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第七話 契約の儀式

 儀式も大事だが、先に支払いを済ませておこう。 俺は宝石袋と金貨袋をミレイさんに渡した。

「宝石五個と金貨二千五百枚になります。 確認をお願いします」

「はい、確かに頂戴致しました」

 ミレイさんは袋の中を簡単に確認すると、それを別の部屋の従業員に渡した。


 なんか金貨の枚数を数えなかったけど、俺を信用してくれているのか。

 それとも持った重さで金貨の枚数が分かるとか……まさかな。


「代表、準備が終わりました」

 女魔術師がミレイさんに報告する。 

 今のやり取りの間に、部屋の中央に大きな魔方陣を描いていたようだ。


「ご苦労様。 ではリョウ様とレティシアは魔方陣の中へどうぞ。 中に入ったら魔法陣の中央で向かい合って下さい」

 言われた通りに俺とレティシアは魔方陣の中央で向き合った。 

「今から契約コントラクトの術式を発動させますので、呪文を唱え終わったら、契約の口付けをお願いします」


 口付け……だと……? 師匠から儀式の事は教わってたけど、口付けがあるなんて聞いてないんだが。

 儀礼的な意味合いだろうか、それとも粘膜同士を接触させないといけないとか。

 まあいいか、両方に対応しておけば。




 ミレイさんの合図を受け、女魔術師は契約コントラクトの呪文を唱え始めた。

「汝レティシアは魔術師リョウの奴隷として契約を結ぶものなり。 汝が死すその時まで契約は破られること無し」


 俺は目を閉じ恥かしさに真っ赤になっているレティシアを抱き寄せ、口付けをした。

 最初は浅く、そしてだんだんと深く。 わずかに開いた口の隙間から舌を滑り込ませる。

 レティシアはピクリと震えたが、構わず舌をレティシアの舌と絡ませた。


 その時、契約コントラクトの術式は完成した。

 俺の左手の甲に焼けるような痛みが走る。 確認するとそこには複雑な紋様が描かれていた。

「これで契約の儀式は完了です。 リョウ様の手の紋様とまったく同じものが、レティシアにも刻印されているはずです。 この刻印はご主人様と奴隷の契約を証明するものであり、いかなる魔術をもってしてもそれを消し去る事は出来ません」


 俺はレティシアの手袋を外して確認してみた。 確かに俺の紋様と寸分違わず、同じデザインの紋様が左手の甲に刻印されていた。

 まあ私は奴隷です、って他人に吹聴する必要も無いしな。 普段は手袋をさせておけばいいか。

 まさか師匠は、これを見越して手袋を採用していたのか? いや……それは無いな、師匠だし。




「次はリョウ様とサクヤですね。 先程と同様に魔方陣の中央へどうぞ」

 俺とサクヤはレティシアの時と同じように魔方陣の中央で向き合った。

「汝サクヤは魔術師リョウの奴隷として契約を結ぶものなり。 汝が死すその時まで契約は破られること無し」

 再度、女魔術師の契約コントラクトの呪文が唱えられる。


 サクヤは俺にそっと寄り添うと、上目遣いに見てくる。

 その頬は朱に染まり、潤んだ瞳は俺をじっと見詰めていたが、やがてゆっくりと閉じられた。

 俺はサクヤを抱きしめると、唇をサクヤの唇と重ね合わせた。


 角度を変えながら深い口付けを交わし、わずかに口を開けさせるとそこから舌を進入させる。

 誘うようにサクヤの舌先に触れると、サクヤはギュッと俺にしがみついてきた。

 それでもなお誘い続けると、根負けしたのか、おずおずと舌を俺の舌に絡ませてきた。


 契約コントラクトの術式が発動する。

 またしても左手の甲に痛みが走り、レティシアのとは違う紋様が並ぶようにして刻印されていた。

 サクヤの左手を見ると、俺と同じ紋様が刻印されている。 サクヤは嬉しそうにその刻印を眺めていた。



 

