一話
二十三年。俺にとっては長い人生だった。
八畳の洋間。その南側の窓に机がある。何年も掃除のしたことのない部屋を綺麗にした。散らかり放題の机は整理整頓され無駄なものは何もなくホコリもない。
そこにきれいに畳んだ紙を一枚置いてある。
俺の人生を書いた紙。
ルーズリーフ一枚で事足りる人生。なんと短くなんと薄いことか。
人は八十年近く生きると聞いたことがある。俺が生きたのは二十三年。あと半年すれば二十四年になる。短いかもしれない。
でも、もう疲れた。生きる気力も部屋から出るきっかけもない。何度か出ようとした。外の世界に戻ろうと。でも無理だった。いつもダメになる。一歩。たった一歩が踏み出せない。
部屋の真ん中にイスを置き天井からロープを吊り下げる。途中でロープが切れないか何か問題はおきないか。何度も確認した。死ぬのはやはり怖い。手が震える。
生きたいのか?
俺の中の何かが死ぬことをためらっているのか? 俺に生きるだけの理由があるのだろうか。自分の生きたいとい思いを説得するように人生を振り返った。
小学生のころ友達は少なかったが仲のいい奴が何人かいた。小学校までは楽しかった。けれど、中学に上がると一気に転落していった。
中学一年の初め、一人クラスに馴染めない俺は友達ができなかった。
休み時間。違うクラスにいる同じ小学校から上がった友達を訪ねるもそこには新しい友人と笑って話している友達の姿。邪魔するのは気がひけた。学校に話す人がいない俺はクラスの隅っこで本を読むだけの生活をしていた。
そして中学にあがり調子にのった奴らに目をつけられた。
結果、俺はいじめにあうようになった。当然といえば当然なのかもしれない。弱い人間が一人でいればいい玩具だ。例え襲う者が弱い人間が集まった集団だとして一人が大勢には勝てない。
アイツらから金を巻き上げられ最低のことまでさせられた。
親の金を盗んだ。
それはすぐにばれた。でも、やらされたとは言えなかった。
いじめにあっていた俺の中にかすかなプライドがあったからだ。そんなものさっさと捨てればよかったのに。担任や親に何を聞かれても黙り込んだ。
そして俺は不登校となり引きこもった。
今、思えば親は疑問を持っていたと思う。俺が引きこもるようになって強くは叱らず何も聞かなくなり見守ってくれていた。俺が一人で立ち上がるのを待っていたのだろう。
でも、もう遅い。二十四になろう、男がいまだに外にでることはできず、なにが社旗復帰だ。無理だ。
それから現在まで引きこもっている。中学卒業後、一年間ニートをして定時制に通うこととなるも一週間もせずに行かなくなった。父親にさんざん怒られ部屋からでることが出来なくなった。
また引きこもり生活に戻った。
今日までしたことといえばネットで人を馬鹿にしからかって遊んだだけ。
ある日テレビを見ていると衝撃的な顔が写しだされた。小学校の頃、特に仲の良かった二人がテレビに映っていた。
一人は大学在学中に会社を立ち上げ二十三の若さで株式上場する会社の社長となっていた。もう一人は完全に俺を人間不信にさせた。
仲の良かった奴がお笑いコンビを組んでコントしていた。その相方は俺を苛め、金をまきあげていた不良だった。二人して笑って綺麗な女優やアイドルと話して楽しそうにしている。
その日から三人に関するアンチスレを作り恨みだけで何日も寝ずにスレを立て書き続けた。でも、なにも変わらなかった。何一つ変えることができなかった。
俺は非難するのを諦めた。俺は人と違って何か才能があると子供のころからずっと思っていた。何かしら成功して歴史に名を刻むと。
それなのに八畳の洋間に引きこもり昔の友達の悪口を書くことだけ。しかも誰にも見向きもされない。こんな人生に意味があるのだろうか。きっとない。自己完結している。
死ぬ間際に考えたがやはりないようだ。
さて、行こうか。
天井からつるされたロープを首にかけた。あとはイスを蹴飛ばしてロープが首に絞めついていくのを待つだけ。この程度なら俺にだってできるさ。
父さん。母さん。悪いな。先にいくわ。
「陽助!」
え?
椅子を蹴飛ばす寸前。母さんの叫び声が聞こえた。