表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そう遠くない未来。  作者: 薄桜
美晴×芳彰
16/26

本当・・・親子だ

「美晴×芳彰」の8話目です。

ではどうぞ。

特にこだわりも無かったので、美晴の母親のお薦めだというコーヒーを頼んだ。

照れ笑いの先輩が運んできたカップに口をつけると、苦味の少ないまろやかな口当たりで、俺は嫌いじゃない。

「どう?」

「いい感じですね、俺もこういうの好きです。」

「そう、良かった。」

正面で微笑む女性が、何年か先の美晴のようで、どこか不思議な気分がした。顎ひじをついて悪戯っぽい笑みを浮かべる様は、本当に親子だなと妙に感心してしまった。


「後から思えば、時間って過ぎるの早いわよね。あのね、実は私も芳彰くんとはニアミスなのよ、正確には、あなたは小さかったから、覚えてないだろうってとこかしら?」

娘に彼氏ができる歳になって、嬉しいけど、その分自分も歳を取ったんだなって、思い知らされるようで複雑だ。・・・という胸の内を聞いた後、そんな事を言い出した。

「どこかで会ってたんですか?」

「毎年家族で写真撮ってた写真館覚えてる?」

確かに小さい頃はそんな習慣があった。両親の結婚記念日に合わせて写真を撮ってもらっていた。しかしそれも、俺達が大きくなるにつれ途絶えてしまった。

「はい、それは覚えてます。」

「私その頃、その写真館で働いてたから・・・イタズラ放題のあなたの事しっかり覚えてるわよ。」

してやったりの顔で身を乗り出して・・・本当に美晴そのまんまだ。

「そうなんですか? 確かに小道具触ったり、長いカーテンを引っ張った記憶が断片的にあるような・・・。」

・・・彼女の親に小さい頃を知られているのは、どこか気恥ずかしい。

同じように小さい頃を知っている人はたくさんいるが、昔からずっと知っている人、母と仲の良い婦長の千佳子さんを初めとする病院の人、友人の親なんかとは、やっぱり気分が違う。

・・・でもまぁこの感触だと、それはプラスに作用しているようなので、悪い事ではないのかもしれない。

「そうね。本当、芳彰くんは特別可愛かったから、それが美晴と・・・なんて、思いもしなかったわ。不思議な縁よね。」

そう言った美晴の母親は、少し遠くを見ているような気がした。

縁・・・か、確かに美晴と会っていなければ、いや美晴が俺に干渉してこなければ・・・俺は今でも鬱々として、もがいているままだったろう。

美晴のお陰で前を向く気になれたんだ。

「・・・本当に。不思議な縁だと思いますよ。」

「あら、その顔は色々ありそうね、よかったら教えて。」


美晴にも勝てないのに、その親に勝てるはずもなく、色々と問われるままに・・・出来うる限りだが答え・・・そう、気分はまな板の上の鯉だ。

だが、いいテンポで入る相槌や、楽しそうに耳を傾けられてしまうと、そう悪い気もしなかった。おまけに、美晴の事も色々と教えてもらい、収穫は大きい。


「私はね、あなた達の事反対なんかしないから大丈夫よ。美晴は嬉しそうにしてるし・・・あなたが酷い人なら話は別だけど?」

「そんな事は・・・」

「うん、そうじゃ無いから問題ないわよ。でも一つだけお願いがあるの。」

そう言って、それまでテーブルの上についていた腕を伸ばして、人差し指を俺の前に立てた。

「何ですか?」

「あなた達がこの先どうなるかは分からないけど、もしもずっと一緒にいてくれる気があるなら・・・あんまり早くにいなくならないであげて。」

それは当然と言えば当然で・・・でも実は、自分ではどうする事もできない話で。そのための努力はできても、実行はとても難しい。

そう・・・今俺は、そんな無理難題をお願いされている。

けれど、俺もそうありたいと思う。

「はい。出来得る限りですけど。」

自分可愛さからではなく、美晴のために・・・って、これは覚悟か?

・・・そうだな、俺にとってもこれは願ってもない話だな。

これで、親から先の確約を頂いたという事になるんだろう。

「縁起でもない事言っちゃってゴメンネ。でも・・・こんなのは私だけで十分。娘達にはこれ以上寂しい思いさせたくないから。」

気丈に笑う姿は、さすが美晴の母親だと思った。

早くに夫に先立たれたからこその言葉で、この親を見て育ったから、美晴はあんなに強いんだろう。

「あ、そうだもう一ついい?」

「はい?」

「私の事は弘美って呼んでね? お母さんって呼ばれるのは違うと思うし、おばさんって呼ばれるのは絶対に嫌だから。」

お願いは一つじゃなかったか?

そう思いはしたものの、にこやかな美晴の母親に

「分かりました、弘美さん。」

と、そう答えて、満足そうな表情を眺めた。



3時くらいにお母さんが帰ってきた。

「ただいま。あら? 和歌奈一人? 美晴は? ねぇ、どこ行ったか知らない?」

玄関で次々と質問を口にするお母さんの声に、私は仕方なく部屋から顔を覗かせた。

「おねぇちゃんなら、カメラ持ってどっか行ったよ。」

「そっか、残念・・・いえ、好都合かしら?」

母さんは靴を脱いで、二足の靴をきれいに揃えながら、弾む声を出した。


「和歌奈、芳彰くん良い子ねー。」

芳彰さんと会ってきたお母さんの感想の第一声は、それだった。

リビングでお茶を飲みながら話すお母さんは、とても機嫌が良い。

お母さんから見れば良い子かもしれないが、私から見るとそれは違う。

「良い子って言うか、良い人だと思うよ。昨日も寝ちゃったおねぇちゃん背負って連れてきてくれたし。」

優しくて、格好良いとも思う。

「何それ? 彼そんな事までしてくれるの?」

興味津々な反応を示すお母さんに、私は先を続けた。

「でも、おねぇちゃんは芳彰さんに甘え過ぎだと思う。普段はそんな事無いのに、芳彰さんの前だとさ・・・何か変なの。おねぇちゃん別人みたい。」

だけど、私の不満にお母さんは優しく微笑んでいた。

「・・・だからお母さんは、二人の事歓迎してるのよ。」

そう言ってまたお茶を啜り、それから延々一時間半、今日話してきた事を聞かされた。

文紘くんが「弘美さん」って呼んでるのも同じ理由です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