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おまけ3:ムントの恋の物語

ちょっと長くなりましたが、お付き合い頂けると嬉しいです

「はじめましてこんにちはぁ〜。私エレーヌと言いまーす、よろしくお願いいたしまぁす」


…ヤバい、何これ!

ちっちゃくてくりくりしていて、めっっっちゃ可愛いっ!!


俺ムント。はっきり言って、一目惚れだった。



      *



…その仕事がやってきた時、始めのうち俺は乗り気では無かった。


「はあ?貴族サマの屋敷の庭の整備?!」


「そうだ、街外れにある御屋敷、あそこの庭を一から綺麗に整備して欲しいと依頼があったんだ」


目の前にいる初老の親父、ギルド長はそういってにんまりと微笑んだ。


俺達土建屋は何人か組んで幾つかのグループに分かれて各々が組合(ギルド)に属し、大抵その組合を通じてグループ毎に仕事が割り当てられる。

土建屋も様々で、俺のグループの様に力仕事を得意とする者、繊細な加工力を生かしての壁等の装飾を得意とする者等々…。

組合は可能な限り均等に、グループ毎の性格に合った仕事を割り当ててくれるのだが…、


「あんなぁ親父、確かに俺達体力馬鹿にはうってつけの仕事かもしれないけどな、貴族の屋敷だろ?俺達なんぞで良いのか?」


言っちゃあ何だが、俺達のグループは確かに土堀り石砕き機材運び、力仕事させりゃあ他のグループの右に出る者は居ないけどさ…、


その分見た目がかなりヤバい。


俺も含めて皆がマッチョ、だけならまだ良いが、その体格に相応しい超強面。最凶最悪と言っていい位の超・超強面。

だからグループで街を歩けば皆が道を開けるし、見た目から軍人に通報されるなんて日常茶飯事。果ては娼婦街の守人(ガーディアン)への御誘いもちらほら…。

しかし俺達、力は強いけどさ、実は皆見た目に反してすっげぇ繊細だったり争い嫌いだったり、中には仔犬に吠えられただけでチビってしまう奴まで居るくらいだ(俺とは言わない!決して言わないぞ!!)。


しかしそんな中身なんぞ第一印象だけで解って貰える筈など無く、仕事先に向かって依頼主、特に貴族サマから決まって言われる第一声がこうだ。


『君達のその姿に怯えて皆が怖がってしまうから出来るだけ人目につかぬ様に仕事してくれ。あとくれぐれも妻や子供達の前には姿を見せないでくれたまえ』


だから見た目に拘る貴族サマって嫌いなんだよー!


…てな文句もチキンな俺にはとても口に出せない。


「まあ貴族の御屋敷って言っても、あの自衛団の団長さんところの屋敷だ。普通の貴族様とは違ってちっとはやり易いんじゃないか?」


「へ、依頼主って団長さんなのか?」


この強面のせいで何回かお世話になったけど、俺と同じ位の年齢で、優しくてさっぱりとした性格で結構良い奴だったよなー。


「正確には団長さんに庭の造形を頼まれた庭師さんだがな。」


「ふーん…」


「で、どうだ、勿論この仕事やってくれるよな?」


「んー、まあ、そっちが良ければ俺としては別に良いけど…」


何せこの強面のせいで仕事来ても依頼主から断られる事が多いからな。内容選んでる場合じゃあ無い。


「よっしゃ、じゃあ早速依頼主に連絡入れるからな、お前グループの連中連れて行って挨拶や打ち合わせなんかやってこい」


「…はーい」



      *



「ほーぅ、こりゃまた頑丈な奴等がやって来たもんだのぉー」


てな訳で、依頼主の庭師さんに会ってみた。

俺の目の前にいる小柄なじーさま…かなり腕のたつ庭師らしい、は俺達の姿を見るなりびっくり仰天。


まあ、こんな事は常々なんで別にどーでも良いけど、見た目こんなんだから仕事断られないか、心臓麻痺起こしてぶっ倒れたりしないか、そっちのほうが心配になった。


「かなり激しい仕事だから頑丈な奴を希望してたんだが…うん、こりゃなかなか立派なもんじゃ!これなら大歓迎大歓迎」


とじーさま、先程までの仰天顔から破顔一笑すると俺の腕をぺちぺちと叩いてきた。


「は、あ…」


「儂は庭師のフェラク、これから一緒に仕事していくんで宜しくな」


「俺はムントと言います。よろしくお願いします」


何か意外な方向にいってしまって、俺も皆も少し唖然気味。

まあ、仕事断られなかったからよしとしよう。


「じゃあ早速屋敷の主に挨拶しに行くとするか」


「…はい」


展開の早さに俺も皆もびっくり。

まあ、善は急げと言うしな。…違うか?


…てな訳でやって来ましたよ団長さんの御屋敷。

いや、シロートの俺から見ても結構酷い。

普通貴族様の御庭って、綺麗に草木が立ち並んで刈り込まれていて、噴水なんかがあって周りには季節の花が咲いていて綺麗な公園みたいになってるものだけどさ、ここは本当に何もない、良く言えば広間、悪く言えば野原といった状態の庭だった。


「お待たせしてすみませんフェラク殿」


そんな状態の庭を眺めながらぼーっと待っていた俺達の前に現れたのは、自衛団の制服姿の団長さん。仕事中だったのかな?


