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第9章Ⅶ:太陽祭(中)

先ずは御詫び申し上げます。


章の前書きにて「殺人の描写は無い」としておりましたが、この章で遺体の描写を書いております。

またこの後の章にて殺人・流血に準ずる描写も出てくる予定です。


このような描写に不快感を感じられる御方は充分にお気をつけ下さい。


本当に申し訳御座いません。

「で、奴はどう動いているのだ?」


すっかり陽も落ちて夜の闇が辺りを包む頃、ここフェルティス聖堂の地下、隠し部屋の中ではガルフジド司祭がひとりの男に問いかけていた。


「は、あの男、司祭様の忠告を無視して、己の隠密の報告を鵜呑みに屋敷のほうへと刺客を向かわせております」


男の報告に司祭はさほど驚きもせずにふんと鼻をならした。


「やはりな。あやつめ、父親以上の馬鹿者だな…まあ良いわ。ところで例の件はどうなっておる?」


「司祭様の御命令通り、選りすぐりの供物は一纏めにし、極秘に馬車も準備しておりまして直ぐにでも出発出来る手筈は整えております」


「うむ…で、街等に出た者の報告は?」


「相変わらずこの聖堂の周りには国軍と自衛団が見張っております。しかも密かにその数を増やしております」


「ふん、我等に勘ぐられていないと思い込んでいるようだが…甘いな」


「あと街の様子なのですが、『白の道化師』が現れたようです」


「『白の道化師』?」


「はい、何でも全身真っ白ずくめで銀の仮面をつけた長身の男がセンテラル市場を中心にさ迷っていると、そしてその…若い女に出逢う度に口説き文句を言っているとか何とか…」


