私と弟と友人
「葵×聡太」の6話目です。
ではどうぞ。
以前に一度、図書室で借りて読んだ本を、この間自分で買ってしまった。
アメリカの恋愛小説の日本語訳。
ストーリーにドキドキしながら読み進め、返すのが惜しくなる程はまってしまった。
ハードカバーの少し値の張る本を、それでも、おこづいかいから出したお金は惜しくなかった。
そして今、二度目の本は、その美しい言葉で私を魅了している。
色々な日本語の表現がある中で、この訳は見事な言葉を選んで纏められていると思う。
それが、この翻訳家の腕・・・っていう事なのかもしれない。
紙に並ぶ文字を目で追って、少しうっとりしていたら、不意にノックの音がして現実に引き戻された。
「はい?」
邪魔したのは誰よ? と、少し不満に思いながら返事をすると、
「ねーちゃん・・・ちょっといいか?」
と、息の上がった弟が、弾む呼吸を抑えながら顔を覗かせた。
カーテンの向こうはもう暗くなっているけど、航はまだ制服のまんまで。
肩にはカバンがかかっていた。
「何? 航どしたの? 今帰りって、遅いじゃない。」
「まぁな。」
いつもふざけた調子の弟は、何か今日は違ってて・・・いつもなら何の用なのかと先を急かす所だけど、今はそうせずに言葉を待った。
「あのさ、その・・・良かったな、聡太とうまくいって。」
「な、何、急に?」
予想してない事を・・・元々何も予想なんかしてなかったけど、聡太との事を言われて顔が熱くなるのを感じた。
あ、今ちょっと笑ったでしょ?
でも、いつもみたいにバカにする感じじゃなくて・・・見守ってるような、何か大人っぽい表情をしてて、どうも調子が狂う。
「こないだはびっくりしてさぁ、ほら、俺・・・まだちゃんと言ってなかったからさ・・・そんだけ。」
「航?」
・・・本当にどうしちゃったの航?
「ま、両思いおめでとう。・・・随分かかったけどな。」
そして、ドアが閉まった。
・・・随分って何?
え、ちょっといつから?
いつから航はそんな見守るような立場にいたの?
・・・ねぇ、本当にいつからなの!?
「・・・そう、航そんな事言ったんだ。」
翌朝、初めて聡太と二人だけで学校に向かいながら、昨夜の弟の話をした。
聡太は呆れたとも、ホッとしたともとれる表情を見せた後、薄く笑った。
「航はずっと知ってたんだよ。葵姉が意識するよりずっと前から。」
「・・・そうなの?」
見上げて聞き返すと、
「うん。実は・・・皆『なんだけどね。・・・僕らの周り。」
と、さらに驚かされた。
確かに私も美晴から突付かれたけど・・・。
「皆!?」
「そう。航だけじゃなくて、美晴さんも、朋ちゃんも、うちの妹まで。」
・・・そうなんだ。
今迄ずっと、そういう目で見られていたのかと思うと、私はとても恥ずかしくて、言葉が出てこなかった。
すると、聡太は首ごと顔を背けて、
「見てると苛つくから、さっさとどうにかしろって・・・実は散々言われてたんだ。」
って、耳を真っ赤にして言うから、私は思わず笑ってしまった。
・・・本当は、人事じゃないんだけど、つい・・・可愛いって思ってしまったから。
進路指導室で近くの大学の資料を出してもらって、片っ端から眺めた。
第一希望は近くの大学。
家から通える事が必須条件。
でも、さすがに希望の学部くらい選ばないと・・・って。
だけど、正面にいる友人が、気になって気になって仕方がないのよね・・・。
「美晴どしたの? 朝から元気無いけど?」
同じように大学のファイルを出してもらった美晴は、机に顎ひじをついたまま生気の無い目をしていた。
普段エネルギッシュな分、こんな姿は稀で・・・また何か悩みでも抱え込んでるのかな?
って気になった。
だからと言って、美晴がその悩みを打ち明けてくれるなんて事は無いんだけどね。
毎回一人で何かを抱え込んで、気が付けばいつの間にか乗り越えていて、いつも通り。
美晴は、誰かに寄りかかるような事をしない。
強いのか、不器用なのか・・・どちらにしても、水臭いなって思う部分はある。
「・・・お腹痛い。」
何? 生理なの? ・・・ならどうにもできないわね。
「あー、頑張れ。」
すっごく気にかけた分、その返答にがっかりしてしまった。
「何頑張ったら痛くないの?」
そういえば、美晴は生理痛がいつもひどいらしい。私は面倒だなとは思うけど、痛みなんてそんなに無いから、美晴を見てると不思議な気分になる。
「んー、気力?」
「そんなものでどうしろと・・・? とりあえず、このファイルの学校名メモしといて、お願い・・・元気になったらまた調べるから、今の私には無理だ・・・。」
ヨロヨロと上げた手でファイルを示している。
まったく、そんな弱々しい姿見せられたら、そのくらいの協力くらいしてあげなきゃって気になるじゃない。
「仕方無いわね・・・貸して。」
美晴はファイルをこっちへ押し出すと、力尽きたようにテーブルに突っ伏した。
本当、大変なのね。
そして、ふと物足りなさを覚えた。
「そういえば、今回は『生理なんかいらない』って言わないのね?」
毎回そう愚痴ってるのに、今日はまだその言葉を聞いていない。
「・・・あー、そうだね、」
美晴まで今更気付いたかのような気だるそうな声で呟くと、少し動いて姿勢を変えた。
・・・本当に大変ね。
美晴には悪いけど、私は生理軽くてよかった。
って考えながら、学校名を写し終わったファイルを押し戻した。
以前に書いた生理ネタは、これ(本当は次章のここ)の前振りでした。




