色に悩む
ここから「美晴×芳彰」の話です。
ではどうぞ。
朝いつものように、自分の住むマンション下・・・の交差点付近で待っていると、友人の葵がようやく姿を現した。
・・・何だ、やっぱり聡太くんと一緒には来ないんだな。
あれからもう何日か経つけど、葵が一人で来るのは変わらない。
一緒にくれば、思いっきりからかってやろうって思ってるのに・・・付き合い始めたって事も言ってくれないし、当てが外れっぱなしだ。
まずは普通に『おめでとう』って言ってから、やろうと思ってたんだけど・・・こうなったら前倒してやる。
「ちょっと遅くなったんだけどさ・・・葵、おめでとう、これ私からのプレゼント。」
そう言って差し出した封筒を、葵は少し不思議そうにしながらも受け取った。
「何?」
一目惚れして買った、和色の彩シリーズの花緑青の封筒まで使ってんだ。
・・・レースのデザインが可愛くて、宛名欄の花の箔押しも良くて、コレクションの中でも特にお気に入りの上位にくる1つだ。
「ほらどうぞ、記念写真だよ?」
警戒する葵を促してその時を待つ。ほーらさっさと開けて見てくれ。
何枚も撮った中から、しっかり写ってる物を選んできたんだ。
「何の記念よ?」
何って、そりゃもちろん葵達が付き合い始めた瞬間に決まってるじゃないか。
写真を目にした葵は、当然のように固まる。うんうん、いい反応だ。
「見てたの!?」
「うん。」
「どこからどこまで?」
そう聞かれ、芳彰にカメラを奪われて・・・キスされた事を思い出した。
「最初から・・・ぁ、こ、この写真の辺りまでは・・・。」
結局その後、芳彰の部屋に連れ込まれて・・・
「えーと、うん、まー、大体。」
本当にその写真のとこまでしか知らないよ。
この後どうしたのか気になるけど、私はそれ所じゃなかった。
・・・これ以上何か言うと、私の方が墓穴を掘りそうだ。
あんな事考えながら平然としてられるほど、私はまだ大人じゃない。
でも、これだけは言っておきたい。
「キスまでするとは思わなかった。やるね、聡太くん。」
うん、そこは見直した。
さすが男の子。
・・・そっか、男の子・・・なんだよな。
「おーい、聡太くーん、こっちこっち。」
聡太くんのクラスの入口で手招きしながら名前を呼ぶと、先に航が釣れた。
相変わらず仲がいいんだな。って、私と葵も似たようなものか。
「美晴どしたんだ?」
「あぁ、ちょっと渡すものがあってさ、これなんだけど。」
葵に渡したのと同じ封筒を出すと、航が封筒を取るより前に、突進して来た聡太くんが奪い取った。さすが聡太くんだ、察しがいいな。
「何だ聡太、必死っぽいな?」
「そりゃ、相手が美晴さんだからね・・・。」
驚いた航の質問に対してのその答えは、ちょっと心外だな・・・。
「じゃ、渡したから。あ、そうだ。」
あ、耳届かない。
・・・本当に男の子だな、大きくなるのが早いよ。
航もでかくなっちゃって。
仕方が無いから聡太くんの袖を引っ張って、少し前屈みになった所で耳打をした。
「やるじゃん、見直したよ。」
まったく・・・ずっとウジウジして、全然何の行動も起こさず、妹に苛々されてたのに・・・いざとなったらこれだ。
男の子はよくわかんないなって、現像した写真を改めて眺めて思った。
芳彰の切り替えのスイッチもよく分からないし・・・本当、男は謎の生き物だ。
こいつらも、そのうちに『男の子』から『男』になっていくのか?
いや、もう二人とも彼女いて・・・『男』になるために踏み出してるんだよな。
自分の教室に戻りながら、そんな事を考えている自分がとても恥ずかしくて、誰が気付いてるって訳でもないのに、笑って誤魔化した。
「じゃ、今日の放課後も面談があるので、該当者は勝手に帰ったり、遅れたりしないでくれよ。わざとやってくれたやつは・・・報復を覚悟しとけ。」
朝のHRの先生締めの言葉で思い出した。
そっか、今日だったか。
冗談のように言う報復って言葉はきっと本気だ。あの先生ならきっとやる。
内申書の評価を下げるくらいなら、平気でやりかねない・・・たぶん。
けど、沸いた教室の中で、きっと私一人だけが違う事を考えていた。
進路希望の調査って名目の面談は、今日で3日目。
今日の1番最初なら余裕だけど、3番目・・・。
嫌だな、半端だ。
待つのも、終わる時間も。
もし遅くなったら、芳彰のとこ行けないかもしれない。
・・・でも、行くのも恥ずかしい気がしてきた。
あれ? おかしいなぁ・・・何で今更意識してるんだ私。
芳彰の事は大好きで、何だかホッとして・・・
だから側に居たくて・・・でもそうすると、襲われて・・・
嫌じゃないから拒否する気はないけど・・・でも、そう思ってる自分が恥ずかしい。
色ボケ?
あぁ・・・もう、駄目だ。
何か他の事を考えないと!
葵に写真を渡した時から、頭の中のどこかのネジが緩んだような・・・そんな気がして、芳彰との事ばかりを考えている自分が、ただひたすら恥ずかしかった。
そんな時期ありませんか!?(笑)
変に意識しまくりな時期ですよ。