「……」


最後のほうは半ば躊躇いがちなその報告に、ガルフジドは暫し黙りこんでしまった。


「…そうか。ならば‘奴’をその『白の道化師』につけさせよ」


「‘奴’ですと!それは余りにも危険…あ、いや、その…ぎ、御意…」


ガルフジドにぎろりと睨まれ、男は恐怖の余り慌てて頭を垂れて従順な返事をするのであった。



      *



「ねえ、次はあっちの店に行きましょうよ〜」


「勿論さっ!オレの天使ちゃん♪」


一組の若い男女が、男は金の、女は銀の仮面をつけ、派手な祭用の衣装を纏った二人はお互い腰に手をかけて半ば抱き合いながら祭りで賑わう街の中を歩いていた。


「いやーん♪大好きよあ・な・た♪」


端から見ても過剰ないちゃつきをしている二人にどんっ、とぶつかってきた人物がいた。

二人は転びこそはしなかったが身体はよろけてしまい思わずお互いの手を離してしまった。


「おい、お前何…を…」


「いったーいっ!ちょっとあん…た…!?」


二人が文句を言おうとぶつかってきた人物を見て、だが余りの異様さに言葉を失ってしまった。


そこに居たのは全身真っ白な正装姿をし、白のマントに白の手袋、そして顔には銀の仮面をつけた長身の男が居たからだ。


「おや、これは失礼お嬢さん。お怪我はありませんかな?」


そんな二人の視線にも動じず、白の男は隣にいた若い男には目もくれずに心配そうに若い女の手を取ると紳士の礼をとった。


「あ…は、はい、大丈夫、です…」


いきなりの事で若い女はただただ言葉少なく唖然とするばかり。


「それは良かった。貴女のような素敵な女性に怪我でもさせたら大変なところでした。ああ、そろそろわたしは失礼せねば…また何処かで貴女に逢えることを」


そして男は若い女の手の甲に口づけると再び一礼して、ひらりとマントを翻して街の人混みへと消えていった。


「………」


「な、何なんだあいつ!?」


半ば熱に当てられたように惚ける若い女と、その姿を見てやり場のない怒りの罵声をあげる若い男であった。


先を歩み進む白の男が、ふと顔をあげてちらりと横目で『誰か』を見てぽつりと呟いた。


「何か言いたそうですね。我慢は良くないですよ」


「……」


くすくす笑う男の姿を見た『男』…シロフは横目で白の男を見たものの、直ぐに視線を反らし深い溜め息をついた。


「おやおや、そんな顔をしないで下さい。これも‘作戦’のひとつじゃないですか。人目のつく行動をして‘彼等’を誘き寄せるように、でしょう?」


「……」


何か言おうとしたのをぐっと堪え、シロフは黙って男の護衛を続けるのだった。



      *



「第2班只今戻りました!」


「ご苦労様。何か変わった事は無かったか?」


団員が無事戻り、ほっと安堵と少し疲れの混じった吐息をついたジーフェスに、団員達はお互い顔を見合わせ、躊躇いがちに話を始めた。


「変わった事といけば変わった事なんですけど…」


「何だ一体?」


「はあ…センテラル市場を中心に『白の道化師』が彷徨いていて、そこらにいる若い女性達に片っ端から口説き文句を言っているらしいとのことです」


「は!?」


「『白の道化師』って…神話に出てくる、数多の神々を言葉巧みに誑かして大聖戦(エルジハード)を引き起こしたと言われている大悪魔の事か?」


「さあ…ただ目撃者の証言ではそいつは全身真っ白の衣装と真っ白なマントを纏い、顔を銀の仮面で被った銀髪白肌の長身の男だそうです」


「銀髪白肌!?ここいらの奴じゃあないな。もしや他国からの密偵で何か良からぬ事でも企んでいるとか…」


「けど西のアクリウム国やフィーメン国辺りはそんな容姿の奴等ばかりだぞ。そこいらの人間が祭を見に来て面白半分にやってるだけじゃないか?」


「その可能性が高いと思う。奴は女ばかり口説いて…しかも女の連れがいるど真ん前でそれをやったりするもんだから、連れ合い同士の痴話喧嘩があちこちで起こっているらしいぞ」


「んー、だけどその程度なら奴をしょっぴく訳にはいかないよなあ」


「………」


団員達があれこれ話をしている中で、ジーフェスは独り、話の内容に絶句していた。


…間違いない、『彼』の仕業だな。


“確かにアルザス兄さんの代わりに人目につくように街を彷徨い歩くとは聞いていたけど…ここまでやるのか!?”


そしてはあ、と重い溜め息をつき頭を抱えた。


“確かに彼はシロフ殿と共に『闇陽』の三人衆のひとり。彼の手にかかった者は皆死から逃れられない程の腕の持ち主なのだが…如何せんお気楽で調子に乗った行動が珠に傷、なのだよなあ…”


