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おまけ1:夫婦の証

新年初めての投稿です。


ちょいと書き忘れたお話があったので、おまけで書いちゃいました。



…第7章がまだ進んでないとは言いませんよ(笑)、ええ…(笑)(笑)



「ふーっ、すっきりした…。」


二度目の湯あみからあがってきたジーフェスは、バスローブの姿のままで長い黒髪をタオルで拭きながら微かに水と石鹸の良い香りを漂わせながらダイニングへと向かっていった。


「あ、ジーフェス様。」


ダイニングには既にサーシャが待っていて、テーブルの上にはレモンと氷の浮かぶ水差しが準備されていた。


「湯あみしぱなしで喉が渇いていらっしゃるかと思って、ハックさんに頼んで作って貰いました。どうぞ。」


そう言いながら彼女は水差しの水をグラスに注いでジーフェスに手渡した。


「お、ありがとう。」


一言礼を呟くと、水の入ったコップを受け取り、ごくごくと一気に中身を飲み干した。


「ああ、旨い…。そういえばエレーヌにポーは?」


辺りを見回しながらそう尋ねてきた。


「お二人ならジーフェス様のお部屋の掃除に行ってますよ。予想以上に汚れが酷くて難儀している様子でしたが…。」


「……。」


サーシャの一言に、ジーフェスは自分がした事で二人が余計な仕事を負わせてしまって失笑するしか無かった。


「…ちょっと、二人の様子を見てくる。」


そう言って、ジーフェスは独り、自室へと向かっていった。


ジーフェスの部屋の扉は半開きとなっていて、中から微かにだがアルコールの臭いが漂ってきていた。


「あ、旦那様、ちゃんと湯あみを終えたのですね。」


いきなり背後からエレーヌの声が聞こえてジーフェスはびくっ、と背中を震わせた。


「何だ、いきなり…、」


「人を化け物みたいに見ないで下さいよー。水を替えてきただけですよ。あー、着替えでしたら隣の客室に置いていますよー。」


「そ、か。」


すると二人に気付いたのか、中の掃除をしていたポーが姿を現した。


「坊っちゃま、お部屋が予想以上に汚れていまして、綺麗になるまで二、三日はかかると思います。なのでその間は隣の客室でお休み下さいませ。」


ちろり、と他にも何か言いたげな目付きをしていたポーだったが、それ以上は何も言わずに返事を待っていた。


「あ、ああ…。」


ジーフェスもそんなポーの視線に気付いたのか、ちょっと言葉を濁しながらも肯定の返事をした。


「その、…すまなかった。俺の行為(せい)でお前達に迷惑をかけてしまって…、」


居たたまれない風に二人から視線を反らし、頭を下げて謝罪の言葉を述べる。


「もー、反省する位でしたら初めから拗ねたりしないでくださいよー!」


ジーフェスの謝罪に、エレーヌは不満そうにぶーぶーと文句たらたら。


「もう()ございますよ坊っちゃま。充分に反省してらっしゃるみたいですし。エレーヌ、貴女も許してあげなさいな。」


「えー、…まあ、旦那様もちゃんとサーシャ様に謝っていましたしねー。わかりましたー。」


二人からそう言われて、ただただ苦笑いを浮かべるしかないジーフェス。


「はいはい、旦那様、掃除の邪魔ですから用事が無ければ部屋から出ていって下さいね。」


とエレーヌがわざとらしくジーフェスにぶつかって床磨きを始めた。


「おい…。」


よろけたジーフェスが文句を言おうとしたが、エレーヌはそんな彼を完全に無視して掃除をしている。


「……。」


ポーのほうも掃除を再開しはじめたらしく完全にジーフェスから視線を反らしてしまい、

そんな二人の様子を横目で見ながら彼は部屋の窓際にある机に向かい、引き出しを開けて中から小さな箱を取り出し、それを持って部屋から出ていった。


そして隣の客室に入って行き、ローテーブルにその箱を置いてからソファーに用意してあった新しい服に着替え始めた。

着替え終えるとソファーに腰掛け、先程テーブルに置いたあの小さな箱を再び手にして、そっと箱を開けた。


「……。」


…もう、渡しても良いかな。


箱の中身を暫くの間見つめながら、ジーフェスはふとそう思い、そして蓋を閉じると箱を手にしたまま再び立ち上がって部屋から出ていった。



      *



「……。」


一方、サーシャのほうはジーフェスが二人の様子を見たら直ぐに戻ると思い込んで、独りダイニングで待っていた。


“ジーフェス様、なかなか戻ってきませんね。何かあったのでしょうか?”


