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第9章Ⅵ:太陽祭(前)

いよいよ太陽祭が明日に迫ってきたその日、


「団長!第3班只今戻りました!」


「ご苦労様。何か異常は無かったか?」


「いえ、酔っぱらい同士が喧嘩していたくらいで特に異常はありませんでした」


「そうか、奥の部屋に食事が準備してあるから暫く休んでくれ。あと第6班に出動時間だと伝えておいてくれ」


「「はいっ!」」


日が暮れ夜の闇が辺りを包む頃、ここ自衛団庁舎では団員達が交替で街の警備にあたっており、皆真剣な面持ちで庁舎を出入りしていた。

ジーフェスは先程戻ってきた団員達が嬉々として奥の部屋に入っていくのを見届けると、少し安心したような吐息をついた。


「団長も少し休憩されては如何ですか?昼食以降まともに休憩を取っていないでしょう」


ジーフェスの隣にいた副団長のサンドルが心配そうに声をかけてきた。


「ありがとうございますサンドル殿。第6班が出動するのを見届けたら少し休憩いたします。その間この場を宜しくお願い致します」


「解りました。まだ先は長いですからゆっくりと休んで下さい」


祭前夜だというのに既に浮かれた若者達で賑わう通りの中、ふと一台の馬車が自衛団の庁舎にやってきたかと思うと、中から二人の人物が現れた。


「今晩は。お疲れ様です」


「こんばんはー!差し入れに来ましたよー!」


それは両手に沢山の御馳走を抱えたサーシャとエレーヌであった。


「おっ!エレーヌちゃん」


「お、サーシャ様まで来てるし。団長ー!奥さんが差し入れ持ってきましたよー!」


…え!?


入り口付近にいた団員の声に、休憩室に向かおうとしていたジーフェスは驚いた表情を浮かべ慌てて入口付近へとやってきた。


「サーシャ!?」


「あ、ジーフェス様。御忙しいところすみません。差し入れと、あと着替えを持ってきました」


サーシャはジーフェスの姿を見つけるなり少し恥ずかしそうに頬を赤く染め、俯きがちに、だが嬉しそうに微笑んで手にしていた荷物を彼に手渡した。


「あ、ありがとうサーシャ。でもどうしてここに…」


「あとこっちはハックさんの特製ミートサンドと木苺パイとマカロニサラダですー」


だがジーフェスの問いは隣にいたエレーヌによってかき消されてしまった。


「おおっ!ハックさんの特製ミートサンドっ!」


「木苺パイにマカロニサラダだってっ!」


近くで話を聞いていた団員達がにこやかな笑顔を浮かべて三人の周りに集まりだした。


「お前達、そこで弁当を広げるな。休憩室で貰え。ほら、早く荷物を運んだ運んだ!」


遅れてやってきたサンドルが周りにいた団員に軽く叱責しながらそう命令していく。


「「アイアイサー!」」


軽快に返事しながら、団員達はエレーヌ達の持ってきた差し入れを手に、エレーヌは彼等の後についてさっさと休憩室へ向かっていった。


二人きりになったジーフェスとサーシャは暫し唖然としていたが、やがてお互いに視線をあわせた。


「その、サーシャ…」


「ジーフェス様、何か必要なものがあれば仰有って下さい。明日また差し入れに来ますので」


「あ…いや、服はこれだけあれば明日夜までは大丈夫。明日の昼前にはここの通りも馬車の出入りが禁止になるから、差し入れはその前にお願いするよ」


「はい、解りました」


そう明るく答えるサーシャだった。


“ジーフェス様、二日前からずっと庁舎に籠りきりでお仕事をされているからお身体が心配だったけど…見た感じ大丈夫のようですね”


だが嬉しさと同時に寂しさも感じるのであった。


“久しぶりに元気なジーフェスに逢えて嬉しい。けど…”


祭の警備でジーフェスが多忙なのは解ってはいたが、やはり一目会いたくて無理を言って連れてきてもらったのだったが、


「あの…」


“でも本当は私…”


