(ⅩⅩⅩⅠ)決戦前夜
「時間です、大佐」
「あいよ。それじゃあ初めるとしますかね」
ここはクロノス聖団本部の一階の会議室で沢山の騎士が集いそれぞれの所定の位置に座っている。
(やれやれ、作戦会議とはお気楽な物だね~)
(ライア、お前は黙っていろ。気が散る)
(はいはい)
心の中で騒ぐライアを黙らし、俺は自分の席に置いてある書類に注目しパラパラとめくる。内容はキングが行った殺人行為の詳細が載ってあった。
恐らく今日はその説明をするのだろう……
「これから首謀者キングに対する会議を行う。進行は私、ミカルドが努める!」
ミカルド・テリー中佐……外見はカーネル大佐みたいに顔が老いているがかなりベテラン臭をか持ち出している。中佐の名は偽りないのだろう。
「では、これから首謀者キングの犯罪行為を改めて確認する。手始めに机の上にある書類を見てくれ……最初にキングが起こした犯罪はこの日から始まったと思われる」
ユニバース王国……ローマイアス国王が収める領地で魔術が強い国である。ローマイアス国王は夜遅くに重要指名手配の強盗犯を捕まえたキングを招待し、報酬を与えたようとした時、首を斬首され死亡したとされる。死亡現場では遺体が二人しかいなかった。それはどうやら国王自身がボディーガードを配置することを拒んだと思われるのが理由だとされる。ここから奴の計画の第一歩が始まったのだ。
「このローマイアス国王に対する殺人行為は絶対に許してはならない!次に奴はある国を狙った。それは次のページをめくって確認してくれ」
計画の第一歩が成功したキングは次の国に赴いた。それはアヴァロン王国という強豪の戦士が構えている国だ。だがキングは機転を効かし街の住民に精神系の魔法を使ったことで味方につけ、城に攻めさせることにより内部の守りが薄くなってしまった。そこに奴はつけ込み城の内部に呆気なく侵入を許してしまう。一応アレックス少尉がキングを待ち伏せし、確保しようとしていたが懸命の戦いも虚しく殺される。
遺体は残虐な状態で発見された。画像を見る限り、両腕が辺りに散らばり顔もぐちゃぐちゃである。コイツの元の顔を画像で見なければ全く分からない……
犯人は不明であるが斧らしき傷跡があることから恐らく俺が殺したルークに間違い無いだろう……そしてキングは二階に上がりアンドレス国王と側近と思われる部下を殺害。計画の二歩目を許してしまうことになる。
「あのアヴァロン王国すら撃破してしまうキングはかなりの危険人物であることがこの書類からみてわかると思う。キングの能力が不明な以上、対処する対策がかなり難しいのである」
奴の能力は現在不明だが俺は見た。奴の圧倒的な強さを……今の俺では歯が立たない状態であることを目の前で知ってしまっている。
(くそが……)
(……悔しいなら僕がもっと力を与えても良いけど?)
