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第九話 ヤマトの巫女

「……様、ご主人様」

 呼ぶ声に誘われるようにして意識が覚醒していく。 目を開けると三人が俺の顔を覗き込んでいた。

「ああ、やっと起きました」

 レティシアがほっとしたようにつぶやく。


「おはよう……と、その前にみんなまず退こうか」

 寝る前と同じ体勢じゃないか、これじゃ身動きが取れない。 というか色んなとこが柔らかいものに包まれて、色々と不味い。

「はい、ご主人様」

 返事良くフィーネが毛布をめくって俺の上から降りようとするが、よろける様にしてベッドの上に突っ伏した。


「どうした、大丈夫かフィーネ」

 上半身を起こしてフィーネを抱き上げる。

「痛いです、ご主人様」

 フィーネがお腹を手で押さえて辛そうにしていた。 ああ……そうか、そうだよな。 


「レティシアとサクヤはどうだ?」

 二人を見ると、恥かしげにこくりと頷いた。




「今日は塔を案内しようと思ってたけど、三人がこの状態だと無理かな」

 どうしたもんかと考えていると、サクヤがおずおずと提案してきた。


「ご主人様、よろしければ私の魔法で治しましょうか」

「そういえばサクヤは巫女だったな。 どんな魔法が使えるんだ?」

「はい、私共の国に伝わるシントウという呪術です」


 ――シントウって、まさか神道!?

 国名がヤマトだし、サクヤの名前や外見がまんま日本人だし、おかしいなとは思ってたけどもしや……。

「ひょっとして、そのシントウの開祖って、別の世界から来た人間って事は無いよな」


 サクヤが驚愕に目を見開く。

「どうしてご存知なんですか、ヤマトでもごく一部の者しか知らないのに」

「やっぱりそうか。 まあただの当てずっぽうだ、気にするな」

 ――これで確定した、ヤマトの先祖は日本人だ。 大和時代の日本人がこの世界へ転移してきたのだろう。


「ともかく、やってくれるかサクヤ」

「はい、承知しました。 それでは皆様のみそぎを致します」




 禊とはけがれをはらい、身を清める呪術だ。

 サクヤは立ち上がり目を閉じると、厳かに祝詞のりと朗誦ろうしょうした。

 俺達はサクヤを中心に暖かな光につつまれ、その身を浄化されていった。


 ――朗誦が終わって間も無く。

「凄いですサクヤ、もうほとんど痛くないです」

 フィーネが尻尾を振りつつ喜んでいる。

「あたしも身体が軽くなったみたい」

 レティシアも身体を軽く動かして、感心していた。


 それだけじゃなくて、身体に付着していた汗やら何やらの色んなものまで清められているじゃないか。

「流石だなサクヤ。 ありがとう、助かったよ」

「いえ、そんな……ご主人様のお役に立てて嬉しいです」

 サクヤは顔を赤くすると、控えめに微笑んだ。


 この呪術の威力、これは巫女の中でも相当な使い手じゃないか。

 これ程の巫女が商会で保護されるなんて、よっぽどの事情があったんだろう。

 俺は良いタイミングで商会へ行ったんだな。 彼女を身請け出来たのは幸運だったとしか言いようがない。


 さあやる事はいっぱい控えてる、そろそろ動かないと。

「それじゃ後は、服着て食事して塔を案内しますか」

「「「はい、ご主人様」」」




 それから俺達は軽く食事を取った後、転移部屋のあるフロアの通路へとやって来た。

 石で出来た通路はひんやりとしていて、その両側には数字の書かれた木の扉が数多く存在していた。


「塔には全部で三十階のフロアが有るが、ここが中央の十五階になる。 君らも実際に移動したから分かると思うが、ここから各部屋へ移動する事が出来るんだ」

 説明しながら三人を見る。 よしよし、ちゃんと聞いてるな。


「この通路に並んでいる小部屋の扉には、この階を除いた一から三十までの数字が書いてある。 小部屋の床には転移装置テレポーターが埋め込まれていて、中に入るとその数字の階数のフロアに転移できる。 つまりこの十五階のフロアがハブの役割をしているんだ」

「ご主人様、ハブとは何でしょう」

 レティシアが手を上げて質問する。 なんか授業を思い出すな。


「中継地点と思ってもらえば良い。 どのフロアに行く時もここを必ず通る」

 三人はうんうんと頷いている。 ここまでは分かってくれたようだ。


「では早速一階から説明しよう。 この一と書いてある小部屋に入ろう」

 俺は三人を促し小部屋の中へ入った。




 瞬時に俺達は一階のフロアへと転送される。

「ここが塔の一階、エントランスだ」

 一階はフロアまるごと大きなエントランスとなっていた。

 俺達の足元にある一階の転移装置は塔の入り口の反対側にあり、入り口と転移装置の間には豪華な赤い絨毯が引かれていた。


「こ、これはなんですか、ご主人様」

 フィーネが俺の背中に隠れながら尋ねる。

 震えるフィーネの視線の先には、威圧的に鎮座する銀色の巨人がいた。

 その姿は銀色の全身鎧を着た騎士といった外観だが、その大きさは四メートルもある。

 それが絨毯の両端に整然と立ち並ぶ様は、相当な迫力があった。


「あれはミスリルゴーレムといって、その名の通りミスリル銀で作られた魔法生物だ」

「襲ってはこないんですか?」

 サクヤが油断無く俺の右隣へ並ぶ。

「大丈夫、塔の結界を破って侵入してきた敵だけに反応するから」


「ミスリルをゴーレムにするなんて……」

 レティシアが呆れた様にゴーレムを見やった。

「まあこんな希少価値のある素材を、普通はゴーレムになんてしないよなぁ。 俺の師匠の道楽作品だと思ってくれ」

 まったく師匠は……、無茶しやがって。


「次は二階だな、いったん十五階に戻ろう」

 俺達は一階を見終えると、先程までいた十五階へと転移した。

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