第6章Ⅵ:アンチテーゼ
“どうして、どうしてジーフェス様とライザさんが…!?”
目の前に見えている、二人が互いに絡み合う光景に、サーシャは信じられずにただただ驚きとショックを隠せなかった。
“嘘よね、嘘に決まってるわ。
だってライザさん、さっきまで私にジーフェス様との仲を応援してくれていたじゃない…!”
ぐるぐるとサーシャの中でぐちゃぐちゃに濁って混乱した気持ちが襲いかかっていた。
“ジーフェス様も、私のことを好きだと言ってくれたじゃない。
あれは、嘘だったの…?”
『だんちょうさんのおよめさんはらいざせんせいじゃあないの?』
ふと昔に聞いた幼子の言葉が頭に浮かんできた。
“やっぱり、二人はそういう関係だったの?幼馴染みというだけでなく、…本当は恋人同士であったの!”
サーシャの心に怒りとも悲しみとも言えぬ感情が沸き起こり、身体がかたかたと震えだした。
“二人して、私に嘘を言っていたの?優しい言葉で私を翻弄させて、本当は私のことを陰で嘲笑っていたの!”
心の中に醜い感情が渦巻き、頭の中がパニックになってサーシャはふらふらと後退りを始めた。と、
『ガターンッ!』
サーシャの身体に何かがぶつかり、激しい物音がして傍にあったバケツが倒れ、中に入っていた小さなじょうろやスコップ等が床にこぼれ落ちた。
「誰だ!」
「!?」
部屋の中からジーフェスの鋭い声が聞こえてきて、思わずサーシャはびくっ、と身体を震わせた。
ぱたぱたと足音が窓辺に近付いてきて、シャッという音がして部屋の内側のカーテンが開かれた。
「…!」
「…!?」
お互いがお互いの姿を見て、愕然とした表情を浮かべた。
「サーシャ殿、何故ここに?」
驚いた表情を浮かべたまま、ジーフェスは窓越しにそう問いかけた。
「……。」
サーシャの目の前にいるのは、自衛団用の軍服姿ではなく、薄手の肌着の上に白く裾の長い上着を羽織った、だが紛れもなくジーフェスの姿そのものだった。
“ジーフェス様!何故、何故なの?!何故ライザさんとここでそんな、ふしだらな事をしていたの…っ!”
そう言いたかったが、ショックの余り、どうしても言葉に出来なかった。
「何ジーフェス、誰かいたの?」
続いて女性の声が聞こえてきて、ジーフェスの隣にライザの姿が現れた。
「!?」
“やはり、やはりあの女性はライザさんだったのね…!”
ライザの姿を目にしたサーシャはショックで倒れそうになるのを何とか耐えた。
「あらサーシャ、一体どうしたの?」
そんなサーシャの気持ちを知らずか、ライザは先程と全く同じ様子で気軽に話し掛けた。
「……。」
“嫌、どうして、どうして私を騙したの…っ!”
「どうしたのサーシャ?…まさか、貴女『あれ』を見たの?!」
黙ったまま強張った表情をしているサーシャの異変に気付き、ライザはぴん、ときて思わず大声をあげた。
「え!?」
ライザの言葉にジーフェスも驚きの声をあげてサーシャを見つめた。
「サーシャ、誤解よ!ジーフェスは私を…!」
そう叫ぶように言って、慌てて窓を開けようとしたが、その前にサーシャは踵を返し、逃げるようにその場を離れた。
「待って!話を聞いてサーシャ!待ってっ!」
「サーシャ殿っ!」
やっとのことで窓が開くと、ジーフェスは器用にひょいと窓から身体を乗り越えて出ていった。
そして逃げていくサーシャの後を追いかけていった。
「サーシャ殿っ!」
ジーフェスの叫びが後ろから聞こえてきたが、サーシャは後ろを振り向かずに、ただひたすら馬車に向かっていった。
「おやサーシャ様…、一体どうされましたか?」
馬車の傍にいたタフタは建物から現れたサーシャを見て、少し訝しげに尋ねた。
だがサーシャは無言のまま馬車の扉を開けて素早く乗り込んだ。
「馬車を出して、早く!」
怒りと涙混じりの声を出して、タフタにそう命じる。
「え、その…、」
「早く!」
「は、はい。」
サーシャの余りの気迫に圧され、タフタは慌てて手綱を掴んだ。
『ヒヒーン!』
高らかに馬が嘶くと、馬車はその場を出発した。
「サーシャ殿っ!」
後ろから微かに、だがはっきりと聞こえてきたジーフェスの声。
…ジーフェス様…!
