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第8章Ⅳ:かき乱される日常

…様、…ジーフェス様…、


何処かで声がする。


…?


柔らかな光に包まれた世界の中で、何故かジーフェスは独り立ち尽くしていて、遠くから微かに聞こえる優しい懐かしい声に気付き、ふらりとその方向に歩いていった。


『ジーフェス、様…。』


するといつの間にか彼の目の前に、朧気にだが愛しいサーシャの姿が現れた。


『サーシャ…、』


何となく駆け足となって彼女のほうへと駆け寄って、近くで見た彼女の姿に驚きの表情を浮かべるのだった。

何と、彼女は一糸纏わぬ、正に産まれたままの姿だったのだ!


『さ、サーシャ…!?』


『ジーフェス様、好きです、ジーフェス様…。』


驚く彼の様子など全く気にしない様に、サーシャは彼の傍まで近寄り、そっと広い胸の中にその身を委ねる。

見ればジーフェスのほうもサーシャ同様に一糸纏わぬ姿であった。


『サーシャ…、』


『好き、ジーフェス様…。』


彼女の剥き出しの白い肌、直に肌に触れるその身体の柔らかさ、温かさ、

身体からは仄かに石鹸らしき花の香りと、そしてほんの少し、女としての色香が漂う。


『…っ!?』


そんな彼女の様子に、ジーフェスの身体の中央辺りが熱く疼き出していく。


“駄目だ、まだ早過ぎる!”


そう理性では思っていても、ぴったりと寄り添い胸に脚に感じるサーシャの肌の滑らかな感触に、温もりに、彼の理性は徐々に崩れ落ちそうであった。


『…お願い、ジーフェス様。私を、私をジーフェス様の本当の妻にして下さい…。』


『あ…、』


“駄目だ!まだ…、でも…!?”


サーシャの欲情に潤む碧い瞳で見つめられ懇願され、ジーフェスは堪らずについにサーシャの身体を抱き締めた。


『サーシャ…っ!?』


『ジーフェス様…。』


お互いの唇が重なりあい、そのまま二人は崩れるように地に倒れ、お互いの全てを求めあう…。


『サーシャ、サーシャ…!』


“そうだ、理性ではどれだけ言っているが、俺はどれだけこの時を待っていたか。彼女を、サーシャをこの腕に抱き締めたいと思っていたか…!”


滑らかで綺麗な白い肌に自らの身体を重ねて、ジーフェスは己の欲情に赴くままに彼女を抱き締める…。



      *



「!!」


突然ジーフェスは我に帰り、慌てて目を覚まし身体を起こした。


…一体、


はあはあと荒い息遣いをしたまま、ジーフェスは未だに混乱したまま辺りを見回してみる。

そこは自分の部屋の中で、窓から見える空は暗く星が瞬き、何時ものベッドに何時ものように横になって眠っていて、当然だがサーシャはおろか自身以外の誰も居ない。


「…夢、か…。」


“それにしても何て夢をみるんだ俺は…。”


滑らかな白い肌、身体の温もりに微かに香る肌の香りと色香。そして自分を見つめる欲情に潤む碧い瞳…、


『ジーフェス様…、』


“サーシャ、とても綺麗で温かくて良い香りがしていたな。本当に俺の腕の中で溶けていきそうだった…、”


そこまで空想して、ジーフェスははっと我に帰り頭をぶんぶん振った。


「な、何を考えているんだ俺は…!」


“そうだ!サーシャはまだ15歳の幼い少女なんだぞ!それを押し倒すなんて、何てことを…!?”


はあ、とジーフェスは自分自身に呆れたように溜め息をついて頭を抱える。


『…お前、本当はサーシャを抱き締めたくて仕方がないのだろう?』


“全く、ローヴィス兄さんが変な事を言うからこんな妙で淫らな夢を見てしまったんだな。”


半ば八つ当たりなのだがそう思い込み、傍にある水を飲もうとして立ち上がろうとした途端、


「!?」


そこでジーフェスは初めて自身の身体の、下半身の変化に気付いたのだった。


“う、嘘だろう!?”


