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color  作者: 倉本新菜
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てきぱきと、そこタップしてください、とか電話番号とメールアドレスを入力してください、とか言われるがままに進めていくと、僕はあっという間にフェイスブックユーザーになった。

「じゃあ、そうですね。せっかくなので矢野君に友人の申請してみますか」

 え、この虫メガネマークみたいなとこ?そうです、そこに。矢野、矢野…矢野何だっけ?下の名前。銀次ですよ。ぎ、銀次?そんな渋い名前だったんだ。知りませんでした?酔ったら絶対『いぶし銀の銀次です』、って言うんですよ。

 僕は『矢野銀次』の横にある『友達になる』をタップした。僕のフェイスブックの友達一号は矢野君か。何とも言えないな。なんだ、このもやもや感は。

「そうだ、宮部さんも友達になってよ」

 そこだけ聞くと、僕がとてもさみしい人に思われるかもしれない。

「じゃあ次は私が渡海さんに友達リクエストしますね」

 宮部さんは、ちゃんと現代の若者らしい動作でスマホを指ですいーっと操作して、僕の友達二号になってくれるらしい。

「あ。来た」

「へんなコメントしないでくださいね」

「へんな、って?」

「昼間にカルビクッパなんて食べるから午後中ずっとニンニク臭かった、とかですよ」

「なるほどね。気を付けるよ」

 じゃあ私、レッスンの前に本屋に寄るのでお先に失礼します、と宮部さんはいきなり席を立った。本当はコーヒーが飲めないくせに、僕にフェイスブックの云々を教えてくれるために誘ってくれたことを思うと、後輩には恵まれたな、と思うのだった。


蒸し暑い電車に揺られて一人暮らしのうちに帰ると、真っ先に冷蔵庫を開けて缶ビールを一本取り出した。極限までのどの渇きを我慢して、もうのどの奥で粘膜がカラカラに乾燥しているぞ、これは、という状態にまで持ってきておいて流し込むビールは、これさえあれば何もいらないという気持ちに一瞬だけなってしまう。

 かばんの中でピンコン、と例の音が鳴った。スマホの画面を見ると見たことのないアイコンが出ていた。引っ張ってみると、『矢野銀次さんが…』と表示されているのが見えた。

 缶ビールをもう一本冷蔵庫から出して、一人掛けのソファに沈み込んで、早速フェイスブックをいじり始めた。

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