同窓会で初恋の人と再会、実は両想いだったと発覚
5.同窓会で初恋の人と再会、実は両想いだったと発覚
「青井さん、どうしたの。」
「緑川君。ちょっと、酔っちゃって。冷たい風に当たりたかったんだ。」
二人が居るのはホテルの中庭だった。そこには他に人かおらず、少し遠くから僅かに声が聞こえる程度で落ち着くにはちょうど良い。そしてもうすっかり日も暮れて火照った体を冷ますには最適だ。
二人が居るホテルは彼らが通っていた学校に程近い場所にある。ここの一室で同窓会が開かれていた。成人式が終わった後、集合したのだ。始めは各々のクラスで行う予定だったが、中高一貫校で人数がそれほど多くない、ほぼ全員が顔見知りということで、学年全体の集まりになった。
開かれて1時間も経つと出来上がった人たちも多く、会場は大変に盛り上がっている。青井はお酒は好きではあるがあまり強くもなく、また会場の熱気に当てられてしまい、中庭に出てきてそこにあったベンチに座って休んでいた。緑川は会場をひっそりと出ていく青井を見て、付いてきたのだった。青井に了解を得て、隣に座った。
何となく、二人も言葉が出てこなくて沈黙が流れる。その沈黙を最初に破ったのは青井だった。
「緑川君、何か変わったね。何と言うか……垢抜けた?とっても都会な匂いがするね。」
「ははっ都会の匂いって何。」
緑川は卒業後上京し、偏差値が結構高いことで有名な大学に入学を果たした。青井の言うようにその雰囲気は、上京する前のどこか野暮ったい感じが削ぎ落され、洗練されたものを感じさせる。同窓会でも注目の的で、女の子から囲まれるほどだった。そのせいで青井と話せなかった。
「そういえばさ、俺と同じで上京した桃瀬の話聞いた?」
「ああ勿論聞いたよ。皆でびっくりしたもの。まさかあの黒川先生とは思いもよらなかった。」
赤羽に長い間想いを寄せていた桃瀬は赤羽にこっぴどく振られた後(赤羽に自覚はないが)、中々想いを断ち切ることが出来なかった。きっぱり忘れようと就職と同時に上京。しかしそこでホームシックになり、精神的に参っていた時、偶々旅行で東京に来ていた黒川と遭遇。本人曰く二度目惚れをし、年齢差を跳ねのけ交際に至った。そしてなんと、今年の春には結婚式を挙げるらしい。交際と聞いた時点で驚いたが、まさかの結婚で、青井は開いた口が塞がらなかった。
話を聞いた時にはあまり想像できなかったが、二人揃っているのを見たとき、とてもお似合いだと感じた。二人に直接祝福の言葉を伝えたとき、同じクラスだったことはあったけれどあまり話したことがなかったはずの桃瀬に握手までされて「ありがとう。」と言われた青井は、少し驚いたけれど、二人が幸せそうでとても良かったと思った。
「……幸せそうだったな。」
「……幸せそうだったね。」
再び、沈黙が流れた。一瞬ざわめきが大きく聞こえる。誰かが会場から出てきてドアを開けたからかもしれない。二人はそれを振り向いてまで確かめなかった。
「私ね、」
沈黙を破ったのはやはり青井だった。お酒を飲んでいるからか、今日は少し饒舌だ。
「高校の時、緑川君のことが好きだったの。」
緑川は、今何も口に含んでなくて良かったと心の底から思った。(もし含んでいたら勢い良く飛び出して、もしかしたら豪勢な料理を台無しにしたかもしれない。)あまりの衝撃発言に言葉を失っている緑川とは対照的に、青井は喋る。
「緑川君は覚えてないだろうけど、私が先生に頼まれた重い荷物を運んでくれた時があったの。」
緑川もはっきりと覚えていた。あの時触れた青井の手の感触を、くっきりと。そして鋭く突き刺さった赤羽の視線も。
「元々少し気になっていたんだけど、あの時好きだなーって、思って。赤くなった顔を見られたくなくて、俯いたりして。」
それは知らなかった。是非見ておけば良かった。緑川はそう思いながら横目で隣を見た。
今日の青井は成人式後と言うこともあり、高校の時は見られなかった化粧をしている。淡い色で縁取られた目元。唯でさえ綺麗な色でその上光っているかのように見える唇。そして、化粧のせいだけではない、お酒が入っているからか、それとも違うのかはわからないけれど、ほんのりと色づいた頬。それらのベースになる肌の色は相変わらず白い。
とても、色っぽかった。高校の頃には感じなかった艶やかさが増している。
半端ない色気をだしながら、そんなことを言ってしまって。とんでもなく無防備な人だ。きっと、あいつも苦労しているのだろう、と緑川は心底同情した。
「でも、今は違う。でしょ?」
「……うん。」
無邪気に笑うその姿は、とても愛らしくて。緑川は思わず手が伸びて頭を撫でてしまいたくなったが、自制した。
「涼香!」
あの時と同じだった。廊下で二人並んで歩いていたとき、突如として現れて、青井を連れ去ったあいつの声。
二人が声のした方を振り向くと、案の定赤羽があの時と同じように仁王立ちしていた。緑川は思わず笑ってしまったが、青井は不思議そうな顔をしている。
「青井さん。」
ベンチから立ち上がった緑川は、自分の方を向いた青井に向かって笑顔で言った。
「ありがとう。また会おうね。」
青井の元を去り、室内へと続くドアの前で相変わらず仁王立ちする赤羽の元へ歩みを進める。思いっきり眉間にしわを寄せ、鋭い眼差しを向けてくる。あの時とそのまんますぎて、ますます笑ってしまう。赤羽はそんな緑川を見て、さらに機嫌が悪そうだ。
「赤羽。」
「何だ。」
「今度こっちに帰ってくるとき、彼女も連れて来ようと思っているんだ。その時お前たちにも紹介したいから、会ってくれるか?」
赤羽はさっきまでの険しい顔があっさりとなくなり、口を半開きにして放心している。その顔をみて、また笑ってしまう。
「ダメかな?」
「あ!いや、いいよ!うん、待ってるよ!」
険しさがまるで皆無の、少しだけ引きつった顔。数学の時間、当てられた時に良く見た気がする。
立ち尽くす赤羽の隣を通り、真っ直ぐに会場の入り口に向かう。後ろをチラッと振り返ると、赤羽がベンチに居る青井の元へ走っていき、そのままとんでもなく情熱的なキスを交わす二人の姿が目に入ってしまい慌てて眼を逸らした。
刺激的なシーンを見ても、緑川の心は痛まなかった。どちらかと言えば、遠い空の下に居る最愛の人を思い出して恋しくなった。
「早く帰って、会いたいなあ。」
同窓会で初恋の人と再会、実は両想いだったと発覚(したところで何も変わらないけれど)
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これにて完結です。
ありがとうございました。