第10章Ⅰ:仕事は秘密の香り(前)
第10章ではジーフェス・アルザス・カドゥースのそれぞれの小話を書いていきます。
ジーフェスが前後編、あとは短編仕立てになっております。
※ジーフェスとカドゥースの話で、若干ですが下世話な表現が出てきます。ご注意下さい。
※ジーフェス・カドゥースの話で経理や医療、王宮様式等の専門話が出てきますが、専門知識が無くて適当です(笑)。そういうのに拘らずにさらりと読んで頂けると幸いです
「只今」
「お帰りなさいジーフェス様」
空が赤色から藍色に染まろうとするその時、自衛団の仕事を終えたジーフェスは自分の屋敷に戻ってサーシャの出迎えを受けていた。
ジーフェスはにこやかに微笑む妻を軽く抱き締め頬に口づけを落とした。
「何か変わった事はなかったかい?」
「庭の整備が大体のメドがついたので、明日から植樹の為の木々の搬送が入るようになります」
「そうか…」
自身の希望であった庭の整備が着実に進んでいく様子に、サーシャは嬉しさを隠せない。
「ジーフェス様もお変わりありませんでしたか?」
「ああ…そうだな…」
「?」
曖昧な返事にサーシャが首を傾げていると、
「いや、何にもないよ。それより夕食は何かな?」
「今日はジーフェス様の好きな鹿肉のステーキです」
「お、それは楽しみだな」
上機嫌に笑顔を浮かべる夫の姿に、サーシャも自然と笑みが零れる。
「さてと、一緒に夕食をしようか」
「はい」
“太陽祭が終わってから大きな仕事が無いから、ジーフェス様も定時に登庁して退庁出来るから、ゆっくり一緒にいられる時間も増えたし…”
サーシャは嬉しそうに微笑みながらジーフェスと一緒に食卓へと向かうのであった。
*
――それから三日後、
「え?今何と」
「これから仕事が忙しくなるから暫く帰りが遅くなるよ。サーシャにはすまないが夕食は先に済ませておいてくれないかい」
突然のジーフェスの言葉に戸惑うサーシャ。
「お仕事、って、一体何ですか?」
「ああ、経理のほうをね。いい加減昨年度の自衛団での帳簿類をまとめて収支報告しないと、今年度の予算を回さないと脅されたからね」
「はあ…」
「あーもしかしなくても、旦那様今年もアルザス様に怒られたんだー。去年も同じことをやって懲りないですねー」
脇で話を聞いていたエレーヌがけらけら笑いながら口を出してきた。
「五月蝿いぞエレーヌ」
「あの、今年も、って?」
不思議に思い尋ねるサーシャにエレーヌはにやにやして答える。
「去年の今頃かなー、やっぱ同じような事でアルザス様から痛烈に怒られて旦那様、数日間庁舎に閉じ込められて書類か何かを作らされたんですよー」
「数日間、ですか…」
「言っとくが今年は缶詰にはならないからな!」
負けずに言い返すジーフェスだが、明らかにこちらのほうが分が悪い。
「わー、八つ当たりは止めて下さいね。でも酷いよねー、今年こそはきちんとやってるかと思ったら…」
「黙れエレーヌ!」
「エレーヌの言う通りです。坊っちゃま、あれ程経理の仕事は疎かにしてはならぬと申したではありませぬか!」
「ぽ、ポー…」
いつの間にやって来たのか、話を聞いたポーが不機嫌な表情を浮かべジーフェスを睨み付けている。
「太陽祭で数日間も留守にしたかと思えば今度は溜まった経理仕事の処理…自衛団の長としての自覚はおありなのですか、何よりサーシャ様に申し訳ないと思わないのですかっ!」
「解った、反省してる!来年こそはちゃんとするから…」
流石のジーフェスもポーには弱いのか、平謝りに謝ってきた。
特に最後の言葉は彼の胸に深く突き刺さった。
「あの、そこまできつく言わなくても…」
「サーシャ様が坊っちゃまを庇われる気持ちも解りますが、自衛団は末端とはいえ国の管理する公の機関、その運営・維持費用は国の予算から捻出されているのです。毎年その金額は前年度の経費等から算出される為、年度初めには前年度の収支報告が必須なのですよ」
「は、あ…」
「なのに坊っちゃまは年度初めを遥かに過ぎた今現在まで提出はおろか、収支を纏めていないとは…国の予算から除外されてもおかしくないのですよ!