「これはジーフェス様、お忙しい所失礼致します」


「いやいや、こちらこそ」


二人してちょっと堅めの挨拶をすると、じーさんは俺達を手招きしてきた。


「今日こちらに御伺いしたのは、庭を作成する者達が決まりましたので顔合わせも兼ねて打ち合わせを行いたいと思いまして…こっちがグループの長の、えーと…」


「あ、ムントと言います。よろしくお願いします団長さん」


俺がぺこりと頭を下げると、その姿を見た団長がああ、という感じの表情をした。


「君は…久しぶりだね。最近姿を見掛けなかったから何処へ行ったのかと思ってたよ」


「はあ、あの時は色々御世話になりました」


そんな俺達の会話にフェラクのじーさんはちょっと驚いた表情を見せた。


「おや、ジーフェス様とムントは知り合いだったのか?」


「はあ、まあ…」


俺と団長さんが苦笑いして言葉を濁していると、団長さんはそれから奥さんや屋敷の使用人とかを呼んで簡単に自己紹介してくれた。


まあ皆俺達の巨体・屈強、かつ強面の姿をみて最初びびって、特に団長さんの奥さんなんか最初かなりびっくりして、暫く団長さんの背中に隠れてしまっていたけど、程無くして俺達が人畜無害?だと解ると皆おずおずとだが自己紹介してくれた。


「サーシャと申します。これから宜しくお願いいたします」


奥さんを見るなり、仲間達は可愛いだの団長羨ましいだの、すっかりにやけ顔していたけど…

俺はあんな小さい奥さんと俺達ほどでは無いけどそこそこ立派な体格の団長さんとの夫婦生活、かなり大変じゃないかなぁ、なんて変な事想像してしまった。


それに俺としては、確かに奥さん、見た目は可愛いんだけどもう少しこう、ボンッキュッ、って身体にメリハリがある女の子のほうが好みかなあ…。


「皆さーん、お茶とお菓子持ってきましたのでどうぞー」


突然声がしたのでそっちのほうを振り向くと、そこにはひとりの少女…格好から恐らくメイドなんだろうけど…が、お茶の入ったカップと美味しそうな焼菓子を乗せたワゴンを押して俺達の傍まで寄ってきた。


…そうそう、こんな感じの彼女…顔立ちは可愛くて長い髪をおさげにして、小柄だけどぽっちゃりというか肉付きが良くて、胸も尻も大きくて見様によってはセクシーで笑うと口元にえくぼが出たりして…、


「!!」


ちょ、まじっ!!マジで俺の好みにドンピシャじゃねぇか!!誰だよ、この女の子っっ!!


「ああエレーヌご苦労さん。さあ皆さんもお茶どうぞ」


団長さんはそう言って俺達にお茶をすすめてきて、仲間なんかは彼女を見て可愛い、とか色っぺぇ、なんて言いながらもいただきますと言ってお茶と菓子に手を出していたけど、俺はそんな場合じゃ無かった。


やばい、ヤバいヤバイっっ!!可愛い過ぎるっ!!


彼女の姿を見ただけで俺の心臓バクバク破裂寸前状態。


いや、こんなこと産まれて初めてだよ。冗談抜きで暫くの間、彼女から目が離せなかったよ。


流石にそんな俺の視線に気付いたのか、その彼女がふと俺に視線を向けてきた。


「あのー、何かぁ?」


ちょっと舌足らずな喋り方も俺の好み…、てそんな場合じゃ無かった!

ばっちし彼女と視線を合わせてしまった俺は我に帰ってしまい、焦って視線反らしてしまった。


「あ、あ、あの、お、お茶、い、いただき、ますねっっ!!」


震える手でワゴンのお茶とお菓子をひっ掴んで夢中で口に放り込んだけど、それを見ていた皆は唖然。


「あのぅ…そんなに慌てなくてもまだお茶もお菓子も沢山ありますからぁ、ゆっくり食べて下さいね」


なんて心配されてしまったよ。


そんな様子を見ていた仲間の中でも勘の鋭い奴はにやにやした笑みを俺に向けてきやがった。畜生。


「それにしても皆さん、スッゴいムキムキの身体してるんですねぇー」


なんてその彼女が俺達の姿にびびる事無く、平気で近付いてきたからびっくりしたの何の。


「あれ、君、オレ達怖くないの?」


仲間のひとりの問いかけにも彼女はけろっと平気な顔して答えるのだった。


「え、私、以前鉱山で賄いの仕事してた事があったんですよぉ。その時の人達と皆さん似てるんで全然怖くなんかないですよぉ」


「へぇー」


「鉱夫さんって見た目怖い人が多かったんですけどぉ、皆さん凄く優しい人ばっかりでしたよー。皆さんも見た目似てるからやっぱし優しい人達なのかなぁって思ってー」


「これエレーヌ、相手の方に失礼ですよ」


傍にいた老女のメイドが彼女…エレーヌっていってたかな、に窘めるように言うのだった。

すると彼女はてへ、とお茶目な笑顔を浮かべてぺろりと舌を出すのだった。


その仕草も何て可愛いんだあああっっ!!