(いらねぇよ。俺は俺のやり方で奴を殺す)
「アヴァロン王国は最悪の状況で壊滅してしまった。今現在もこの王国は大変危険な状態で入ることがかなり困難でありこの時点で残る王国は3つとなった。そして首謀者のキングは次の場所を目指した。その場所が……」
ページを捲る。その国はルベニカ王国で経済で一番強いと謳われている国だ。キングは裏の組織ファングを引き連れ、全力で襲った。
俺はそこに派遣されキングと全力で戦ったが敗退を許しあまつさえ奴を取り逃してしまう。後に調査した結果、地下から逃走したことが判明した。そこにジャイロ国王が居たことから恐らく逃げている最中に殺された可能性がある。
その後の現場は散々な状況であった。イザナギやルーサは現在も目を覚まさないくらいの重傷を負い、俺も重傷を負ってしまった。そこにエイジ・ブレインという奴も横たわっていたが……
「いよいよ残りは2つとなり我々は窮地に落とされた。そして対処する間も無く奴らは攻めて来た。その国は一番北にあるシャウト王国である」
シャウト王国……まだまだ発展途中である国として有名だ。奴はすぐさま侵攻し、マイティーの成果も虚しくあっという間に鎮圧されてしまった。噂では大量のナイトメアが一斉に侵攻したことが敗北の原因と言われている。ナイトメアは人の魔術しか作れない高度な魔法でかなり難しいとされている。それをやり遂げる奴は恐らく……
「シャウト王国は二時間もたたずに消滅とされている。これは奴の組織の力が強大になっていることが証明されたのだ!そして恐らく明日奴らはこのジェネシス王国を襲うだろう!」
いよいよジェネシス王国か……だが疑問が残っていた。何故首謀者キングはすぐにこの国を落とさなかったのか?普通ならそのまま攻め落とす筈だ。
「質問があります!」
一人の騎士が手を挙手する。それを見たミカルド少佐はすぐに気づき促させた。
「何故首謀者キングは1ヶ月間の空白を空けたのでしょうか?それに急に明日来るのも何か変です。もしかして理由があるのでしょうか?」
「……それはだな」
「ミカルド中佐、ここは俺が説明するよ。君は座っていて」
「わかりました」
大佐の指示を聞き言うとおりすぐに着席をする中佐。それを横目で確認したカーネル大佐は口を開いた。
「じゃあ、ここからは俺が答えるよ。まず初めに奴が1ヶ月間空けていたことだけど……これについてはさっぱりなんだよね。だからごめんね!最後に明日来るとわかったのはある人物からの連絡が来たからなんだ。そいつは絶対に嘘をつかない。だから俺はその情報を信じ、今日ミカルド君の口から言ってもらうことにしたんだ」
「ある人物とは?」
「少なくとも我々の敵では無いと言うことだけは明言させてもらう……じゃあ話はこれで終わり!ミカルド君、最後に対処法を発表しちゃって!」
話をすぐに切り上げ席に座った。どうやらこの質問はカーネル大佐にとっては都合が悪いようだ。 「はい……ではこれから本題の対処法について説明する!重要なことを今から述べるので皆集中して聞くように!」
作戦概要のページを手で捲る。作戦概要にはこう書いてあった。
・作戦概要・
・クロノス聖団の総戦力を持って首謀者キングを確保。出来なければ最悪殺害もやむを得ないこととする。時間は夜と見られる……それまでには各自準備に専念し、襲来に備えることとする。
・上記の項目を行う前に住民をシェルターに避難させる。
無難にそして簡潔に仕上げているな……
「住民のことについては現在避難を出している。今は恐らく全員シェルターに居るだろう。明日が本番だ!皆気合いを入れるように!」
「おーーー!」
(さて、どうなることやら……)
(楽しみだね……)
※※※※
ルーン習得の為、僕とスノウは特別に大佐から許可を頂いてクロノス聖団で練習場で訓練していた。そして、色々試行錯誤を繰り返し、5時間後遂に僕は……
「ふー、なんとか間に合ったね」
「やっぱりエイジは凄いね。こんな短時間に得られるなんて」
ルーンを習得するに至った。ちょっと苦労したけど、これでようやくキングと同等の実力になるはずだ!
