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第1章Ⅳ:それぞれの王家の事情

何だかんだといろいろあったが、ジーフェスの屋敷では、取り敢えず花嫁さんを迎え入れる準備を整え終えたところだった。


「えーと、ベッドに洋服タンスにドレッサーに…。」


メイドのポーが花嫁の部屋の最終チェックを行っているところに、エレーヌが茶々を入れてきた。


「ポーさぁん、お洋服がちょっと少ない気がするけど、良いのですかぁ?」


「良いのですよ。花嫁様のスタイルが予想出来ないから、無難なものだけ揃えてます。」


「ふーん。」


エレーヌが用意されてる花嫁さん用の服を見て呟いた。


「それにしても地味じゃあありませんかぁ?もっと、こう、セクシーなものとか無いのですか〜?」


「貴女じゃあるまいし、普通が一番なのです。」


女同士言い合っているところに、ハックがやってきた。


「お昼出来たぞー。旦那様はどうした?」


「坊っちゃまなら王宮に行ってますよ。今日は帰りが夕刻になる予定です。」


ポーが返事すると、ハックは残念そうに顔をしかめた。


「あちゃー、そりゃミスった。折角旦那様の好物のミートサンドを大量に作ったのに。」


「皆で食べればよいでしょう。」


「そうそ、ハックのミートサンドは美味しいから直ぐに無くなるわよ♪」


女性二人は嬉しそうに舌なめずりしそうな様子で呟いた。


「お前らに食べさせるために作った訳じゃねえぞ。」




      *




そんな会話が交わされていた頃、


王宮内にある儀式の為の祭壇場では、ジーフェスをはじめとした王族が集まり、とある儀式が行われていた。


「本来、これは国王陛下が行うべき儀式なのだが、陛下は体調がすぐれないから、国王代理のわたしが務めさせていただく。」


そう告げるのは、ジーフェスの兄で第一王子のカドゥース。

彼は祭壇の最上階に立ち儀式用の豪華な衣装を身に纏い、手にはこれまた儀式用の錫杖と珠を持っていた。


彼の隣には現国王王妃であり、ジーフェス達の母でもあるルーリルアがやはり正装姿で立っており、祭壇から下がった場所ではカドゥースの正室のニィチェ、そしてカドゥースとニィチェの子供であるラスファ、ジーフェスの兄である第二王子のアルザス、そして現在はルルゥーム国に婿入りしている第三王子のムスカスが、それぞれ正装姿で立っていた。