「エレーヌ、貴女も皆さんに自己紹介しておきなさいな」


老メイドの指摘に彼女ははーいと呑気に返事すると俺達の前でぺこりとお辞儀をすると明るい声で自己紹介をはじめた。


「はじめましてこんにちはぁ〜。私エレーヌと言いまーす、よろしくお願いいたしまぁす」


…ヤバい、本当に何これ!

…エレーヌちゃん…名前まで可愛い。

本当にちっちゃくて瞳もくりくりしていて、めっっっちゃ可愛いっ!!いやマジで可愛いっ!おまけに胸も尻もムチムチプリン状態で、さぞかし抱き心地良さそうだよなあ…。

うん、はっきりいって一目惚れだった。ちょっと(かなり?)下心有りの(笑)


「へぇー、よろしくねエレーヌちゃん」


「オレは…て言うんだ、よろしく」


仲間達は皆彼女に平気で声かけていくけど、その時の俺は本当に舞い上がってしまっていて、話し掛けることすら出来ず、ただただ彼女の姿に見惚れてしまっていただけだった。



      *



てなわけで始まった庭の整備の仕事だけど…、


「お頭、こっち終わりましたっ!」


「おし、じゃあっちのほうを手助けしてくれ」


「アイアイー!」


ちょっとおどけた口調になりながらも、俺達は師匠(フェラクのじーさんの事だ)の指示に従って先ずは庭の草刈りや不要な木々の撤去に精を出していた。


はっきりいって、馬鹿力が取り柄の俺達グループにとっては少々物足りない位の仕事で皆楽勝で鼻歌混じりに作業していた。が、


「皆さぁん、お疲れ様です。お茶を持ってきましたから時間の空いた時にでもどうぞ〜」


…どきーーん!!


うわ、彼女の声だぁ!?


いきなり現れた彼女の姿を瞳に捉えた途端に俺の心臓バクバク、手なんか震えだしてしまったよ。


…うはー、やっぱ今日も可愛いなあ…


なんて事を考えていたら、


「お頭っ!危ないっ!!」


「?」


仲間のひとりの声がしたかと思うと、背丈位の木がいきなりばさっと俺のほうに落ちてきた。


「うはっ!!」


…そういえば俺、雑木を切り倒していた途中だったっけ。


「大丈夫っすかお頭!」


仲間の何人かが細かい枝と葉っぱまみれになった俺を心配して駆け寄ってきた。


「大丈夫だ。枝と葉っぱが当たっただけだ」


そう言って身体の上の木を退けようとした時、


「大丈夫ですかぁ?怪我とかありませんかぁ?」


…どきーーんっ!!


いつの間にか彼女が心配して俺の傍まで駆け寄ってきていたのだった。


どきんどきんどきん…


…うわー!彼女が至近距離にいるっっ!!やっぱ間近で見ると可愛いー!やばいやばいっ!!


「うわ、沢山葉っぱや枝が絡まって、ここ、血が出てますよ」


しかも頭や顔についた葉っぱを取ろうとして彼女の手が俺の頬に触れたもんだから、正にヒートアップ寸前。


うわ…彼女の手、ちっちゃくて、でも働く女の子の手らしくちょっと荒れていて、でもふっくらしてて柔らかい。


彼女の手の感触にすっかりうっとりしている俺を不審に思ったのか、彼女が少し表情を不安そうにしてきた。


「あのぅ、少し熱いみたいですけど、熱があるんじゃあないですかぁ?」


なんて言いながら、俺のおでこにぴたっと手を当ててきた。

おまけにその拍子に彼女の身体が一瞬だがぴたっと俺の身体に触れたもんだから、俺まさに爆発寸前。



か な り や ば い ぞ は な ぢ で る !!



「だ、だ、だ、大丈夫っすっっ!!」


俺はすっかり慌ててしまって木と彼女を思い切り振り払ってしまい、あろうことかその場を脱兎の如く逃げ出してしまった。


「……」


その様子を見ていた仲間や師匠、そして彼女までもが呆然としてしまったのだった。


…こんな調子が一度二度ならともかく、彼女に会う度にやらかしてしまうものだから、いよいよおっ師匠さんも頭を抱えて俺に警告してきた。


「ムント、お前の仕事中の態度はどうにかならんか?このままだといつか大怪我するぞ」


「はあ…すんません。今後は気を引き締めて頑張りやす」


頭を下げて謝る俺を見て、師匠は更に深い溜め息をついた。


「お前さんの不調の元凶は解ってる」


「はあ…」


まあ、あれだけあからさまに態度に出ているからな。仲間内ではすっかり冷やかされるし団長さんや屋敷の使用人さん達からは生温かい瞳で見られるし…、


「一度きちんとエレーヌ殿に話をしてこい。まあ、お前さんの解りやすい態度からあちらさんのほうもすっかり解ってるとは思うけどな」


「え?え?!ええ!!い、いやそれは、その…」


いや、確かに彼女にも俺の気持ちバレバレだろうけど、それとこれとは別っ!!