「ん、何?」


何か言いたげにしたサーシャだったが、


「団長、早速差し入れ頂いてますよ、団長も早く来て食べましょうよ!」


先に団員のひとりが現れてジーフェスに呼び掛けてきたのだった。


「あ、いやその…」


「解った、直ぐ行く」


ジーフェスは団員に短く返事をするとサーシャに視線を向けた。


「すまない、明日までは忙しいから話しは屋敷に戻ってから聞くから。それとも何か急ぎの用事だったかな?」


「あ、いえ大したことではありません。お仕事頑張ってください」


「ん…じゃ」


サーシャの声に軽く頷くとジーフェスはさっさと背を向け、団員と一緒に奥の部屋へと向かっていった。


ジーフェス様…。

忙しいから仕方ないわよね。


でも…


“でも、今日屋敷であった事を話したかった。昨日の事や庭の作業の事も、もっとお話をしたかった。

もっと、もっとジーフェス様、貴方の傍にいたかった…”


折角逢えたのに、だがほんの僅かしかふれ合えなかった事にサーシャは更に強い寂しさを感じ、思わず一粒涙を溢してしまうのだった。


“ここで今サーシャに逢えるとは思わなかったな。元気そうにしていて良かった”


一方のジーフェスのほうも、休憩室に入りながら温かな気持ちになっていたが、一方で寂しさを感じてもいた。


“だけど、もう少し彼女と一緒に話をしたかったな。そういえばこんなに長い時間サーシャと離れたのも初めてだな…”


いつも夕食の時と就寝前に、お互いその日の出来事を話す。

たったそれだけの事が出来ないだけなのに、たった二日間離れていただけなのにジーフェスは例えのない寂しさを感じていた。


“いかんいかん!寂しい思いをしているのは俺だけではない。皆家族や恋人に寂しい思いをさせて仕事に励んでいるんだ!団長の俺がしっかりしないでどうする!”


“それに国軍からの極秘命令で『狂信者』が現れたらしいしな。ならばアルザス兄さんを狙っている黒幕も奴等に間違いないだろう。

奴等を捕まえる為にもここは頑張らねば!”


だが一方ではこうも思うのであった。


“独り身の時はこんな事当たり前だったのに、サーシャと一緒になって大切な人と離れ離れになる寂しさに気付くなんて、俺も大概だな”


気合いを入れるように、寂しさを紛らすように、ジーフェスは椅子に座り、目の前にあったミートサンドを頬張るのであった。



      *



翌日、


太陽祭当日のその日は朝から雲ひとつ無い、素晴らしい晴天であった。


街ではセンテラル市場を中心に大小様々な店が軒を並べ、果ては大道芸や闘技場もどきまでもが催され、馬車や馬等の立ち入りが禁止されて歩行者天国となった道を大勢の人々が練り歩き、王都フェルティ一帯がいつも以上に活気に満ち溢れていた。


中でも一番民衆を集めていたのはフェルティ王城であった。

何故なら今日は年に二度行われる、フェルティ王族一同の一般参賀があるからだ。


民衆は普段は目にする事の出来ない王族を一目拝見しようと、挙って専用の場所へと集まってきていた。


王宮の一部、せり出された大バルコニーには国王代理のカドゥース、正妃ニィチェ、そして彼等の子息達、そして王妃ルーリルアが姿を現し、にこやかに微笑みながら民衆に向かって手振を行った。


「カドゥース殿下ー万歳!」


「ニィチェ妃殿下ー!」


「ルーリルア王妃様万歳ー!」


彼等の姿を拝見した人々は挙って敬意を込めた称賛の声をあげていて、ある種の狂気じみた雰囲気を醸し出していた。


「皆の者!」


民衆に向かい発せられたカドゥースの声に、騒ぎ声が一斉に静まり返った。


「今年も無事にこの日を迎える事が出来た。これも我が国の象徴たる太陽神と勤勉たる我が民のお陰であるぞ!」


彼の一言に、集まった民衆は再び歓喜の声をあげる。


「カドゥース殿下万歳!」


「我が国、我らはカドゥース殿下と共に有り!」


民衆の反応にカドゥースは満足げに微笑み、深く頷くと空高く存在する太陽を見上げ、両腕を天に掲げた。


「我が国の守護たる太陽よ、我はフェルティ国の王たる者成り!

