(ⅩⅢ)強敵を求めて
朝になり月曜日になった。僕は目をこすりながら起きる。というのも昨日のことが一部気になって寝付けなかったからだ。言い訳に聞こえるけど……
「クレイン…何でまたここにいるの?」
「Zzzzz」
いつも僕の隣にいるなぁ、これはもう治らなさそうだ。
「エイジお兄さん、朝になり…」
「あっ」
またビンタされるのであった。
※※※※
「つまりクレインがお兄さんの部屋に夜な夜な入っているのであってお兄さんが連れて来ていると言うわけでは無いのですね?」
「そうそう、僕は本当に何もしていないんだ。寧ろ被害者なんだよ!」
「……そういうことでしたら致し方ありませんね。た・だ・し、絶対襲わないこと!これが条件です」
「襲うことは絶対無いと思うけど…」
「もし襲ったら、こちらから襲わさせていただきます!」
「ん?それは何かおかしくない?」
「おかしくありません、では話しを打ち切らさせてもらいます」
飯を豪快に食べるユリン。さっきの話し凄く気になるんだけど……
「まぁ、いっか」
僕は目線を朝食に戻し食べ始めた。
「ご馳走様です。エイジ早く学園に行きましょう」
「ごめん、もうちょっと待ってくれるかな?」
「わかりました。なるべく早くしてください」
クレイン、随分急かすなぁ。僕は朝食を急いで食べ、食器を洗い手提げ鞄を持つ。
「ユリン、戸締まりは任せたよ」
「はい!わかりましたエイジお兄さん、いってらっしゃいませ」
僕は玄関先の扉を閉め学園に向かった。
※※※※
「エイジ、見えました」
「あぁ、見えたね」
「おはよう、エイジ君」
「生徒会長!?おはようございます」
「何ですの?驚いちゃって?」
「いや、その……僕に話しかけたらあなたの印象が悪くなるかと」
「悪くなっても別に良いわ。寧ろ批判上等ですわ!」
意気込み凄いな……
「それより、聞きましたか?」
「何をですか?」
「ユニバース王国でローマイアス国王が殺害された件ですわ」
「……実は僕あの場に居たんですよ」
「えっ!?ごめんなさい、つい」
「良いんですよ。別にただ僕はスノウのことが心配で」
「確かスノウさんはローマイアス国王の娘さんだったわね……あれ?あの場に居たということはもしかしてスノウさんと一緒に居たの?」
「えぇ、そうですけど」
「もう私が入る余地無いじゃない…」
「どうかしましたか?」
「何でも無いですわ!!」
ミレイナさんは何故だか憤怒して早足で行ってしまった。
「エイジ…結構鈍感ですね」
「鈍感?僕は結構鋭い方だと思うけど」
「その様子だと気づくのはまだまだ遠い未来になりそうですね」
僕はクレインの言葉の意味が分からなかった。まぁその内わかるかな?
※※※※
「おはようエイジ、二日ぶりだな」
「おはようございます先生。クレインの件ですが…」
「あぁ、聞いているよ。とりあえずエイジ・クレイン、席に座りたまえ」
「わかりました」
「よし、では始めるとしよう。っと、その前に連絡だ。」
授業前に連絡とはちょっと珍しいな。
「今日三時限目に合同訓練会があるから始まる10分前に集合するように」
合同訓練会は半年に一回行う授業だ。目的は互いの強さを知り、自分の今の強さを見直し更に励むことなのだが……
「僕と戦ってくれる人いるのかな…」
「さぁな、まあ全てはお前次第だ」
半年前誰も来てくれなくて結局一人で励んでたような覚えがある。今回もそうならないように祈っておくか。
「じゃあ授業始めるぞ」
僕は余計な考えを捨て真剣に授業に取り組むことにした。
※※※※
「知ってるか今日アイツを見たって噂が」
「まじかよ。目を付けられないようにしないとやばいな」
「目をそらせば何とかなるからまだ大丈夫だろ」
会場がやたら騒がしい。何か皆落ち着きが無いような…
「エイジ、何かどす黒いオーラを感じます」
「それってこの前会場を襲った奴?」
「それとは違います」
でも、まずい状況なのは変わらずか…一応警戒しておくことにしよう。
「全員集まったな!これより合同訓練会を始める!!何かあったらタブレットで報告すること、以上!」
先生の号令で訓練会はいよいよ始まった。会場は特別仕様で出来ており、かなりの大きさで今居る500人でも余裕な広さを誇っている。この広さを誇っている学園は実質ジェネシスだけだ。「うぉぉぉぉ」
「甘いね!」
各自、対戦相手を見つけて訓練しているようだ。僕は相変わらず見つからないけど……
「エイジさん」
奥にキマリス君が居るのが見えた。
「キマリス君、君も居たんだね」
「えぇ、俺も強敵を求めてここに来ました!というわけで早速ですがお手合わせお願いします」
「ふっ」
「どうかしたんですか?」
「良いや、何でも無いよ。ではお願いします」
何だか嬉しいな。半年前は申し込んでも邪険にあしらわれ、孤独だったから… 僕は全力でキマリス君と戦った。結果はまたしても僕が勝ってしまったけど、キマリス君は気にしてない様子だった。
「じゃあ次の対戦相手を探しに行くんで!またお会いしましょう」
「じゃあね。キマリス君」
キマリス君は足早に去っていった。さて……
「あと一時間か、どうするクレイン?」
「ちょっと休憩しましょう。私、眠いです」
「わかった」
言った瞬間眠るクレイン。そういえばこの子いつも眠るなぁ。睡眠が好きなのかな?
