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おまけ5:姫様の秘かなおたのしみ

今回のおまけはとある姫様のお話です。



※BL(男性同士の絡み)の要素が出てきます。ほんのり程度ですが、気になる方は充分に注意して下さい。

――真夜中の静寂が包む建物の中、彼はそこに居た。


「逃げられるとでも思ったのか」


彼の目の前には、屈強な体格をした軍服姿の彼の上司が居た。そして屈強な男は目の前にいる華奢な彼の両手首を掴んで壁に追い込んでいた。


「は、離して下さいっ!」


「離して下さい、か…。解ってるのかい、そんな抵抗も俺を挑発している事に…」


そして男は部下である彼の身体に己の身体を重ねた。


「止め…!?」


「いい表情(かお)だ。ぞくぞくするぜ…諦めな、今からお前は俺の奴隷になるんだよ、俺専用の、性奴隷にな!」


男は絶望な表情をうかべる彼の身体を押し倒し、強引に服を脱がせていく――



      *



コンコンコン…


「ラゼンダ、ラゼンダ!」


突然のノックの音に叫び声に、ベッドにうつ伏せになって本を読んでいた少女、ラゼンダはびくっと身体を震わせ慌てて起き上がり、読んでいた本を書棚の奥に隠した。


と同時に扉が開き、侍女とひとりの男を従えた、豪華なドレス姿の中年の婦人がずかずかと部屋の中に入ってきた。


「な、何の御用ですか御母様?」


淑女の礼をとりながらラゼンダは目の前に現れた婦人…己の母親でありタイクーン国王妃、に問いかけた。


「ラゼンダ、先程報告を聞きましたが、貴女また試験で全教科最下位となったそうですね」


怒りの形相で地の底から沸き上がる低い声で王妃は目の前の末娘に告げる。


“あちゃ…もうバレたのね”


びくりと身体を震わせ反省しきりに俯きながらも心の中で舌打ちするラゼンダ。


「御母様、あの試験は前日に親善の食事会が遅くまであったから、その、ちょっと疲れていた…」


「お黙りなさい!貴女は何回似たり寄ったりの言葉を言ってきたのですかっ!!もう誤魔化されませんからね!」


そう言うと、女王が自分の直ぐ後ろにいた眼鏡をかけた線の細い、見た目いかにも学者とおぼしき中年男を引っ張りだしてきた。


“げ…!?見た目陰気で正にオタク街道まっしぐらな奴っ!”


その男、彼女の美観念から遥かに外れた男を見て、ラゼンダは思い切り表情を歪めち。


「この方は我が国でも一番の頭脳を誇る者。貴女は今日から彼に勉学の指導をして頂きます」


「あ、あのー待って下さい御母様。では今までの先生は…」


「あの方には既に辞めて頂きました。今回の試験で貴女への成果が全くないと解りましたからね」


「そんなー!」


“ちょっと待った!?あの先生は若くて顔はそこそこ見られたし、腹筋割れてて綺麗で、あの姿を見ているだけで妄想満腹、眼福至福モノだったのに…っ!

こんなガリガリ皮と骨だけの見た目ネクラ男なんか、私が見て楽しめないじゃないのっっ!!勉強やる気なんて起こらないわよっ!”


そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、王妃はぎろりとラゼンダを睨み付け、


「お黙りっ!お前に選択権などありませぬっ!」


「は、はいっ!」


母親の一喝に、ラゼンダはただただ逆らえずにひれ伏すだけであった。


――タイクーン国現王妃、かなりの豪傑として名を馳せており、国王よりも遥かに威厳を持ち陰で国を支配しているとも言われている女性。

そんな彼女に逆らえる者など、国王はおろか誰も居ない状態である。


「…あーあ、折角先生が変わるなら、もっと美形だったら良かったのに…」


ぽつりと、本当にぽつりと小さく呟いた一言でさえ王妃は聞き逃さなかった。


「何すっとぼけた事を言うのですかお前。お前のようなあんぽんたんの教師をして頂けるだけ有り難いと思いなさいっ!」


そして更に激怒して娘に怒鳴り付けるのであった。


「うわっ、地獄耳…いや私は単に見た目があの御方に似ていたら良いなあ、って…てかあんぽんたんって…誰?」


「勿論貴女の事よ」


予想していたとはいえ、ここまではっきり言われたラゼンダも流石に腹が立ってきた。


「ちょっと御母様、言うに事欠いてあんぽんたんとは、ちょっと酷すぎます」


「お黙り!あんぽんたんをあんぽんたんと呼んで何が悪いのです。そのように呼ばれたくなければせめて試験で平均点を取ってきなさいっ!」


「う…っ」


完全に言い負かされてしまい、ぐうの音しか出ない。


ふん、と鼻息を荒くする王妃に、プライドを傷つけられたラゼンダは唇を噛み締めわなわな震えだした。


「…御母様だって、少女時代は成績は下のほうから数えるほうが早くて、しかもかなりのお転婆で貧相な身体だったと…」


「…何ですって!?」


どうやら図星を突かれたらしく、王妃は今までの傲慢で勝ち誇っていた表情をぴくりと歪ませた。


「あ…」


やばい、と思ったが時既に遅し。


「お前…何処でそのような事を…!!」


「あ、いや、その…」


「おだまりっ!!!」


いきなりの王妃の今までにない激しい怒号に、ラゼンダや男や侍女はすっかりびびってしまった。

見れば王妃はこれ以上無いくらい表情を怒りに歪め、それは正に神話に出る怒りの神アギラそのものの姿であった。


「ひ…!?」


「お前は、お前は何を言うのですかっ!」


「「ひえええっっ!!」」


余りの形相にラゼンダも男も侍女も部屋の隅まで逃げてしまった。


「お前如きがわたくしに逆らうなど赦しませんよっ!良いですか!何と言おうと彼をお前の教師としますっ!明日から彼の下で真・面・目に勉学に励むのですよっ!良いですねっ!!」