ジーフェスが先に部屋に行って着替えをしてると知らない彼女は、彼がなかなか戻らないのに不安になってしまい、ついにダイニングから出てジーフェスの部屋へと向かっていった。


…ジーフェス様…。


丁度目的の部屋の直前、客室の扉の前に居たとき、突然部屋の扉が開いて中から出てきたジーフェスとぶつかりそうになった。


「きゃあっ!」


「あ、ごめんサーシャ…、」


ジーフェスのほうもいきなり現れたサーシャに驚いた風である。


「い、いえ…。」


そして目の前にいる彼がすっかり服に着替えたのを目にして、遅れた理由が解ったのであった。


「戻りが遅いのでここまで来たのですが、着替えをされていたからなのですね?」


「ええ、すみません心配かけて。」


それから少し考え事をして、何か思い付いたような表情を浮かべてサーシャに話した。


「丁度良かった。サーシャ、今から少し俺につきあってくれますか?」


「え…?」


「貴女に、是非渡したいものがあるのです。」


「え、ええ…。」


にっこり微笑むジーフェスの姿を見て、サーシャは特に断る理由も無く、そう返事をした。


「じゃ、こちらに来てください。」


そう言ってジーフェスはサーシャを先程着替えをした客室に案内し、ソファーへと誘った。


サーシャは誘われるがままにソファーに座り、ジーフェスも彼女に向かい合うようにして反対側のソファーに腰掛けた。


「あの、渡したいもの、とは?」


首を傾げてそう聞いてきた彼女に、ジーフェスはにっこり微笑み、手に持っていた小さな箱をローテーブルに置いた。


「これは、一体?」


そう呟くサーシャの前で、ジーフェスはゆっくり箱を開けていった。


箱の中には、柔らかなヴェルベットに覆われた台座があり、その真ん中辺りには銀色に光る大きさの異なるふたつの指輪があった。


「指輪、ですか?」


「ええ。」


よく見ると、指輪は宝石も装飾も何も無い、銀よりも少し鈍い色合いをしている質素なデザインのものだった。


「この指輪のひとつを、是非貴女に受け取って欲しいのです。」


「…え、私に、ですか?」


不思議な表情を浮かべるサーシャに、ジーフェスはふっ、と笑顔を浮かべて説明し始めた。


「ええ。フェルティ国には永遠の想いを誓いあった夫婦は、その証として揃いの指輪を身に付けるという習慣があるのです。」


「…え、ということは、これは…、」


…もしかして、もしかして…!?


「はい、フェルティ国にて行った俺の婚礼の儀式で正王妃様より賜ったものです。俺とサーシャとの、夫婦の証の指輪です。」


「!?」


彼の言うことを理解したサーシャは驚きと、そして嬉しさと恥ずかしさでぽっと頬を赤くした。


「ですが、…俺とサーシャとは政略結婚でしたから、いきなりこんなものを贈って、貴女を形式だけの妻として縛りつけたくは無かったのです。

もし、もし時間とともに俺とサーシャが、お互いに心を通わせ、お互いに想い合うことが出来たら、その時に初めて渡したいと思って、今まで仕舞っておいたものです。」


「……。」


どきん…、


サーシャの胸が、微かに高鳴った。


…それは、もしかしなくても、そういう事、よね…!