「これで最後になります。 リョウ様とフィーネは魔方陣の中央へお進み下さい」

 魔方陣の中で向き合う俺とフィーネ。 三度目の契約コントラクトの呪文が唱えられる。

「汝フィーネは魔術師リョウの奴隷として契約を結ぶものなり。 汝が死すその時まで契約は破られること無し」


 フィーネは俺に抱きつくと、ペロペロと俺の顔を舐め始めた。 耳はピンと立ち、尻尾も大きく揺れている。

 いやいやいや、違うから。 口付けだから。

 ってか、フィーネって人見知りじゃなかったのか。 少しは俺に気を許してくれたのかな。


 俺は片手でフィーネの頭を抱きかかえると、やや強引に口付けした。

 最初はわたわたと暴れていたフィーネも、唇を触れ合わせるうちに、だんだんと大人しくなっていった。

 頃合を見計らって、唇の隙間から舌を進入させる。

 最初は戸惑うようなそぶりを見せたが、やがて従順に舌を俺の舌と重ね合わせた。


 そして契約コントラクトの術式が発動し、俺とフィーネの左手の甲に、同じ紋様が刻印された。

 これで三人にはそれぞれ異なる紋様が一つずつ、俺にはその全部が刻印されたわけだ。




 ミレイさんは女魔術師を退出させると、俺の前に立ち、にっこりと微笑んだ。

「これで三人はリョウ様の奴隷になりました。 以上で契約の儀式は終了です、お疲れ様でした」

 ああ、やっと終わったか。 正直疲れた。


 だが、ミレイさんの話には続きがあった。

「最後に一つだけ。 先程も申しましたが、三人にはそれぞれ深い事情がございます。 そのご説明をしたいと存じますが、よろしいでしょうか」

 うーん、深い事情ね……。 ここでミレイさんの口から聞くのは違うような気がする。


「いえ、折角ですが止めておきましょう。 本人の意向を確認せずに聞くわけにはいきません。 三人が話してもいいと思った時に、聞きたいと思います」 

 ミレイさんは納得したように頷くと、しかし真剣な顔で俺を見た。

「分かりました、ではせめてこれだけでも。 リョウ様が信用できる方以外には、三人を見せない事をお勧めします」


 うわ、なんかやばそうな臭いがプンプンするなぁ。

 まあでも、最初から俺の奴隷は守ると決めてたし、やる事に変わりは無いけどな。

「ご忠告感謝します。 気をつけましょう」

 それでも俺の為に言ってくれた事だ、感謝は伝えておこう。




「よし、これで全部終わったな。 それじゃあレティシア、サクヤ、フィーネ、塔に帰ろうか」

「「「はい、ご主人様」」」

 やる事は全て終わり、退室しようとしていた俺達に、ミレイさんが慌てて声をかけた。

「リョウ様、そのローブは彼女達の物ですので、そのままお使い下さい」


 それは助かる。 ミレイさんの話を聞く限り、三人は外での露出は控えた方がよさそうだからな。

 ありがたく貰っておく事にしよう。

 俺はフード付の灰色のローブを受け取ると、三人にそれをメイド服の上から着させた。 当然フードも深くかぶらせ、顔を隠す。

 これでとりあえずは大丈夫か。


 さて後どうやって帰るかだが……。 考える俺に、ミレイさんが話しかけた。

「私共の商会にも転移部屋がございます。 すでにリョウ様を登録しておりますので、いつでもご利用下さい」

 なにこのタイミングの良さ。 この人、読心も出来るんじゃないだろうな。


「それは助かります、帰りに使わせてもらいましょう。 それで転移部屋はどこにありますか」

「転移部屋は、いったん入り口を出られまして、そのすぐ右隣になります。 扉には鍵はありませんので、ご自由にお使い下さい」

 よし、これで帰路も確保した。 っとそうだ、三人を塔の結界に入れるようにしておかないと。


 俺は三人が結界を自由に出入りできるよう許可をした。 これをせずに塔内に転移すると、結界に弾かれて大変な事になるからな。

 ともあれ、これで後は帰るだけだ。

 俺達はミレイさんの案内で、長い時間居る事になった応接室を出た。


 受付がある大広間に出ると、商会の従業員らしき数十人もの人が、奥から入り口まで整然と並んでいた。

 俺達が入り口までいくと、ミレイさんを先頭に、他の従業員がその後ろにずらりと整列する。

 そしてミレイさんを含む全員が、俺達に向けて深々と頭を下げた。

「「「ありがとうございました。 またお越し下さいませ」」」


 うわ、ここまでやるかラーカイル商会。 従業員の教育は凄いと思うけど、流石にそこまでされるとこっちが恥かしいだろ。

 俺は三人をうながすと、そそくさと商会を後にした。

書き溜めたストックが無くなりましたので、次回から不定期更新になります。

このお話を読んで下さった方や評価して下さった方、本当にありがとうございます。

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