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そう遠くない未来。  作者: 薄桜
葵×聡太
2/26

切り取られた時間

「葵×聡太」の2話目です。

ではどうぞ。

学校に向かって歩きながら、僕は前置きも無く話を切り出した。

「航? そろそろ置いて行ってもいいか?」

「何だ急に?」

もちろん葵姉の提案した話だ。

「急じゃない。まだわざと遅く出てくるつもりなら、僕は葵姉と行くぞ?」

別に脅しじゃない。

以前から不満はあった。

航はいつも家から出てくるのが遅い。

だがそれは、意図的に行われていた事だと、ひょんな事から最近知った。

航はあえて遅く出る事で、葵姉との時間を作ってくれていたのだと・・・。

気を使ってくれるその気持ちは嬉しく思う。

だが、そんな気を回すより、早く出て来い!

・・・それが本音だ。

「そっか、そうだなー、それも仕方ないかなー? 今は別にわざとやってる気はねーんだけどさ、癖? もう習慣だよな。」

葵姉と別れて、一人でたっぷり10分待たされて・・・その怒りは募っていった。

普段より速いペースで学校まで歩くのが当たり前で、その当たり前だという事に納得がいかない。

・・・僕の発する言葉に、その怒りが込められているのは自覚している。

しかし航は(こた)えた様子も無く、ヘラヘラと笑い飛ばしてくれた。

「・・・わかった。明日から実行に移す。」

「あ、ちょい、待って待って、義兄上!?」

さらに足を速めるが、ふざけた航にあっさり追い着かれる。

「いいんじゃねーか? 別に俺に気を使う必要はねぇって、」

くしゃりと笑って肩を叩かれた。

今度の笑顔は屈託が無くて・・・相変わらず表情の忙しいやつだと、怒りの熱は幾分冷めて溜息が漏れた。

「俺は、んな事干渉するほどシスコンじゃねーよ。」

そう言った航は、笑顔の中にも何か強いものを秘めた目をしていて、見ようによっては格好良いのかもしれない。

しかし僕は、朋ちゃんに言われた事をまだ気にしているのか? と、穿(うが)った見方しかできず、笑いを堪えるのに必死だった。



「おーい、聡太くーん、こっちこっち。」

教室の入り口で美晴さんが手招きをしている。

朝っぱらから会いたくなくて、折角の葵姉の誘いを断ったのに・・・向こうから来られたらどうしようもない。

どうせ碌な事じゃないだろうけど、そのまま無視するわけにもいかない。このまま放っておけば、あの人はきっと教室の中まで入ってくる。

そんな事に頭を廻らしているうちに、航が先に行ってしまい話し始めてしまった。

「美晴どしたんだ?」

「あぁ、ちょっと渡すものがあってさ、これなんだけど。」

そう言いながら出したペパーミントグリーンくらいの色の封筒を、航が手にするより前に急いで奪い取った。

・・・何が入ってるか知らないけど、これは誰にも見られてはいけないような気がする。

「何だ聡太、必死っぽいな?」

「そりゃ、相手が美晴さんだからね・・・。」

中の感触は封筒より小さな長方形・・・写真だなきっと。

「じゃ、渡したから。あ、そうだ。」

何かまだ言いたい事があるらしい美晴さんに、不意に袖を引っぱられて二歩踏み出すと、耳元で囁かれた。

「やるじゃん、見直したよ。」

何を?

・・・そう思ったのが失敗だった。

「じゃぁね。」

と、含み笑いをする美晴さんを訳も分からず見送ると、急に背中を叩かれて、後ろから朋ちゃんの大きな声がした。

「すごい、聡太くんどしたの!?」

・・・伏兵か?

いつの間に封筒を奪われたものか、既に写真は取り出されて・・・って、ちょ、それ、

「何で!?」

朋ちゃんが手にしている写真には、僕と葵姉が写っており、つい最近の光景で・・・

な、何でこんな写真を?・・・これ、あの日だよな。

その衝撃は凄まじく、この動揺は比類ない。

見てたのか? あの人は見てたって事だよな???

それで見直した・・・なのか? なるほど・・・じゃなくて、

「ちょ、ちょっと・・・とりあえず返せっ!」

既にしっかり見られてしまった写真を奪い返すと、朋ちゃんは冷やかすように笑ってくれた。まったく本当にいい性格をしている。

「へー、付き合いだしたってのは聞いたけど、こんな事までしてたんだ。」

「・・・素直に行動しただけだ。」

ニヤニヤする朋ちゃんに対して、僕はもう開き直る他無い。

「いいんじゃない? ね、」

「あ?・・・・・・あ、あぁ・・・。」

一方、急に振られた航は、かなり微妙な感じで・・・とても心中複雑な様子だった。

けど、気を使う必要は無いって、今朝聞いたばかりだし、

・・・僕、断る必要は無いよな?

きっといちいち断りを入れる方が、航にとって酷だろう。

と、そう考えた僕は、これ以上は触れず・・・如何にして朋ちゃんを黙らせるか? という課題に尽力した。

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