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第3章Ⅱ:誘い込み

「「ええええーーっっ!!」」


エレーヌの持ってきたクッキーでお茶をしていた団員達は皆、驚愕の悲鳴をあげた。


「え、じゃあ、この御方は…。」


「アクリウム国第四王女のサーシャ殿だ。」


「「お、王女様ーっっ!!」」


またもや絶叫する団員達。


「はい…。」


そんな団員達に少し驚きつつも、サーシャはにっこりと微笑んだ。


結局、今後のことも考え、ジーフェスはサーシャの素性を正直に皆に話したのだった。


“どうせ隠していてもいずれ解ってしまうことだし、団員達に知らせることで、彼女に対する態度も変わるだろうしな。”


「ひええ…、俺、めちゃ失礼なことを言ったような…。」


「てか団長、王女様をお嫁さんに貰うなんて、何てばちあたりな…。」


「お前な…、忘れてるかもしれんが、俺も一応王族の端くれなんだぞ。」


団員のひとりを横目で睨み付けてジーフェスはお茶に口をつけた。


「あ、そうだった。」


あは、と誤魔化し笑いを浮かべながらクッキーを頬張る団員。


「しかし、そんな王家のお姫様が何故団長のところにお嫁入りしたんですか?確かに団長はフェルティ国の王族だけど、今はすっかり庶民化してますし。」


「はっきりいって、釣り合いませんよねー。」


「……。」


“お前ら、後で覚えてろよ…。”


思いっきりめちゃくちゃ言われてしまったジーフェスはただ無言で団員達を睨み付けた。


「私はジーフェス様が王族だろうが何だろうが関係ありません。私達アクリウム国の神が、今のままのジーフェス様を私の夫にと選ばれたのですから。」


その言葉に団員達はちょっと唖然。


一応、『神託』のことを答えたのらしいが、流石に彼等にはいまいち理解されてないらしい。


「は、あ…。」


まあ、仕方ないことだけどな。


「それじゃあ、団長達って、もしかして政略婚?」


「そうだぞ。」


その一言に、皆は納得したかのようにうんうん頷いた。


「成る程〜。」


「だよなー、でなければ、女っ気の全く無かった団長に、いきなり結婚話なんて出てこないよなー。」


「……。」


全くもって失礼な事を言う団員達だ。


「とにかく、彼女は俺の嫁さんだから、そのつもりで接してくれ。」


それだけ告げて、ジーフェスは立ち上がった。


「さあさ、お前らも休憩はそこまでにして、仕事に戻れ!」


「うはーい。」


気乗りしない返事をしながら、団員達はだらだらと仕事に戻りだした。


そしてジーフェスはちらり、とサーシャのほうを見た。


「申し訳ありませんが、俺は仕事が溜まっていてサーシャ殿のお相手が出来る状態ではありません。おい、エレーヌ!」


「はーい!」


「片付けが終えたら、サーシャ殿を連れて屋敷に戻ってくれ。ああ、今日は帰りが夕方になるとポーに言っといてくれ。」


「はーい。旦那様、あんまり無理しないで下さいね〜。」


そんな様子を見て、サーシャは何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。


「すみません、私が我が儘言ってしまって、ジーフェス様のお仕事の様子を見たくて、エレーヌさんに無理に言って連れてきて貰ったのです…。」


だが、そんなサーシャにジーフェスは優しく微笑んだ。


「こちらこそすみません。休みの分の仕事が溜まっていて、なかなか片付かないのです。

良ければまた後日来て下さい。その時はきちんと案内しますよ。」


「はい、ありがとうございます。」


ジーフェスの優しい心遣いに、サーシャはふわっと胸の内が暖かくなってきていた。




      *




「折角来たのに旦那様忙しそうで、ほとんど相手して貰えなくて、何か面白くありませんでしたねー。」


屋敷に戻る馬車の中、つまらなそうにエレーヌが呟いた。


「仕方ありませんわ。ジーフェス様、本当に忙しそうでしたし。却って申し訳なかったくらいです。」


サーシャの一言に、エレーヌもちょっと苦笑いで答えた。


「サーシャ様らしいですねー。」


二人して顔を見合わせてくすくす笑いだした。


「折角街まで来たから、元気つけに旦那様の好物のお肉でも買って帰りましょうかぁ?」


「そうですね。」


そしてエレーヌは馬車を操っていたタフタに向かって言った。


「ねー、タフタさあーん!買い物があるからちょっとセンテラル市場に寄ってくださいー!」


「あー?でもポーさんから寄り道するなって言われましたよねー!」


「直ぐ終わりますよー!早く早く!!」


はあ、と諦めたように溜め息をついて、タフタは馬車を市場に向けて走らせた。




      *




…流石に朝の大混雑は無かったが、それでも未だに人だかりの多い市場の中、馬車で入るのは困難と感じ、離れの空き地に馬車を止めてもらい、エレーヌとサーシャは馬車から降りた。


