんだ」
「そうだ今度、時間があったら一緒に…
「エイジ…帰ろう」
ガラッとドアを開け、眠そうな顔をするクレイン…随分と疲れたんだな。
「クレイン…制服似合うね」
「ありがとう、エイジ。私これで一生生きていく。」
「それはさすがに無理だよ。服は色々変えなきゃ。」
「そうですか……わかりました。早く帰りましょう」
「わかったよ、じゃあねスノウ。また月曜日に!」
「うん!またね!」
さて校門まで急ぐとするか……
※※※※
「はぁはぁお待たせしました」
「待ちくたびれましたよ、それにしてもその子は……」
視線はクレインに向けられる。そういえば紹介するの忘れていたな。
「この子はクレイン、僕の剣です」
「宜しくです」
「まぁ、何と可愛らしい!是非とも私の妹に」
「イヤ……私はエイジの側に居たい」
ピトッとくっ付き離れなくなってしまった。参ったなぁ
「とりあえず離れようか、クレイン。今は人前だしさ」
「……エイジがそう言うなら従います」
「ところでさっき剣とか言っていましたが、本当に剣になるのですか?」
疑問に思うのも無理はない。常識的に考えれば大抵の武器は、人型では無い召喚獣から宿る。剣も例外に及ばず……ただこの剣はちょっと違ったみたいだけど…
「まぁ、多分なると思いますよ。それより…空が暗くなって来たのでそろそろ帰りませんか?」
「おっといけない。そうですわね、早く帰りましょう。こっちの道ですわ」
僕の帰り道とは真逆の方向へ歩き出す。これは帰りが遅くなりそうだな。ユリンにメールでもしとくか……
「何か話してくれませんか?せっかく二人きりですのに」
いや、クレインも居るのですが……
「そうですね…なら質問です。何故ミレーナさんは生徒会長になったのですか?」
「うーん、そうですわね。一言で言うと目立ちたいからかな」
「目立ちたいですか…」
「そう、私昔から紙芝居や運動会の時前に率先して出てたの。注目されるの気持ちいいからね。だから生徒会長になったの」
要するに目立ちたがり屋さんという訳か。僕とは大違いだ。
「そうですか…これからもお仕事頑張って下さいね」
「うん、ありがとう。私も質問していいかな?」
「何でしょうか?」
「あなた、一年前のことまだ引きずっているの?」
「……」
「やっぱりね。あなたの顔を見てるといつも申し訳無さそうな顔をしている。これだけは言っておきますわ」
僕の顔を真っ直ぐに見つめ…
「あの出来事はあなたが招いたことではありません。だから気にしないで下さい」
「気持ちは嬉しいのですがやっぱりあの出来事の事の発端は僕にあるんです。今更気にしないことなんて出来ないです。何より僕のせいで大勢の人々が死んだのは事実ですから」
「そうですか……ごめんなさいね。こんな質問をして」
「良いんですよ。ただミレーナさんの言葉で少しだけ気持ちが楽になりましたから」
「ふふっ、こんなタブーな質問をしたのに怒らないなんて…あなた相当変わってるわね」
「そうですか。あまりそんなこと言われたこと無いのですが…」
「謙遜は要らないのに……あっ!エイジ君そろそろここを曲がれば屋敷に着きますわ」
どうやらミレーナさんと歩いている内に家に近づいてきたようだ。結局の所ストーカーは出て来なかったか。
「じゃあ、この辺で」
「はい、ではまた明日」
手を振りながら家に向かっていくミレーナさん。僕も帰るとするか……
「エイジ、不穏な雰囲気がします」
どうやらクレインは何かを感じているようだ。その言葉を聞いて僕はさっきの道を引き返す。
「エイジ君、助けて!」
しまった。遅かったか!?僕は全速力でミレーナさんの元に向かった。
「ミレーナさん!」
「エイジ君!」
「ちっ!始末出来ると思ったのに」
男は光の刃でミレーナさんを脅している。
「ミレーナさん、魔法を使って下さい!」
「それが…使えないの。どうやら封印されているみたい」
「そりゃあそうさ、これ使っているからな」
男はペンダントを見せびらかした。あれが原因か!
「ボディーガードを付けるとは生意気な奴だぜ!お前には……こうだ!」
男はミレーナさんに右足を刺した。コイツ!!
「いくよ…クレイン!」
「はい、いきましょう。エイジ」
クレインの手を握りしめ、形は変貌していく。紅の剣に… 「何だそりゃあ?まぁ、いいや」
男は光の刃を握りしめ、こちらに向かって来た。僕は剣を身構え、振りかますふりをして近づいて来た所をその場でジャンプした。
「なっ!?」
僕は後ろに回り込みペンダントを切り裂き吹き飛ばした。
「ぐがぁ」
男は咄嗟の攻撃に耐えられず、その場で倒れ込んだ。僕はすぐに駆け込み、男の顔面の側に剣を刺し込み上に乗り込む。
「目的は何だ?言え!」
「俺は……ただ命令されただけなんだ。本当に!」
男はかなり動揺していた。この感じだと本当みたいだ。なら本格的に問い詰めるか。
「依頼主は学園の関係者か?」
「はっ、そんなこと言えるわけ」
剣に魔力を注ぎ込み男の髪の毛を焦がす。
「わわわわかった。依頼主のことは言うから、髪の毛だけは焦がさないでくれ!!」
「言え」
「依頼主は生徒会長ミレーナ・クロハビッツを疎ましく思ってるバッツ・ラバー。もう充分だろ、早く解放を…」
「ペンダントを渡した奴は誰だ?」
「……ビショップとしか言えねぇ」
ビショップ、チェス関係の名前か。……まさか!?
(エイジ、生徒会長の手当てを!早く!)
しまった、夢中になりすぎた!
「君は立派な犯罪者だ。クロノス聖団に通報しておく…それまでの間眠っていろ!」
僕は男の腹に打撃を加え気絶させた。
「ミレーナさん!」
急いで駆け込み、ミレーナさんの容態を確かめる。
「傷は……結構酷い。取りあえず応急手当てしないと…」
ネクタイを外し、ミレーナさんの足に巻き付ける。これでましにはなるはず。
「ごめんね。私が頼りないばっかりに」
「謝るのは僕の方です。申し訳無い!すぐに病院に電話するんでしばらく我慢してください!」
タブレットですぐに救急車の要請そしてクロノス聖団の要請をした。
「怖かった。凄く怖かった……」
「もう安心して下さい。犯人の男は直に聖団の方で裁かれますから」
「うん、本当に今日は迷惑掛けてごめんね」
「…ミレーナさん」
30分後会長は病院に緊急搬送された。右足の怪我が酷いくらいで後は軽い傷で済んだらしい。早ければ一週間で退院出来るみたいだ。真犯人のバッツは翌日事態を察したのか逃亡、結局夜頃に逮捕されたみたいだけど。動機は次の生徒会長に確実に当選するためらしい。いずれにせよ、このバッツという男も然るべき場所で裁かれることだろう。
結果的に事件はすぐさま収束したがどうしても気になったことがあった。そうビショップという名前……あの男だとすれば目的は何なんだ?そしてルークも然り、彼も何が目的だ?僕は底知れぬ不安を感じながら明日を迎えることとなった。