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目が覚めても、やはり周りの風景は変わらず、ワンチャン夢オチでした! を願っていたのに無理だった。
仕方なく、顔を洗う場所がないので服の袖で顔を拭い、頬を叩いて気合いを入れる。
「ヨシ、朝食食べたら移動だ。神殿のない場所に定住できればいいけど、無理だろうな。やっぱりそこそこ大きい街で小さい神殿しかないところ……がいいな」
町と神殿はセットらしいのは昨日の話で分かったのでとりあえず、召喚場所から少し離れた方がいい。戻るために同じ場所からじゃないとダメとかありそうだが……。それはおいおい考えればいい。
朝食はシンプルな食事だった。黒いパンに、スープ、果物がカゴに山盛り乗せられており好きにとる感じだ。りんごのような果物をいくつか失敬して、朝食を済ませたら辻馬車へ。
乗り合いバスのような感じで、揺れは意外にも酷くはなかった。乗ってる人曰く、最新の馬車らしい。古い馬車は魔具が古くてすごい揺れるんだとか。
うたた寝してるフリをしながら乗客の話を聞くと、戦争で大変なのは国境だけで国内は平和らしい。姫様の熱狂的な信者が、こないだ神殿に姫様を模った石像を寄付したとか、姫様のために後追い自殺した貴族の青年がいるとか、なんか姫様話の内容が凄すぎて胃が痛くなってきた。
まーでも生まれ変わってもあんなに可愛いのだ、こっちの世界でも可愛かったんだろう。わかる。だからこそ、姪っ子の周りで起きた事件を考えると(小学生の同級生同士で、姪っ子の隣の席の争奪戦が起きたり、家に遊びに来ようとする男子がいたり、変質者だったりと)間違って関係ない叔母が召喚されたなんて知られたらやばい。
馬車に揺られて3時間ほどで隣町に到着、ここでまた馬車を乗り換えてまた3時間。お昼は宿で失敬した果物をかじりながら、馬車に揺られなばら豊かな田園風景を眺めるという、ただの旅だったら優雅に感じられるのに、実際は不安でいっぱいだ。
やっと終点に着くとそこは小さな町。もう夕方になってしまい馬車の運行は終了していた。目的の街に行くには後もう2回馬車に揺られないといけない。
思ってた以上に遠いのと、庶民が使える交通移動が馬車という……早馬馬車というのもあるらしいが、それは料金も高く、めちゃくちゃ揺れるらしい。
後は金持ちから貴族が使う、飛行船、もっと上のランクは飛行竜魔という竜の形を模した飛行機のような乗り物があるらしい。
飛行竜魔は馬車に乗ってる最中に子供が見つけて手を振っていたので、シルエットは見た。確かに竜みたいなフォルムだが、飛び方が飛行機ぽいし音も似ていた。ただし色が青で光っていた。
「飛行機はあるって言ってたけど、アレかー」
飛行竜魔は場所をとるので主要都市や、大貴族の本邸の近くにしか離発着場所がないらしい。
町の人に宿を聞いて一泊しつつ、ここでも歌を披露して小銭を稼げた。次の日も朝早く起きて出発し、昨日と同じように移動してやっと夕方にリファエレストという大きな街に着いた。
宿を探す時間があまりなかったため、御者のひとに聞いた安宿にその日は泊まったが、壁が薄くて煩くて熟睡ができなかった。朝早く宿を出て、次に泊まる宿を探しに街にでた。
とりあえず広場で情報を集めつつ歌を歌い小銭を稼ぎ、宿を聴くと東のエリアが質の良い宿があるという情報をゲットできた。ついでに楽器屋を聞けば市場に安い楽器が売ってるとか。
楽器の経験はピアノを幼少期に弾いたくらいしかないが。吟遊詩人なんてとりあえずBGM的にポロンポロン音を鳴らせれば良いだろう。
スリに気をつけながら、教わった市場を散策した。
大まかに三列に分かれている。右端は中階層レベル以上の人が買いに来るエリアなため、しっかりとした小屋のような店構えがいくつも並んでいる、真ん中は小屋から祭りの屋台のような簡易なもの、地べたに布を広げて並べてるモノと様々だ。左端は完全に低階層向けで小屋風なのも屋台風なのもなく、地べたに商品が並べられている。
「まー無難に真ん中かな」
食べ物エリアと家具屋小物と一応区切られているようで、見やすかった。そこでウクレレみたいな楽器を銅貨30枚で購入し、食べ歩きをしつつ、王族の絵姿を見つけた。姫様の絵姿は宗教画並みに美しく描かれていた。安い雑貨屋でもこのレベルというか、下手な絵では売れないのだろう。
「姫様の絵って一枚いくら?」
「銅貨50枚だよ」
「50枚……」