だってさ、こんな俺が彼女に告白したって、結果は見えてるよ。

俺、以前にも何人か気に入った女の子が居てさ、思い切って…かなり思い切って告白したけど、見事なまでに玉砕。全て完敗。

理由は簡単。俺の見た目の怖さにビビったから。


畜生、見た目なんて産まれつきなんだからどうしようも無いだろうっ!


…て言いたかったけど、やはりヘタレな俺はその一言が言えないままで、結局女の子達は去っていったのだった。


「良いか、近日中に彼女と話をつけて落ち着くんだぞ、でなければお前さんをメンバーから外すからな」


「…………はい」


俺は絶望的な、全く気乗りしない返事をして俯くのだった。


結局その日は強制的に休みを取らされ、俺は独りとぼとぼ家路に向かっていた。


…おっ師匠さんからああ言われたものの、どうしようかなあ…。


俺は自宅の途中にあるセンテラル市場の中をとぼとぼ歩きながら頭を抱えていた。


…あーあ、告白してもどーせ俺なんか見た目から即、振られてしまうんだろうなぁ…。

いや待てよ、

彼女はのっけから俺の事を全く怖がってなかったよな!そして今も普通に接してくれるよな!もしかしたら俺でも大丈夫…、

いやいや、いくら俺が怖くないといっても、もしかしたら彼女は俺と真逆の優男が好みのタイプかもしれないし…、


「あああ…どうしたら良いんだ〜」


すっかり頭の中が混乱する中で、どんっ、と誰かがぶつかってきた。


「おい、どこ見て歩いてやがるんだっ!」


「あ、すみません」


見るからに柄の悪い、だけど線の細いひょろい男が絡んできたが、俺の姿を見るなりひえっ、と言わんばかりの表情を浮かべやがった。


「こ…今回は見逃してやるからなっ!」


その男は在り来たりの捨て台詞を吐きながら俺の前から逃げるように走り去っていった。


…ああ、やっぱ皆怖いんだよなー俺の顔。

喧嘩したらあの男に勝てないんじゃないかっていう位俺、臆病者なのになあ…、


なんて事を思いながら道を歩いていると、また誰かにぶつかってしまった。


「きゃっ!」


短く聞こえた悲鳴からどうも小さな女の子っぽい。


ん?てかこの声…!?


「!?」


本当にベタな展開で申し訳ないが、俺の直ぐ傍に彼女…エレーヌちゃんが居て、俺とぶつかった拍子に思い切り尻餅ついて地面に座り込んでいた。


「あいたぁ〜びっくりしたぁ…あれ?貴方はムントさん…」


どきーーーん!!


な、な、何でこんな所に彼女が居るんだっっ!!


彼女の姿を見て完全に混乱しどきまぎしている俺の目に入ったのは、彼女の周りに散らばった食料品の数々だった。


「やだぁ〜散らかってしまった〜」


と彼女が俺を無視して散らばった食料品を拾い集めだしたものだから、俺もはっと我に帰り、彼女の手伝いをしたのだった。


「ありがとうございますムントさん」


両手いっぱいに食料品の入った袋を持ち、彼女はよろよろしながらもぺこりと頭をさげた。

そんな様子が危なっかしくて、つい彼女から荷物を取り上げてしまった。


「あの…」


「いや、その…その荷物、お、重いだろう、から、その…俺が、持っていくよ」


俺はつい口より先に手を出してしまったけど、恥ずかしくて彼女に視線を合わせられずにそっぽ向いてそう言うしか出来なかった。


「ありがとうございま〜す。買い出しに来たけど荷物が沢山になって困ってたから助かります〜」


凄く嬉しそうな声がしたから喜んでいると解ってほっとした。


…それから俺とエレーヌちゃんと二人して団長さんの屋敷へと向かっていった。


「そういえばムントさん、こんな場所で何してたんですかぁ?今日はお仕事はお休みなんですかぁ?」


「え…、まあ、そうだけど…」


道すがら俺たちは他愛の無い会話をしながらとぼとぼと歩いていたが、やがて屋敷に近付くにつれて会話が途切れてしまった。


「……」


何とも言えない沈黙が続き、俺も彼女と一緒の嬉しさの動揺よりもその場の雰囲気の不安さに動揺するようになってきたが、どうすることも出来ずに黙ったままでいた。


いつの間にか通りに俺達以外の姿が見えなくなった時、


「あの、ムントさん…」


いきなり彼女がぽつりと俺に話し掛けてきた。

何だかさっきまでの明るい調子でなくて、少し静かで暗い感じな声だった。


「な、何?」


今までのとは違う様子に、俺は思わず彼女のほうを見てみると、彼女は俺から視線を反らしてすごく真面目な表情を浮かべて俯いていた。


「え、エレーヌ、ちゃん…」


彼女の様子に何か俺、悪い事でもしたのかな?なんて思ってしまい、焦ってしまった。


「…ムントさん、ムントさんは、その…私のことをどう、思ってるの?」


…………え!?