そして彼らに囲まれるように、中心には同じく正装したジーフェスが、カドゥースとルーリルアの前に跪いて頭を下げていた。


「これより、ジーフェスとサーシャの成婚の儀式を行う。」


本来、成婚の儀式は花婿花嫁と共に王族と王族の祖先の御霊の前で結婚の宣言をするものだが、今回は事情が事情なだけに、特別にジーフェス独りだけの儀式となったのである。


「我らが誇り高き血筋の名において、今ここにジーフェスとサーシャとの婚礼の儀式を行う。」


そう言って、カドゥースは手にしていた錫杖をジーフェスの頭に当て、珠を覗きこんだ。


「今から後々にまでも、我が一族の繁栄と栄光を失うこと無く、平和と安泰を祈らんことを。」


そして、ルーリルアが息子であるジーフェスに近付いて小さな箱を差し出した。


「これは私達から貴方達へ。永遠の想いを誓う者達への贈り物です。」


「ありがとうございます母上。」


ジーフェスは恭しく、母であるルーリルアからその箱を受け取り中身を確認した。


中にはふたつの指輪が入っていて、それは夫婦の証の指輪であった。


「これにて成婚の儀式の終了とする。」


カドゥースがそう言い終わると、横にいたラスファが嬉しそうに言った。


「ジーフェス叔父様、おめでとうございます!」


「ありがとうラスファ。何か、花嫁が居ないと何とも実感が湧かないけど。」


はは、と照れ笑いするジーフェス。


「全くだ。お前が嫁さん貰うって聞いた時はびっくりしたぞ。」


と言うのは、久しぶりに祖国に戻ってきたムスカス。


「お前のように、16歳で半ば駆け落ち同然に婿入りするのもかなり勇気が要るけどな。」


横でカドゥースがにやにやしながら久しぶりに逢う弟ムスカスに話しかける。


「あとはローヴィス兄さんだけだったのに…。」


「あれを捕まえるのは至難の技だろう。未だに世界中ふらふらしているみたいだしな。噂では、1か月前にはルルゥーム国に居たみたいだかな。」


残念がるジーフェスにムスカスが話す。



そんな、くだけた会話の中、無言で静かに儀式の間を出ていこうとする影があった。


「どこに行くのだ、アルザス。」


カドゥースの声に、扉の前まで来ていたアルザスがふと振り返った。


「儀式は終わったので、私は仕事に戻ります。」


それだけ告げて、アルザスは扉を開け部屋から出ていってしまった。


「アルザス兄さん。」


ジーフェスが後を追いかけようとしたが、


「放っておきなさい!」


ルーリルアの一声で、ジーフェスは動きを止めた。


「……。」




     *




儀式の間から独り抜け出し、アルザスは執務室へと足を進めていく。


ふとそんな彼に駆け寄る足音が聞こえてきた。


「!」


「兄さん。」


それは、早々に儀式の間から姿を消したアルザスを心配してやってきたジーフェスであった。


「何しに来た?」


だが、アルザスは冷たくジーフェスに突き放すように言うだけだった。


「今から皆で昼食なんだけど、兄さんも一緒にどうかと。」


「今から打ち合わせが入っているから無理だ。」


「でも…。」


「私が居ては、困る人物も居るみたいだしな。」


「!」


アルザスの言葉に、ジーフェスは言葉を失った。


「兄さんは、まだ母上を許せないのですか…?」


やっとのことで、ただ一言そう尋ねた。


「許す許さないなどといった、そんな感情など私には無い。王妃と私の間には何の繋がりも無いのだからな。」


感情の無い無機質な声で答える。


「そんな感情があるのは、むしろ王妃のほうであろう。」


「!?」


「御自身が最も愛する陛下と、最も憎む女の間に産まれた子供が側にいることなど、憎くて悔しくて疎ましいからな。」


「……。」


最早何も言えずに黙っているジーフェスを見て、ふん、と冷たく嘲笑すると、アルザスは黙ってそのまま立ち去っていった。




     *




一方、アクリウム国では、


「サーシャ、サーシャ。」


ひと仕事終えたメリンダが、サーシャの住む離れにやってきていた。

しかし、いくらサーシャを呼んでも返事が無い。


「メリンダ様。」


代わりに、メイド姿の可愛らしい女の子が現れた。


「ナルナル、サーシャはどこに行ったのかしら?」


メリンダはサーシャの御付きのメイドであるナルナルに話し掛けた。


「サーシャ様なら、巫女様と女王様に呼ばれて儀式の間に行かれましたけど。てっきり、メリンダ様もご一緒かと思ってましたが。」


「!?」


言葉を濁して話すナルナルに、メリンダは怒りが沸き上がった。


“姉様もお祖母様も、二人して私を除け者にしたのね。私がサーシャを思う余りに、反抗的な態度をとるから!。”


きりきりと歯軋りをたてながら、メリンダは悔しさの余り唇を噛み締めた。


「メリンダ様…。」


ナルナルが心配そうに、だけど少し怯えたようにメリンダに声をかけた。


「ごめんなさいナルナル、貴女に怒っている訳ではないのよ。」


怯えるナルナルにメリンダは精一杯優しく声をかけた。


「私は大丈夫です。」


そんな会話を交わしている二人に、近付いてきた人物がいた。


「ナルナル、それに姉様までいらしてたのですね!」

それは、儀式を終えて離宮に戻ってきたサーシャだった。サーシャは未だ儀式用の着慣れない服装をしていた。


「お帰りなさいませサーシャ様。」


「お帰りサーシャ。その衣装、なかなか似合うわよ。」


二人とも笑顔でサーシャを迎える。


サーシャは嬉しくてメリンダの胸元に抱き付いた。

サーシャの匂いと、微かな香の匂いがメリンダの鼻をくすぐる。


「儀式に出てたみたいだけど、一体何だったの?」


メリンダが尋ねる。

するとサーシャは一瞬びく、としたが、やがてぽつりと話し出した。


「私の、婚礼の儀式と、あと、…男女の…交わりの儀式を…。」


「!」


真っ赤になっていくサーシャを見て、メリンダは納得した。


「そう、貴女もあれを見たのね。

本来は成人となった18歳の時に見るものなのだけど、貴女はもうすぐ嫁ぐから、年齢には達してないけど、今後の為に見せられたのね。」


メリンダはふと、傍にいたナルナルに首をふい、と振った。


ナルナルも、メリンダの言わんとすることを理解し、無言で一礼してその場を立ち去っていった。


小さな庭園に二人きりになったサーシャとメリンダは、ふと話し出した。


「侍女達から、男女の秘め事とかは少しは聞いていたから、覚悟はしていたけど、あんな、あんな事をするなんで…。」


サーシャは頬を赤く染めながら、だけど怯えたように話し出した。


「姉様も、勿論知って、らしたのよね。」


「ええ、18歳の成人の儀式の後に見せられたわ。」


「結婚したら、あんな事もしないといけないのね。」


純粋で無垢なサーシャにとっては、それはかなり衝撃的なものだったらしい。


「姉様。」


ふと、サーシャがメリンダに問いかけてきた。


「何、サーシャ?」


「姉様は、その、男の方を好きになった事って、ある?」


「は…?!」


いきなりの問いに、思わず上ずった声で返事をしてしまった。


「あ、気を悪くしたらごめんなさい。その、男の人と女の人が好きになったら、あんな事も出来るのかな、って思って…。」


赤くなりながらサーシャが呟く。


「私は男の人を恋愛対象として好きになった事が無いから、何とも言えないけど。」


「そう、なの…。」


「役にたてなくてごめんなさいね。」


メリンダはちょっと複雑な気持ちで謝った。


“でも、大抵の男の人は、綺麗で豊かな身体の女の人を、助平でふしだらな眼で見るわよね。”


サーシャに心配させるのも何だから、敢えてその言葉は呑み込んだが。


「………。」


“しかし、こればっかしはどうしようもない。

結婚して夫婦になれば、避けて通れない事柄だし。”


「……。」



黙りこんだ二人だったが、やがてサーシャが思い切ったように叫んだ。


「考えても仕方ないわ!やるしか、ないわよねっ!」


「…はい?!」


余りのサーシャのふっきれようにメリンダは唖然呆然。


「悩んでも仕方ないわね。これも『神託』のひとつだし。子供を産む為の神聖な儀式と考えると、受け入れないとね。」


「………。」


確かにサーシャの言う通りであるが、それでも、余りの開きように、ちょっとメリンダは不安を感じていた。


そう、それはから元気の気がして…。




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