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第一話 異世界転移

 軽い浮遊感の後、気付いたら俺は魔方陣の上に立っていた。

 辺りを見渡すと、まわりを石壁で囲まれた薄暗い小部屋であった。

 他に目に付くものといえば部屋の出入り口と思わしき扉と、その反対側の壁にある小窓くらいだ。

 

 小窓から外を覗いてみると、窓のはるか下に建物を囲むようにして深い森が見えた。

 師匠の説明通りだ、ここは師匠の塔の空間転移用の部屋だろう。


 本来転移部屋とは、空間転移テレポートの術式の目標地点として作られた物である。

 転移する為には空間座標を指定する必要があるが、転移部屋に登録しておくと自動オートで空間座標を計算してくれ、楽に転移をする事が出来るのだ。

 俺は塔の転移部屋に登録はしてないので、今回は師匠に空間座標を聞いてやって来たのである。

 ともかく俺は異世界転移に成功したようだ。




 それでは早速師匠にコンタクトを取とろう。 と思ったそばから、部屋の入り口に老人が立っていた。

 俺に気配を感じさせないとはさすが師匠、そして対応も早い。

 師匠は俺を胡散臭そうに眺めている。

「何者じゃ? いきなり転移術式の気配がしたと思うたら、見知らぬ男が立っておったわい」


 まだ師匠は俺が弟子だとは知らない、ここは丁重にいくべきだ。

「お初にお目にかかります、私は魔術師の高木稜たかぎりょうと申します。 さる重要な目的を遂行すべくこちらに伺いました」


 師匠は一瞬驚いたような顔をすると、興味深げに俺を見た。

「ほう、わしに対して物怖じせぬとは――。 面白い、用件を話してみよ」

 よし、まずはファーストコンタクトに成功! 俺はこれまでの経緯を師匠に話し始めた。




「なるほどのぉ、おぬしがわしの弟子であったとは」

 転移部屋で簡単な説明をした後、俺は塔の応接間に通された。


 塔は地上三十階建てで、その中央の十五階に転移部屋がある。

 塔には階段は無く、塔内の移動は転移装置テレポーターによって行われる。

 あの後転移部屋を出ると、通路にはトイレの個室程の大きさの二十九の小部屋が有り、その内の一つが応接間につながっていた。

 小部屋の扉には十五を除いた一から三十までの数字が書かれており、各部屋に入るとその数字の階に転移されるしくみである。

 

 応接間は先程の部屋の何倍も広く、豪華な調度品で飾り付けられていた。

 部屋の中央には上質な本皮で出来たソファがあり、そこに俺と師匠は対面で座っている。


「信じてくださってありがとうございます、正直助かりました」

 最初は半信半疑といった風であったが、師匠から譲り受けた数々の品や日本の家電品を見せたらようやく信じてくれたようだ。

「決め手は奴隷じゃな、奴隷好きに悪人はおらぬ」

 そっちかよ! そりゃ確かに奴隷の話で師匠と意気投合はしたけれども。

 生暖かい目で師匠を見てしまったのは無理からぬ事と思う。


 その後は予定通りに進んでいった。

 師匠から塔の各部屋の案内・説明をうけ、貴重品(金貨や宝石、魔術書など)の場所やその管理方法を教えてもらった。

 日本でも教えてもらっていたが、実際に現地で見るのはまた違う。

 全ての引継ぎが終わったのは、もう日も暮れようとしている頃であった。




 再び応接間に戻ってきた俺と師匠、窓からは夕日が差し込んでいた。

 ちなみに窓といってもガラス窓がある訳も無く、日光が入るように壁に穴を開け、そこに木の扉をつけた簡素な物である。

「さて、これで引継ぎも終わったかの」

 さすがに師匠もお疲れのご様子だ、長々と話した後に塔の案内だからな。

「お疲れ様でした、後は師匠がいつ日本へ行かれるかですが――」


 何言ってんの君、みたいな顔で俺を見る師匠。

「ん? 今から行くわい、早いほうがいいじゃろう」

 前言撤回、元気すぎだろこの人……。


 とはいえ実際に俺が異世界へ来た日に、師匠は日本へ行ったと聞いている。

 来てすぐ別れるというのも寂しいが、ここで俺が引き止めるとおかしな事になる。

 俺は師匠に了解の旨を伝えた。




 俺と師匠は再び転移部屋へとやって来た。

 師匠は複雑な魔方陣をいとも簡単に描くと、時空間転移タイムトラベルの呪文を唱え始めた。

 新たな世界へ行く事に興奮してるのか、師匠は目を輝かせ、微笑をたたえた顔で俺に告げた。


「それでは後を頼むぞ、我が弟子リョウよ。 さらばじゃ」

「はい、お任せください師匠!」

 俺が答えるや否や、まばゆい光だけを残し師匠は日本へと旅立って行った。


 後にはしんと静まり返った塔と、疲れきった俺が残されていた。

 今日はハードだったな。 さすがに疲れたし、軽い食事をとって寝るとしよう……。

 足を引きずりながら師匠が使っていた寝室へたどり着くと、服を脱ぐ間も惜しんでベッドに倒れこんだ。

 ああ面倒くさい、飯ももういいや。

 ものの数分と経たないうちに、俺は睡魔にのまれていった。




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