我が肉体を、魂を以て我が国を守護したまえ!我が国に永遠なる光と繁栄と栄光を与えたまえ!」


「「うわわわっっ!!」」


国を代表する彼の太陽神に対する祝詞に、民衆の皆が一際高く歓喜の声をあげ、太陽祭は始まりを告げるのであった。



      *



「えー!サーシャ様は祭に行かないのですかぁー?!」


屋敷の中ではエレーヌの素っ頓狂な声が響いていた。


「これエレーヌ!サーシャ様に何て口のきき様ですかっ!」


隣にいたポーが思わず怒りの声をあげる。


「ええ、今朝ジーフェス様に差し入れに行った時で通りがあの混雑でしたから、今は更に混雑していますよね。私、人の多い場所は苦手なので…」


「でもぉ、折角のお祭りですよー」


「エレーヌ、サーシャ様の仰有る通り、街は大混雑でしかも馬車の乗り入れが出来ないのですよ。坊っちゃまも不在で、誰がサーシャ様を御守りするのですか?」


「うー…」


ポーの尤もな意見にエレーヌはそれ以上の言葉が無かった。


「あ、私に気にせずエレーヌさんはお祭りに行って下さい」


「私は仕事中ですし、夜にムントと一緒に行きますよー。それに祭は夜からのほうが面白いし。あー今年もカドゥース殿下が街に現れるのかなぁ?」


「カドゥース殿下が、ですか?!」


エレーヌの言葉にサーシャは首を傾げた。


「そうでーす。昨年の太陽祭の時、夜の街に何と!殿下が御供も無しに平民と同じ格好と仮面を身に付けて現れたんですよー!」


「え?何故殿下がそんな場所に御越しに?」


「さあ?単に祭に遊びに行きたかっただけじゃないですかぁー。で、見つかった時その場が一時騒然となって、そりゃもう大変だったんですよー」


「は、あ…」


「噂だと殿下は毎年祭の夜に仮装して街に御忍びで来ていたらしいですよー。ああ見えて結構おちゃめな殿下ですよねー」


「これエレーヌ、殿下に対して無礼な!ほら早く掃除に戻りなさい」


ポーの叱責にエレーヌははーいと軽く答えて、ぺろりと舌を出してからその場を立ち去っていった。


“カドゥース殿下が御忍びで街におみえになるなんて。エレーヌさんは祭に遊びに行きたかったとか仰有っていたけど、国を代表する御方がそのような軽々しい行動をなさるものかしら…”