一瞬、はっとなって顔を上げたサーシャだったが、直ぐにまた顔を俯いた。
“ジーフェス様、信じていたのに、信じて、いたのに…っ!”
小さな胸の中には、ジーフェスとライザに対する不信と嫉妬、そして二人に裏切られたという怒りと哀しみがどろどろと濁った汚水のように渦巻いていた。
「…ジーフェス、様…っ!」
馬車の中、屋敷に着くまでサーシャはただひたすら涙を流し、嗚咽していたのだった。
「……。」
一方、診療所の前で彼方に走り去る馬車を見ながら立ち尽くすジーフェス。
…一体、どうしたというのだ?
「ジーフェス、サーシャはそこに居る?」
診療所の玄関から慌てて出てきたライザは真剣な面持ちをしながら聞いてきた。
「いや、…しかし何故サーシャ殿は逃げ出したんだ?」
不思議そうに首を傾げるジーフェスに、ライザはきっ、と睨み付け話した。
「サーシャは私達の『あの』様子を見てしまったのよ。」
「『あの』様子って…、『あれ』だろ、あれを見て何でサーシャ殿が逃げ出すんだ?」
訳が解らないという風に答えると、下腹に思い切りライザの蹴りが入ってきた。
「いってぇ!何するんだお前!」
「それはこっちの台詞よ!サーシャは『あれ』を見て私達が男女の関係だと誤解してしまったのよ!」
「…は!?まさか、そんな事で…。」
苦笑いするジーフェスに対して、ライザはますます怒りの隠った声で怒鳴りつけるように言った。
「女心の解らない奴ね!女が股を広げていて男がその間にいたら、そういういかがわしい風にしか見えないでしょう!」
玄関先にも関わらず、恥ずかしい事を大声で言うライザにジーフェスは慌てふためいた。
「ちょ、お前、そんな大声で…!」
「鈍いあんたにはこれくらい言わないと解らないでしょう!ジーフェス、これだけ言ってもまだ解らない?!今もの凄く大変な事になっているのが!」
「解った!解ったよ!よーーく、解ったから落ち着け。」
怒り狂うライザを宥めながら、ジーフェスは頭の中で今までの事を考えて整理していった。
“そうだったのか、俺がライザに対してやっていた事に対して、サーシャ殿は俺とライザが男と女の関係となっていると勘違いしてしまったのか…!”
そしてふと先程のサーシャの表情を思い出した。
“あの時、窓越しに見たサーシャ殿の表情、まるで信じられないものを見るような瞳だった。
信じていたものに、裏切られたような、怯えた瞳…、
何てことだ!誤解した彼女はとても傷付いて不安になってしまったんだな。”
やっと全てを理解したジーフェスははあ、と溜め息をひとつついて顔を上げた。
「俺は屋敷に戻る。そしてちゃんとサーシャ殿に事実を説明する。お前はここに残っていてくれ。」
「ジーフェス…、」
ジーフェスの一言に暫く考えていたライザだったが、
「…やっぱり私も行くわ。」
「おい!?」
「私に説明させて。こんなことになってしまったのも私の所為だから。」
「それは…、」
「お願い、そうさせて。」
「……。」
「ジーフェス、貴方まだ彼女に言っていないんでしょう?…貴方の『過去』の事を。」
「!」
ライザの一言に、ジーフェスはびくっと身体を震わせた。
「やっぱり、…本当は、サーシャに知られたく無いのでしょう?だから私が上手く話を作って…、」
「その必要は無い。」
だがジーフェスはきっぱりとライザの言葉を否定した。
「ジーフェス、」
「いずれちゃんと話をしなくてはいけなかったんだ。今が、その機会なんだろう。
…大丈夫。サーシャ殿なら解ってくれる、解ってくれる、筈…。」
「……、」
そう呟くと寂しそうに、不安げに俯く。
“あの時の告白でさえ彼女は未だに受け入れてくれていないのに、更に俺の過去を知ったら、彼女は一体どういう行動をするのだろう。
俺を嫌いになる?軽蔑する?
