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そう遠くない未来。  作者: 薄桜
美晴×芳彰
15/26

雰囲気の良い店/感じの悪い男

「美晴×芳彰」の7話目です。

ではどうぞ。

大通りから、馴染みのないそこそこの幅の道に入ってしばらく進んだその先に、目的の店はあった。

誰かの日記にあった、写真通りのシックな建物。

こういうレトロでモダンな雰囲気は嫌いじゃない。

ベルを響かせてドアを開けると、人の良さそうな店主がきちんと迎えてくれ、店内はレコードから流れ出る、ジャズの軽快なリズムで溢れていた。

内装も似せて作られた紛い物とは違って、時間を積み重ねる事でしか得られない風合いが滲み出ていて、とても好感が持てる。

壁に寄せて置かれているアップライトのピアノも、年代物と分かる木目調でバランスがいい。

美晴の母親はいい店を知っているな・・・と感心しかけたが、水のグラスを運んできたウェイターには首を傾げたくなった。


俺とたいして変わらない年頃の茶髪の男は、にこやかな笑みを浮かべて水を置いた後、そのまま俺の正面に座った。

「何ですか?」

行動の意味が分からず、そう尋ねると、

「宮原くんだよね?」

俺は知らないが、向こうは知ってるらしい。

久し振りだがよくある事だ。

親の知り合いという事もあるが、小中高と変に見られている事が多かった。・・・もちろん、あまり気持ちの良いものではない。

「そうですが、あなたは?」

「俺は北川文紘(きたがわふみひろ)。たぶん知らないと思うけど、小中高と一緒だったんだよ。俺の方が二つ上だけどね。」

にこやかなままそう説明してくれたが、残念ながら記憶には無い。

「・・・すみません。」

「いいの、いいの。そっちは。」

そっち? じゃあどっちだ?

「宮原くんは美晴ちゃんの彼氏だよね?」

確認事項の扱いで問われた言葉に、俺は一瞬返事に迷った。

こいつは誰だ、いや先輩らしいが、気安く美晴の名を呼ぶこいつの関係は何だ?

・・・そう、色々頭の中で考えてみても、答えが出てくる訳も無く。ニコニコと笑う正面の人物を眺めても、疑問が深くなるだけだ。

「・・・そうです。」

結局は、ただ肯定するだけの答えを選ぶ他無い。

「美晴ちゃんって面白い子だよね~。」

それは同感だが、こいつに言われると何だか面白くない。

「彼女以前は、アダルトな話は免疫無いからパスって言ってたのに・・・最近はそうでも無いんだよね~、それって、もちろん君のせいだよね?」

何を聞いてくるんだこいつは!?

返事のしようが無くて・・・いや、必要無いのかもしれない。返事などしなくてもペラペラと勝手に言いたい事を言っている。

「別にそれはいいんだけどさー、当人同士の問題だし・・・だけど、ちゃんと大事にしてよ? 彼女いい子だからさ、見方は結構多いんだよ?」

笑顔の彼は、途中で一度真面目な顔をして再び笑顔に戻り、言葉が途切れた。

さすがにここの場面では、返事を求められているらしい。

「・・・大丈夫ですよ、美晴は俺にとっても恩人ですから。俺だって、そんな悲しませるような真似する気無いですよ。」

「ほぉー言うねぇ。さすが美晴ちゃんを落とした男だ。高校の時のイメージとは違って、宮原くんも実は面白そうな人だったんだね。」

「・・・それどういう意味です?」

店内の雰囲気をぶち壊しにして、少し不愉快な笑い声をあげる目の前の男は、

「もちろん褒めてるの。」

と、さらに笑う。やっぱりよく分からない。

「・・・あ、じゃあ頑張れよ。」

彼は急にそう言いながら立ち上がると、それと同時に入り口のベルが鳴り響いた。


「弘美さん、こっちこっち。」

入り口に向かって手招きする彼を見上げた後、入り口の方を向くと、髪の短いどこか美晴に似た顔立ちの女性が入ってきた所だった。

「あら、二人は知り合いなの?」

そう言いながら近付く女性・・・おそらく美晴の母親に、茶髪の男は、

「ニアミス程度かな。」

と言った。・・・微妙な言葉の選択だ。

「それは、見た事あるもしれないし、無いかもしれないってくらいなら、知らない人って事よね?」

・・・こんな考え方をするこの人は、美晴の母親で間違さそうだ。

「惜しい、俺だけ一方的に知っていた。が正解。」

そんなの当たらないだろう?

「そっか~、残念。じゃあ、こっちは芳彰くんで正解よね?」

口とは裏腹に、残念のざの字も見えない、値踏みするような笑顔を向けられた。

・・・これはかなりの曲者のようだ。

「はい。初めまして、宮原芳彰です。」

「あら、ご丁寧にどうも。私は美晴の母の大垣弘美です。」

立ち上がって名乗ると、向こうも立ったまま自己紹介をし、目を細めて座るように促された。

・・・まるで面接試験でも受けているような気分だが、あながち間違いでは無いんだろう。

「うん、写真より格好良いわね。ってあら、何も頼んでないの?」

水だけが置かれたテーブルを見て、俺は疑問の顔を向けられたが、注文を聞かれた覚えは無い。

その役を担う、カウンターの奥に引っ込んでいた北川とかいう先輩は、しっかり聞き耳を立てていたらしく、

「あ、ごめん。俺、話す方に夢中で注文聞くの忘れてた・・・。」

と、トレイで半分顔を隠し、タイミングよく謝った。

当初の予定では、文紘くんの出番はこんなに無かったはずなんですが、

俺も俺も!・・・と、出てきました。

おかげで、フォローの短編一本いるかなーなんて、流れになりそうです。

影響あるのは、まだ先ですけど。

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