見れば自身の下半身の辺りがほんのりと生暖かくぬるりと濡れていて、ベッドまで特有の臭いが漂っているのであった。


「…んな、思春期の少年でもあるまいし…。冗談やめてくれよ、」


そっと汚れた下半身を隠すようにシーツを被せ直し、ジーフェスは己の行動が情けなくなってがっくしと肩を落とすのであった。



      *



翌朝、サーシャが目を覚ましてダイニングへと向かうと、そこには既にポーが居て何やらテーブルの片付けをしている風であった。


「おはようございますポーさん。」


「おはようございますサーシャ様。」


よく見れば、既に食事を終えたとおぼしき一式の食器をポーが片付けていた。


「どなたか食事をされたのですか?」


「ええ、坊っちゃまが先にお目覚めになられて、食事をしてゆかれました。」


その言葉にサーシャは微かに表情を歪めた。


「え…、確かジーフェス様、今日は遅番の筈では。」


「はい、ですが今朝は早番の時と同じ時刻にお目覚めになって、食事をされて出て行かれました。」


「そうですか、何か急な連絡でもあったのでしょうか?」


「いえ、そのような事は伺ってませんが…、」


「……。」


“ジーフェス様が何も言わずに御出掛けになるなんて変ですわ、何かあったのかしら?”


そしてはっとなるのであった。


“もしかして、昨日から私がジーフェス様に対してよそよそしい態度をとってしまっていたから、それで気分を害されたのかしら?!”


自分の醜い欲望を知られたくなくて、彼の傍にいたら自身が制御出来なくなりそうな気がして敢えて距離をとってしまった事が彼の機嫌を損ねたのだと思い込み、サーシャは後悔の思いに包まれるのであった。


“ジーフェス様に嫌われるのは嫌。でも、今のままの気持ちでジーフェス様の傍にいたら、私、とんでもない事をしてしまいそうで怖い…。”