俺を、否定してしまう…!?”
そんな考えが浮かんで、ジーフェスはぞくりと背筋が凍る感じがした。
“もしそうなったとしたら、俺はまともでいられるだろうか?
また、あの時のようになってしまうのか…!?”
あの時、
…夢も希望も無く、ただ生ける屍のように過ごしてきたあの時、
生と死の、善と悪のその境界線があやふやな中に堕ちていたあの時…。
「!?」
はっとなって、ジーフェスは我に帰り、頭を振って中に浮かぶ負の考えを振り払った。
「着替えたら屋敷に向かう。お前もついて来るなら準備していてくれ。」
だが、ライザは不安な表情でジーフェスを見返した。
「それで良いの?本当にそれでも良いの?」
「……。」
だがその問いには答えることなく、ジーフェスは再び診療所の中に戻っていった。
*
「サーシャ様まだ戻ってきませんねー。もうすぐお昼なのにー。」
屋敷で部屋の掃除をしていたエレーヌが、手にしていた箒を動かすのもいい加減に、そうぼやいた。
「もうすぐ帰ってきますよ。ほら、さぼっていないで早くここの掃除を終わらせなさい。掃除が終わるまで昼食は無しですからね!」
傍らで一緒に掃除をしていたポーが少し苛立ったようにそう呟いた。
「えー!ポーさん横暴っ!」
余りの事にぶーぶー文句を言うエレーヌ。
「煩いですよ。」
相変わらずの調子で二人がそう言い合っていると、遠くから馬車の軋む音と馬の嘶く声が聞こえてきた。
「あ!サーシャ様帰ってきた!」
いち早く気付いたエレーヌはここぞとばかりにぽいっと箒を投げ捨て、さっさと玄関迎えに行ってしまった。
「これ!エレーヌっ!」
ぷんぷん怒りながらも、エレーヌが投げ捨てた箒を拾って脇に置くと、自らも迎えに向かっていくポー。
玄関には、予想していた通りこの屋敷の馬車が到着していて、既にタフタが馬車から降りて扉を開けようとしていた。
「サーシャ様お帰りなさいー。」
いち早く玄関に到着したエレーヌがサーシャを迎えようとしたのだが、サーシャのほうは扉が開くなりエレーヌやタフタを完全に無視して逃げるように駆け出し、一直線に自分の部屋に向かっていった。
「………あれ?!」
今まで見たことの無いその行動に、流石のエレーヌもちょっと唖然呆然としてしまった。
「…タフタさあん、サーシャ様に何かあったんですかぁ?」
首を傾げながら傍にいたタフタに聞いてみても、タフタは肩を竦め、
「さあ、ライザさんの診療所から出てきた時から、ずっとあんな感じなんですよ。」
と一言。
「ふーん…。」
するとそこに遅れてポーがやってきた。
「サーシャ様、様子がいつもと違う様でしたが、何かあったのですか?」
ポーもサーシャの様子を見て不審に思ったのか、エレーヌと同じ事を二人に尋ねてきた。
「さあー。」
「私にも訳が解らないんですよ。診療所から帰る頃からずっとあんな調子で…。」
首を傾げながら答える二人に、ポーははあ、と軽くため息をついた。
「とにかくサーシャ様がお戻りになられたからお昼にしましょうか。エレーヌ、サーシャ様を呼んできて頂戴。」
「はーい♪」
お昼と聞いて俄然嬉しそうに返事して部屋へと向かっていった。
「サーシャ様ー。」
コンコンと部屋の扉をノックしながら、エレーヌは声を掛けた。
「……。」
だが、部屋の中からは何も返事が聞こえてこない。
あれ、と思い、何度か扉を叩いて声を掛けるのだが、やっぱり返事が無い。
“あれー?まさかもう寝てしまったのぉ?”
