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ベタな二人  作者: オムラ
4/5

重い資料集運びをしていたらさりげなく手伝ってくれた【高校生】



3.重い資料集運びをしていたらさりげなく手伝ってくれた






「よう青井。赤羽どこいったか知らないか?」

「いえ、分からないです。」


青井が職員室の前を通ると、偶々そこから出てきた黒川に声をかけられた。話を聞くと、今日日直の赤羽に授業で使う資料を取りに来るように言ったのにも関わらず全く来る気配がないらしい。


「じゃあよろしく。」

「……。」


黒川は、青井や赤羽に対して昔馴染みのせいか使いやすく思っている節がある。こうして良いように使われるのもしばしばあった。(ちなみに黒川が高校でも何故居るのかと言うと、彼らの通う学校が中高一貫校であったりするのが関係している。彼らの住んでいた村と比べたら人数は多いが、一般的に見て圧倒的に少ない。)

見た目以上に重い荷物に手が疲れてきたと思い始めた頃だった。


「青井さん?どうしたのその荷物。今日の日直って青井さんだっけ?」


四苦八苦している青井に話しかけてきたのは、同じクラスの緑川楓だった。眼鏡をかけて真面目そうな風貌の緑川は、見た目通り真面目な性格で、クラス委員を務めるしっかり者だ。


「今日は、元気が日直なの。」

「あーなるほど。」


青井が苦笑いで返すと、緑川もすぐに納得した。それほど、当たり前のことなのだ。


「手伝うよ。」

「……そうしてもらうと助かる、な。」


青井の手は限界に近かった。

緑川が青井から荷物を受取るとき、少し手が触れ合った。緑川は思わずおドキッとしてしまったが、それを表に出さないように努めた。

緑川は、青井のことが少し気になっている。中学校では同じクラスになれず、高校になってから初めて同じクラスになり、席替えで偶々近くの席になってからよく話すようになってから、意識するようになった。

何も手を入れていないという、真っ暗な少し癖のあるふわふわした髪。その下ろした髪の隙間から見える、白くて細い首。涼しげな眼もとと、対照的に豊かなピンク色の唇。そして大人びた雰囲気に、惹かれる男子は少なくない。緑川もその一人で、手伝いを申し出たのも少しだけ下心があったりする。少しだけ。

……この時、緑川は自分の感情を隠すことに必死で気付くことが出来なかったが、青井の頬はやや赤らんでいた。それに気付いたら、未来は大きく変わっていたのかもしれない。




***


談笑しながら廊下を歩く青井と緑川の前に突如現れたのは、二人がこうして荷物を運ぶ原因だった。


「涼香!」

「わ、元気。急に出てこないでよ、びっくりするじゃない。」


いつもの無邪気な笑顔は鳴りを潜め、の赤羽が仏頂面で仁王立ちしている。赤羽は鋭い眼差しで緑川に一瞥やると、その存在に気付いてないかのようにすぐに青井に話しかける。


「その荷物何?」

「元気が黒川先生の所に行かなかったせいで、私たちが運ぶことになったの。私はともかく緑川君にはちゃんとお礼を言ってよ。」


それを聞いた赤羽は、眉間にしわを寄せ不服な様子を隠しもしない。緑川は初めてみるいつもは天真爛漫な印象が強い赤羽に驚いていた。


「悪かったな。後は大丈夫だ。」


赤羽は緑川の持っていた荷物を乱暴に取り去り、青井に「行くぞ。」と声を掛けてさっさと背中を向けて行ってしまった。


「元気、何でそんなに偉そうなの。ごめんね、緑川君。ありがとう。」


足早に去っていく赤羽とそれを追いかける青井。二人に取り残された緑川は、呆然と二人の姿を見送った。

二人の背中が見えなくなり、緑川は一人ごちた。


「あれは……無理だろうな。」


気になっている女の子のすぐ近くには強い絆で結ばれた番犬。恋に奥手な青少年には、中々手を出しにくい。想いが大きくなる前に、その想いは仄かなまま、青春の想い出として大事にしまっておこうと、緑川は誓った。




***


「元気、どうしたの?気分でも悪いの?」

「……わからない。」

「え?」

「わからないけど、何かもやもやする。」

「え、何か変なものでも食べた?保健室に行く?」


赤羽は普段よりテンポの速い歩みを止めて、隣に同じく止まった青井の顔を見つめる。自分の顔を心配そうに見つめる青井を見つめ返すと穏やかな気持ちになった。眉間のしわもなくなり、下がっていた口角も元通りになるのがわかる。


「治った。」

「そう?なら良いんだけど、具合悪かったら我慢しないでよ。元気はいつも限界まで我慢するんだから。」

「おう。」


さっきとは真逆の、普段通りの笑みで返事をする赤羽に、安堵する青井。無自覚な想いを自覚するには、少し時間がかかりそうだ。






3.(幼馴染のせいで)重い資料集運びをしていたらさりげなく手伝ってくれた(のは真面目な委員長でした)

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