「あの時、俺の全てを受け入れてくれると言ってくれた貴女を、そして、俺を好きだと言ってくれた貴女を、俺は信じたいのです。

サーシャ、どうか、ずっと俺と一緒にいて欲しい。俺と、…本当の夫婦になってくれますか?」


いきなりのプロポーズの様な言葉に、サーシャは驚き、ジーフェスのほうを見てしまった。


彼の顔は少し恥ずかしそうに俯きがちで、でも翠の瞳は真剣そのもので、偽りや濁りなど何一つ無い、綺麗なものだった。


そんな彼の様子を見たサーシャは驚き、嬉しくて感極まって思わずぽろぽろ涙を溢してしまった。


「え!?さ、サーシャ…!」


思いもよらないサーシャの様子に、ジーフェスは驚き、焦っておろおろしてしまった。


…え!え!?もしかして、俺の行為が嫌だとか?結婚指輪なんて、重いものなんか要らないとか!?


「違うのです。…驚いて、嬉しくて、つい涙が出てしまったのです…。」


「…え…。」


サーシャは溢れる涙を手で拭きながら、柔らかな笑みを向けて呟いた。


「ジーフェス様、初めの頃は、私はこの結婚に対してアクリウム国から出ていける事以外、何も期待していなかったのです。

アクリウム国の王女としてジーフェス様のもとに嫁ぎ、妻としての役割を果たすだけだと思っていました。」


「……。」


「でもジーフェス様、貴方様はこんなみそっかすな私をちゃんと気にしてくれて、アクリウム国の王女ではなく、ひとりの人間として見ていてくれて、そして好きになってくれて…。

そして私も、そんなジーフェス様を好きになった…。

本当に、本当に嬉しかったのです。こんなに、暖かい想いを抱くことが出来て。貴方様に好かれて、そして好きになって…。」


「サーシャ…、」


話を聞いていたジーフェスは、そっと自らの手をサーシャの膝の上にあったそれに重ねた。

一瞬、手が触れた時にびくっと震えたが、そのままされるがままにしていた。


「サーシャ、貴女は自分がみそっかすと言っていたけど、そんな事は決して無いです。

貴女は本当に優しくて可愛くて、俺にとっては何よりも魅力溢れる女性なのです。そんな貴女だから、俺は心惹かれ、好きになったのです。」


「ジーフェス、様…。」


はっとなって顔をあげたサーシャが見たジーフェスは、とても優しい穏やかな微笑みを彼女に向けていた。


「だから、これ以上自分を卑下するのは止めて下さい。俺まで悲しくなります。」


「…はい。ありがとうございます。」


嬉し涙を拭きながら、笑顔を浮かべたサーシャのその一言を聞いて、ジーフェスはほっと安心した表情を浮かべた。


「じゃあ、この指輪、受け取ってくれますね?」


「はい。私で良ければ、ずっと、ずっと貴方様の傍に居させて下さい…。」


「ありがとう。」


嬉しそうにそう呟くと、ジーフェスは片方の手でサーシャの左手を掴んで、そしてもう片方の手で箱から指輪のひとつを取り出し、ゆっくりと薬指にその指輪をはめていった。


「…少し、大きいみたいですね。」


はめたのは良いが、指輪が大きかった為にサーシャの指からその指輪がするりと落ちそうであるのを見て、ちょっと苦笑いを浮かべた。


「じゃあ、こちらのほうに…、」


とサーシャが指したのは中指。

ジーフェスもそれに従って今度は中指にはめてみたのだが、やはり少し指輪のほうが大きく、だが先程の薬指よりはまだ引っ掛かってはいたので、取り敢えずそのままにしておいた。


「サーシャ、俺の指にもこれをはめてくれるかな?」


箱に残ったもうひとつの指輪を差し出されてそう頼まれ、一瞬びっくりした表情をし、だが直ぐに笑顔を浮かべて頷いた。


少し恥ずかしそうに、ジーフェスの大きな左手を手にし、もうひとつの指輪を持つとゆっくり薬指にはめていった。


「ぴったりですね…。」


それはまさにあつらえた様に(実際そうなのだが)彼の指にぴったりとはまった。


お互いの左手に鈍く光る銀の指輪を見ながら、二人は少しはにかんだかのように微笑み、そっとお互いの指輪をはめた手を重ねた。


「これから、よろしくお願いいたします。旦那様。」


「こちらこそ、奥様…。」





…二人が夫婦になっていく、これはほんの小さな一歩。

まだまだ二人の前には、夫婦としての様々な困難?が待ち構えているとは、当然今の二人には知りもしません。


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