なんてことを思いつつ再びノックしようとしたエレーヌの耳に、部屋の中から微かにだが泣き声が聞こえてきた。
「…?」
いつもと違う様子に流石に不安になったエレーヌは再び声を掛けた。
「サーシャ様ぁ、何かあったのですかサーシャ様ー?」
…だが再度の呼び掛けにも返事は無く、ただ微かに啜り泣く声が聞こえてくるだけだった。
「どうしたのですエレーヌ。まだサーシャ様はお見えにならないのですか?」
なかなかダイニングに来ないのに不思議に思い、ポーがやって来た。
「ポーさあん、サーシャ様お部屋におられるみたいなんですけどー、何か様子が変なんですー。」
「様子が変?」
「はいー、何か、部屋の中で泣いているみたいなんですー。」
「泣いている?」
おうむ返しに聞き返し、暫く考え込んでいたが、扉をノックして声を掛けた。
「サーシャ様、何かあったのでしょうか?サーシャ様。」
だが、ポーの呼び掛けにも返事は無く、やはり微かに啜り泣く声が聞こえるだけであった。
「一体何があったんですかねー?」
「ええ、何か落ち込んでいる風ですね…、」
そんな事を言っていた二人。
と、突然玄関辺りで、ばんと扉が開かれる音とばたばたとする足音が聞こえてきた。
「!?」
いきなりで何事かと思い、二人が慌てて玄関に向かうと、そこには軍服に着替え直したジーフェスとライザの二人の姿があった。
「坊っちゃま、まだお仕事中では…!」
予定よりも遥かに早い帰りに、ポーは少し驚き慌て、
「旦那様あー大変ですよ、サーシャ様が帰ってくるなり部屋に籠ってしまわれて、食事にも出てこようとしないんですよー。」
エレーヌのほうは助け船を求めるようにそう告げた。
「…坊っちゃま、一体何があったのですか?」
「事情は解っている。で、サーシャ殿は部屋にいるんだな?」
だがジーフェスはその事を既に察していたかのように、さほど驚きもせずに二人に再度確認するように尋ね返した。
「はいー。…でも、何でライザさんがここに居るんですかぁ〜?」
エレーヌはジーフェスの後ろについてきているライザを不思議そうに見つめた。
「こんにちは。ごめんなさいね、直ぐに収まるから…。」
そして二人は早足でサーシャの部屋に向かっていった。
「「……。」」
そんな二人をポーとエレーヌは黙って見送るだけだった…。
*
…サーシャは部屋の中で独りベッドに伏して涙を流し、ただ悲しみに暮れていた。
“信じていたのに、信じていたのに…。
二人して私を裏切るなんて…!”
サーシャの胸の中には、ジーフェスとライザに対する疑心が渦巻いていた。
“アルテリア兄様、どうして兄様は嘘をついたの!
ジーフェス様は全然良い人では無いわ!
ライザさんと一緒になって私を騙して裏切って、嘲笑っているのよ…!
兄様、どうして兄様はそんな嘘を言ったの…っ!”
最早彼女の心には全てに対して疑心しか抱かなくなってきていた。
そんな中、サーシャの耳に微かにぱたぱたといういくつかの足音が聞こえてきて、やがて大きくなってきて部屋の前でぴたりと止まった。
「…!」
…まさか!?
サーシャが微かに驚く中、コンコンと扉を強めにノックする音が聞こえてきた。
「サーシャ殿。ここにいらっしゃるのですよね?」
扉の外から聞こえてきた声に、びくっとなった。
“ジーフェス様!”
