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color  作者: 倉本新菜
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「お待たせしました。新しい住民票一通と、市民ガイドです。ごみの捨て方だとか、あと、えーと…」

 言い終わらないうちに、その『市民』は、薄っぺらいガイドと住民票の入った封筒をかばんに仕舞ってカウンターを離れた。

 公務員は愛想がないとか、税金で生きてるくせにとか、今でも確かに言われることはある。これでも僕が子どものころの公務員のイメージに比べれば、随分様変わりしたとは思うのだけれど。僕の同期などはいつも笑顔で応対しているし、もちろん僕も気持ち悪くない程度の『感じ良さ』は心がけているつもりだ。

 だけど、今みたいに一度も相手の声を聞くことなく、頼まれた書類を手渡し、無愛想に去って行かれるとさすがにへこむ。一応こちらとしては、ようこそわが星南市へ、というウエルカムオーラは放っているつもりなのに。

「渡海さん、渡海さん?」

 隣の席の宮部さんが、書類を手にして僕の方を向いていた。

「あ、ああ。ごめん。これね」

あわてて僕は書類を受け取り、席についてパソコンに向き合った。

 宮部さんは僕の二つ年下で、こんな言い方をしたら失礼にあたるかもしれないけれど、恋人はいないだろうと僕らの同期には言われている。在学中は知らなかったが、僕と同じ大学の違う学部を卒業していて、休憩室で会ったりすると懐かしい話題で盛り上がったりする。今でこそ『渡海さん』と呼ばれているけれど、入職したてのころは『渡海先輩』と呼ばれ、どこの体育会出身だよと思ったが、宮部さんは管弦楽部に入っていたらしい。

「渡海さん、お昼いきますか?」

 宮部さんより四つ年下矢野くんに、後ろから声をかけられた。

「あ、じゃあ宮部さんと三人で行こうか」

「じゃあご一緒します」

 丁寧な言い方で宮部さんは答えて、椅子の背に掛けてあるベージュ色のジャケットを羽織った。クールビズという言葉が市民権を得てすでに久しい。公務員が暑い夏にポロシャツで業務をこなしていても誰も何も言わなくなった。それでも冷房が効いているのか効いていないのか微妙な職場から抜け出せる昼休みは、ちょっとした楽しみでもある。

「ステーキ丼、食べたくないですか」

 矢野君がそれこそ体育会系の学生のような提案をした。

「僕は大丈夫だけど。宮部さんは?」

 一歩後ろを、財布の入った小さなバッグを持って歩いていた宮部さんを振り返って聞いた。

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