「いや、これができたのはスノウのおかげだよ。ありがとう!」
僕は新たにまとった服装の感触を確かめる。服装は赤のマントを基調とし様々な装飾品が辺りに散りばめられている。更に手にはこれまでの片手剣より巨大化した剣が装備されていた。
(ルーンには数分の限度がありますがエイジの場合、持続力は恐らく保っている限り無限だと思います)
そうか、僕が保っている限りはずっとこの姿で戦えるのか……キングとの決戦前に取得して良かった。
「いよいよ明日だね!私も行くから!」
「あぁ、絶対にキングを倒そう!」
僕の決意は海よりも山よりも高かった。絶対に負けられない最終決戦が明日始まろうとしている。 そんな強い意気込みの中、ポケットの中にあるタブレットが小刻みに震えた。タブレットを取り出して見てみると一件のメールが届いていた。送り主はカーネル大佐で要件は作戦概要について説明したいから来てほしいか……
「スノウ、カーネル大佐からの呼び出しが来ている。行こう!」
「うん!」
明日決着を着けようキング。
※※※※
「○○○!あなたは逃げなさい!」
男が母の首をがしりと固定している。そんな中俺は、呆然と後ろで立ち尽くしていた。
「○○○、エイジのことは絶対に守りなさい!あの子はどんな事があろうと私達の息子であなたの弟です!」
「くっ……」
「さて、お話は済んだようですね。それじゃあもう一度聞かせて貰いましょうか?……エイジ君は今どこに居るのですか?」
「エイジは渡さないわ!あんたみたいな人には絶対に!」
直後、男は母さんの意識を瞬時に奪い去った。その時の母さんはもう植物人間のような状態だった。俺は混乱して
「あぁぁぁぁ!」
19歳にもなる俺はただただ叫ぶだけしか出来なかった。魔法や武器だって出せるのに俺は恐怖が頭にこびりついて魔法が出せない。俺が恐怖に震えている時に男は反応しこちらに近づいて来た。
「おやおや、悲鳴とは随分と嘆かわしいですね」
その時の男の顔は恐怖その物だった。俺は怯えながらも奴に向かって宣戦布告をした。
「俺は○○○・ブレイン!いつか必ずいやお前を殺す!」
「ふ~ん、そうですか……あっ、面白いことを考えました。ではこうしましょう!」
男は母の身体の首もとを片手で掴み身体を2つに分け、1つの身体の方を血まみれにし…… 「私が次にこの国に来るまで、王の首を全て揃えて持ってくること。持って来れなかったら君の母さんの意識は戻らず永遠にサヨナラだから綺麗に解体するね!あっ、そうだ!次はいつにしようかな?……決めた、じゃあ二年後にしよう。それまでに君は相当強くなっていると思うし、というわけでそれまでの間は君の母さんに手を着けるのは仕方ないけど止めてあげよう……あぁ実に楽しみだ!アハハハハハッ!」
男は嘲り笑い、意識を失った母の身体を肩に乗せ部屋を出た。その後、俺は呆然と立ち尽くしていたがすぐに我を取り戻す。今この状況をなんとかしないと!
「クロノス聖団に伝えるか……」
俺はすぐにクロノス聖団に事情を話し来てもらった。クロノス聖団は現場を見てすぐに俺に犯人の顔を聞いてきたが、俺は知らないフリをした。コイツらに教えて事態がややこしくなったら元も子もない。それよりさっさと遺体の処理をしてくれ……30分が経過し、ようやく母の遺体は病気の方へ移された。俺はその間に家に帰って来たエイジとユリンを玄関で待ち伏せし、事情を説明した。二人とも落ち込んでいたが中でもエイジは酷く醜い顔をしていたな……そしてこの時、俺はこう思った。
何故あの男はエイジを狙うのか……と
その日から俺は情報を集めるためエイジを見張るようになった。とはいえ、エイジの様子にあまり変わりはなく大した成果も得られないまま時は過ぎてゆく。一週間後、俺は何故か朝早く目覚めてしまった。だから皆の分の朝食を適当に作り、それから呼び出すためにまずはエイジの部屋に入った。……だが開けた瞬間俺は信じられない物を見ることになる。
光の粒子が宙を舞い次々と集まっていく。やがてそれは一つの中央に集い……人間そのものを作り上げてしまった。
(馬鹿な……ありえん)
人間を作り出す魔法など聞いたことがないぞ!……!?もしやあの男が狙う理由は
(コイツの未知の魔力なのか?……だとしたら早めに打つ必要があるな)
その日から俺の計画が始まった。コイツの存在を二年の間までには消し、奴に備えるために強者を世界中に作り出す計画……
プロジェクト・リベンジが……
「……長い夢だったな」
俺は思い出したくも無かった悪夢から目覚め、すぐにタブレットで時間を確認する。時間は午後の22時、どうやら三時間長いこと寝ていたようだ。
俺はそのまま呆然としていると、ビショップがこちらにやってきた。
「キング、お休みの最中申し訳ありませんが……つい先ほど部隊の準備完了しました。後はキングの指示にお任せしようと思いますがいかがなさいますか?」
「ナイトメアはどうした?」
「そちらの方はおおよそ1000体作り出してます。もう間もなくです」
「ご苦労……後は」
あの男を迎えるための準備をするだけだ。待っていろ、エイジ……次でお前の生命を断ち切ってやる!




