序章
…森と水に囲まれた、神秘の国、アクリウム。
古より、この国は『巫女』の超自然の力を借りて、その絶大なる力でもって国を支配してきた。
その力は、年々少なくなってきたとはいえ、やはり現在もこの国を支配するのは、選ばれし『巫女』であった。
そして今も、巫女の神殿の奥深く、神聖なる儀式の間において、この国の『巫女』が占術を行っていた。
「………。」
中央にいる『巫女』、…既に老人となっている女性、と彼女を取り囲むように見守る『神官』達、そして『巫女』の血族の孫達。
『巫女』の前には、聖なる水鏡、…清められし聖なる水が溢れた大きな水盆、があり、『巫女』が呪文を唱えると、盆の水が輝きを増した。
「…………。」
『巫女』である老婆が池の聖水を見て、そして納得したように頷き皆のほうに向かって告げた。
「皆の者!我らが神アクリメア様は我らの声に応えて下さったぞ!」
そしてひとりの少女、…老婆の孫娘のひとり、を見て尚も告げた。
「サーシャよ、そなたフェルティ国の王子のもとに嫁ぐが良い。」
「…え?!」
サーシャと呼ばれた少女、は一瞬何のことか解らずに、戸惑って答えた。
「これは『巫女』としての命令じゃ!そなたはこれより、フェルティ国第五王子である、ジーフェスのもとに嫁ぐのだ。」
「…御意…。」
サーシャと呼ばれた少女は、自分の祖母である『巫女』に恭しく頭を下げて、そう答えた。
…彼女の周りにいた、他の孫娘の、不快な視線に気付く事は無く…。