プロローグ
死にそう。いったい何時間あるけばいいのだろうか。携帯は動かないし時間がわかる物は何もない。初めは見慣れない風景に感激したものだが足が棒になるまで歩いた場所だ。いい加減あきた。
そもそも何年も部屋に引きこもっていた人間をこんなに歩かせるな。人間捨てていたけれども。
俺が歩いているのは森のなかだと思う。木が生い茂り下は人が入った形跡のない獣道。はっきり言って俺は変なところにいる。変なところにいるが風景だけはいい。最初だけね。
蒼くすんだきれいな空。陽光をこれでもかって浴びて輝く木々。その木は俺が見たことのある木とは少し違っていた。葉は緑で幹が茶色や灰色のような色。ここまでは何とも思わない。けれど俺が見ている木は時折クネクネと気持ちわるく動く。あれだ。トイレを我慢しているときのような。背中がかゆくて耐えているような。そんなクネクネ。
俺が思うにこの木は痒いのだと思う。いくつかの木に鳥がとまっているからだろう。木に感覚があるとは思えないが。
そしてこの鳥も変だ。変というより奇妙。……キモイ。
鳥の大きさはカラスほど。形は俺が見てきた鳥と変わらない。でも、色が。色がヤバい。
紫。保護色とか完全無視の紫。なんだ昔の日本のように高貴な色なのか? 高貴な鳥なのか?
その高貴な紫鳥は鳥らしからぬ犬のような鳴き声を発すると口から赤い泡を吐くのだ。
絶対病気だろ、この紫高貴鳥は。
泡は大きく人の頭ほどの大きさで吐かれると天高くまっていく。なんでしょうかね。あの泡。
まあ、泡も鳥も木もだけど。俺はどこを歩いているのだろうか。
見渡す限り森の中。
こういう遭難したときは焦らずに記憶をたどるべきだ。そうだ。そうしよう。焦って叫んでもいいことなんてない。よし、考えよう。
まず俺はごみ処理場にいた。そこでマ丸焦げになった衣装タンスを見つけた。それを調べた。中になにかあるかと思って開いた。そして入るとここにいた。
………………。
「なんもわかるかーーーーーーーーーーーーーーーー!」
一つ学んだこと。
遭難したら冷静になることは難しく叫びたくなります。