バカ兄貴と決心
「朋花×航」の6話目です。
ではどうぞ。
聞き慣れた声に驚いて一歩下がって唇を離し、音と声のした方を見ると・・・やっぱり和樹がいた。
「あー和樹、やっぱりいるんだ。」
「おう朋花お帰り・・・って、そうじゃないだろ? 何でお前等、道の真ん中でキ、キスしてんだよ!?」
和樹は、急停車した自転車から降りると、ズカズカとこっちに近付いてきた。
・・・より正しくは、航の方にだ。
「何でって・・・そりゃしたいから。」
航は、本当に別人みたいになった気がする。
今から変えていけばいいって、確かに言ったけど・・・キスして変なスイッチ入っちゃったのかな?
けど、それはそれで、変に堂々としてて・・・ちょっと格好良いかもしれない。
「場所を考えろ! いや、場所だけの問題じゃないが。」
「別に、誰もいないし。」
「俺がいるだろ。」
「偶然通りかかっただけじゃん。」
「偶然でも何でも、人は通るの!」
ちょっと話の方向がおかしくて、妙な言い合いしてるけど・・・何か面白いからいいや。
どこに落ち着くか、黙って聞いてみてみよう。
「俺は気にしないけどな。」
「少しは気にしろ、恥ずかしい。」
「何で? 好きな子とキスして何が悪い?」
「悪くは・・・いやいや、うちの妹に手を出すなっての!」
「何で? 妹は妹じゃねーか。家族だけど彼女じゃない。あんたには関係ねーだろ?」
「いや、だけど・・・。」
「あんたもさ、妹追っかけてばっかいないで、自分の事考えた方がいいんじゃねーか?」・・・それがトドメだったらしい。
和樹は二の句が継げず黙り込み、その隙に航は私の手を引いて歩き出した。
その言葉は、私が「シスコンやる?」と、からかった・・・その答えのような気がした。
和樹に向かっていう事で、自分に言い聞かせてるみたいな・・・ちょっと違うな。
気付いて認めた事を言葉にした? そんな感じかもしれない。
朋花を家まで送り届けて、走って家に帰った後。
自分の部屋に戻る前に、まずねーちゃんの部屋に寄った。
ドアをノックをして返事を待つ。
・・・これやらねぇと、ねーちゃんに酷い目に合わされるからな。
「ねーちゃん・・・ちょっといいか?」
ドアを少し開けて隙間から顔を覗かせると、ねーちゃんは机で本読んでたらしい。
振り返ったねーちゃんは、意外そうな表情を見せた。
「何? 航どしたの? 今帰りって、遅いじゃない。」
「まぁな。」
まだ何もちゃんと言ってなくて、自分のためにも言っとかねーとって、朋花の兄ちゃん見て思った。あれは、下手したら俺の姿かもしれねぇなって。
・・・でも、絶対ああはなりたくない。
だから、けじめをつけるためにここにいる。
「あのさ、その・・・良かったな、聡太とうまくいって。」
「な、何、急に?」
赤くなったねーちゃんがおかしかった。
ねーちゃんがきれいなのは俺だけじゃなく、みんな知ってて、すっげー怖いのも一部の人間はよーく知っている・・・特に親しいヤツなら尚更だ。
けど、意識してんのかどうか分かんない頃から、いつの間にか聡太だけは特別扱いになってた。
聡太の方は、分かりやすかったけどな。聞いたらあっさり認めたし。最終的に開き直るんだよ、あいつは。
・・・あれから何年経ったかな?
どっちにしろ、やっとだ。
「こないだはびっくりしてさぁ、ほら、俺・・・まだちゃんと言ってなかったからさ・・・そんだけ。」
「航?」
「ま、両思いおめでとう。・・・随分かかったけどな。」
そう言い残してドアを閉めた。
よしっ、これで俺は気が済んだ。
・・・後は好きにやってくれ。
突然ドアが開いた。
いつもいつも勝手に入ってきて・・・ノックぐらいしなよ。
・・・と、言う間もなく、ズカズカと勢い荒く入ってきた和樹は、表に字の書かれた白い紙を私の前に置いた。
「朋花、これ安田に渡せ。」
見上げると鼻息が荒く、目の力が強い。おまけに薄っすら笑ってて・・・なるほど、この顔は勢いで悪乗りしてるな。
「和樹・・・芸が細かいね。これ筆ペンで?」
「あぁ、やる気満々な感じがするだろ?」
白い紙・・・コピー用紙の四方を折り畳んで、たぶん別の紙を包んでいる。
表には、荒々しさを表すようにか、勢いよく大きな字で『果たし状』と書かれている。
「所で何する気?」
「果たし状っていや、決闘だろ? 言われっ放しで黙ってられるか。」
そっか、口で勝つ気無いんだ・・・。
完全に和樹の負けだと思うけど、認めるのが嫌なんだな。
・・・わが兄貴ながら面倒なヤツだ。
「航の反応が面白そうだから、渡すのは構わないけどさ・・・私は和樹の見方なんか絶対にしないからね?」
顔に浮かぶ笑みが消え、怯んだ和樹にさらに言葉を続けた。
「和樹があれでもまだ諦めない気なら、私は意地でもそのシスコン止めさせてやるから。」
航の存在を知ってから、エスカレートする一方の和樹の過保護振りに、かなり迷惑してたんだ。
何故か料理の道に進むと言いだして、大学受験をしなかった和樹は、調理の専門学校通い始め・・・更に鬱陶しくなった。
時間に余裕ができたせいか朝は送るって言うし、断ると距離を取ってでも付いて来てる。
バイトの無い日はいつもあの辺りで待っていて、今日の帰りに会ったのだって偶然じゃない。
「いい加減止めてよ。」って、いくら言っても聞かず。「お兄ちゃんは心配なんだ」の一点張りで、本当に鬱陶しくて仕方が無い。
それに、私に張り付いて無駄に時間を浪費してるのが、余計に腹が立つ。
本当、航も言ってたけど、もっと自分の事にやればいいのに。
・・・そっか自分の事だ。
いい事を思いついた私は「用が済んだなら出て行け」って和樹を部屋から蹴り出した。
謝ったって許してやらない。
果たし状なんて物まで用意して、航と決闘しようなんてふざけた事考えてくれたんだから・・・こっちだって、それ相応の対応をさせてもらうよ?
過剰なシスコン改めさせて、自分の事で手一杯にさせてやる。
そして私は隣の部屋の様子を探り、和樹がお風呂に向かうタイミングを待って部屋に忍び込んだ。