見えてきたもの
「葵×聡太」の最終話です。
ではどうぞ。
「ほう、欧米文学の英語か。いいんじゃないか?」
週明けの休み時間に、進路の方向・・・って言うか、聡太に進められて考えた事を、職員室の岡崎先生に報告しに行った。
やっぱり結構あっさりしてる気はするけど、
「うん、安田は英語の成績いいから、いいとこ選んだんじゃないか?」
って言ってくれて、一方的に毛嫌いしてるのも良くないかなって、ちょっと反省した。
ちゃんと私の成績の事を頭に置いて、先生なりにきちんと対応してくれてるんだなって、少し申し訳なく思った。
「おっ、そうだ安田・・・聞きたい事があったんだ。」
「何ですか?」
「お前、1年の為井と付き合ってるんだって?」
前言撤回。
「・・・何で知ってるんですか?」
「有名人が何言ってんだ、元々確実な筋から聞いてはいたんだが・・・噂は怖いな。」
無責任に含み笑いを向けるこの先生は、やっぱり好きになれない。
って、噂?
「噂って何ですか?」
「キスしてたとか、仲良く登校とか? ま、そのうちお前の耳にも入るんじゃないか?」そして今度は声を上げて笑われた。
否定できない事を言われた私は、顔を赤くするしかなくて・・・
消え入りたいってこういう時に使う言葉よね?
でも消えられはしないから、私はここからどうやって逃げればいいのかな?
って、どこか冷静な部分が妙な事を考えていた。
「そうだ、いい事教えてやろうか?」
そんな時、先生が逃げ道をくれた。
やり過ぎたかなって顔してる先生は、驚きの事実を私に教えてくれた。
「大垣にも彼氏がいるぞ。」
「・・・美晴に?」
「そ、やっぱり安田も知らなかったか。こないだ男はいるのかって聞いたら、思いっきり顔に出ててな・・・結局、怒って逃げた。」
思い出し笑いをする先生に、軽く頭を下げて失礼しますと辞した後、職員室から急いで教室に戻った。
そして、自分の席でデジカメを弄っている美晴に詰め寄った。
「・・・何、そんな勢いよく来て?」
思いっきり引かれてるけど関係ない。
「美晴、いつから彼氏いるの?」
「は?」
困惑の表情に、泳ぐ視線・・・これは事実だ。
今、先生から聞いたばかりの話を、本人に突きつけての事実確認はあっさりとできた。
「美晴ずるい、私の方ばっかりチョッカイかけるくせに、いつも自分の事は全然言ってくれないじゃない。」
「突然何? ずるいって言われても困るんだけど・・・。」
そう言いながら、デジカメを不自然に仕舞おうとするのを私は見逃さなかった。
「ひょっとして、そこに写ってる?」
ビクッと肩を揺らし、黙り込む美晴の手からデジカメを取り上げた。
「私達のあんな写真撮ってくれるくらいだもの・・・見るくらい平気よね?」
私はできるだけ冷たい声を出した。
仕返しって事にしたって問題ないわよね?
「うっ・・・あーもう、好きにして。」
うんうん、開き直って投げ出すのが早いのは、こういう時便利ね。
「はーい、好きにします。」
電源をONにし、再生モードで順に見ようとしたら、
「逆からの方が早い。」
機嫌の悪い声で親切な事を言ってくれた。
「そう。」
そのアドバイスに従って、逆に送るとすぐに二人の写真が出てきた。
「へー、格好良いじゃない。年上・・・だよね?」
「・・・うん、3つ上。」
「ねぇ、笑っていい?」
「何を!?」
「美晴もこんな顔するんだなって。」
ちょっと大人の男の人と並ぶ美晴は、幸せそうな女の子だった。
普段は澄ましてるか、ふざけてるかのどっちかで、あんまり見た事の無いその表情が、何となく嬉しくて・・・笑いたくなった。
お昼の屋上で、聡太と一緒にお昼をしながら話した。
私達が噂になってるって事と、美晴の彼氏の件だ。
噂の方は思い当たる事があるらしく、仕方が無いかなって力無く笑って、経緯を教えてくれた。
・・・うちの弟のせいなのかと、その理由が分かると、力が抜けた。
一方、美晴の彼氏の話は、予想以上の反応で、
「何で? どうしてあんな人がいいんだ?」
って、結構ひどい事言ってない?
・・・聡太と美晴って、そんなに仲悪かったかな?
「私は美晴の事好きだけどなー、元気で真っ直ぐで、見てると面白くて。だから、好みは人それぞれだよね。」
だから、ちょっと諌めた。
だって本当は私の方がお姉さんなんだもの。聡太の方が何か大人みたいで、普段はあんまりそんな気がしないんだけど・・・。
「そうだけど・・・。」
「ね、幸せならいいんじゃない?」
渋る様子に、もう一度念を押すと、
「・・・ま、そうかもね。」
と、何となくって感じながらも納得したような返事をして、急に私を引き寄せた。
「僕も幸せだから・・・ね?」
とても近くでそう囁かれ、目を閉じた私は、何も見えなくなった。
如何でしたでしょうか?
この二人の話は、
「恥ずかしがったら負けだ!!」
と、何度か気合を入れ直しました。
うん、気を抜くと照れる。
お次は「美晴×芳彰」のお話です。