とくんとくん…。


サーシャの脳裏には、あの『交わりの儀式』の光景が、しかも交わる男女の姿はジーフェスと自分の姿に置き換えられた状態で浮かんできていた。


「!?わ、私ったらっ!!」


余りの想像ぶりに独り勝手に真っ赤になって、慌てて頭をぶんぶん振り回すサーシャ。


「…サーシャ様、一体どうしたのですか?」


彼女の突然の行動に、ポーが驚き心配そうな表情で尋ねでくる。


「あ…、ご、ごめんなさい大きな声を出してしまって。何でもありません。」


「は、あ…、」


焦るサーシャの様子に怪訝そうに首を傾げるポー、


「おっはよーポーのおばちゃんにサーシャ。あれ、ジーフェスは居ないの?」


そんな二人の前に、呑気に飄々とした様子で未だ寝間着姿のローヴィスが現れた。


「お、おはようございますローヴィス様。」


「おはようございますローヴィス様。坊っちゃまでしたら既に自衛団の庁舎に行かれました。」


ポーの一言を聞くと、ローヴィスは表情を歪めてしまった。


「うわ、あいつってばこんな朝早くから仕事に行くなんて、本当に仕事の鬼だね〜。」


それからちらりとサーシャを見てにっこり微笑むのだった。


「サーシャだって寂しいよねー、大好きなジーフェスを仕事に取られるなんてね〜。」


意味深な視線を向けてにやりと微笑むその様子に、サーシャは微かに胸が騒ぐのであった。


「いえ、いつもの事ですし、御自身のお仕事をきちんとこなしていかれるのは当然の事です。」


「ふーん、サーシャもジーフェスと同じで真面目なんだねぇ…、まあ良いか。ねえおばちゃん、朝食まだ?」


ローヴィスはサーシャの真面目な答え方にちょっと不満そうな表情をしたものの、直ぐにポーに別の話をふった。


「直ぐに準備いたします。サーシャ様もご一緒で宜しいですか?」


「ええ、構いませんよ。」


その様子を聞いていたローヴィスは嬉しそうにウハウハな笑顔になるのだった。


「わ、サーシャと一緒に朝食なんて楽しみだ。」


「え、ええ…、」


対照的にサーシャは寂しさと不安から表情を曇らせるのであった。



      *



「あー美味しかった。ご馳走様。」


特には何事も無く、ごくごく普通の会話を交わしながら準備された朝食を全てたいらげ、満足そうにお腹をさするローヴィスに少し遅れて食事を終えたサーシャ。


「ハックも相変わらず良い料理の腕してるよなあ。思わず食べ過ぎたよ。あーあ、オレまた太っちゃうよ。」


「そんな事は無いですわ。ローヴィス様は全然太ってなくて綺麗な体型をしていらっしゃいますわよ。」


そんなローヴィスにサーシャはにこやかに答えるのであった。


“良かった。昨日の事をまた何か言われるのかと思っていたけど、今朝は特に大したお話もされないし…昨日の私の態度から事情を理解して頂いたのですね…。”


ほっと安心したように食後のお茶に口をつけていると、


「そういえばサーシャ、今日は暇?」


突然ローヴィスがそう尋ねてきた。


「え、ええ。今日は庭での作業はお休みですから私も監視とか必要ありませんので、特に用事はありませんが…、」


その為かエレーヌも一緒に休みを取っているのだが。


「じゃあさ、今日一日オレとデートしよっか!」


「デート?」


言葉の意味が解らず首を傾げるサーシャにローヴィスはにこやかに続けるのだった。


「そう、一緒にセンテラル市場にある洒落た店に行って服やアクセサリーとか見て買い物してさ、景色の良い場所でお昼して海とか行って色々遊ばない?」


「は、あ…、」


話の筋からデートというものが二人で様々な場所にお出掛けしていろんな事をするというものだと理解するのであった。が、


“聞いている限り、行き先も別に如何わしい場所では無いみたいだけど、ジーフェス様に断りも無くローヴィス様と二人で出掛けても良いものかしら?”


あれこれ頭の中で悩んで返事をしないでいると、


「あ、サーシャってばオレを疑っている?大丈夫大丈夫、絶対サーシャに変な事したりしないからさ。ね、ね!一緒に行こうよ!」


「…あ、は、はい…。」


余りに強引なローヴィスの押しに押されて、ついついそう返事をしてしまったのだった。


「よっしゃ!そうと決まれば直ぐにでも出発しよう!ポー、タフタに馬車の準備をするように言ってね、あとサーシャの見自前を整えてあげてね。」


「…畏まりました。」


ポーは少し心配そうな視線をサーシャに向けながらも返事をするのであった。


「じゃあオレも準備してくるからさ、支度が終わったら玄関で待っててね。」


そう言うなり、ローヴィスはうきうきした調子で返事も聞かずにさっさとダイニングを出ていった。


「サーシャ様、大丈夫で御座いますか?何でしたら都合つけて御断りいたしましょうか?」


ローヴィスの姿が見えなくなると、黙ったままでいたサーシャを気遣うようにポーが忠告をしてくれた。


「大丈夫です。折角のお誘いを無下に御断りするのも失礼ですし、話を聞いていると変な場所に行く訳でもないし、ローヴィス様も外出先で自分に如何わしい事などはされないでしょう。」


“…とは言ったけど、やっぱり少し心配。ジーフェス様も気をつけろと仰有っていたし、やはり御断りすべきだったかしら…。”


ちらりとそうは思ったものの、後悔先に立たず。


「そうで御座いますか。…くれぐれもお気を付けて下さいませ。」


サーシャの言葉に、だがポーは、ローヴィスの性格を知っている彼女は些かの不安な思いを浮かべるのであった。



      *



サーシャとローヴィスの二人は馬車に乗ってセンテラル市場の中にある、服と雑貨の店の集まる一角へと来ていた。

そこは貴族御用達の一流の店、というよりは一般市民も気軽に立ち寄れる店が中心で、サーシャが見たことの無いようないかにも活動的で色彩豊かな服、様々な石で造られたネックレスやブローチ、バックやブレスレット、そして可愛らしい布のマスコットやポプリ等々、年頃の女の子が一度は気にする、実に様々な小物類などがあちこちに並んでいた。


