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(ⅩⅩⅤ)悲劇

 僕は彼女、レーナを心の底から信頼していた……一年前のあの日までは……

 一年前の話をする前に僕とレーナが出逢った話をさせてくれ。端的に言うとレーナを誕生させたのは紛れもないこの僕だ。彼女が誕生したのは二年前。僕が14歳になった年、母が何者かに殺されたんだ。父は小さい頃に病気で他界したから家族は母さんと僕とユリンそしてミナト兄さんしか居なかった。  

 そんな中起きてしまった殺人事件……第一発見者はミナト兄さんだけどクロノス聖団や僕とユリンには頑なに犯人像を言うことを拒んでいた。例え僕が詰め寄っても分からないの一点だけであった。 母さんの死後、ミナト兄さんはまるで何事も無かったかのように生活をし始めていた。だから深く落ち込んだのは僕とユリンだけだ……特に僕は母が人一倍大好きだったから寝ていた時にいつも夢で願っていたんだ。母に会いたいと……     

 ある日僕がいつものように目覚めると隣横たわっていたんだ。母の面影を残した少女に……

 あの時は驚いたよ。まさか本当に叶うなんて思いもしなかったからね…

 僕があたふたしている間に彼女が目覚めたので僕は彼女に名前を聞いた彼女は名前が無いと言った。

 僕はどうしようかと迷った。結局数十分考えた挙げ句、僕は彼女にレーナと名付けた。レーナは僕の母親の名前だ。今思えば何の捻りも無かったけど……

 僕はレーナに色んな場所に連れて行った。公園や映画館や海…連れて行く内にレーナの美しさに僕は自然と惹かれていった。一年後、僕は念願のジェネシス学園に入学した。勿論彼女レーナと一緒に…

 レーナと僕はいつも日常生活も学園生活一緒だった。 もう僕はその頃からレーナの虜になっていたんだ。無論レーナも僕に愛情を注いでいた。

 ある日僕とレーナがいつも通り学園に登校していた日にレーナは僕に質問をしたんだ。

「エイジは私といつまでも一緒に居たい?」……と

 僕は勿論と首を縦に振った。その時、レーナは笑顔でわかったわと答えた。その日の夜、僕は大きな雑音に目覚めた。耳を澄ますと人々の叫び声が窓越しでも響いていた。

 僕は大急ぎで身支度をして玄関に行くとユリンが怯えて座っていた。僕はユリンを諭し自分の部屋まで連れて行き下の階にもう一度行こうとした時、衝撃的な言葉を聞いた。  

「この街が狂っているのはレーナのせい」……だと  

 僕はそのことが耳から離れなくなった。本当にレーナがそんなことを…真相を確かめる為、外に出る。するとそこに広がるのは今日の朝とは違った惨殺な光景…     

 街は普通に歩けない程に酷く崩れ、人々が血まみれで倒れている。息をしている者は殆ど居なかった。耳に聞こえてくるのは子供や大人そして放浪召還獣の叫び声だけ…  

 僕の足は自然と学園へ向かって行った、あそこにレーナが居るかもしれない。そう思いながら…道路を歩いているとクロノスの騎士達が放浪召還獣とやりあっていた。僕は必死に流れ弾を避けながら学園へと向かう…そして進んでいくとようやく校門が見えるようになった。

 全速力で校門を駆ける。息づきすら忘れてしまうぐらいに…

 だが途中で僕の足は進むことを拒んでいた。それはもっとも僕が望まない結果になってしまったからだ。

 辺りは学園の生徒の死体だらけ、そして地面は生々しい血の池……僕は耐えきれず嘔吐する。こんなことが現実で起きるなんて誰が予想しただろうか。僕はこの先に何かがあると思い、決死で足を進める。そんなことは有り得ない!いや絶対無い!僕は必死に心の中で叫んでいた。だが奥にある光景が僕の心をへし折った… 

「あら、エイジ!遅かったわね。私ずっと待っていたのに…まぁエイジに直接言ってなかった私が悪いかな?」

 レーナは一人の男を容赦なく顔を掴み握り潰し血しぶきが激しくレーナの顔に降りかかる。だがレーナはけろっとした顔でこちらを見つめていた。

「君はなんでこんな酷いことを!!」                    

「えっ、だって今日の朝に聞いたよ?いつまでも私と一緒に居たい?ってそしたらエイジ、首を振ってくれたじゃない!だから私、エイジの為に全力でやっているんだよ。けど放浪召還獣をかき集めるのちょっと大変だったかな。まぁ一週間前ぐらいには手懐けていたんだけどね」     

 なんてことだ、僕があの質問に首を振っただけでこんな罪の無い人達が唐突に死んでいくなんて、原因は僕じゃないか。人殺しと変わりないな僕も…    

「エイジ、私と一緒に行こうよ。二人で永遠に愛を誓おうよ」

 僕は無意識に手に力を込めた。こんな酷いことをするなんて、許せない!                      

「行かないよ、僕は」       

 レーナの瞳に滴が落ちてきた。その答えは望んでいなかったのだろう。            

「もう一度言うわ、私の所に来てエイジ……」

 紫色にたなびく少女は悲しげに見つめていた……辺り一面死体が蔓延る場所で…僕は鉛のように重くなってしまった口を開く。

「僕は君の所には行けない」


「どうしてなの?私と行けば世界をあなたと私だけの物にすることができるのよ?邪魔者は私が全力で消すから」


「君とはずっと仲良しで居たかった」

 僕は後ろを振り向き全速力で逃げる。こんな所に居てはいけないだ!だがレーナは僕の進路をすぐさま阻んだ。

「嫌なんて言わせないよ。あなたはただ私の問いにイエスと頷けば良いのよ」


「僕は君の人形じゃない!僕はエイジ・ブレイン!意識を持った人間だ!」


「ふっふっふっ、さすがはエイジね。ますます私の物にしたくなってきた……わ!」                  

 一瞬で手元をキツく握られる。くっ、なんて速さだ…

 ここまでなのか?こんな所で、僕は……  

「か・く・ほっと!エイジ行こうよ、私と一緒に楽園の世界へ!」

 諦めかけていたその時、僕の瞳に何か光っている物がこちらに飛んできた。そしてそれは一直線でレーナの黒い羽に突き刺さる。

「あぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い痛い」                   

「少年無事か!」

 一人の青年の男が僕を保護する。良かった助けが来て

「あなた良くも私の大切な羽を…くっ抜けない!」


「悪いがその剣は結構頑丈でね。そんな簡単には抜けないようになっているのさ!」


「っ!」


「さてお次はこれで始末をするとしますか!」 


「くっ、思ったよりも酷い重傷を受けたわね。ここは素直に退くわ…エイジ、一年待っていて!絶対迎えに行くから!!!」


「野郎、待ちやがれ!」

 レーナは片方の黒い翼をいたわりながらその場を去った。僕はその去っていくレーナを見ながら、意識を失った。

 一般市民や学生一万人を殺害した非道なる事件は皆の心に深く深く刻んでいった。そしてその矛先はレーナを所有していた僕に降りかかった。学生・市民は僕を見かける度にこう呼んだ。 

                                      人殺しと……

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