先生と未来のビジョン
「美晴×芳彰」の2話目です。
ではどうぞ。
面談場所の社会科準備室に行くと、岡崎先生はいつもの席じゃなくて、応接セットのソファの方に座っていた。
「今日は公用だからコーヒーは無いぞ。」
正面に座ろうとした時にかかった声に、一瞬疑問符が頭を過ぎった。
「・・・別にコーヒー目当てで来てませんよ?」
「そうか?」
「・・・先生が猫舌からかうためだけに、出してるんだと思ってたんですけど・・・違ったんですか?」
「いやぁ、前払いの礼だ。」
今、目を逸らした・・・図星だな。
「・・・学校の経費ですよね、それ?」
「何の事だ? さぁ、はじめようか。」
先生はきっと、私をからかって遊ぶために自分から妙な事を言い出したんだろう。
けど、風向きが悪いと見て取って、あっさりとその話題を手放し本題に切り替えた。
手元のファイルから、以前私が提出した『進路希望調査書』を私の前に置き、それからその隣の先生に近い辺りに真っ白い紙を置いた。
「大垣、カメラマンになりたいのは分かったが、これじゃ具体性が無い。」
第一希望にそれだけ書かれた紙を、ボールペンでトントンと突付いた。
・・・本当に見事な切り替えだな。私の方は、そんなに急に切り替えられない。
「だって、小さい頃からそう思ってたからそれ以外の事は・・・。」
「そうじゃなくてだな、お前どうやってカメラマンになる気だ?」
どうやって・・・ねぇ。
「具体的にはちょっと・・・」
「それと、どういう方向を目指してるんだ? アーティスト系の作品作るのか、報道、写真館なんかもあるよな、それによって、学ぶ事が違うんじゃないのか?」
白い紙の上をボールペンが走り、話す内容が図解となって現れる。
見事に口と手が動いてて、器用だなぁと感心した。
「まさか、自力とか、いきなりどっかの写真家の弟子にしてくれとか、そういう無茶やる気だったか?」
「そういうつもりじゃないんですけど、何も考えてなかったというか・・・。」
そうか、そういう手もあるな。
私の苦笑いに先生は溜息を吐き、そして、私の内心を見透かしたように先を続けた。
「じゃぁ、そういう無茶はするなよ? ビジョンが足りないなら、もう一段入れて考えてみろ。アーティスト系なら、美大やデザイン科のある大学、報道や写真館なら専門行って、手っ取り早く技術身につけて、後は実際にスキル上げてくもんだろうし。」
「・・・そっか、そうですよね。」
「後は・・・技術の方を特化させるのもいいが、まぁ俺としては人の幅広げる大学の方を勧めるな。」
『美大・デザイン科』と書かれた場所をグルグルとボールペンが楕円を描き続ける。
「どうしててすか?」
ボールペンが急に止まり、別の位置に『凸』の形を描かれる。
そして、その中に『大学』と書き込まれた。
「そりゃ、確実に進学できそうな成績のやつには進学してもらった方が助かる。進学率上げた方が、俺の評価に繋がるってもんだからな。」
今度は上向きの矢印を書き入れた。
「・・・先生、正直過ぎですよ?」
「今更・・・お前相手にいい顔したって、得なんか無いだろ? まぁ、校内で売っぱらう写真ばっかり撮ってないで、そういう所をきちんと考えてみろ。」
・・・何だ、先生も完全に先生モードって訳じゃ無いんだな。
「そんな~もうあれは廃業ですよ。被写体同士がくっついちゃったから。」
そう言うと、先生はすごく残念そうな顔をした。
「そっか、お前が先なら安田がからかえたのにな・・・。どうも安田は片意地が張ってて扱いにくいんだよな。それに・・・ゆすりのネタが消えたのは、正直痛い。」
「・・・何ですか、それ?」
「お前使えたんだがなー、別に止める必要は無いんじゃないか? あぁいうのは夢を売るようなもので、アイドルの生写真と変わらんだろ?」
それは本気か、冗談か・・・どっちにしろ、さっきと逆の事を言いだした。
「嫌ですよ。先生は相変わらずひどい人ですね。」
「そうか? お前は変に律儀だな。」
「そりゃ、彼氏彼女のいる人の写真売るって、何か詐欺っぽいじゃないですか。」
「・・・友人を勝手に商品にして、何が今更詐欺っぽいだ?」
「失礼ですね・・・肖像権料は払ってたからいいんです。」
・・・と、結局途中から雑談になってしまい・・・次の番の遠野くんが、「まだなんですか?」って待ちくたびれた顔を覗かせたので、ようやく面談は終わった。
結局、面談時間を15分くらいオーバーしていて、今日は芳彰のとこ行けないなって・・・ちょっとホッとした。
廊下を歩きながら『今日は学校の用で遅くなったから行けない』ってメールを送り、そんな自分に違和感を感じて叫びたくなった。
・・・でも大丈夫、叫んではいない。
次の日の昼休みに、校内放送で担任に呼ばれた。
けれど、呼ばれる理由に心当たりがまるで無い。頼まれ事はいつも社会科準備室で秘密裏だし・・・。
なのに今日は、他の先生がいる職員室で、一体何の用だろう?