「団長、奴をどうしましょう?…団長!」


団員の声にジーフェスは我に帰り、はっとなった。


「あ…そ、そうだな、取り敢えず何人か奴を見張っておくようにしておくか。何かあれば直ぐに報告に来るように」


「はいっ!」


「では俺とザイルが行って来ます!」


若手の団員の言葉にジーフェスは頷いた。


「宜しく頼むぞ。あと他の者は交代の時間まで暫く休憩してくれ」


「「はいっ!」」


団員達が返事をし、それぞれの場所に移動すると部屋はジーフェスと副団長サンドルの二人きりになった。


「『白の道化師』とは…なかなか興味深いものですな」


「……」


協力を仰ぐ為に事の由を全て話していた副団長も、団員の話とジーフェスの態度に全てを察したらしい。


「上手いこと奴等が『彼』に引っ掛かってくれると良いですがね」


「ですね」


奇妙な空気が漂う中、二人はお互い見合ったまま微かに苦笑いを浮かべるのであった。



      *



「報告致します。只今街中に全身白ずくめの銀髪白肌の男『白の道化師』が現れました。奴はその場に居る若い女を片っ端から口説いている模様です」


部下の報告にエルシーンはしてやったりと言わんばかりに勝ち誇った笑みを浮かべた。


「ふはは、馬鹿な奴だな!確かに外見こそあの男に似せたのだろうし、目立つ行動をして我等を引き付ける作戦のようだが、既に見知っている私には効かぬわ!」


「しかしエルシーン様、余りにもあからさまな行動故に、罠という事もありえますが…」


「何を言う!あの陰気で無口で、しかも既に男を棄てた宦官が軽々しく女を口説く事など出来ると思っているのか?ん?」


「それは…」


その宦官が、かつては数多の浮き名を流していた事を全く知らない男は自信満々にそう言い切る。


「まあ良いわ。念の為数人を街のほうにも向かわせておけ。それなら安心だろうが」


「は、はい。そのように手配致します」


男はエルシーンの指示にほっと胸を撫で下ろす。


「うむ…ところでメリンダ殿の行方はどうなっておるのだ?」


「それが…後をつけていた者からの報告で姿をくらまし行方不明となっております」


「行方不明だと!?見失うとは役立たずの馬鹿者めが…まさかあの女、私との約束を反古にしたのではあるまいな!」


先程の自分に対する冷たく不当なあしらいを思い出し、男は不快感を露にする。


「いえ、ちゃんと『黒水』の女共は部隊と共に屋敷へと付いていっております」


「む…」


部下の報告に男はこれ以上言葉が無かった。


“ちっ、折角この機会に女神エロウナの化身と謳われているメリンダ殿を我がものとしたかったのだが、まあ良い、上等の女ならば彼処に幾らでも居るからな”


いつぞやの出来事を思い出し、エルシーンはにやにやと厭らしく唇を歪めた。


「私はちょっと出掛けていくぞ。後の事は任せたぞ」


「あの、どちらのほうへ?」


その一言に立ち上がって扉に向かっていた男はぎっと怒りの視線を部下に向けた。


「余計な詮索はするな!お前達は私の言うことだけ聞いていれば良いんだっ!」


「は、はいっ!」


それ以上何も言えなくなった部下を置いて、エルシーンは意気揚々と部屋を出ていき、とある場所へと向かっていった。


“また高級娼婦街で女遊びでもしてくるのか。このような時でも遊び呆けるとは全くもって良い御身分だな”


主人の出ていった扉を見ながら部下の男は己の今後の身の振り方を考えてしまうのであった。



      *



街じゅうが祭りの熱気と陽気さで賑わう中、外れにあるこの屋敷はそんな様子を微塵も感じさせない、いつもと同じ夜の闇と沈黙を保っていた。


ただ空高く昇っていく大きな月がその屋敷…アルザスの屋敷の、数多の花に包まれた広大で美しい庭園を静かに照らしている。


――そちらの様子はどうだ?


――は、見張りの報告では屋敷の使用人も部屋で眠っている様子ですが、要所で『闇陽』が見張りをしております。


月明かりの届かない建物の陰で、闇色の服を纏った男達が密かに会話をしていた。


――ならば先の計画通りに進めよ。


――は。


そして男達はめいめい別れて、別の場所から各々屋敷へと侵入していった。


「お前達!?」


屋敷を見張っていた『闇陽』達は侵入者に素早く反応し、武器を出して対応しようとするが、


「…ぐっ!?」


彼等より早く、男達の後についてきていた『女』達が素早く『闇陽』達に攻撃し、攻撃された男達は音も無く倒れていく。


“流石大陸一と言われた暗殺集団『黒水』だな…同じ暗殺集団の『闇陽』をいとも簡単に倒すとは、女だてらに凄い腕だ”


自らの足下に転がる『闇陽』と無表情の『黒水』の女達を見て男は恐怖の余りぶるっと身体を震わせ、だが目的を果たすべく屋敷の奥、地下の隠し部屋へと向かっていった。


やがて地下の奥、隠し部屋の扉の前までやって来た男達はお互い顔を見合わせ、こくりと頷きあった。


――いくぞ!


‘バンッ!’


