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二話

それからの数日間。自分が起きているのか寝ているのかわからないでいた。

あの日から一週間たった。俺は部屋ではなくゴミ処理場にいた。


首つりをしようとした時に俺に叫んだのは母親だった。いつも優しく、一度も母さんから怒られたことはなかった。何をしても褒めてくれる優しい親だった。そんな母さんが叫びながら部屋のドアを蹴破って入ってきたのだ。


部屋に引きこもってばかりだった俺はトイレに行く以外部屋からでない生活を何年もしていた。数年ぶりに見た母さんの顔は老けて髪にも白髪が混じっていた。

イスに乗って天井からつるされたロープを首にかけている俺を見て一瞬、母さんは口を開けて固まると狂ったように俺にすがりついてきた。

「なにやっているの! まだ死んだらだめでしょ! まだやり直せるから!」

 そう叫びながら何度も俺の体をゆすってきた。それはうれしくもあり迷惑でもあった。体を揺らすたびにロープが首にしまったり緩まったりした。

 母さん。地味に拷問だからやめて。


俺はなんとかロープから脱出し自殺はしてない気球でもぶら下げようとしていただけだとバレバレの嘘でごまかした。母さんは何とか理解してくれ離してくれた。

ていうか俺が自殺しようとして飛び込んできた訳ではなかったらしい。

その後、母さんが俺に話した内容は俺を部屋から出るきっかけとなった。


俺の幼馴染、後藤空の家が火事だということだった。

それを聞くとすぐあとに消防車のサイレンが聞こえた。俺は窓のカーテンを開け空の家を見た。空の家はそこまで遠くなく燃えているのが目で見えた。夜だというのもあるだろう。空の家からでる煙と火柱が俺の胃をきつく締めつけた。

幼馴染の家が真っ赤な炎で燃えていた。その光景はきっと一生忘れることのないものだと感じた。

 そんなふうに感じながらも俺も家から出られなかった。

 

 しかし、二日後にテレビのニュースと母さんからの話しを聞いて俺は外にでることを決意した。

 火事の現場から発見されたのは空の両親の遺体だけだった。空は確かに帰宅していると目撃もあったにも関わらず空の遺体はどこにもなかったらしい。

 そして世間は空が火をつけた犯人だとされていた。根拠があったらしい。

 隣の家がある証言をした。空の家から毎日のように口論する声が聞こえていたと。その声は空の声も含まれていたらしい。


 納得できない。空が放火犯だなんて絶対に認めない。

 空と幼馴染といっても同い年ではない。けれどアイツが生まれてから一緒にいる。そんなアイツが家を燃やすわけはない。俺が引きこもっている間にアイツが変わったのか?


 母さんと親父から事件の細かいこと聞いた。

 母さんと真面に話すのも久しぶりだったが親父と話すのも久しぶりだった。親父は母さんとは違い俺を何度も外に出そうとした。時には部屋のドアを壊し引きずりだされたこともある。定時制に通うようになったのも親父の力任せの結果だった。失敗に終わったけれど。そんな親父は何年も見ない間に小さくなっていた。

 二人から近所の噂などを聞くことにした。

 何年振りかに一緒に夕食を食べたとき二人は驚き母さんは泣いていた。親父もビールをちびちびと飲みながら俺の顔を横目で見ていた。


 聞いた内容は微妙だった。空の父親が母親を罵倒する声が毎日あり喧嘩が絶えなかった。それ以外は根拠もない噂だった。事件とは関係なかったが聞いていて一番興味深かったのが空の成長だった。

 空と俺は五歳年が離れている。俺が中学に行かなくなってから会うことはなかったが今でも空は俺のことを気にかけてくれていたらしい。


 空は俺と同じ中学に通い最近も何度か俺の家に来ては様子を聞いていたらしい。

何年か前のバレンタイン。俺はチョコをもらった。

 それは空からだったらしい。そうとは知らずに母さんからの物だと思い食べずにゴミ箱行き。最低だ。

 空は中学では陸上でスターだったらしい。スポーツ推薦で高校に行き怪我をして陸上はやめた。

 女子高から女子大にいって現在らしい。

 むかしから可愛かったが高校に入ると芸能事務所からスカウトがいくつもあったらしく大変だったらしい。ここまですべて「らしい」だが本当のことだと母さんはいう。近所でも有名だと。

 余計に納得いかなくなった。そんなに充実とした生活をしているのに家に火をつけるだろうか。友人関係については一切情報がなかったがそれなりにはいただろう。勉強もできて友達もいる。何が空のなかで起こった? 家庭でいったい何が?


 そう思った俺は調べることにした。はじめ家から出るのが怖かったが空のことを思うと何とか出れた。一歩踏み出せばなんとかなった。

 燃えた家に行き中は調べられなかったが廃棄された家具がどこに持っていかれたのかを突き止めた。家具などは警察が調べた後処理場に運ばれ処分される寸前だった。そこで業者の人に事情を説明すると特別に調べてもいいと許可がもらえた。


「くっそ」

 口からこぼれた。長いこと引きこもりをしていた俺にとってゴミの中からあるのかもわからない空の手掛かりを見つけ出すのは酷なものだった。一体どれだけの時間調べたのかわからない。炭となった家具を一つ一つ調べるも何一つ見つからない。警察が調べても見つからなかった物だ。素人の俺が調べたところで……。そんな弱気になりつつ体力の限界が来た。

 全身真っ黒になって俺は休憩した。

「空……」

 昔の空の顔が思い浮かんだ。


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