先日の食事会で逢った、表面は穏やかな笑みを浮かべながらも、冷静に自分を値踏みするかのような鋭い視線の姿を思い出し、サーシャはとても複雑な気持ちになるのであった。



      *



通りが祭の陽気と人々で賑わう中、太陽は次第に傾き、夜の帳が辺りを覆う頃合い…。


そんな中、街の外れにある人気の無い、ある小さな屋敷に一台の馬車が現れた。

それは上等な材で造られた立派なもので、扉には乙女のレリーフが施されていた。


馬車は屋敷の入り口で止まり、馭者が扉を開けるとそこからひとりの女性が降りてきた。


「御待ちしておりましたメリンダ様、こちらへ」


屋敷から使いの人物らしき若い男が彼女を出迎えると、言葉少なめに彼女を屋敷の中へと案内していった。


普段使われないのか、立派な内装だが埃っぽい空気の中を奥に進んでいくと、やがてひとつの部屋へと辿り着いた。


「旦那様、メリンダ様をお連れ致しました」


「おお!御越しになられたか!さあ中へとどうぞ」


中からの返事を確認すると、男は扉を開けた。


その部屋は数々の装飾で施されているが、それらは若干派手気味で趣味の良いものとは言い難い。


「ようこそフェルティ国へ。わたしはエルシーン=ルッツ、この度は御協力感謝致します」


ソファーにふんぞり返って座っていた男…エルシーンがメリンダの姿を目にした途端、にこやかな笑みを浮かべ立ち上がって彼女を迎えた。


「はじめましてエルシーン殿」


メリンダは初めて目にする男の姿ににっこりと微笑み、片手を差し出した。


「お噂はかねがね伺っておりましたがこれ程の美しさとは…いやはや、流石愛と性の女神エロウナの生まれ変わりと言われるのも頷けますな。どうですか今宵‘仕事’を終えた後に二人きりで祝杯をあげるというのは…」


エルシーンはメリンダの手を取り軽く口つけると、舐めるような厭らしい目付きで彼女の姿を上から下まで眺めまわした。


「まあ御上手ですこと…でも私は女神でも何でもありませんわ。それに折角の御誘いですが‘仕事’が終わり次第直ぐにアクリウム国に戻らねばなりませぬので、またの機会に是非」


やんわりと微笑みながらもはっきりとした断りの返事を述べ、男の厭らしい視線に自らも軽蔑の籠った眼差しを向ける。


「それは残念ですな…」


そんな視線など全く気付いてないのか思惑が外れた男は残念そうな表情を浮かべ、それ以上は何も言わず再びソファーに腰掛けた。


「早速ですが‘仕事’の件で話を伺いたいのですが、アルザス殿は今何処に?」


客人へ席の勧め無しに先に腰を降ろした男の無礼さにメリンダは怒りをも覚えたが、敢えて表情には出さずに自らも腰を降ろしながら淡々と尋ねた。


「あれならば自身の屋敷の奥に隠れておるわ」


「は?それは一体…」


意外な答えに驚き呆気にとられる彼女に、男はけたけたと気味悪い笑い声をあげる。


「あの臆病者は影武者を街に送り出して自身は屋敷の奥深くに隠れているのだよ。わたしの腕利きの隠密が掴んだ情報だから間違いは無い!」


男の確信の籠ったはっきりとした口調にメリンダは暫し言葉が無かった。


「では‘黒水’はかの方の屋敷へと向かわせれば宜しいのでしょうか?」


「そうですな。わたしの精鋭部隊が傍に控えておりますので、今から彼等についていって補佐をしていただければ万事上手くいきます」


エルシーンは勝ち誇った笑みを浮かべメリンダを見返す。


「解りました。我が‘黒水’貴方様に預けます。あと成功の暁には…報酬のほうはお忘れでは御座いませぬわよね」


「勿論ですとも。わたしが宰相となった暁には貴女様の祖国アクリウム国に紅茶の全取引権をお譲り致します」


「それだけ確認出来たら安心致しましたわ」


にっこりと微笑むとメリンダはゆっくり席を立った。


「どちらへ?」


「私はこれで失礼致します」


「しかし…」


「私達がここで密会しているのをあの方の手の者が嗅ぎ付けぬとは限りませぬ。用件も済みましたので長居は無用ですわ」


「む…」


不満そうな男の表情を尻目に、メリンダはそれ以上何も言わずに部屋を出ていき、自身の馬車へと戻った。


「ネメシス」


「何で御座いますかメリンダ様」


馬車が走り出して直ぐにメリンダがその名を呼ぶと、彼女の目の前に座っていた少女が答える。


「先程の話、お前はどう思うかしら?」


「絶対罠ですね。あの宰相様が影武者の件をそうそうあからさまにする筈無いじゃないですか。それも解らないあのボンクラ男は本当に馬鹿そのもの!」


「やはり貴女もそう思うわよね。でも…」


「でも?」


「ならアルザス殿は一体何処にいるのかしらね?」


「あー、もしあの男の話が本当なら街に居るのが影武者で屋敷にいるのが本物、でもそれが罠なら屋敷に居るのが偽物で…え!?街に出ているのが本物、ってこと…!