本来今年度の予算は既に組まれなくてはならないのに、アルザス様の温情で待って頂いている状態なのですよ!」
「解った!解ってる!昨日兄さんからはこっぴどくお説教されたし、経理士だってあいつが…」
そこまで言って、はっとなった様に口を閉ざした。
「…あいつ?」
「あ…い、いや、何でもない。
とにかく、その為暫く帰りが遅くなるからそのつもりで宜しく」
「はあ…」
そう早口で告げるや否や、ジーフェスはさっさと席を立って部屋へと戻っていった。
「…何ですかね、旦那様?」
「逃げましたね」
エレーヌとポーは首を傾げて納得いかない様だし、サーシャのほうはポーやジーフェスの話の勢いにただ呆然としていた。
“やっとゆっくり一緒に過ごせるかと思ってたのに、またお仕事なんて…大切な事とは解っているけど…寂しい”
そしてサーシャはふと思った。
“そういえば経理のがなんとかって仰有っていたけど、ジーフェス様、突然話を止められて部屋にお戻りになってたけど、何故かしら?”
微かに残ったサーシャのこの疑問が、小さな棘のように彼女の胸に残るのであった。
――こちらは部屋に戻ったジーフェスのほう、
「危ない危ない、ついあいつのことを口にしてしまうところだった」
“兄さんも兄さんだ!よりによって『彼女』を経理士として寄越すなんて!仕事をしない俺への当てつけそのものとしか思えないぞ!
まあ、確かに『彼女』は超一流の敏腕経理士なのだが、それは認める!認めるけど………”
先の事を考えていたジーフェスは思わずぞくりと身体を震わせた。
“何はともあれ早急に仕事を終わらせて『彼女』には早々にお引き取りして貰うしかないな。
万が一サーシャに『彼女』の事を知られたら…考えたくない考えたくないっ!!”
何かを想像したらしく、ぞくぞくと恐怖に身体を震わせ、ジーフェスは床につくのであった。
*
――翌日から、ジーフェスは朝早くから同庁し、夕食過ぎ、下手すればぎりぎり午前様直前に帰宅する日々が続いた。
それにつれて、彼は少しずつやつれたようにげっそりしていくのであった。
「だ、大丈夫ですかジーフェス様?」
余りの変わり様に、サーシャが心配になって食事中のジーフェスに声をかけてきた。
「だ、大丈夫。慣れない仕事だから普段より疲れているだけだよ」
「でも…」
「大丈夫ですよサーシャ様、旦那様、去年の今頃もこんな感じで仕事してましたから」
「今まで怠惰していたので自業自得です」
エレーヌとポーは昨年の事もあってか、全く心配している様子は無い。
「お前達、少しは心配とかしないのか?」
「「しません」」
ジーフェスの愚痴にも、あっさりとかわしてしまう二人にそれ以上言葉が無かった。
「あの、そんなに落ち込まないで下さい。それに皆さんああ仰有ってますけど、本当はジーフェス様の事を心配しているんですよ。今日の夕食もポーさんの提案でジーフェス様の好きな肉のステーキにしてくれたのですし…」
「ああ…ありがとう」
だが話を曖昧にしか聞いてなかったのか、大好物の肉を前にしても相変わらず憔悴した彼の様子にサーシャは胸を痛めた。
「あの、ジーフェス様…私に何かお手伝い出来る事とかあれば何でも言って下さいね」
心配そうなサーシャの態度に、やっとジーフェスもはっとなって疲れきった中でも笑みを浮かべた。
「ごめん、サーシャに心配かけたね。大丈夫、あと少しで終わるから」
「でも…」
「それと…明日は泊まりで仕事をするからそのつもりでいてくれ」
「え?」