「本当に大丈夫ですか、サーシャ様、私と一緒にここで待っていたほうが良いかと思うのですが…。」


タフタが不安そうに尋ねてきた。


「大丈夫です。ちゃんとエレーヌさんの傍にいますから。」


「大丈夫大丈夫。そこの肉屋に行くだけだから、直ぐに戻りますよ〜。」


「エレーヌ、ちゃんとサーシャ様を見て下さいね。サーシャ様、くれぐれもエレーヌから離れないで下さいませ。」


「わかりました。」


「はーい♪」


呑気に返事をすると、二人は市場へと歩き出していった。


…混雑の時間は過ぎたとはいえ、未だ人の多い市場では沢山の品々、…中心は生鮮食品だが、が商いされていた。


「そこのお嬢さん、どうだい!今朝獲れたての新鮮ぴちぴちな魚だよ!」


「こっちは美味しい果物が沢山あるわよ。どうだい?」


あちこちの店で、サーシャ達を呼び込む声が聞こえてくる。


「凄い活気ですね…。」


「朝一に比べたら、今は人は少ないくらいですよ〜。」


道を通る人達もまた、ここでは珍しい白肌に銀髪のサーシャの容姿にじろじろと視線を向けていた。


「何か、やけに見られている気が…。」


「ここではサーシャ様の容姿が珍しいから、皆気になっているだけですよー。あ、着きましたよー。」


エレーヌ達が着いたのは、軒先にずらりと様々な肉や家畜の頭等を並べ、少し血の匂いの漂う小さな肉屋だった。


「こんにちは♪」


エレーヌが声をかけると、店の前にいた体格の良い若い男が振り向いた。


「いらっしゃいっ!何にしやすかっ!」


にかっと笑って活気な声で男は答えた。


「んーと、この豚ロース肉1キロとー…、」


エレーヌが肉の入ったケースを眺めながら注文していく様子を見ていたサーシャ。


と、そんなサーシャの横をころころ…、と何かが転がってきた。


「…?」


足下を見たサーシャの目に入ったものは、

美味しそうに熟した、橙色の果実が道の真ん中を何個も転がってくる光景だった。


「ちょっと!誰かそれを拾っておくれ!」


そして転がっていく果物を追いかけるようにして腰の曲がった老婆があらわれた。


「あ。」


思わずサーシャはその場を駆け出してしまい、転がっていく果物を追いかけていった。


ある程度の距離を行ってから、何とか全ての果実を拾い上げて、老婆に渡した。


「はい、どうぞ。」


「おお、ありがとうお嬢さん。ここいらでは見掛けない風貌だねぇ?」


「ええ。」


「ここへは旅行か何かかね?」


「あ、ま、まあ…。」


何となく、自分の素性を誤魔化してしまった。


「そうかい。じゃあ、この先にある魚料理の店のムニエルは絶品じゃよ。お昼がまだなら是非行ってみなされ。それじゃ、私は失礼するよ。ありがとうね。」


「はい、こちらこそありがとうございます。」


ゆっくりと歩いて去っていく老婆を見送って、ふと周りを見て愕然としてしまった。


「…あ…。」


周りには、見慣れない風景が広がり、肉屋やエレーヌの姿は何処にも無かった。


“やだ、私、夢中になって追いかけてしまったから…。”


慌ててきょろきょろするサーシャの手をくいくいと引っ張る感触があった。


「!?」


驚いた彼女がその方向を見ると、そこには十歳くらいの、黒い髪に黒い瞳をした、少し身なりの汚れた少年の姿があった。


「姉ちゃん、さっきみつあみ黒髪の小肥りなお姉さんと一緒にいたよね?」


綺麗な黒の瞳でサーシャを見ながら、その少年は問いかけた。


「え、ええ、貴方、エレーヌさんを知ってるの?」


すると少年はにこっと笑った。


「エレーヌっていうんだ、あの黒髪のお姉さん。その人ならこっちにいたよ。ついてきて。」


「あ、ありがとう。」


少年はくいくい、と彼女の手を引っ張って、とある方向へと向かっていった。


良かった、親切な人がいて…。


「………。」


だがサーシャのほっと安心した思いとは裏腹に、少年の表情は何故か、にやりと冷たい笑みが浮かんでいた…。



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