首をかしげながら職員室の岡崎先生の席に行くと、三枚の紙を渡された。
「ざっと調べてみたが、写真のコンクールって色々あるんだな?」
「ソフトクリームの写真ですか?」
印字された一覧の中で一際異彩を放っていた『ソフトクリームの写真コンクール』という文字に目を留め、そうか、昨日の進路の話の続きなのかと今更ながらに納得がいった。
「他にも色々あったぞ、天然石とか、箱に入ったペットとか、あと撮影場所指定の地域活性化が狙いのものが多かったな。」
ほらと先生は、ノートPCの画面を示す。
そこには○×の四季や、×○の自然、わが町××の写真、等色々と地名が並んでいた。
「はぁ、こんな色々まとめてあるサイトあるんですね。」
「ま、良さそうなのに応募してみろ、賞金、賞品色々だぞ。」
「・・・先生、俗物ですね。」
「そりゃ、にんじんがあった方が励みになるだろう?」
「かもしれませんけど・・・。」
それが目的って言うのは、何か違う気がした。
「そうだ、お前はどうなんだ?」
そう言った先生は、何故かにやついた顔をしていて・・・前後の関係性からも何を言っているのか、さっぱり訳が分からない。
「何がですか?」
「安田はくっついたんだろ? お前の方は? 男はいないのか?」
・・・今の質問で、誰がそこまで理解できる?
私はその質問に返事をしなかった。
・・・なのに、先生はいいネタを見つけたとばかりに、口の端を吊り上げてニヤリと笑ってくれた。
「そうかそうか、さすが春だな・・・初々しいねぇ。」
やたらと満足そうな先生に、
「・・・失礼します。」
私は、そう一方的に言い捨てて背を向けた。
教室に戻って、改めて一覧を眺めた。
賞金も賞品も魅力的だと思わない訳じゃないけど、そうじゃなくて。
自分の作品を発表するという事に高揚感を覚えた。
でも少し怖い気もする。
今まで自己満足で撮りたいものを撮っていたけど、そこまでだった。
・・・作品を、自分の思いを込めたそれを人に見せるって、どんなものなんだろう?
気恥ずかしい気がするのは、自信が無い証拠・・・自信を持って、胸を張って、自分の思いを伝えられるものを生み出さなくてはいけない・・・って事だよな。
・・・母さんってすごいんだな。
今更ながらに、身近なカメラマンである自分の親に尊敬の念を抱き、そして、もう一人の顔を思い浮かべた。
そういえば、その途中で、葵が何か言ってた気がする。
あんまり聞いてなかったけど、何か適当な返事をしたような気がする・・・けど、まぁいいや。
短編の「Blanc jour」の先生部分は、ここでさらっと先生を出すための前振りでした。
今後、もう一回あります。
「写真」も同じ話の前振りです。
あと3つ先かな?




