娘の夢/彼女の親
「美晴×芳彰」の4話目です。
ではどうぞ。
一人だけ少し遅れて夕飯を頂き、食べ終わってソファに移動すると、それを見計らっていたらしい上の娘が隣に座った。
「美晴どしたの?」
「うん、聞きたい事があるんだけど・・・いい?」
切り出し難そうにしているのが、とても気になる。
悩みでもあるのかしら?
「なあに?」
「・・・あのね母さんは何で今の仕事選んだの?」
「なんだ・・・真面目な質問ね、進路の事で?」
そう問うと、娘は首を縦に振った。
「母さんは、お父さん・・・美晴のお爺ちゃんの影響ね。」
「お爺ちゃん?」
「そ、何かある度に大きなカメラ持ってね、家族の写真を撮ってたの。でもね、おじいちゃんの写真ってあんまりないのよ。・・・当然なんだけどね、だから私が撮ってあげたいって思ったの。」
「へー、確かによくカメラ持ってたね。」
「でしょ? だけど大きくなっていざカメラ向けたら、恥ずかしがってあんまり撮らしてくれなかったのよね。」
思いがけず昔の事を思い出して、何となく心がじんわりしてくる。
亡くなって随分過ぎた事もあるけど、色々あったからあまり思い出す事も無くなっていた。親不孝な娘でごめんねって今度お墓に謝りに行こうかしら。
「そうなの? 私結構お爺ちゃんの写真撮ってたよ?」
「・・・え?」
「お爺ちゃんのカメラ借りて遊んでたよ。美晴は上手だなーって、次行った時に現像したの見せてくれた。」
父さん・・・娘と孫は違うって事? 謝りにじゃなくて問い質しに行きたいわ。
「そう・・・なのね。」
「うん、それと・・・写真撮る時ってどんな事考えてる?」
複雑な気分を抱えていると、別の質問に変わっていた。
「・・・あぁ、そうね、今は幸せな瞬間を収めるのが多いから、最高の笑顔を引き出せるようにって事かしらね、」
「そっか・・・。」
そう言って黙り込んだ娘は、険しい顔をしていた。
「お母さんの事は参考になる?」
「うん、・・・私もね、母さん見ててカメラマンになりたいって、ずっと漠然と思ってたんだ。だけど具体的な事は全然でさ、何撮りたいんだろうって、今それを考えてる所。」
そういう事は初めて聞いた気がする。
小さい時は確かにそう言ってたけど、今でもそう考えていたとは・・・とても以外だった。
「美晴・・・本当にカメラマンになりたかったの?」
私の時間は不規則で、美晴に迷惑かけてばかりいて・・・娘二人に寂しい思いをさせてきたと、ずっとどこかですまない気分でいたのに・・・
「何? ・・・何かおかしい?」
「ううん、蛙の子は蛙って思っただけ。」
だから、そう思ってくれているのがとても嬉しくて、訝しげな顔をする娘につい抱きついた。
「ちょっと、苦しい。」
けれど美晴は本当に苦しいのか、それとも照れているのか抵抗を示して逃げようとしてくれた。
・・・思春期なんてそういうものよね。小さい頃は抱っこしてって、うるさかったくせに。
諦めて手を放すと、少し距離を取った位置に座り直されてしまった。
「ねぇ、美晴・・・お母さんも一つ聞いていい?」
「何?」
「彼とはうまくいってるの?」
「なっ!? 何聞いてくんの??」
あんまり抵抗してくれるから仕返しに決まってるじゃない。
お母さん寂しいのよ?
「どうなの?」
「・・・いってるよ。」
目を逸らして、ぶっきらぼうに言い捨てるなんて、可愛い。
「うんよかった。そういえば・・・胸大きくなったでしょ?」
「・・・一つって言ったよね?」
「あら、これは確認よ? いいわよねー、まだまだこれからで。私なんかあなた達のお陰で、減っちゃったっていうのに・・・。」
まったく、それじゃ肯定しているようなものよ。
でも、新しく買ってた下着のサイズを確認したから、間違いないんだけどね。
上の娘の態度に気を良くした私は、美晴が照れてお風呂に逃げた隙に、以前からやりたかった事を実行に移す事にした。
「和歌奈?」
「お母さん何?」
下の娘の部屋に行き、ベットの上で雑誌を読んでいた娘に耳打ちした。
「それ本気?」
「面白そうでしょ? もちろん協力してくれるわよね?」
絵を描いていると、携帯が鳴った。
慌ててパレットと筆を置いて、携帯を開くと、
時間は9時18分。表示された名前は和歌奈ちゃん?
「もしもし?」
「あ、夜にごめんなさい、和歌奈です。」
「いや、いいけど・・・どしたの?」
この子はいつも唐突だ。
別に普段やりとりをしている間柄でもなく、前に美晴の行方を聞いて、
それっきりだったのだが・・・
「あのね、どうしても話したいって人がいてね・・・今変わるから。」
「・・・そう。」
とうとうきた・・・正直そう思った。
「もしもし、ごめんなさいね驚かしちゃって、私二人の母親です。」
「・・・あ、ども始めまして、宮原芳彰です。」
やっぱり。
いつかやられると思ってた。
「うん、芳彰くんよね、夜にごめんなさいね・・・美晴のいない隙にやってるから、
もちろんあなたも内緒にしてね、まだばれるとつまんないから。」
「はぁ・・・」
「私、あなたに会ってみたいんだけどいいかしら?」
「どうぞご自由に。こちらはいつでもいいですよ。」
「そう? じゃぁ明後日の12時に、『Le sucrier』って喫茶店・・・知ってる?」
「いいえ、知りません。」
「そっか、じゃぁ後で詳しいメール送るから、そろそろあの子お風呂から上がってきちゃうからそれだけね。・・・慌しくてごめんなさいね。」
「いえ、」
「じゃぁ、明後日楽しみにしてるわね。」
「はい、こちらこそ。」
可笑しくて、電話が切れてすぐ吹き出した。
さすがあいつの親だ・・・やる事が似ている。
正しくは、美晴の方が親譲りなのだろうが。
普段は俺が美晴に振り回されっぱなしだが、あいつもこうやって親にはめらるんだと思うと、可笑しくて仕方がない。
けど、そう笑ってばかりもいられない。
・・・きっと俺も明後日は大変な思いをする事になるのだろう。
間もなく携帯にメールが届き、母親の言っていた通りそこには店の名前と住所が記されていた。
ノートパソコンの電源を入れ、起動するまでの時間を使って、簡単ながらもメールの返事をした。
それから起動したパソコンで、住所の場所をネット上の地図で見ると、確かにそこには同じ名前の店があった。。
大体の場所は分かったが、念のためにその地図は携帯に転送しておく事にして、今度は店名で検索してみた。
引っ掛かった中に店自身のHPは無さそうだが、結構な数のブログの記事が引っ掛かっており、好意的文面のいくつかに目を通してみた。
「あんたが飲んだから、胸が無くなった」
よく母親に言われてました・・・そして今、私も同じ事を思ってたりします。
だから、ここに書いてみた。
胸筋が足りないのと、乳腺が萎んだんだという理解はあるのですが、
(理由は調べた)
うん、でもこの事実って、結構ショックなんだ・・・。