「うわ、あ…、」


店の優しげで可愛らしい雰囲気に、サーシャは思わず笑顔を浮かべて感嘆の声をあげるのだった。


「どう、気に入った?というか、こんな店に来たの初めてかな?」


「はい、凄く可愛らしい小物類が沢山で、凄く素敵。ああ、これ可愛い!」


サーシャは嬉しそうに近くにあった小さな硝子細工を手にした。


「良かったー。女の子ってこういう所が好きだからどうかなって思ってたけど、ここまで気に入るとは思って無かったよ。」


「こんな楽しいお店に連れてきて頂いてありがとうございますローヴィ…!」


そこまで言ったサーシャの口をローヴィスは慌てて大きな手で塞いだ。


「しー!さっきも言ったよね、ここに王族であるサーシャやオレが来てるとバレたらすっげー大騒ぎになるから、名前呼ぶのは禁止ね。」


「は、はい…すみません。」


慌てるローヴィスにサーシャは小声で謝罪する。


改めて店内の様子を見て、サーシャは心が浮き立つのであった。


“どれもこれも本当に素敵。…そういえばライザさんの部屋もこんな小物類で沢山だったわね。好きで集めたとか言っていたけど、解る気がするわ。”


そんな事を思い出しながら、サーシャはブローチやネックレスを身につけてみたり、服を試着してみたりと色々楽しみ、お気に入りのものを沢山買い物したのだった。


「本当に宜しいのですか?」


沢山の買い物を手にしたサーシャが申し訳なさそうに小さく呟く。


「ん、何がだい?」


「いえ、この品々の代金をロー…、貴方様が払ってくれて、」


「ああ、その事、良いんだよ。デートっていうものは誘った者が奢るものなのさ。」


「そうなのですか。ありがとうございます。」


少し変な理屈ではあったが、サーシャは素直に信じて礼を述べるのだった。


“やっぱりローヴィス様は純粋に私を楽しませようとしてお誘いになったのですね。少しでも疑った自分が恥ずかしいですわ。”


「そろそろお腹空いたからお昼にしようか。この近くに景色が良くて美味しい手作りパンと魚料理の店があるんだよ。行ってみる?」


「ええ、是非とも!」


美味しい魚料理と聞いて魚好きなサーシャはつい目を輝かせながら、疑い無くそう答えるのであった。


“オレのような奴のこと信じるなんて、本当にこの()疑うことを知らないんだなあ。

まあ、もうちょっとつきあってから、…ちょいとオレも楽しませて貰おうかな…。”


にやりと黒い笑みを洩らすローヴィスの黒い策略など、今のサーシャには全く察することは出来なかった。



      *



「第2班、只今戻りました。」


「ご苦労様、何か変わりは無かったか?」


ここは自衛団の庁舎。ジーフェスは自分の席に座り見廻りから戻ってきた団員達に声をかけた。


「何もありませんでしたよ。」


「そうか。」


普段と変わらないやり取りの中で、ジーフェスはふと今朝の夢を思い出していた。


『ジーフェス様…、』


…サーシャの欲情に潤む瞳、甘い声、そして滑らかでしっとりとした白い肌の温もり…。


「!?」


そこまで考えてジーフェスははっと我に帰った。


“な、仕事中に何を考えているんだ俺は!”