戸惑いの表情を浮かべるサーシャにジーフェスは本当に困ったような表情で返した。
「すまないサーシャ、寂しい思いをさせてしまって。少しでも早く仕事を終わらせたいから仕方なくこうしたんだ」
「いえ、そういう訳では…ただそこまでしなければならない程のお仕事なのですか?」
「約一年ぶんの収支のまとめだからね。紛失した領収証の再発行や差額の調整とかがね、手間取って…」
「は、あ…」
「大丈夫だよ。明日一日いっぱいかけてやれば大体のめどはつくから」
そう言ってサーシャの頭を優しく撫でるのだった。
「ご馳走さま、肉旨かったよ。悪いがもう休む。ポー、着替えを部屋に持ってきておいてくれ」
「畏まりました」
返事を確認するとジーフェスは了解代わりに軽く手をあげて早々に部屋に戻っていった。
「あーあ、結局泊まりになるのかぁー、サーシャ様寂しいですよねー」
「でも大切なお仕事ですから仕方ありませんわ」
「わー、そんな事を言ってると、旦那様を仕事に取られますよー」
「エレーヌ、何馬鹿な事を言っているのですか!ほら早く食事を片付けて、あとサーシャ様」
「はい?」
「こちらを坊っちゃまの部屋までお願い致します」
ポーはいつの間に持ってきたのか、意味深な眼差しを向けてジーフェスの着替えをサーシャへと手渡した。
「あ…は、はい」
“ポーさん、私の気持ち解ってくれたのかしら”
心の中で感謝しながら、サーシャは着替えを部屋まで持っていった。
――一方、部屋に戻っていたジーフェスは何故か上半身の前身頃を開けて鏡の前に立っていた。
“あの馬鹿女!こんな場所に跡なんかつけやがって!”
ぎりぎりと歯軋りしながら彼が触れた場所…そこは丁度鍛えられた胸の真ん中辺り、には赤く鬱血した跡がひとつ、くっきりと残っていた。
“エレーヌやサーシャがこれを見たら絶対勘違いするだろな…やばいやばい、早く治さないと”
‘コンコン’
突然聞こえてきたノックの音にびくっとなってジーフェスは慌てて前身頃を閉じ扉に向かった。
「ポーか、着替えを持ってきたのか」
何の疑いもなく扉を開けた先に居たのがポーでなくサーシャだったのでジーフェスはびっくりして思わず後退りしてしまった。
「さ、サーシャっ!?」
「あ、着替えを持ってきましたけど…どうかされましたか?」
ジーフェスの様子が解らず、サーシャは首を傾げている。
「あ、いや…てっきりポーかと思ってたから…」
「そう、でしたか。あの、これ着替えです、どうぞ」
そう言ってサーシャが着替えを手渡すのだが、その表情はやや暗い。
「ああ、ありがとう…」
彼の声を聞く度に、姿を見る度にサーシャの心は悲しくなっていく。
“ジーフェス様…こんなに近くにいるのに何故か遠い。もっとお話したいのに傍にいたいのに、でも…”
「あの、サーシャ…」
その瞬間、サーシャの中で何かが弾けたようにぽろぽろと涙を溢しはじめた。
「あ…ごめんなさい…私、私…!?」
“駄目よ私がこんな事じゃ!ジーフェス様はお仕事なのよ、一生懸命頑張っておられるのよ。太陽祭のようにいつかは終わってまたいつもの生活に戻れるのよ。だから、今は寂しくても我慢しなくてはいけないの。泣いてはいけない、のよ…”
必死で心を奮い立たせようとすればするほど、涙は止まらず頬を伝い落ちていく。
「私…っ」
その瞬間、サーシャの身体がジーフェスの腕の中に抱きしめられていた。
「!?」
「ごめんサーシャ、サーシャに寂しい思いをさせて…。でも、俺もサーシャとなかなか話を出来ずに寂しいんだ」
ぎゅっと自分を抱きしめるジーフェスを見てサーシャははっとなった。