いやいやそれ有り得ない!わざわざ危険な場所に行くなんて有り得ない!」


ネメシスは思わずそう叫んでしまう。


「でも『街に居るかの方』のほうを本物と思わせる為、警備は厳重に行う筈。対して『屋敷に居るかの方』の警備はいつも通りか、薄い。意外と『街に居る』ほうが本人にとっては安全かもよ」


「いやいや、実はもうひとり影武者が居て、それぞれ屋敷と街に待機して、本物は別の秘密の場所に隠れているとか…

ん〜益々解らなくなりました。宰相様、何処に居るのだろう?」


すっかり混乱してしまったネメシスが頭を抱えてしまうと、メリンダはくすりと笑って続けるのだった。


「あら、至って簡単よ」


「は?」


「貴女私の指示通り、先に‘彼女’をかの屋敷へと向かわせたわよね?」


「はい、御命令でしたから」


メリンダの言葉に首を傾げるネメシス。だが彼女は満足げに頷くのだった。


「ならば彼女からの報告を聞けばアルザス殿が何処にいるのかが直ぐに解るわ」


「??」


益々訳が解らなくなり、ネメシスはいよいよ項垂れてしまうと、その様子を見ていたメリンダはさも愉しげにいつまでも笑っていたのだった。



      *



「ふふ、久しぶりの仕事でこの様な格好をする事になるとは…」


ひとりの男…絹の真っ白な正装姿に白の手袋、同じ色のマントを纏い腰にはやや細身の剣を携え、顔には口元以外を隠すように銀色の仮面を被っている…は楽しそうに姿見で自分の姿を見ていた。


「まるで神話に出てくる、数多の神々を誑かした大悪魔『白の道化師(ワイト・ピエル)』の様だこと」


「お前、主人(あるじ)の御前だぞ。そんな浮かれ調子は止めろ」


側にいた男…シロフが低い声で叱責すると男はひょいと肩をすくめた。


「はいはい、真面目ですなあ首領(ドン)は。

どうですか我が主人(あるじ)、これならば主人の替わりとして完璧で御座いましょう?」


怒るシロフを軽くあしらい、男は目の前に座っていた己の主人…アルザスに視線を向け深々と紳士の礼をおこなった。


「うむ、完璧だ。それならば奴等も私と勘違いするであろう」


アルザスは男…影武者の姿を見て満足そうに頷く。


「しかし全身真っ白とは、ある意味目立って仕方ありませぬな。まあそれこそが目的のひとつですがね…しかしこのマントと仮面、邪魔くさいったらありゃしない」


うんざりした様子で影武者がマントをよけ仮面を取ると彼特有の、そして主人とは唯一異なる蒼い瞳が露になる。


「今はまだ良いが街中では決して仮面を外すなよ。お前の瞳を見れば直ぐに影武者だとばれるのだからな」


「はいはい、子供じゃあるまいし…それくらいちゃんと解ってますよ」


シロフの睨みにも飄々とした様子で答え、男は再び仮面を顔につけた。

瞳の辺りには紫色水晶がはめ込まれていて、男の蒼い瞳は外からは濃い紫にしか見えない。


二人のやり取りを見ていたアルザスははあ、と呆れた溜め息をひとつ吐き出すと、ゆっくり席を立ち上がり部屋を出ていこうとした。


「アルザス様、何処へ?」


「隠し部屋に向かう。お前達は先に指示した通りに動け」


「御意」


「んー折角だから護衛代わりに主人についていっても構いませんか?」


「貴様!」


仮面に隠れ表情は解らないが、唇の端でにやにや笑う影武者にシロフは怒りを向けるが、アルザスのほうは表情ひとつ変えずに至って冷静である。


「勝手にするがよい」


それだけ告げて、二人を無視してさっさと屋敷の奥、隠し部屋へと進んでいった。


その様子に影武者の男はふふん、と勝ち誇ったように鼻先で笑い、シロフは忌々しげに男を睨み、だが二人は護衛するように主人の後についていくのだった。

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