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ベタな二人  作者: オムラ
2/5

授業中指されて戸惑っていたら助けてくれた【中学生】



1.授業中指されて戸惑っていたら助けてくれた







それは、数学の授業の時だった。壇上にいるのは黒川――赤羽と青井が居た小学校の教師と同一人物だ。二人の卒業と同じく黒川も卒業、そしてそのまま同じ中学の教員となった。こうなることを見据えて、ちゃんと教員免許を取得していたらしい。

その黒川が公式の説明をしながら板書もしている。最近になって、内容がより数学らしくなってきていた。それまではどこか算数の印象が強く、追いつけなくなる人はいなかったのだが、そろそろ怪しくなってくる者もいる。

公式の説明を一通り終え、練習問題を解くことを指示された。合計3問。黒板には教科書に書いてある練習問題と同じ数式が書いてあり、その横には名前が書いてある。その名前の主は各自ノートで3問解き終わった後、前に出て黒板に途中式と答えを書くということだった。

皆必死に問題を解いている中、一番前の席に座る青井(ちなみに席替えはまだしていないので出席番号順だ)は少し戸惑っていた。練習問題の中の一番最後にある、やや難しい問題を当てられたのにも関わらず解けない、ということではなかった。数学が得意であると最近思い始めている青井にとって、この問題は苦ではなかった。

では、何故か。

それは、後ろの席にあった。


「赤羽。」

「んー?どうした先生。」

「そのセリフそのままお前に返すぞ。」


生徒の様子を、教室をぐるっと回りながら見ていた黒川が青井の席の近くに来た時、青井の後ろの席に座る赤羽に声をかけた。青井が戸惑っている原因だ。


「さっきから何で問題を解かずに青井の背中を指で刺しているんだ?」

「へへへー何でだと思う?」

「そんな意味深に言っても先生聞かないぞ。とにかく問題解け。お前一番最後の問題当たってるんだからな。」

「え、ほんと?」

「本当だ。先生嘘つかない。」


赤羽は黒川の言葉に、慌てて青井の背中に指を指すのを止めて問題を解き始めた。数学があまり得意ではない赤羽には少し難易度が高かった。その数式を見た赤羽は頭を抱えて唸り出した。

その一連の流れを見ていたクラスメイトが笑っている。中には既に全て解き終わった者も居て、そのまま小さな声で答え合わせをする者も居た。


「珍しいな、青井。注意しないなんて。」


問題が全く解ける様子のない赤羽を無視して、黒川は不思議そうに前の席に居る青井に話しかけた。

普段であれば、悪戯をする赤羽を止めさせるのは青井だった。悪戯されている張本人であれば猶更だった。


「……すみません。」

「いや、良いんだよ。さあ。問題解けよ。もう終わっている奴もいるぞ。」

「はい。」


まだ一文字も書けていない赤羽を尻目にさらさらと問題を解いていく青井。赤羽が悪戯をしていなければ、クラスで一番に解き終えていたかもしれない。

黒川にも言われたとおり、何故注意しなかったのか。それは、赤羽が指で背中を刺していたのが、ただ適当にしていたのではなく、何か文字を書いているようだったのだ。線ではなく点だったので、今一その文字が認識できず、気になって無視することも出来ずについつい背中に集中してしまったのだ。

結局その文字はわからなかった。でも赤羽のことだ。きっとくだらないことなのだろう。きっとではなく確実に。

青井が全ての問題を解き終えて黒板を見ると、1問目と2問目を当てられた人は既に書き始めていたが、3問目には人がいなかった。赤羽はまだ唸っているばかりで、それを見かねた隣の席の子が手助けしようとしているところだった。




***


何人かの手助けのおかげで見事に解答を導き出した赤羽が黒板に書き、先生の解説が終わったところでチャイムが鳴った。

号令で授業が終わり、次の授業までの休憩時間になる。

青井がさっさと数学の教科書をしまい、次の英語の準備をしていると、後ろの赤羽の元に人がやってくる。


「赤羽お前よくやったな!俺嬉しいよ!お前があんな難しい問題解けるだなんて!」

「ありがとう!俺、ちょっと頭良くなったみたいだぜ!」

「おーい馬鹿にされてるの気付けー」


赤羽は裏表のない明るい性格で、男女問わず好かれている。赤羽の周りはいつも笑いが絶えず、笑いの中心はいつも赤羽だ。


「そう言えばさっき青井さんの背中刺して何やってたの?嫌がらせ?」

「ちがーう。面白いこと思いついたから涼香に教えてやろうと思って。」

「何。」


青井は振り返ってそれを聞こうとした。


「りょーかちゃん」


目の前に居たのはいつの間に来たのか、女の子が二人。


「ん?」

「さっきものすごい勢いで赤羽に背中突っつかれてたけど大丈夫だった?」

「赤羽馬鹿だから手加減しないもんねー」


青井と赤羽の席は前後。つまりは二人の声も丸聞こえで。


「おい、赤羽のこと馬鹿って言うなよな。」

「そうだぞ!馬鹿って言うよりアホって言ったほうがしっくりくるぞ!」

「あ、本当だね。」

「しっくりくるわ。」

「流石に馬鹿にされてるって気づいたぞ!皆して酷い!」


赤羽を囲んで生まれた笑いに、青井も入っている。

中学に進学したての時、青井は戸惑っていた。一クラスの人数だけで村の人数とさほど変わりがないので、教室にいるだけで圧倒された。全学年が体育館に集まった時も圧迫感を覚え、少し眩暈がしたほどだった。

そして、赤羽以外の同年代の子たちに接するのが初めてでどうしたら良いのかわからなくて、立ち尽くしてしまった。

そんな時、赤羽に救われたのだ。無邪気な振る舞いであっという間にクラスに馴染んだ赤羽は、青井にも変わらず接してきた。赤羽に連れられ、クラスの輪に入ることが出来、少しずつ慣れてきた。親しい友人もできた。赤羽がいなかったら、そう思うと青井は怖い。でも、赤羽はいる。青井と共に同じ中学校に進み、同じクラスにいる。ついでに黒川も。

青井は感謝した。恥ずかしくて口には出せなかったけれど、ずっと赤羽には感謝する。大事で大切な、大好きな幼馴染を。








授業中刺されて戸惑っていたら助けてくれた(先生に感謝)

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