それは苦しく辛い表情をしていて、それを見たサーシャはやっと気づくのだった。
“ああ、そうなんだわ。私だけでなくジーフェス様も私と同じ気持ちで苦しんでいたのですね。なのに私ったらジーフェス様の気持ちを考えないで、自分だけ苦しいと勘違いして独りで勝手に悲しんで…”
「明後日までだから、明後日にはちゃんと仕事終えて帰ってこれるし、仕事を終えたら…」
「終えたら…?」
「あ、いや…その…あの…」
何か話そうとして、でも何故か話さないでしどろもどろになるジーフェスの姿に、サーシャは何だか可笑しくなって口元を緩めた。
「ジーフェス様…いいのです。ジーフェス様の気持ちが解っただけで嬉しいです。ジーフェス様も、私と同じ寂しい思いだった事に」
「サーシャ?」
「もう大丈夫です。お仕事が終わるまでちゃんと待っています。ですからジーフェス様も安心して仕事を続けて下さい」
涙目で、だがにっこりと笑顔を浮かべるサーシャに、ジーフェスも驚きつつ、少し安心するのだった。
「ありがとう」
そして二人どちらかともなく顔を近付け、口付けを交わした。
「…?」
あらためてジーフェスの胸に寄り添ったサーシャは、彼の胸元から先程はわからなかった微かな香りに気付いたのだった。
“これ、は…”
それは微かなものだったが、強めの花の香水。しかも以前匂い慣れたものだった。
“これは、メリンダ姉様が少し前まで使用していた香水にそっくり!”
驚き見上げた先にいたジーフェスはサーシャの様子に気付かず優しく微笑むだけである。
「どうしたんだいサーシャ?」
「あ、いえ、何も…」
「そう、じゃあ明日も早いから俺はもう休むよ、お休み」
「…お休みなさい」
そう言うとサーシャは部屋を出ていき、ぱたんと扉を閉めた。
“経理のお仕事をされていたジーフェス様から何故女性の香水の香りがするの?何故?”
その一言が聞けないまま、サーシャはもやもやした気持ちのまま暫くその場に立ち尽くしていたのだった。
*
――翌日、
雨の為庭仕事が出来ず、指示も何もする事がなく独りで部屋にいたサーシャは、庭を見ながらふとため息をついた。
“ジーフェス様、今日はお帰りにならないのね…”
雨の為、庭の手伝いをしているムントが休みになった為、エレーヌもお休みして二人して何処かへデートしている。
そんな事もあってか、少し寂しい気持ちになっていると、突然ノックの音。
「はい」
「ポーです。申し訳ありませんがサーシャ様にお願いがありまして」
「お願い?何ですか?」
サーシャが扉を開くと、ポーが少し困った表情で立っていた。
「申し訳ありませんが、これを坊っちゃまのもとへ届けて頂けますか?」
ポーが手渡したのは、ジーフェスの着替え一式であった。
「これは?」
「部屋に準備していたのを持っていくのを忘れたのですよ。今日はエレーヌが居ないから此処をわたくしが離れるわけにもいかなくて…宜しいでしょうか?」
「わかりましたわ。私が持っていきます」
丁度退屈していたし、ジーフェスに逢える口実も出来て、ついサーシャの表情がほころんでしまったのをポーは見逃さないのであった。
*
――こちらは自衛団の庁舎、その奥にある団長専用の部屋。
小さいながらもちょっと立派な家具類で揃えられたその中では、机の上には書類が積まれていた。
そしてその書類を前に、ジーフェスは必死で書類を分類したりサインをしたりしていた。
「やあっとここまで片付いたわねー」
突然彼の脇にいた女が声をかけてきた。
