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第四話 五人の女奴隷(上)

 はたしてあれからどれだけの時間が経ったのか、先程のミレイさんの発言の意味を考え込んでいた俺は、ドアが開く音で我に返った。

「大変お待たせ致しました。 五人を連れてまいりました」

(この娘達を見たら、リョウ様は驚くかしら)


 ミレイさんに先導されるように五人が入ってくる。 奴隷達は座っている俺の正面に、等間隔で横に並んだ。

 五人は全員灰色のフード付のマントを着用していた。

 フードを深くかぶり、マントで全身を包んだその姿からは、外観を知ることはほぼ不可能であった。

 なんか嫌な予感がするんだが……。


 ミレイさんは五人を見ると、全員に指示を出した。

「それではみなさん、マントを脱いで下さい」

(きっとリョウ様に満足していただけるはず)

 奴隷達はのろのろとマントを脱ぎだした。 そして完全にマントを外した五人を見たとき、俺は危うく吹出しかけた。


 ――奴隷達は全裸であった。


「ぐふっ」

 俺はもれそうになる声を抑え、あわてて平静を装う。

 あぶねぇ、集中しろ!

 危うく術式が解けてしまうところだった。 ……気をつけないと。


 俺は改めて五人を観察すると、驚きの余りあんぐりと口をあけた。

 そこには圧倒的な美があった。

 全裸だというのに微塵みじんもいやらしさを感じさせず、むしろ絵画や彫刻で表現された芸術作品のようであった。


「ごらんのように私共の商会は、奴隷に関しましては大陸一と自負しております。 コンディションも完璧で、怪我や病気はもちろん、しみや傷ひとつございません。 当然のことながら全員生娘で、その確認は私自ら行いましたのでご安心下さい」

(ふふっ、リョウ様の驚きよう。 まずは顔合わせは成功って所ね)


 確かにミレイさんが言うように、五人の状態は申し分なかった。 

 商会で高待遇だったのだろう。 髪は艶やかだし肌にも張りがある、なにより清潔感が感じられた。

 さすがは大陸最高の五人、いやさすがはラーカイル商会と言うべきか。




「それでは端から順に自己紹介をします。 レティシア、リョウ様の前へ」

(みんな、これからが正念場よ)

 ミレイさんにうながされ、左端の娘が俺の目の前に進み出る。

 ってか近ぇ! ソファに座ってる俺の目の前に胸があるんだが。 そんな距離で大丈夫か。


(わわ、近づきすぎだよあたし。 なにやってるの)

 心の声に思わず見上げると、娘と目が合った。

 レティシアと呼ばれたその娘は、羞恥に頬を染めながらも、気丈に俺を見つめていた。


 レティシアの容姿は、長い金髪と優しげな青い目、高すぎず低すぎずな鼻に小さな唇といったところだが、なんといっても特徴的なのがその細長い耳であった。

 エルフだ。 その美貌と可憐さは流石さすがとしか言い様がない。

 レティシアは意を決すると、自己紹介を始めた。


「あたしはレティシアといいます。 エルフで、年は百七十二歳になります」

(うぅ、恥かしい……。 でも頑張って選んでもらわないと)

 そう言うと俺の目の前で、くるりと回った。

 エルフなだけに細身だがスタイルは良い。 身長は百六十くらいか、胸の大きさは普通だが身体が細いので大丈夫だ問題ない。


 百七十二歳って言ってたけど、エルフの年齢は十分の一すれば人間の年齢に換算できるって師匠が言ってたから、十七歳か。 俺とさほど変わらないな。

 最後に一礼して、レティシアの自己紹介は終了した。

「よろしくお願いします、ご主人様」

(あたしを選んでください、ご主人様)




「はい、それではレティシアは下がってください。 次はサクヤですね」

 レティシアが列に戻ると、その隣の娘が俺の前に出る。

 サクヤと呼ばれたその娘を仰ぎ見た。

 身長はレティシアより少し高く百六十半ばくらい、髪は黒のロングで前髪をまっすぐ切りそろえている。

 魅惑的な黒い瞳に、すっきりと通った鼻、艶やかな赤い唇は和風美人といった風情である。


「リョウ様、お初にお目にかかります。 サクヤと申します。 ヤマト国出身の巫女で、年は十八です」

 ヤマト国っていうと、大陸の東にある島国だ。 たしか日本みたいに独自の文化が発展しているはず。

 サクヤは全てを見通すかの様な目で、俺を見詰めた。

(この方が大賢者のお弟子様。 貴方が私のご主人様に相応しいか、しかと見届けさせてもらいます)


 サクヤも同じように、俺の目の前でゆっくりと身体を一周させた。

 ふわっと甘い香りが俺の鼻をくすぐる。

 誘われるようにして見た俺の目に飛び込んできたのは、豊かな胸と引き締まった腰つき、そしてすらっと伸びた足であった。


 だがこれは罠だ、心の声を聞いたから分かる。

 俺は真剣な表情をすると、鋭い眼差しをサクヤに向けた。 対するサクヤも俺の目を見返す。

 そして互いに見つめ続けたが、しばらくすると先にサクヤが目を伏せた。

(こ、こんなことって……)

 見上げると、サクヤの頬が朱に染まっていた。


「さすがはリョウ様。 私の意図など見抜いておられたのですね、貴方様を試した事お許し下さい」

(完敗です、私の外見に惑わされなかったのは貴方が初めて)

 ふぅ、危なかったがなんとかなったか。


 最後にサクヤは深々と頭を下げた。

「ありがとうございました、ご主人様」

(貴方なら私の全てを受け止めてくださるでしょうか)




「次はアナスタシアです。 サクヤは後ろへ」

 サクヤは列に戻り、その隣の娘が前に出た。

(嫌っ、見ないでください!)


 いきなり飛び込んできた心の声。

 アナスタシアと呼ばれた娘は、今にも泣き出しそうな顔で瞳を潤ませ、その身体は小刻みに震えていた。

 うわぁ……、なんだか凄い罪悪感が。 俺は深く溜息をついた。

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