邪心を振り払うようにジーフェスは思い切り頭をブンブンと振り回す。


「いきなりどうしたんですか団長?」


「何かあったんですか?」


いきなりの行動に周りにいた団員達は驚き、心配そうに尋ねてきた。


「あ、ああすまない、何でも無い。ちょっと小さな虫がいたみたいだから振り払っただけだ。」


「そうですか。」


「第1班戻ってきましたー!」


そんな中、別の場所を見廻りしていた団員達が戻ってきた。


「ご苦労様。変わりは無かったか?」


ジーフェスの問い掛けに団員のひとりが口を開くのだが、


「ありませんけどー、ちょっと気になるものを見てしまったんですよ。」


「おい!」


その団員に対し、他の団員が表情を強張らせて慌てて止めようとしている。


「だって、皆も気になるって言ってたじゃないか。」


「でも…、」


「何だお前達。何かあったのか?ちゃんと報告しろ。」


団員達の不審な行動にジーフェスの厳しい声が響く。


「あ、その…、センテラル市場の雑貨店で、団長の奥さんらしい少女を見掛けたんですよ。」


「サーシャをか?」


「はい、銀の髪に白い肌のって、奥さんに間違いないですよね。」


「人違いだって!たしかに彼女は銀の髪に白い肌だったけど、団長の奥さんにしては身なりは質素だったし、何より若い男と一緒に楽しそうにしていたんだぞ。」


「!?」


「お、おいっ!!」


団員の言葉に反応し、低い声で答え嫌悪の表情を浮かべたジーフェスを見て他の団員は震え上がった。


「た、他人のそら似ですよ。あそこは旅行客も多く来るところですし、彼女もきっとアクリウム国からの観光客のひとりですよ。なあ、おい!」


「そ、そうですよ。団長の奥さんがあんな所に、しかも若い男と二人でいる筈ないしな。」


そう言った団員を他の団員が思い切り頭を小突いた。


「…何事かと思えばそんな事か。大丈夫だ、サーシャはちゃんと屋敷にいてそんな所に出歩く予定などは無い。センテラル市場で見た少女は恐らくサーシャによく似た別人だろう。」


だが半ば呆れたようにため息をついて徐々に冷静に話すジーフェスの様子に、団員達はほっとした様子になっていった。


「そ、そうだよな。団長の言う通りだよな。」


「他人のそら似だよな、そうだよな。」


すっかり安心した団員達にジーフェスの厳しい一言が飛んできた。


「ほら、お前達雑談は休憩室でして来い!あと休憩が終わったらここの書類の整理をしてもらうからな。」


「うはーい。」


「了解です。」


団員達は気の抜けた返事をしながらめいめい奥の休憩室へと向かっていった。


独り残されたジーフェスは机の書類を見ながらも、団員達の言葉を思い出し、酷く動揺していた。


“どういう事だ、何故サーシャが市場にローヴィス兄さんと一緒に居るんだ!?”


センテラル市場でみた少女と一緒にいた男…こちらは特徴こそ聞きはしなかったが、恐らくサーシャとローヴィスに間違いないとにらんでいた。


“あれほどローヴィス兄さんには注意するように言っていたのに、よりによって二人きりで出掛けるなんて…!”


『サーシャのほうもどうして良いか解らないで独り悶々としているんじゃないかなあ?』


“…まさか、そんな筈は!?”


『そんな状態のサーシャにちょいと優しく声をかけて誘惑してくる、とても魅力的な男が居たら、彼女一体どうなるのかなあ?ついふらふらってなっちゃうかも、な。』


「!?」


“まさか、まさかサーシャは!?”


ジーフェスの脳裏に、夢で見た彼女とローヴィスの姿が浮かんできて、二人でぴったり寄り添う様子にぞくりと背筋が震えた。


“そんな、そんな馬鹿なサーシャ!?”


いつの間にかジーフェスは手にしていた羽ペンを握り折り、書類をぐちゃぐちゃに握りしめていた。


「…団長、一体どうされたのですか?」


丁度外回りから戻ってきた副団長のサンドルがジーフェスの異変に気付き声を掛けてきた。

その声にジーフェスははっと我に帰り、粉々に砕けた羽ペンとインクで汚れた手と皺になった書類に気付いた。


「あ…、」


するとサンドルは何かを察したようにジーフェスを見て呟くのであった。


「…団長、自分も戻ってきたことですし、ここはわたしに任せてどうぞお帰りになって下さい。」


何も聞かずに言ってくれたその一言にジーフェスはただただ感謝し、黙って頷く。


「…すみませんサンドル副団長。御言葉に甘えさせて頂きます。」


それだけ告げると、ジーフェスは正に電光石火の如き素早さで庁舎から出ていき、真っ直ぐにセンテラル市場へと向かっていったのだった。

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