その女…ジーフェスと同じ年齢くらいで、派手な化粧をしたとても美しい顔立ちをしており、その細めの長身にぴったりとした深紅の服を纏い、同色のハイヒールを履いていて、爪を紅くした手には短鞭を持ってぴしぴし振り回しながらジーフェスを睨み付けていた。
「あとはこの書類だけ分類すれば、それからは私の仕事ね。今日でやあっとメドがつきそうで良かったわ」
そう言って女は仕事をしているジーフェスの机の端に腰かけた。
「一時はどうなるかと思ったけど予想以上に早く進んだわね。これも奥様への愛、故かしら?」
「……」
女の言葉にもジーフェスは無視をして仕事を続ける。
「あらだんまり?面白く無いわねぇ。折角私が良いものを持ってきたというのに…」
女はにやりと笑うと小さな包みを目の前に見せた。
「まさか…それは!?」
「そう、さっきライザ先生のところに行って預かってきたの。貴方に渡してくれって」
悪魔のような笑みを浮かべる女をジーフェスは憎々しげに睨み付けた。
「あいつめ…返せ!それは俺がライザに頼んだものだ!」
「返して欲しければ、早く仕事を終わらせる事ね」
ひょいとジーフェスの手をかわして、女はぴしゃりと鞭で彼の腕を叩く。
「痛っ!お前、黙っていれば調子にのりやがってっ!」
いよいよ怒りにジーフェスが椅子から立ち上がって女に掴みかかると近くのソファーに押し倒した。
「いやん、あなた、私を襲うつもり?」
完全にジーフェスに押し倒された形になっても、女は余裕の表情で飄々と囁く。
その声を聞いたジーフェスの背筋がぞくりと震え、掴んでいた手が弛んだ。
「甘いっ!」
その隙に女は彼の腹に膝蹴りを食らわした。
「うげっ!」
痛みに身体を屈めた隙に女は直ぐに逃げ出し立ち上がるとジーフェスの腹を再度蹴りあげ仰向けにすると胸の下辺りをヒールの履いた足で踏みつけた。
「んげぇっ!」
ピンヒールの先端が、丁度昨夜の傷の真上に突き刺さり、余りの痛みにジーフェスは表情を歪め手足を痙攣させた。
「私に逆らうなんて百万年早いわよ!誰のおかげでここまで来れたと思っているの!」
「ぐ…わ、悪かった…」
ぐりぐりと胸元を抉られる痛みに、流石のジーフェスも耐えられずに白旗をあげた。
「全く…最初から素直になれば良いのに」
にんまりと勝ち誇った笑みを浮かべ、女は一度腹に蹴りを入れてから足をおろした。
「ぐはっ!」
「しっかし、自衛団団長ともあろう者が弱くなったわねぇ、平和ボケ?いや貴方の場合は新婚ボケかしら?」
くすくす笑いながら、女は未だ痛みに耐え、仰向けになっているジーフェスに馬乗りになった。
「てめぇ…」
「でも、そんな脆い貴方も素敵ね。奥様に渡すのが惜しいくらいに、ね…」
笑みを不気味なそれに変え、ぺろりと舌なめずりをしながら女はゆっくりと紅い爪の指先をジーフェスの頬に伝わらせた。
「…止めろ」
「い・や・よ。ふふ…仕事もめどがついたし、ちょっと貴方で楽しませて貰おうかしら♪」
女がにやにやしながらジーフェスの胸元に手をかけたその時、
「団長!何かありましたか!」
先程の二人の騒動を聞き付けたのか、数人の団員が部屋に駆けつけてきた。
「大丈夫よぉ、ちょっとおふざけしているだけ…!?」
女はそこまで言って言葉を止めた。
ジーフェスも団員のほうを振り向き、そこに思わぬ人物を見つけ驚きに目を見張ってしまった。
「…さ、サーシャ?!」
「ジーフェス様…」
団員の後ろに隠れるようにして居たその人物…屋敷からジーフェスの着替えを持ってきた、紛れもなくサーシャそのものの姿であった。