勢いよく扉が開かれ、外にいた男達は皆一気に部屋の中へと雪崩れ込む。


「何者だっ!」


隠し部屋…狭いなかにも小さなローテーブルにソファー、非常食料の納められた棚、奥には仕事用の机に椅子までもが置いてあり、ひとりの上背のある銀髪の若い男がこちらに背を向ける形で仕事机に向かい、椅子に座って書類を書いており、その男を庇うように黒ずくめの数人の男…『闇陽』が現れ、侵入者に剣を向けた。


「な…お前はっ!?」


だが侵入者の後ろにいた女達の影に、『闇陽』の男達は畏怖の表情を浮かべる。と、同時に男達は表情をそのままに、がくりと膝を崩し声もなくその場に倒れた。


「ふん、『闇陽』の雑魚めが、お前達如きが『黒水』に勝てるものか。さてアルザス宰相様」


「……」


首領格の男が倒れている『闇陽』達を踏みつけ、すっと前に進み出ていき、あれほどの騒ぎにも関わらず、相変わらず背を向け椅子に座って机に向かい書類に羽ペンを走らせている長身の男…アルザスに向かって呟いた。


「このような時でも仕事ですか、流石『仕事の鬼宰相』と言われし所以の御方。ですがこれが最期の仕事となりますかな…申し訳ありませぬが貴方様のお命、頂戴致します!」


男の声に周りにいた他の男達は一斉にアルザス目掛けて攻撃を仕掛けた。


「愚かな」


だが男達の行動に動ずる事無く、ゆっくりと椅子から立ち上がったアルザスがぽつりとそう呟くと、後ろを振り向き男達の顔を見つめた。


「!?」



      *



「!?」


あちこちを彷徨き、いつの間にか街の外れの、祭の灯りの届かない、人気のない場所までやってきた『白の道化師』は、ふと目の前に現れた男達の集団に足を止めた。


「何者かな?」


「『白の道化師』、いえ宰相アルザス様。貴方様のお命頂戴致します」


先頭にいた男がそう呟いたかと思うと、周りにいた男達がすうっと剣を抜き構えた。


「これはこれは…しかし出来ましたら貴方達のようなむさ苦しい男性より、若くて美しい女性の集団のほうが華があって宜しかったのですが、ね」


白の男はいきなり現れた暗殺者達にも動ずる事無く、口の端を笑いに歪めて相変わらずの飄々とした態度と口調で語るのだった。


「お前達、何をしている!」


同時に周りから白の男を見張っていた国軍や自衛団が現れ、剣を翳しながら暗殺者達と対峙した。


「あら、数人だけど女もちゃんと居ますよー、アルザス宰相様」


「!?」


何処からか無邪気な少女の声が聞こえたかと思うと、近くで別の人の気配がした。


「うわあっ!」


「ぐはっ!」


その瞬間、暗殺者達と対峙していた国軍や自衛団達が苦悶の声をあげたかと思うと次々に倒れていった。


「!?」


「貴様!」


独り立ち尽くす白の男を庇うように突然現れた数人の男、『闇陽』達は両手に握った短剣を闇に向け、短く叫んだ。


「わーい、やっとシロフが出てきたー♪」


「!?」


きゃはは、と楽しそうな笑い声と共に聞こえてきたその声に、男達の中に居たシロフは表情を歪め、前の闇に向かって鋭い視線を向けた。


すっ、と一瞬その場の空気が動いたかと思うと、目の前に数人の黒ずくめの女『黒水』の集団と中心にはあどけない顔立ちの少女、ネメシスが現れた。


「今晩はシロフ。アルザス宰相様の護衛、御苦労様」


ネメシスはにこっと邪気の無い笑みを浮かべ二人に向かって敬意を込めてか深々と一礼する。

が、再び上げた顔は不敵な笑みのそれに変わり、両手には暗殺用の短剣が握られていた。


「アルザス宰相様、敵の目を引く作戦とはいえ、これまた面白い指向を披露されています事…」


白の男…アルザスを見ながらネメシスはさも可笑しそうにくすくすと笑いだした。


