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第六話 決断

 俺はハッとして顔を上げた。 いや、頭を抱えている場合じゃない。 冷静になれ、考えるんだ。

 今までの会話で十分な材料ヒントは得たはず。 後はそれをどう料理するか、現状の手札を最大限活用しろ。

 俺はミレイさんに向き直ると、ポーチから小さな袋を取り出した。


「この中に宝石があります。 こちらでの支払いは可能ですか」

「はい、もちろんでございます。 中を確認させて頂いてもよろしいでしょうか」

 宝石袋をミレイさんに渡す。 ミレイさんは袋から宝石を出すと、一つ一つ丹念に確認していった。

 鑑定のスキルも持っているのか、凄いなミレイさん。

 

「そうですね……、一つにつき金貨百枚。 八個ありますので金貨八百枚でいかがでしょう」

 ずいぶんざっくりした計算だけど、それはこちらとしても有り難い。

 俺はゆっくりと息を吐くと、五人の奴隷達を眺めた。 そしてその印象や態度、会話や心の声を思い返す。

 さあ決断の時だ、ここでの判断が俺の人生を決めると言っていい。 俺は慎重に自分の心に問いかけた。

 やがて心の中に浮かぶ顔とその名前。 よし、――決めた!


「それではこの宝石のうち五つと金貨二千五百枚で、レティシア、サクヤ、フィーネの三人を身請けします」


 それを聞いた三人の反応は様々だった。 レティシアは喜び、サクヤは微笑み、フィーネは驚いていた。

 残る二人はと見ると、互いを見て安堵したようにほっとため息をついていた。

 よかった、俺の判断は間違ってなかったようだ。


 三人を選んだ一番の理由は、自己紹介をした後の俺への挨拶だ。

 レティシア、サクヤ、フィーネの三人は俺をご主人様と呼び、アナスタシアとカエデの二人は俺をリョウ様と呼んだ。

 前者は俺の奴隷になる事を望み、後者は俺の奴隷になる事を望まなかった。

 五人は挨拶の中に自分の意思を表し、俺にヒントをくれていたんだ。


「かしこまりました。 それでは契約の儀式の準備をいたしますので、三人とこちらでお待ち下さい」

 そう言うとミレイさんは、アナスタシアとカエデを連れて部屋を出て行った。


 ミレイさんが退室すると、三人は俺の前にやってきて深々と頭を下げた。

「「「私達を身請けしてくださってありがとうございます、ご主人様」」」

「俺も君達のご主人様になれてうれしいよ。 これからよろしく頼む」

 俺達はにっこりと微笑み会う。 この瞬間の為に異世界に来たんだ、と俺は思った。




 さて、ミレイさんが戻ってくる前に、やれる事をやっておかないとな。

 俺はポーチから金貨袋と衣服を三着取り出すと、テーブルの上に乗せた。

「縮小されし物よ、本来の大きさに戻れ」

 拡大エクスパンションの術式を発動させ、金貨と衣服を実際のサイズへと戻す。


 俺は衣服を取ると、三人に一着づつ手渡した。

「レティシア、サクヤ、フィーネ。 これが俺の奴隷の衣装になる、さっそく着てもらっていいか」

 マントの下は裸だし、ちょうどいいタイミングだろう。


「ご主人様、これはどうやって着ればいいですか」

 レティシアがショーツを持って、戸惑いながら聞いてくる。

 うーん、日本製だから分からないのか? まさかエルフは下着を身に着けないって事は無いよな。

「これはショーツといって、こうやって穿くんだ」

 まさか下着の身に着け方から教える事になるとは思わなかった。 


「みんな穿いたな。 次はこの服だ、まず上半身にこれを着て、その後このスカートを穿く」

「ご主人様、スカートはこの後どうすればいいのでしょう」

 サクヤはスカートを腰まで持ってきたものの、その後どうすればいいのか分からないようだ。

「これは横にファスナーというものがあって、こうやって上にあげればいい」

 確かに異世界にはファスナーなんてものは無いだろうし、これは分からないだろうな。


「最後にこの手袋と靴下を身に着ければ完成だ」

「ご主人様、これでいいですか」

 フィーネが靴下を首に巻きつけながら、ドヤ顔で聞いてくる。

「いや、これはロンググローブていって手に、こっちはニーソックスっていって足に着けるんだ」

 もはや気分は保父さんだ。 なんともいえない気分で、フィーネに身に付けさせる。


「よし、着終わったな。 みんな似合ってるぞ」

 褒められて三人とも嬉しそうだ、フィーネなんかは尻尾をブンブンと揺らしている。

 あ、その振動でスカートが脱げそうだ。 尻尾対策が必要だな、後で手直ししないと。


 改めて、服を身に付けた三人を眺める。 服は黒を基調としたメイド服だ。

 俺はオーソドックスなメイド服が良かったんだが、師匠の横槍が入って独自のアレンジが成された。

 まず全体的に身体のラインが出るようなタイトな素材になり、スカートはロングからミニへ。

 更にはロンググローブにニーソックスと、どう見てもアキバ系メイド服ですありがとうございました。



 

 次に俺は八個の宝石をテーブルの上に並べた。

「支払いは金貨と、この宝石のうち五つで行われる。 つまり三個の宝石が余ることになるわけだ。 そこでだ、君達にこれをプレゼントしたいと思う。 好きなのを一つ選んでくれ」


「こんな高価なものをよろしいのですか」

 サクヤが遠慮がちに聞いてくる。

 なかなか奥ゆかしいな、サクヤは。

「これで君達が喜んでくれるなら安いもんだ。 遠慮なく受け取ってくれていい」


「ご主人様、ありがとうございます」

 レティシアは素直だ。 俺に礼を言うと、楽しげに宝石を見比べ始めた。

「嬉しいです、ご主人様」

 おいフィーネよ、嬉しいのはいいんだが、尻尾の振りすぎでスカートが落ちてるぞ。

 溜息を吐きながら、フィーネのスカートを上まであげてやった。


 なんだかんだで、三人ともそれぞれ好みの宝石を選んだようだ。 

 レティシアはエメラルドのような透明感のある緑色の宝石、サクヤはルビーみたいな赤く光る宝石、フィーネは銀色に輝く宝石を選んだ。

 三人は目を輝かせながら宝石を眺めている。

 女性が光り物を好きというのは、どちらの世界でも同じみたいだな。 こんなに喜んでくれるなら贈ったかいがあるというものだ。

 これで手持ちの金貨と宝石は全て使い切ったが、日常生活は魔術や日本から持ってきた物でなんとかなるし、まあ大丈夫だろう。


 しばらくすると、ミレイさんがローブを着た女性の魔術師を引き連れて部屋に入ってきた。

「あら、その服はいったい――」

 ミレイさんが三人のメイド服を見て驚いている。 そりゃ日本製のメイド服を見たらびっくりするよな。

「この時の為に、事前に用意してたんですよ」


 答えつつも、女魔術師を油断無く観察した。 おそらく契約の儀式を行う為のミレイさん専属の魔術師だ。

 彼女らの使う契約コントラクトの術式は、奴隷契約には欠かせない。 その秘術は門外不出で、とある一族の者しか使えない。

 その魔術師が出てきたという事は、これから契約の儀式が始まるんだろう。

 俺は改めて気を引き締め直した。

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