ち、ち、ちょっと待ったっ!!これって、まさかのまさか…!?


「ど、ど、どう、って…?」


「…あの、旦那様や仕事の方達が言ってたけど…ムントさんが、その、私のことを…好き、だって言って…」


「!!」


あの馬鹿達がっ!!何彼女にべらべら喋ってるんだっ!!次に会ったら奴らこてんぱんにしてやるっ!!

いやその前にあああっ!!か、彼女にな、何て答えれば良いんだっ!!


心では仲間に怒りを感じつつ、目の前に居る彼女の存在に俺は完全に混乱してパニックになっていた。


「ど、ど、ど、どう、思って、いる…って…!?」


完全に焦る俺に対し、目の前に居る彼女のほうは、何故かいつものように明るく陽気でお茶目な彼女ではなくて、真剣な眼差しで俺をじっと見ていた。


「あ……」


そんな彼女を見て、俺は今まで混乱していた気持ちがすうっと落ち着いていった。


「あの、その…」


どうしたんだろう一体?普段の彼女と全く違うじゃないか。こんな真面目な彼女の姿初めて見た…。


「私の、どこが好きに、なったのですか?」


ど、どうせ俺の気持ちは彼女にバレているんだよな。今更じたばたしても仕方ないけど…、


「そ、それは…俺は…」


「おいおい、こんな所で何してんだよぉ?」


突然聞こえてきた嫌な声に、俺はぴたっと話しを止めてしまった。


声のほうを見ると、そこには数人の柄の悪い、結構体格の良い男達が居て、にやにやしながら俺とエレーヌちゃんを見ていた。


…あいつら!?


しかもその男達の面子、見覚えのある奴らだった。


かつて俺達と同じ力を生かした土建屋をしていてギルドに属していたけど、余りの素行の悪さにギルドを追放されて土建屋を辞めてしまった奴らだった。

噂じゃあ土建屋を辞めた後、どっかの糞な貴族サマの護衛を勤めてると聞いてたけど、素行の悪さは相変わらずであちこち騒ぎを起こしているらしい。


「おやぁ見たことがある顔かと思えば、お前ムントじゃねぇか」


男達の中でもリーダー格の男が俺に絡んできた。

奴らは土建屋時代に俺や仲間と接した事があるから、当然俺の臆病な性格を知っててびびるなんて事は無い。


「こんな道の真ん中でこんな可愛い女の子と何してんのかなぁ?」


けたけたと周りの男達と一緒に笑いながら俺達を取り囲んでいった。


「あれぇ?良く見たらお前、エレーヌじゃねぇか?」


とリーダー格の男が彼女を見てそう呟いた。


え?どういう事だ?


俺が彼女に視線を向けると、彼女は怯えたように身体を震わせて俯いていた。


「なあーんだムント、お前いつの間にこの女のヒモになったんだ?」


「!?」


男の言葉にエレーヌちゃんがびくっと身体を震わせる。


「な、何だよヒモって…」


「あれ、違うのか?てっきり今度はお前がこの女のヒモになったのかと思ったぜ」


けらけら嫌な笑い声をたてながら更に男は話しを続けていく。


「以前、俺この女と付き合ってたけどさあ、本当に便利な女だったよ。ちょいと愛の言葉を囁いたらほいほい脚は広げてくれるし金は出してくれるし…正にエレーヌさまさまだったよなぁ!」


「な…!?てめえ、そんなでたらめな事言いやがって…!」


「でたらめなもんか、なあエレーヌ、お前と俺とはそういう仲だったんだよなあ、ん?」


男の衝撃の話に俺が彼女のほうを見てみると、彼女は何も言わずに微かに身体を震わせ、唇を噛み締め俯いたままだった。


そんな、嘘だろう…


「暫くしてこいつが仕事無くして金が入って来なくなったし、他に良い金づるの女が見つかったから要らなくなって捨てちまったけどな、アソコの具合は結構なモノだったぜ」


「マジかよ?じゃあ甘い言葉を言ったら俺も相手してくれるかな!」


そう言って更にげらげらと愉快そうに笑う男達を見て、俺は益々胸糞が悪くなっていった。


「エレーヌちゃん…」


「……」


彼女は綺麗な瞳からぽろぽろ涙を溢し、俺から視線を反らしたままだった。


「どうやらこいつも新しい仕事に就いたみたいだしな、お前、こいつのヒモになれば楽だぜぇ。何てったってちょいと甘い言葉を言いさえすれば金は手に入るし、エロはヤりたい放題だしな。

お前だって、それが目的で彼女に近づいたんじゃあ無いのか?」


「な!?ち、違うぞっ!?」


「本当かぁ?お前こんな頭の足りないどんくさい女のどこが良いんだ?身体以外何の取り柄が無いこんな女の何処が?」


「そ、それは…」


…俺は、彼女の何が好きになったのか?

彼女のどこが好きって…決まってるじゃないか、それは彼女のくりくりとした可愛い顔付きに小さな身体、だけど肉付きの良い胸と尻で、抱いたら凄く気持ちよさそうで…それに舌ったらずな喋り方に…何もかも俺の好みで正に一目惚れ…!?


