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第3章Ⅲ:娼婦街

「はいっ!全部で金貨10枚だよっ!少しおまけしといたからねっ!」


「ありがとう〜♪」


エレーヌはにこにこ笑いながら男から肉を受け取り、金貨を払った。


「またよろしくー!」


にこやかに手を振る男を後に、エレーヌはふと後ろを振り向いた。


「さあサーシャ様〜、帰りましょう…?あ、あれ…?」


だが、そこにはサーシャの姿は無く、ただ人混みが広がっているだけだった。


「あ、あれ?サーシャ様、サーシャ様ぁ〜?」


不思議に思い、辺りをきょろきょろ見回してみるけど、やはりどこにも彼女の姿は無い。


あれー?先に馬車に戻ったのかな…?


首をかしげながらも、そういう結論となり、エレーヌは呑気にタフタの待つ馬車まで戻っていった。


「只今〜♪」


「お、お帰り。」


だが、馬車に居たのはタフタ独りだけだった。


「あれー?サーシャ様まだ戻ってませんか〜?」


「?いや、一度も戻ってないよ。サーシャ様はずっとあんたの傍にいたのではないんか?」


「えー、途中でいなくなったから、てっきり先に馬車に戻っていると思ってたのに…。」


「……。」


「……。」


二人はお互い顔を見合わせて、表情を強張らせた。


「もしかして、サーシャ様…。」


「…行方不明!?」




      *




「さてと、…一段落。」


沢山の書類を見ていたジーフェスがふう、というように顔を上げて溜め息をついた。


「取り敢えず今日締め切りの書類は一通り目を通しておいたから。」


「ご苦労様です、団長。」


サンドルが労いの言葉を掛けると、ジーフェスはちょっと困った表情をした。


「3日間休んだだけでこんなに仕事が溜まって、ここまで大変になるとは思いもしませんでしたよ。」


「団長は普段からちょっと仕事を溜めすぎですよ。この機会に少しは早めに取り掛かって下さい。」


痛烈なその一言に、はは、と苦笑いしながらうーん、と背伸びをしていた。


「さてと、ちょっと早いけど切りも良いから昼にしましょうか?」

と、呑気に呟いていると、


「大変ですーー旦那様あああっっ!!」


いきなりエレーヌが大声で叫びながらジーフェス達の前に現れた。


「な、何だエレーヌ、お前まだこんな所でうろうろしていたのか…。」


いきなり現れた彼女に驚きながらも呆れたように呟くジーフェスの胸ぐらを掴んで、尚もエレーヌは叫び続ける。


「そんな場合じゃあありませんっっ!!、大変大変たいへんなんですーーっっ!!」


その余りの大声に、周りにいた他の団員達も何だ何だというふうに集まってきていた。


「どうしたんだいエレーヌちゃん?」


「何かあったのかい?」


だが、半ば首を締められ寝不足で痛む頭に、直ぐ側できーん、とする程の大声で怒鳴られたものだから、流石のジーフェスもぷっつんしてしまった。


「五月蝿いっ!くだらん事で騒ぐなっっ!!」


「くだらん事じゃ無いですっっ!!サーシャ様が、サーシャ様がいなくなったんですっっ!!」


「!?…な、一体どういう事だ?!」


エレーヌの言葉に、ジーフェスも真面目になって聞き返した。


「え、サーシャ様が?!」


「王女様がいなくなった?!」


「センテラル市場で買い物していたら、ちょっと目を離した隙に、サーシャ様がいなくなってしまったのです!!」


「…!?」


今にも泣きそうな感じのエレーヌの言葉に、ジーフェスの身体からさあっと血の気が引く感じがしてきた。


とそんな中、


「第1班戻りましたー!」


街を見廻りをしていた、今までの事を何も知らない団員数名が戻ってきて、だが今の異様な雰囲気を察してジーフェス達に話し掛けてきた。


「あれ?エレーヌちゃんじゃない、何かあったんですか、団長?」


「あ、いや、ちょっと知り合いが行方不明になってな…。」


「サーシャ様が行方不明になってしまったんですよぉぉ〜〜!!何処かで見なかったですか〜〜っっ!!」


エレーヌはすっかり混乱してしまって、何も知らない団員にまで泣き付く始末…。


「え?え!?サーシャ様って、一体、誰?」


「サーシャ様は団長の奥さんだよ。さっきまでここに居たんだけど、センテラル市場ではぐれたらしいんだ。」


「団長の、奥さん?!」


驚いたようにおうむ返しに尋ね直す団員。


「ああ、小柄で白肌で銀髪をしているんだが、お前達どっかで見なかったか?」


ジーフェスのその言葉に、後から帰ってきた団員達ははっとなったように顔を見合わせた。


「そんな感じの女の子なら見ましたけど…。」


「「どこでっっ!!」」


その言葉に、ジーフェス達や他の団員達は驚きの表情を浮かべて叫んだ。


「で、でも、俺達が見たのは見た感じ、10代ちょっとのほんの少女でしたよ。」


「確かに白肌で肩までの銀髪で、薄茶色の服装をしてましたけどねぇ…。」


そこまで聞いて、お互い顔を見合わせてうんうん頷いた。


「探しているのはその少女だ!で、何処にいたんだ!」


余りの勢いに、その団員達はびびって後退りしてしまった。


「何か、小さい子供に連れられて、センテラル市場から東に向かって行ってたけどな…。」


「東、へ…!?」


…まさか…!