「「は、はいっっ!!」」


怒りに圧されてラゼンダだけでなく、男や侍女達まで思わず返事をしてしまうのだった。


「よろしい!ではお前達、行きますよ」


王妃は満足そうに頷くと、男と侍女について来いと言わんばかりに睨み付けた。


「「は、はいっ!」」


睨まれた二人は怯えながらも王妃の後について行き、部屋から出ていってしまった。


「……………」


独り残されたラゼンダは先程迄の王妃の勢いに圧されたまま暫し呆然としていたが、やがて我に帰りよろよろ立ち上がった。


「あー、久しぶりに御母様の怒髪天姿を見たわ…」


ふう、とひとつ大きなため息をついていると、


「大変で御座いましたね姫様」


突然部屋の隅から聞こえてきた声。

いつの間にかラゼンダより少し歳上とおぼしき侍女…ラゼンダの専属侍女、が部屋の中に現れた。


「全くよ、久しぶりに御母様の本気の怒りを見たわ…てか貴女、今まで何処に行ってたの?」


侍女を睨み付けてそう尋ねると、


「勿論別室に隠れてました。だって、王妃様がお尋ねになられた段階でこうなるとは解っていましたから」


と侍女は主人を相手に飄々と答える。


「貴女ねぇ、それでも私専属の侍女なの?」


「わたくしは面倒な事は嫌いですので」


二人の会話は主従の関係というより、寧ろ友人(悪友)同士のものというべきであった。


「全く…あんたはいつも都合が悪くなると直ぐに逃げ出すのよね。普通こういう時、侍女は主人の危機を救うべく敵に立ち向かうものよ」


「御冗談を、王妃様に逆らっていたら幾つ生命があっても足りませんわ。侍女はあんぽんたんの姫様の御相手も大変なのですよ」


「あんぽんたんって…貴女までそう言うの止めてよ」


流石にその言葉が気になるのか、侍女にそう言われた途端ラゼンダは表情をもろに嫌悪感に歪めた。

それを見た侍女も自分の失言に気付き、深々と礼をした。


「これは大変失礼致しました。で、最新号はお読みになられましたか?」


顔を上げてにやりと笑う侍女に、ラゼンダはああ、というような表情を浮かべた。


「まあ、半分くらいはね。でも私好みでは無かったわ」


ラゼンダはつまんなさそうにそう言うと、本棚の奥から一冊の本を…先程迄読んでいた、を取り出して侍女に渡した。


「折角大先生の最新作だったから期待していたのに、組み合わせがいまいちだったわ。もう読まないから返すわ」


「ええ、そうですかぁ?私は凄く気に入っているのですけどねー。

男ばかりの軍部に入隊した新人の美少年が、隊長をはじめとした男臭い屈強な野郎達に弄ばれてヤられて喘ぎまくるなんて…これぞびーえるの王道じゃあ無いですか」


先に本を読んでいた侍女は話を思い出し、うっとりとした夢見心地な面持ちで話をしていく。


――その昔、侍女が読んでいたこのテの本を、ラゼンダがこっそりと盗み読みしたところ見事にハマってしまい、それ以来二人してびーえる同盟を結んで、侍女が購入したそのテの本をラゼンダが借りて、こっそりと読みまくっているのであった。


「えー、私はやっぱり美形で傲慢な王様や王子が、普段は主人に忠実で気弱だけど美形な下僕を苛めまくってるけど、ある日を境に二人の立場が逆転して、下僕のほうが逆に王様や王子を攻めて、完全にヤられて悶える展開のほうが良いけどなあ…。

でも最近そういう作品見ないわよねぇ」


「あー、一時期そんな風潮が流行りましたけどねー、最近はそういうのよりは、この本のように男臭い奴が美少年を苛めるのが流行りみたいですよ」


…今では時間さえあれば二人でびーえる討論をする有り様。


「でも私はやっぱ男同士絡むならどっちも美形でないと許せないわ」


「もしや某国の殿下と宰相様のようにですか?」


侍女が放った強力爆弾に、ラゼンダがきゃー!と叫びだした。


「あんたね、何言うのよっ!そんな、そんな不敬罪的な考えをしたら処罰ものよっ!」


そう叫びながらも顔は思い切りにやけている。


「…私、敢えて国名臥せているんですが、何想像しているのか…誤魔化しても駄目ですよ姫様。モロに表情に出てますよ」


半ば呆れたように侍女が呟く。


「でも先日某国の殿下が王宮(ここ)に御見えになられた時、私も離れで拝見致しましたけど、武芸に勝れた御方と聞いてましたのでさぞかしマッチョな御方を想像してたら…意外にも優しげでなよっとしていて、私の中ではかなり評価落ちましたよ」


「えー、私は予想していたより意外に線が太くて男らしい御方と思ったわ。びーえるのねこ王様ならあれが限界かしら」


「んで、たちが宰相様…ですか?」


侍女がそこまで言った途端、ラゼンダの顔がぼっ、と赤くなり、表情がこの上なくにへらと崩れたかと思うと絶叫が響きわたった。


その前に侍女、しっかりと耳栓を忘れなかった。


「な、な、何を言うのよお前っ!そんな…そんな涎垂モノの組み合わせっ!そ、そ、想像しただけで……駄目よ駄目よっっ!!それこそ不敬罪っ!…ああ…でも、それ、かなり良いかも…」


「姫様ー、姫様…」


“殿下に御仕えする腹違いの弟であり臣下である宰相様、昼間は殿下の下僕として酷い仕打ちを受けているが、夜になると一変して立場が逆転して、嫌がる殿下にあんなことやこんなことをして……うふふふふ……”