「僕も少しくつろぐか」
人の観戦を見るのも一興だよね。そう自分で言い聞かせ、人の訓練試合を見ることにする。
「頼もう!」
一声の声に皆が振り向く。何だアイツは……
「…………」
会場一同、沈黙……誰も目を合わせようとはしない。だがキマリス君は違った。
「おぉ、お前が噂の強敵求めてる野郎か!俺が相手になってやるぜ!」
「へー、俺の相手になってくれるんだ」
「来い!俺の鬼の手ですぐに瞬殺だ!」
気合い充分のキマリス君、対して…
「熱血系か…面倒くさい奴が当たったな」
怠そうに準備運動を始める。
「じゃあ始めるとするか……来い」
手のひらから二丁拳銃が出現する。その形の色は紫で禍々しいオーラに包まれている。
「エイジ……あの人です」
「だろうね。あの人からかなりヤバい雰囲気が伝わってくる」
「へー面白い武器持ってんじゃねえか。何て名前だ?」
男は気怠そうに…
「この武器の名はブリアル…意味は埋葬だ」
「不吉な名前……ありがとさん!」
一気に突っ込むキマリス君、始めは良い感じだ。
「ふ~、M8と聞いてどんな猛者かと思えば……残念な出来だな」
「な…拳銃で受け止めただと!?」
「てめぇのグローブは不良品みたいだな。おらぁ!」
拳銃を受け止めた体制のままで鋭い蹴りを入れる。
「ぐはぁ」
「行くぜ。熱血野郎」
二丁拳銃を構え、ぶっ放す。弾丸は…キマリス目掛けて飛んでいく。
「はっ、こんな真っ直ぐな弾…俺がぶっ壊してやるぜ!」
弾に向かって叩きを入れるキマリス君…しかし弾外れ弾道を変える。
「なに!」
弾は自由自在に動きを変え、キマリス君の急所に当てる。
「うっ、ぐ。はぁはぁ」
大量の血が会場の舞台に流れ出す。
「うわぁぁぁ」
「早く先生を呼べ」
「わかってるさ」
悲鳴の声が辺りを充満している。そんな中、男は涼しい顔で……
「ちっ、もうギブかよ。つまんねぇな。次に挑みたい奴は誰だ?」
「そこまでだ!ザイン・ヴァール!」
「あぁ、先生か……ちょうど良い。俺の相手になってくれよ」
「貴様!この前の停学処分でまだ懲りてなかったのか!?」
「俺はね。強い奴と戦いたいんですよ。その為にここに足を運んで来たんです」
「知るか、そんなもん!覚悟しろ!」
「やれやれ…ブリアル、コイツの両足を貫け」
解き放たれた二つの弾丸が瞬時に捉え、あっという間に先生の両足にヒットする。
「ぐっ……貴様!」
「先生はそこで黙って見てな。さて…」
「エイジ止めて下さい。あれは放置するのは危険です」
「言われなくとも」
僕は会場の席から舞台に着地する。相手はすぐ目と鼻の先に居た。
「おっ?挑戦者?」
「君の相手は僕が努めるよ」
ザインと言う男はニヤリと口を緩め、
「へぇ、お前なんか強そうだな。もしかしたら楽しめるかも」
「クレイン!」
手を繋ぎ紅の剣へ変貌させる。
「面白いね…まさか人から武器になるなんて!今日は良い日になりそうだな、おぃ!」
二丁拳銃を照射……どこだ弾は?
(捉えるのは不可能です。感覚で感じて下さい)
感覚……僕は走りながら、目・耳をフルに使う。
弾はこちら向かって飛んでくる。恐らくヒットするまで終わらない魔の弾なんだろう。どの道僕にヒットさせるのは目に見えている。なら!
「周囲に壁を作る」
(ならあの技を使います)
「良し、いくよ!ブレイズ・サークル!」
剣を一周に回す。すると周囲に炎の壁が現れ、弾その物を焼き尽くした。
「なっ…野郎。ならばこれはどうだ!」
二丁拳銃を乱射か……悪いけどもう君の弾は見切っている! 弾は八つ……僕の手足を封じ、最後にもう一度トドメか。
「ここだ」
弾ギリギリ来る直前で斜め右・斜め左・左下・右下、4つの弾を破壊。最後に……
「ブレイズ・バースト!」
炎の斬撃が一気に舞い降り……
「有り得ない!この俺がぁぁぁ」
強烈な爆発音と共に彼は倒れた。
「はぁはぁはぁ」
(ご苦労様です。エイ……ジ?)
「どうしたの?…ありゃ、どうやらお腹に一発喰らったみたいだね。うっ」
(エイジ……エイジ!)
僕は強烈な痛みに耐えられ無くなり、その場で意識を失った。