そこまで聞いて、ジーフェスはさあっと真っ青になり、他の団員達も表情を強張らせた。


「センテラル市場の東、といえば…。」


「「…娼婦街っ!」」


他の団員達も一同に叫んだ。


「!」


「ちょっと、やばくないか。あんな無垢な感じの娘が娼婦街なんかに行ったら…。」


「間違い無く、誘人(スカウター)の目につけられて、下手すれば騙されて娼婦にさせられ可能性があるな…。」


がたんっ、と音をたててジーフェスが扉に向かっていった。


「娼婦街に行くぞ!第3班は俺について来いっ!」


「「はいっ!」」


「サンドル殿と第1班はここに待機していてくれ。

あとエレーヌ、お前は屋敷に戻れ。」


「はぁい…。」


「団長、くれぐれも気を付けて…。」


サンドルは少し表情を歪めてジーフェスに声をかけた。


「…ふえーん、サーシャ様ぁぁ…。ごめんなさぁい、旦那様…。」


すっかり落ち込んで涙目のエレーヌに、ジーフェスはぽんぽんと頭を軽く叩いた。


「大丈夫。サーシャ殿は必ず連れて帰るから心配するな。」


「…ふぁい…。」




      *




…一方、少年に連れられて街を歩いていたサーシャ。

だが、どれだけ歩いてもエレーヌの姿は見つからず、徐々に辺りは人通りもまばらになってきていた…。


「…ねえ、本当にこっちにエレーヌさんが居るの?」


余りに不安になって、サーシャが少年に聞いてみた。


「大丈夫だよ。…お姉さんにとって、とっても良い所に連れていってあげるよ…。」


「…!?」


含み笑いをした、不気味なその声にサーシャは思わず足を止めて、握っていた少年の手を力任せに振りほどいた。


「……。」


…見ると、辺りはすっかり人通りは無くなり、薄暗く、だが壁を派手な色で塗られたり屋根に派手な布で飾られた建物が並び、そんな建物の所々では、薄汚れた服を纏った男達がぎろりとサーシャを見つめていた。


「…ここ、は…?!」


そして通りの少し奥のほうに、先程馬車の中から見た、大きく豪華だが、異質なまで朱の壁をした、あの建物が間近にまで見えていた。


…!あれ、は…?


『…あれはマダム=ローゼス様、大娼婦様の御屋敷ですよ。あの屋敷の周辺は娼婦街になっているのですよ。』


『…街中は大抵安全なんですけど、娼婦街だけは治安が悪いから注意して下さいね…。』


…まさか、ここは…!?


驚くサーシャを見て、少年はにやりと笑うと、とある男の傍まで行って、何やら話をし、金貨らしきものを受け取ると彼女を尻目にその場を去っていった。


「…お馬鹿なお姉さん。」


…微かに、そう呟いて…。


「………。」


独り取り残されたサーシャに、先程少年に金貨を渡していた男がにやにや笑いながら近付いてきた。


「あ、貴方は…。」


「ふうん、まだちょっと子供だけど、なかなか上物じゃねぇか…。」


にやにやと厭らしい笑みを浮かべて、背の高い体格の良いその中年の男はサーシャの手を掴んだ。


「まあ、今からみっちり仕込めば、なかなかのものになるだろう…。」


「…、な、何…!?」


「まだ解らないんかお嬢ちゃん、あんたはさっきの子供(ガキ)に騙されて売られたのさ。

お前さんは今からここで調教師(レイナー)にみっちり仕込ませて、立派な娼婦にしてやるよ。」


「!?」


男のその言葉に、サーシャはさあっと血の気が引いてしまった。


「…あ…。」


「お前さんのような幼女を好む客は大勢いるからな、せいぜいたんまりと稼がせてもらうぜ…。」


男はそう言って、サーシャの手を引いて街の中、娼婦街に連れていこうとした。


“駄目…!逃げなきゃ…!逃げなきゃ…!!”


だが、そう思っていても、見も知らぬ土地での恐怖と初めて裏切られた絶望からか、足がすくんで、喉が渇いて何ひとつ抵抗出来なかった。


「へへ、意外と素直じゃないか…。そうだな、調教師(レイナー)に渡す前に、ちょっと味見でもしとくかな…。」


男がサーシャを近くの建物に連れ込もうとした時、やっとサーシャは我に帰り、必死で抵抗して暴れだした。


「いやっ!!離してっ!!」


「!、この女…!?」


いきなり暴れだしたサーシャに驚き、男は怒りだして彼女の鳩尾に一撃を加えた。


「…っ!…」


声も出さずにあっさりと気絶した彼女を抱え、男はちっと舌打ちした。


「たく、手こずらせやがって…、まあ良い。これからたっぷり楽しむとしようか…。」


男はぐへぐへと、厭らしい笑みを浮かべ、気を失ったサーシャを抱えたまま汚い小屋に入ろうとした。が、


「…!?」


だが、そんな男達の前に、ひとりの人物が立ちはだかった。


…その人物…、


それはすらりとした背の高い、身体にぴったりとした黒い服を身に纏った短い髪の大人の女で、美しいが無表情で冷たい黒の瞳を男に向けて睨み付けていた。


「な、…何だ貴様…?!」


「……。」


だが、女は黙ったまま微動だにせずに男を睨み付けたままだった。


「…じ、邪魔するんじゃねえ!、そ、そこをどきやがれ…!」


勢いよく怒鳴ったつもりだったのたが、女の並々ならぬ圧倒とした雰囲気に、及び腰な声になってしまっていた。


「……。」


それでも尚も女は微動だにせず、何も語らず黙ったままその場で、ただ、男を睨み付けているだけだった…。




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