すっかりあちらの世界にどっぶり浸ってしまい、独り不気味な笑みを浮かべているラゼンダに、流石の侍女も呆れ顔。


「はいはーい、妄想そこまでにしましょうね姫様」


ぱんぱんと侍女の手を叩く音にはっと我に帰るラゼンダ。


「わ、わ、私は別にそんな…!!宰相様が殿下と二人きりであんな事やこんな事をしているなんて…そ、想像してないわよっ!!」


「……」


“思い切り想像していたじゃん”


とは思いつつも、そこは歳上であり臣下の立場である以上、突っ込みをいれずに沈黙を守った。


「あー、流石に私はそろそろ失礼致しますね。次は姫様が好みそうな話のものを探してきますね」


「ええ、宜しくね」


「では私はこれで…」


ぺこりと主人に向けて一礼すると、侍女はしゃんとした真面目一徹、仕事モードの顔付きをして部屋を後にした。


本当に一人きりになったラゼンダはぱたん、と広いベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。


「あーあ、明日からはあのネクラ親父先生と毎日顔を合わせることになるのかあー…あーやだやだっ!」


先程見たあの細い陰湿な顔を思い出し、嫌悪感に頭を震わせた。

そして懐から一枚の、掌くらいの大きさの何かを取り出してうっとりとした眼差しで見つめだした。


それは某国宰相の掌程の大きさの肖像画(ミニチュアール)であった。


「んふふ…至福至福♪先日殿下に無理に御願いして手に入れた甲斐があったわ…。

ああ、この凛々しい顔立ちに切れ長の瞳、引き締まった口元…殿下の『黒の王』に対して『白の貴公子』と呼ばれし御方。

なのに何故侍女はこの御方が気に入らないのかしら?」


前に手に入れたばかりのこのミニチュアールを先程の侍女に見せたのだが、彼女はへー、と生返事だけして全く興味を示さなかった。


『てか宰相様って殿下以上に細過ぎ。変異種(アルビノ)だから余り筋肉ついてなくて細いとは聞いていたけど、ここまでくると最早病的な細さで、何か嫌ー』


とまで言う始末。


「駄目ね、彼女は宰相様の魅力が解らないのよね。この人間離れした容姿がまた良いのじゃないの♪」


“これこそ正に私の理想のたち姿。

貴方様を想うだけで私の心は嬉しさの余り張り裂けそう。ああ…この御方にヤられる高貴なる御方はやはり義兄である殿下が相応しいわっ!

御二人の不埒な姿を想像するだけで、私は至高なる気分になりますわ”


ラゼンダはうっとり夢見る少女のような面持ちで…だが少し(かなり?)ずれた感情を抱きながらミニチュアールに口付けて胸に抱くのであった。



      *



「!?」


――その頃、宮廷内の書斎でカドゥースと話をしていたアルザスの背筋を猛烈な寒気が襲い、思わず話を止めて肩を震わせた。


「どうしたアルザス?」


突然の彼の仕草にカドゥースが訝しげな表情を浮かべる。


「いえ殿下…何故か急に背筋が寒くなってきただけです」


「何だ?背筋が冷えるとは、風邪か?」


「いや、体調には気をつけておりますからそのような事は無いと思いますが…」


そう答えながらも、尚も強烈な寒気がきて思わず背筋を震わせ、思わず身体を抱えるようにしてしまう。


「季節の変わり目で最近気温の変化が激しいからな、体調管理には充分気をつけろ。今お前に倒れられては困るからな」


「…御意」


震える背筋を庇いながら、アルザスはカドゥースに対し頭を下げた。


“しかし何なのだこの悪寒は?風邪の前の寒気とも、殺気とも違うこの感じ…?

何というか…全身裸にされ、ありとあらゆる場所から舐めるような粘着めいた視線で見られているような感じがして…物凄く、不快極まりないぞ!”


アルザスは今まで感じた事の無い不快感に寸での処で膝を崩しそうになるのを必死で耐えたのだった。





……知らぬが仏。

この姫様、自分はかなり気に入ってしまったので暇があれば続編書きたいなと考え中

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