そこまで考えて、俺はあることに気付いて愕然としてしまった。


これじゃあ、彼女の見た目そのものを言ってるだけじゃ無いか!?


「…あ…」


言葉に吃る俺を、彼女が哀しそう、恨みがましい様な瞳で見つめていた。


「…やっぱり、ムントさんも、私の見た目とお金だけが目的だったの、ですか?」


「そ、それは…!?」


違う!俺はこの男とは違う!


だけど、俺はそう言えなかった。

だって半分はこの男の言う通りだったから。

俺は彼女の見た目だけに一目惚れして、すっかり浮かれきっていたから。


…でも…、


黙ったままの俺の姿に、彼女は絶望したかのように俺から目を反らして俯き涙を流し続けてしまった。

そんな彼女の姿を見た俺は激しく胸が傷んだ。


…嫌だよ、俺は君のそんな悲しい顔を見るのは嫌だよ。俺は君の笑顔が見たいんだよ。いつものように君が笑っている姿が、太陽のように暖かい笑顔を浮かべる君が好きなんだよ…。


そして俺ははっとなった。


そうだよ、俺は、俺は…彼女が、笑っている彼女の姿が、笑顔が、大好きなんだ!


「やっぱりな〜まあこんな女、金と身体以外良いところなんて無いから…ぐはあっ!!」


そこまで言った男の顔に俺は必殺鉄拳を食らわしてやった。


不意討ちだったこともあって、拳は見事にヒットして、殴られた男の身体は遠くに吹っ飛び地面へと転がり落ちた。


「て、てめぇ!何しやがる!」


「え、エレーヌちゃんのことを何も知らないくせして、馬鹿にするんじゃねぇっ!」


俺は転がっていた奴の襟首を掴んで身体を引き摺り上げた。


「確かにエレーヌちゃんは見た目可愛くて身体つきもエロくて、少し頭足りなくて男にとっては都合の良い女の子なのかもしれないけどよ、でもよ…彼女はすっげー優しいんだよ!

俺のような見ただけで逃げてしまう強面の奴にも分け隔てなく接してくれたり、いつも気にかけて声をかけてくれるし怪我した時は治療してくれて…いつも、いつも周りの人に明るく笑顔を向けてくれる、本当に明るくて優しい女の子なんだよっ!!

俺は、俺は彼女のそんな優しくて明るいところが好きになったんだよっ!!」


「…ムント、さん…」


「そんな彼女の事をろくに知りもしないで勝手に悪口言うんじゃねえっ!この屑野郎っ!!」


完全にぷっつんしてしまった俺は無我夢中でそう叫んでしまい、更にもう一発奴の顔に鉄拳をぶちこんでやった。


「うげっ…!」


鼻から赤いものが飛び出し、何か折れるような鈍い音がしたけど構うもんかっ!


「てめぇ、生意気言いやがって…おい、やっちまおうぜっ!」


「「おうっ!!」」


鼻血吹き出した男に他の男達も加わって、その場は酷い乱闘騒ぎになってしまった。


俺も力じゃあ誰にも負けない自信はあるのだけど、何せ向こうは複数、でもって喧嘩慣れしているせいもあって、俺は奴らにかなりこてんぱんにやられてしまっていった。


「きゃあっムントさんっ!誰か、誰か来てくださいーーっ!!」


離れて見ていた彼女が大声で叫ぶと、直ぐに見慣れた軍服の兄ちゃん…巡回中の自衛団、が数人駆け付けてきた。


「お前達何をしているっ!直ぐに止めろっ!」


「やべぇっ!自衛団かっ!」


奴等も流石に自衛団の出現に、俺への攻撃の手を止めて焦った表情を浮かべた。


「ちっ!覚えていろよっ!」


そしてお決まりの捨て台詞を吐くと男達は脱兎の如く逃げ出してしまった。


…俺といえば、奴等にぼこぼこにされて身体じゅう傷めつけられるわ、目や口の端は切れて顔は腫れ上がるわ、正に怪物そのものの姿になってその場にへたりこんでしまった。


「大丈夫ですかムントさんっ!」


「おい、お前、大丈夫かっ!」


何か、彼女と自衛団の男達が叫んでいるようだったけど、情けない事に俺は奴等から殴られた為なのか、意識を失ってその場に倒れてしまったのだった…。



      *



「……ん……」


俺が目を覚ましたそこは、やけに綺麗で広い部屋の中だった。


「おう、目覚ましたか。大丈夫か?」


ひょいと俺の顔を覗いたのは、何故かおっ師匠さんだった。


「…おっ師匠さん…」


見ると周りには仕事仲間の奴等が俺を取り囲んで心配そうな顔を浮かべている。


「大丈夫ですかお頭っ!」


「あ、ああ…ちょっとあちこち痛いけど…いちち…!」


身体の痛みに俺が前屈みになると、皆がびっくり心配そうにしてしまった。


「無理しないでくださいお頭っ!」


…話を聞いたところによると、糞野郎等と殴りあいになって気を失った俺を、自衛団の兄ちゃん達が数人掛かりで何とか団長さんの屋敷へと運んでくれたらしい。

俺の姿を見た仲間や屋敷の使用人さん達や奥さん(団長さんは仕事で留守中だった)が慌ててシーツの準備をしたり(俺の身体が重くて二階の寝室まで運べなかったし、でかくてソファーにも乗せれなかったらしい。よく見れば自分客間の床に寝かされていた(笑))医師を呼んだりしてくれたのこと。