「サーシャ…、」
だが続いて聞こえてきた優しい声に、ぞくりと背筋を震わせた。
“ライザ、さん…!
どうして、どうして彼女がここに来てるの?!”
二人の声を聞いて、サーシャはジーフェスとライザが如何わしいことをしている様子を想像してしまい、胸が苦しくなった。
「サーシャ、誤解なのよ。お願いだから話を聞いて。」
「嫌よ!もう何も信じないわ!ライザさんの言うことも、ジーフェス様の言うことも…!」
気が付けば、サーシャは扉に向かってそう叫んでいた。
「サーシャ…、」
「サーシャ殿、ライザの言う通りなんです。俺とライザはそんな関係では…、」
「止めて!もうこれ以上私を欺くのは止めて!
二人して、二人して組んで私を騙して嘲笑って…、世間知らずの小娘をからかうのはさぞかし楽しかった事でしょう!」
「サーシャ殿!違います誤解です!お願いですから話を聞いて…、」
「聞きたくないわ!これ以上私を翻弄させないで!嫌いよ、大嫌い!ジーフェス様もライザさんも嫌いよっ!」
「サーシャ殿…、」
いつの間にか騒ぎを聞き付けたのか、ポーやエレーヌだけでなくハックやタフタまでもが部屋の前まで来ていた。
「一体どうしたんですか?」
「二人して夫婦喧嘩ですか?でも何故ここにライザさんが…、」
部屋の前でざわざわと騒ぐハック達に、ポーが静かにだが喝をいれた。
「静かにしなさいな貴方達!」
厳しい一言と視線に圧され、エレーヌ達はしん、と黙りこんでしまった。
そしてジーフェスとライザのほうに振り向き、はあと溜め息をついて呟いた。
「何があったか知りませんが、今のサーシャ様はかなり興奮されていますので、この状態では坊っちゃまやライザ様のお話をまともには聞いて貰えないでしょう。」
「「……。」」
「ここは皆さん一旦退きましょう。暫く時間をかけて、お互い頭を冷やして、落ち着いてからまたお話されると良いでしょう。」
「しかし…、」
ジーフェスはちょっと焦ったようにそう呟く。
「…そうね。それが良いかもね。私達も少し落ち着きましょう。」
「……。」
ライザの更なる一言に、ジーフェスも黙り混んでしまった。
「さあさ、皆さんダイニングに移動してお昼にしましょう。宜しければライザ様も御一緒に如何ですか?」
「でも…、」
「一緒に食べていけ。長期戦になりそうだしな…。」
「…そうね。」
苦笑いをしながら、ライザはジーフェス達と一緒にダイニングへと向かっていった。
*
…部屋の中で泣いていたサーシャは、暫く部屋の外が騒がしいのを聞いていたが、やがてぱたぱたという足音と共に人の気配が離れていき、やがて完全に静かになっていった。
「……。」
…ジーフェス様…。
『誤解なのです!話を聞いて下さい。』
“嘘、嘘つき!もう何も信じないわ!”
サーシャは再びぽろぽろと涙を流しながら、ふと昔のことを思い出していた。
初めてジーフェスと出逢った時の様子、夜に部屋に行って慌てふためいた様子、気持ちをぶつけた時にきちんと受け止めてくれた様子、娼婦街で助けてくれた様子、そして…、
「…っ!」
思い出せば思い出す程に胸が暖かくなり、そして苦しく悲しくなってくる。
“ジーフェス様…!
信じていたのに、貴方を、本当に信じていたのに…!”
悲しく苦しく痛む胸を押さえながら、サーシャは俯き涙を溢す。
“信じたい。好きだから、今でもジーフェス様を好きだから、本当は私も貴方を信じたい。
でも、あの姿を見てしまった今は、もう駄目…っ!”
「私は何を、何を信じたら良いの…っ!」
ジーフェスを信じたいという気持ちと、最早何もかも信じられないという相反する気持ちが入り交じる中、サーシャはただただ悲しみに涙しながら、そのままベッドに伏してしまった。