覚悟
「美晴×芳彰」の9話目です。
ではどうぞ。
デジカメを手にして、良さそうな瞬間を探してひたすら歩いた。
雲の多い青い空や、公園のサツキ、誰かの家の庭からはみ出したタチアオイに、庭先のバラ、草に紛れたツリガネソウに、街灯に巻き付いた未だ咲かないヒルガオ、日陰に群生していたドクダミまで撮ってみたけど、どうもピンとこない。
今の所、自分の作品だと、胸を張って見せられるものが撮れた気はしない。
そうして歩いているうちに、土手に辿り着いた。
いつの間にか日は西にあり、川沿いを舐めるように吹く風に、半袖だった私は少し肌寒さを覚えて、脱いでいた上着を再び羽織った。
空の色はまだ水色で、しかし、いずれ沈む太陽は少しだけ大きい気がした。
流れながらその形を変えていく雲に魅せられ、デジカメを向けてみるものの、モニターに映る雲は実際に見るよりも遥かに魅力に欠け、1枚も撮らずに芝生に寝転んだ。
そして視界に緑が見えた。
風に揺られる桜の緑の葉が、不意に私の心を掴んだ。
・・・芳彰はあの木に寄りかかって空を見上げてたな。
起き上がって記憶を辿り、その光景を思い浮かべた。
あの時は、今より遥かに寒い11月。
寂しかった枝には緑の葉が盛大に茂っていて、あの時とは随分違うけど、ちょっとだけ・・・そう、ちょっとだけ真似がしたくなってみた。
結局、あの時何が見えていたのかは分からない。
空を見上げて、目に見えるものと、目に見えないものを見ようとしていた芳彰。
でも、今は何となく分かる。きっとその時に芳彰が抱いていた気持ちが。・・・当時は史稀と呼んでいた芳彰と同じように、同じ木に寄りかかって空を眺めてみた。
西の空は薄っすらと茜の色を帯びはじめ、薄い水色へとつながる見事なグラデーションを、紫がかった朱鷺色のきれいな雲が邪魔をしている。
こういうものを見ていると、やっぱり心が弾む。
世の中には面白い人工物がたくさんあるけれど、結局自然の色には敵わない。ただ空を眺めるだけでもこの光景だ。
やはり諦めきれない私は、デジカメを空に向け、刻々と変わりゆく瞬間を夢中になってデータに変換した。
今日の成果を確認しようと再生モードに切り替えて下を向くと、随分日が傾いてきた川辺で遊ぶ、一人の女の子の姿があった。
・・・これも良さそうだ。
再び撮影モードに戻してカメラを構えるものの・・・遠い。
芝の土手を下りながらベストな距離を探し、何度かシャッターを切った後、実物の姿を見ると、何となく見覚えがある。
確か、航の彼女の・・・えーと、石川朋花ちゃん?
よく見れば近くに航らしき姿もあり、それと誰か分からないけど、もう一人男の人が階段を走り下りて近付いて行った。
・・・まぁいいか。
もし良い写真が撮れてたら、そのうち渡そう。
何か取り込み中のようだし・・・割って入る理由も無い。
今撮った写真を、一応モニターで確認だけして、土手を上がって家に向かって歩いた。
夕飯の後、撮ってきた写真をパソコンに取り込んで眺めた。
「んー思ったより暗いな。」
夕焼けの空は、ほぼ全滅。
タチアオイは、もう少し色が鮮やかなら・・・明度と彩度を弄れば良い感じになりそうだけど、それは邪道の気がする。
サツキは構図を間違えている。もう少し右に寄せれば良かったか?
ドクダミは漠然とした絵で、主張したいものがよく分からない。
かなりの数を撮ってきたものの、良さそうなのはほんの数枚。
写真は一瞬を捕らえる芸術・・・ってのなら、私はどれだけのものを逃がしたものか。
「難しいなー、もう。」
そうこぼしながら、頭の後ろで手を組んでイスの背もたれに寄りかかった。
ただ救いは、最後の写真が予想以上に良かった事。
夕日の反射する川面と、黒い少女のシルエット。
しかしこれは、私の腕ではなく偶然の産物だ。
構図以外は、光とタイミングが良かったのだろうとしか言いようが無い。
「本当、難しい・・・。」
それでも私は今、目元が緩み口元に笑みが浮かぶのを自覚している。
遥かに高く、相当に険しい目標を見つけ、昂ぶっている。
・・・やってやろうじゃないか。
ディスプレイに並ぶ中途半端な写真達を見つめ、私はそう心に決めた。
まだ、ここのシリーズに入れてない「手を伸ばせば・・・。」に向かう第一歩。
こういう葛藤は、ワクワクして・・・とても怖いです。
自分にどれだけの覚悟があるか?
ただそういう事なんですけどね、
・・・私は2回逃げました。
そして、今3回目・・・逃げたくて仕方が無いのを、必死で留めてます。
でも今このUP作業で、逃避中・・・
これ終わったら、ちゃんとネタ考えます。