「治療してくれたライザ先生もお頭の身体見てびっくりしてましたよ。ただ見た目よりは怪我の程度は軽いから定期的に薬を塗れば数日で治ると言ってました」


「そっか…すまんな、皆に迷惑をかけて…」


「お頭が悪いんじゃありませんよ!自衛団から聞きましたよ。あの問題野郎が二人に絡んで馬鹿にしてきたんでしょう!」


「野郎、お頭だけでなくエレーヌちゃんまで馬鹿にしたっけ言うじゃないですか!今からでも奴等におとしまえつけに行きましょうや!」


ぎゃあぎゃあ騒ぐ仲間達におっ師匠さんからの一喝が飛んできた。


「こりゃ!お前達怪我人を前に騒ぐなっ!ほれ、嬢ちゃんも来たし、お前達さっさと仕事に戻るぞ!」


いやおっ師匠さんも充分騒がしい…とは言えなかったが、その言葉にふと見てみると、皆の後ろに隠れるようにしてエレーヌちゃんが簡単な軽食を持ってきていて、不安げな顔をして立っていた。


「あ、の…」


師匠の一言に、仲間達も何かを理解したのか素直にその場を離れ仕事場に戻っていった。


「お頭頑張れよ!」


「昼間っから彼女に変なことしたら駄目ですよお頭!」


なんて台詞をいい、にやにやと笑いながら…。


…あいつらめ、今度締め上げてやらないとな…。


「あ、こ、これ軽食です。どうぞ…」


二人きりになるとエレーヌちゃんは俺の横にあるローテーブルに軽食をのせた盆を置いた。


「あ、ありがとう…」


「あの…怪我は大丈夫ですか?」


「ああ、ちょっと痛いけど、ライザ先生も大したこと無いって言ってたから、多分数日もすれば治るよ」


「そう、ですか…」


俺達はお互いに恥ずかしくて視線を合わせられず、事務的な言葉を交わした後は何と言って良いか解らずに、暫くの間気まずい沈黙が続いた。


「…あ、あの…」


「な、何か!?」


始めに沈黙を破ったのは彼女のほうだった。


「……嬉しかった、です」


「…?」


何のことか解らずに首を傾げる俺に彼女は更に続けていった。


「嬉しかった。ムントさんが、私のことを優しいと言ってくれて、優しいところが好きと言ってくれて…」


「………!!!」


彼女の言葉に、俺はさっきまでの事を思い出し、恥ずかしさの余りぼっと頭から身体の隅々まで茹で蛸のように真っ赤に(といっても浅黒肌だからそうは見えないが)なってしまった。


「あ、あ、あ、あれは、その…」


「…何か?」


完全にパニックになって焦って口が吃る俺を見て彼女は次第に不安そうな表情を浮かべはじめた。


「…もしかして、あの時の言葉は嘘、だったのですか?」


泣きそうな声に、俺は慌てて首を横にぶんぶんと振った。


「う、嘘じゃないよ!本当だよ!本当に、本当に俺はエレーヌちゃんの事が好きなんだよ!エレーヌちゃんの温かくて優しいところに俺、完全に惚れちまったんだよっ!!」


……やば…!?


そこまで言ってしまって、俺恥ずかしくなって益々熱が上がってしまってあと少しで倒れる寸前まで来てしまっていた。


「…嬉しい。私も、私もムントさんのこと…好きです」


「!!!!!」


はい!?


…今、なんと仰有いましたか!?

聞き間違えで無ければ、俺の事を好き…とか何とか!!



や ば い こ れ た お れ る ! !



…ぷっちーん



いや、倒れる事はなかったけど暫く意識がどっかに飛んでしまってましたよ、俺。


「お、お、お、俺をす、す好き……って!?」


何でだ何でっ!!

嬉しいんだけど、本当雄叫びあげてフェルティの街中を走り回って皆に知らせたい気分なんですけど…

一体彼女、こんな俺の何処に惚れちまったんだっっ!!


