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そう遠くない未来。  作者: 薄桜
美晴×芳彰
18/26

何度でも・・・

「美晴×芳彰」の最終話です。

ではどうぞ。

いつもの場所から、芳彰の後ろ姿とキャンバスを眺める。

7、8本のフリーハンドの曲線は、花びらを運ぶ川の流れになった。

光の当たる鮮やかな新緑と、その向こうの暗い水。そして際立つ桜の花びら。

頭に描くイメージをしっかり形にしていく彼は、やっぱり凄いと思う。

変に捻り過ぎてた所が無くなって・・・でも、何かを主張しているようで、きっとしっかりタイトルも決まってるんだろうな。

『自分に素直になってみなよ』そう言ったら、そこからいきなり絵が変わった。

性格とか、表情も変わって、自分に素直になり過ぎだろう? と思う部分もあるけど・・・それでも、尊敬できる人だと思う。


「・・・あのさ、やっぱりそんなに見られてると、集中できない。」

不意に振り向いた芳彰が、苦笑いでそう言った。

私が芳彰の部屋に来て、それを理由に絵を描くのを止めようとした彼に、

「別に気にしないでいいから、そのまま描いてて。」と、押し留めたんだけど・・・無理だったらしい。

「あ、ごめん。ちょっと見惚れてた。」

「はい?」

「やっぱ芳彰いいなぁって。」

「・・・はぁ、そりゃどうも。」

芳彰は納得の行かないままの返事をし、パレットや筆を置くと、立ち上がって伸びをした。それから、少し意地の悪い声がした。

「美晴、今何か悩んでる?」

「・・・何で、そう思う?」

私は内心ドキッとして・・・それを隠せもせずに、真意を問い質した。

「お前が殊勝な時は、何か抱えてる。」

「・・・じゃぁ普段は?」

(たち)が悪い。」

待て待て、何その答え? 今、私確かにやった!って思ったけど、でもそれ彼氏の言葉じゃないよね?

相反する心の中の葛藤に、文句を言うタイミングを逃して黙ってると、ソファに引っ張られて背中から抱き込まれた。

「信念がありそうで、でも実は行き当たりばったりで、自信家に見えて、揺らぎっぱなしで、誘ってるような行動するくせに、それが素で・・・そんな質の悪い天然子悪魔な、俺の彼女の頭を占める問題は一体何ですか?」

・・・あー、彼氏ならではの言葉なのか。

否定できない事ばかり並べ立てられ、思わず振り返って芳彰をまじまじと眺めた。

でも一つだけ否定したい。

「・・・誰が天然子悪魔だ?」

「もちろん、その自覚の無い美晴。素っ裸で抱きついてきて、それで誘って無いって言い張るのは、天然以外の何だって言うんだ?」

「だって本当にそんな気なんか無かったもん。」

・・・何だろう、この余裕の笑みは?

「ほら、だから天然だってんだ・・・。で? 言うだけ言ってみろ。どうせお前がそんな時は、答えが決まってるんだ。口にすれば腹が決まるだろう?」

また芳彰は、何か変化を起こしている。・・・私の知らない所で何があった?

「どうした?」

「あ・・・いや、・・・・・・あのね、本気で写真を撮る事にした。」

昨日の夜決めた事を、今初めて声にした。

「そっか。」

それを一番に聞いてくれた人は、静かに・・・そして、少し重々しく受け止めてくれた。

「うん。難しくて、腹が立つから・・・挑む。」

・・・けど、抱えられて触れてる部分から振動が伝わってくる。

こいつ、今笑ってくれたな?

笑うな! と口を開こうとして、その言葉を飲み込む事になった。

「それでこそ美晴だ。」

穏やかで優しい声に、自分を認めてくれている事に・・・嬉しくて頬が緩んだ。

・・・芳彰は、何度私を惚れさせる気なんだ?



促されて向きを変え、見つめられて唇を寄せた。

その痺れるような感触に、切ない疼きを覚えるものの・・・伸びてくる芳彰の手を捕まえた。ほら、素直になり過ぎだ。

「・・・だから、まだ生理終わってない。」

「・・・はい。」

仕方無さそうに手を引っ込める芳彰は、でかいくせにかなり可愛い。

けど、それとこれとは話が別だ。

「後4日は我慢してもらうよ?」

「・・・はいはい、」

やっぱり可愛い・・・。

「そうだ、最初の写真は芳彰撮らせて。」

可愛い芳彰を見ていると、そんな事を思いついた。

覚悟を聞いてくれたから、大好きな人だから、まず一番に撮りたかった。

・・・でも実は、4割くらい出来心だ。


いつも私はカメラを持ち歩いていて、今もパーカーのポケットに入っている。

だから、ソファの肘掛の辺りに置いたパーカーに手を伸ばすも・・・渋面の芳彰に阻止される。

「・・・前にいっぱい撮っただろ?」

そんなの、まだ本名を知る前の話だ。今撮りたいものとは全然違う。

「決意を口にしての、最初の一枚だよ。好きなもの撮りたいじゃん。」

そう言うと、阻止する手は緩めず一瞬考え、

「じゃぁ、一緒に写るならいいぞ。」

そう提案してきた。

「どうやって?」

「セルフタイマー。」

平然とそんな事を言ってくれた。

「・・・それ、私が撮った事にならないだろう?」

「気にするな。」

・・・この言葉を言う時の芳彰は、聞く耳なんか持ってなくて、いつも向こうの都合で振り回され、好きにされる。

・・・それが悔しいから。


私はセルフタイマーで、納得のいく写真が撮れるまで何度も何度も、何度も取り直し、芳彰を辟易させてやった。


・・・私を(あなど)るな!


この二人はこんな感じです。

元々、ここをメインで考えてたので、一番ボリュームがあります。

おまけに、悪ふざけ要員が多いので、一番よく動きます(^^;


で、ラストの写真を葵に見られた訳です。


そして、芳彰が描いてた絵のタイトルは「門出」

川に落ちた花びらは、これから波に揉まれながら下って行く。

暗いのは先の見えない状態を表し、対照的に光の当たる新緑は周囲の応援を表します。

それでも人(花びら)は前に向かって進んで行く。

・・・ってそんなイメージです。

掲載日は6月の始め、作中の日付も5月下旬。

どうしようかな~って、少し考えたんですが、そのままでいきます。

これ考えたのは、桜いっぱいな時期だったんですよ。

でも桜って、新学期のそういうイメージだからいいかなって事で。


さて、次は「朋花×航」のお話です。

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