「何をしに来た?残念だがここに居るのは目的の宰相様では無いぞ。お前ともあろう者がこんな失態を犯すとはな…」


シロフが嘲笑を浮かべ冷ややかな視線を彼女達に向けてそう語るが、


「シロフ、誤魔化しても無駄ですよ。屋敷に隠れているのが偽者で、ここに居るのが本物のアルザス宰相様。そっちの作戦、こっちにはぜーんぶ、お見通しよ♪」


愉しそうに話しながらも、ネメシスは視線を、獲物を狙うかのように鋭い光を白の男に向け剣を構えていた。


「何を…」


「なら証拠を見せてあげる♪」


そう言うが早いか、ネメシスの片手から短剣が放たれ、白の男の顔に向かっていった。


「!」


短剣は白の男の頬を掠めて仮面の留め金を壊し、銀の仮面は男の顔からはらりと外れ音を立てて地面に落ちていった。


「!?」


男の顔が露となり、月明かりに照らされ周りの人の目に曝される。


月明かりに映える雪のような白の肌、端正な作りの顔立ちは片頬は先程短剣が掠めたせいなのか、一筋の赤い線を垂らしている。

そして切れ長の瞳の色彩は、男の頬をつたう筋と同じものであった…。



      *



「もう少し手応えがあってもよさそうなのに…」


にやにやと笑うアルザス…いや、顔立ちは彼と非常にそっくりではあるが、瞳の色は真逆の蒼い色彩をした男、は足下に転がる侵入者を軽く蹴飛ばしながら呟いた。

彼等は皆、顔に苦悶の表情を浮かべ喉を掻き毟ったような格好で既に事切れていた。


「このようなへっぽこな腕で我が主人(あるじ)を暗殺しようとするなんて、すっごく甘過ぎ。おまけに『黒水』のおねえさん達は早々に逃げちゃうし…」


“というより彼女達…、”


「大丈夫ですかファサド様!?」


突然地下の隠し部屋にやって来た『闇陽』の男達は部屋の中にある遺体の累々たる様子にぞくりと身体を震わせた。


…これが、死の針ファサド様の仕事ぶりか!?


極細針の先に猛毒を仕込み、音も無く獲物に忍び寄り首筋に針を突き立て瞬時に生命を奪う、正に影の暗殺者。

それだけでは無く『闇陽』随一の敏捷性を誇り、かつて数十人近く居た敵を、たった独りで毒針の餌食にしたという伝説の持ち主。


「遅い、わたくしや首領(ドン)でなかったら既に命が無かったわよ!」


「も、申し訳御座いません。不覚にも皆やられてしまいまして…」


男達はファサドの叱責に言い訳出来ず、しゅんと項垂れる。


「全く、『黒水』が本気を出していたら今頃貴方達は皆おだぶつでしたね」


「う…」


いよいよ男達は反論の言葉無く落ち込んでしまった。


「落ち込むのは後にして貴方達、早く主人(あるじ)と首領のもとに向かいなさい!」


「え!?しかし敵は皆ここに誘き寄せたのでは…」


「貴方達まだ解らない?『黒水』が貴方達を殺さなかったのは本気を出してないから、何より『黒水』の首領であるネメシスがここに居なかったのは何故か?答えはひとつ、ここに居たのが偽者と気付いているから」


「まさか、そんな!?」


男達はファサドの言葉に驚き顔を見合わせ、暫し何か考えていたが、やがて屋敷を飛び出し街中へと向かっていった。


独り隠し部屋に残ったファサドはふうと溜め息をついて闇色の虚空を見上げた。


“よもや主人(あるじ)の作戦をまんまと見破るなんて。

確か『黒水』はアクリウム国の宰相メリンダ殿の支配下にあったわよね。ならば彼女が見破った…若いくせしてそら恐ろしい女…”


「間に合うと良いけど…」


ぽつりと洩れた呟きは誰にも聞こえる事なく、ただ闇の中へと消えていった。

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