「ど、ど、どうして、俺、を…」


嬉しさと疑問と不思議さがごちゃ混ぜになった複雑に気分のまま何とか尋ねると、彼女はにっこりと笑顔を見せ答えた。


「だってムントさん、凄く優しいですもの」


「……は!?俺が?」


「ムントさん、以前具合を悪くして道で踞っていたおばあさんをライザ先生の所まで運んでいったり、お店の果物が道に散らばっていたのを拾う手助けをしたり、迷子になってた子供に声かけてお母さんのもとに連れていったりしてましたよね?」


「……」


ああ、何かそんな事やったようなやらないような。


確かあの時、おばあさんは俺の見た目にびびってずっと降ろしてくれと騒いでいたし、店の店主は最後まで俺が品物を盗むじゃないかと疑って見張ってたし、迷子の子供は母親のもとに連れていくなり誘拐犯と間違われたけどな…。


「皆さんムントさんの見た目に怖がってばかりで少しも感謝してなかったけど、それでも嫌な顔ひとつしないで助けていた、優しいムントさんに私、惹かれたんです」


そして少し俯いて続けた。


「…工事のお仲間さんもフェラクさんも、ムントさんが私を好きなんだと教えてくれた時は嬉しかったけど、少し不安だった…

だって、私のような何の取り柄もない女の子を好きになってくれるなんて…もしかしたら以前付き合ってた男のように私の身体とお金目当てかもしれないって思うようになって…」


「そんな事は無いっ!!そんな事は絶対無いっ!!」


俺はちぎれんばかりに首をぶんぶん横に振って完全否定した。


「ムントさん…」


彼女の黒の瞳が俺を見ている。微かに笑みを浮かべるその表情は、俺が好きになった彼女の姿そのもの…。


…どきん。


俺の中で、何かが囁いた。


今しか無いぞ!


…って…


「あ、あの、エレーヌちゃん」


「はい?」


今の俺、多分今までで一番真面目で堅くて恐い顔つきになっているんだろうなぁ。

だけど、ここ一番の勝負!ここで真面目に成らずに何処で成るっ!!


「あ、の…、俺と、その、こ、恋人として、付き合って、くれません、か…?」


…………ぼっ!!!


そこまで言って、俺再び恥ずかしさの余り全身茹でタコ状態(だけど浅黒の肌だから…省略)。


「……」


余りに返事が聞こえないから不安になって恐る恐るエレーヌちゃんを見ると、彼女、ぼろぼろ涙を溢しながら俺をじっと見ていた。


「え?え!え!?も、もしかして嫌、だとか…」


「違う、の…凄く、嬉しいの…」


みるみるうちに彼女は満面の笑顔を浮かべて、突然俺に抱き付いてきた。


「い……っ!?」


「あ…、ご、ご免なさい。怪我してるのについ嬉しくて…」


痛みに顔をしかめる俺に彼女はそう謝り、俺から少し離れて俯き加減にぽつりと呟いた。


「はい…ムントさん、私を、貴方の彼女にして下さい」


……やった、やったよぉぉぉ!!


「お頭やったぁ!」


「おめでとうお二人さん!」


「ひゃっほぅ!とうとうお頭に彼女が出来たぜぇっ!」


俺が歓喜の声を上げる前に、突然窓から扉から一斉に声が聞こえてきた。

見ればあちこちで仲間達や師匠、屋敷の方々達が皆、にこにこしながら俺達を見ているではないか!


「い…いつの間にっ!」


…てことは、もしかしなくても先程までの俺達の会話、まるっと周りの皆に聞かれていた…って事!?


「お頭の告白、ばっちし聞きましたよ♪いやーお二人ともお熱い熱い〜♪」


…うわわわあああっっ!!マジ恥ずかしいぜええっっ!!

てかあいつら後で必ずシメてやる!


皆がひゅーひゅー囃し立てるものだから、俺と彼女は恥ずかしさの余り周りを見れずに俯いているしか出来なかった。


「やれやれ全くお前さんは、やあーーっ…とここに辿り着いたか。これで落ち着いて作業も進んでくれると良いがな…」


「師匠、今度は二人してデレデレしまくって仕事にならなかったりして!」


「そうそう!」


その言葉に俺達意外の皆が愉快に笑いだす。


そして俺とエレーヌちゃんはというと…

皆が生温かい瞳で見つめる中、お互いに顔を見合わせて幸せそうに笑いあったのだった。



…俺ムント。

22歳にして初めて彼女が出来ました。

「ええ!!ムントさんって22歳だったんですか!?」


「ジーフェス様と同い年、なのですね…」


「マジで…いや嘘でしょう!」


「いや嘘はヤバいですよお頭!」


…俺の年齢を聞いた皆は驚きを隠せないまま、こぞって俺にそう言ってくる。


「マジで22歳だよっ!

…じゃあ皆は俺がいくつだと思ってたんだ?」


「30代後半くらい、かな」


「35歳前後かと…」


「40歳くらい」


「ズバリ50歳!」


…最後の台詞を言った仲間の頭を拳骨で小突いて、俺はがっくしと落ち込んでしまった。


酷いよ、確かに俺ごっつい顔付きしてるけどよぉ…

ちょっと酷すぎないか?!


かなり落ち込んでいた俺にエレーヌちゃんが擦り寄ってきた。


「でもぉ、ムントさんの年齢がいくつでも、あたしの大好きなムントさんだから関係ないけどね〜♪」


お、エレーヌちゃんの舌足らずな喋り方だ♪やっぱ可愛いなぁ♪


「ありがとうエレーヌちゃん。俺もエレーヌちゃん大好きだよ♪」


「やだぁ〜♪ムントさんったらぁ〜♪」


…そんな俺達のやり取りを聞いていた皆は途端に冷めた瞳で俺達を見るのだった。


「あー…はいはい、ごちそうさまー」

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