安宿の一人部屋の値段と同額か……、一回の歌で今の所、最高額が銅貨30枚くらいしか稼げていないが持っていないとおかしいだろう。値下げ交渉してみたがダメだったのでしかたなく銀貨を出して購入。
「それにしても本当に美人だな」
くっきりとし目鼻立ちに加えて、碧眼の中に金を散りばめた瞳らしい、ピンクゴールドの髪に白い肌。絵姿の裏には姫を讃える容姿と賛美が描かれていた。
神が王室にもたらした神子とか、その声も小鳥のように麗しく聞くものを魅了するとか。
とりあえず、これで職質とかされても、姫のファンです! とかで誤魔化せるだろう。聖地巡礼てきな感じで行こう。
新しい宿を探しに東エリアへと向かう途中に小さな広場があった。そこにもニュースが流れていたのでチラリと見ると、神殿が術に失敗。別のモノを召喚した模様と書かれていた。
「うわーやばくない?」
「ママ、別のモノってなんだろう?」
「何かしら? 異界の化け物じゃなければ良いけれど」
「化け物だったらすぐ見つかろうだろうよ」
「全く神殿は何してんだ! 早く姫様を助けろ。何年かけるつもりだよ」
という会話が聞こえてきた。神殿からすぐ離れて良かったー! と思いながらその場を後にした。早くしないと宿の空きがなくなるかもしれない。
人の多い街のため3件目でやっと今日泊まれる宿に辿り着けた。疲れたので、早々に引き篭もった。屋根裏部屋に近い安い部屋で、5階まで階段で上り入れば、ベッドと机しかないワンルームだが、窓からの景色は最高だった。
高い建物は神殿と貴族たちの屋敷しかないため、見晴らしがとても良い。
「とりあえず、何が召喚されたか神殿側がわかってないならセーフっしょ。それにしてもヨーロッパの街みたいな作りっぽくて面白いな、金持ちのエリアが二箇所に分かれて、両方とも旧都市街で壁に囲われてるし、あそこにはちゃんと門番がいて身分証が必要ぽいだよなー。それ以外は特に壁もなく街が広がってるだよねー。街に入った時も特に身分証求められなかったし」
買ったばかりの楽器を鳴らしながら、どうやって弾くか試行錯誤しつつ、このおしゃれな時間を楽しんだ。いわゆる現実逃避だ。
よくシンガーソングライターが窓辺に腰掛けてギター弾いてるとかっこいいじゃん? しかもおしゃれな街並みの夕暮れ。絵になるーって浸ってたけど、すぐに冷えて寒すぎて窓を閉めた。
「寒すぎ!!」
夕飯を食べに一階の食堂で食事をしつつ、そこでも歌を所望されて披露すると金持ちそうな人にいつまでここにいるのかと聞かれてしまった。しばらく滞在するつもりだと言うと、貴族街でも歌ってくれと言われ通行書も発行してくれるとか明日またこの宿に来てくれるとか、ラッキーと思って二つ返事してしまった。
「よろしく頼むよ。私はエディガーと言う。」
「エディガー様、こちらこそ、貴族街で歌わせていただけるなんて栄光をありがとうございます。明日はよろしくお願いします。私は、キティと言います」
「キティくんか。聞きなれない名だね」
「両親も流浪の身だったため、たぶん生まれた場所にちなんでつけられたとは思うんですが意味はわからないんですよ」
「そうなんだね」
適当に誤魔化しながら、握手を交わしてエディガーさんは宿を後にした。今日は貴族街の宿に泊まるだとか、商売人らしい。
明日からは貴族街で稼げるぞと思いながら、今日は街の道を覚えるべくあちこち散策した。おかげで本物の吟遊詩人も見ることができた。
ハーブを持って演奏してる人もいればギターみたいなのもあった。レパートを増やすべく、歌詞と曲を必死に頭を叩き込んで、路地裏でノートにメモしていく。
「恋の曲もあるのか。あとは武勇伝ねー。貴族の名前がはいってるから、これは危険だな。スマフォで録音できないの辛いなー」
お昼は屋台で買った串焼きと果物を摘み、腹ごしらえが終わったら、公園のような場所で先ほど聞いた恋の曲の歌を練習してると、おませな少女が隣に座って色々お話してくれた。
「その曲、氷の妖精姫の歌でしょ! ミミも好き! おねえちゃん歌上手いね。ミミね、野獣と騎士の歌も好きなの歌ってほしい」
「ごめん、野獣と騎士の歌がわからないんだ。ミミちゃんが教えてくれないかな?」
「いいよー!」
野獣と騎士の歌も恋の歌だった。内容的に美女と野獣の逆版という感じだ。
どうやら二曲とも人気のミュージカルらしい。娯楽街に行けば劇場があるとか、場所を教えてもらいお迎えの来たミミちゃんと別れて、早速向かってみた。
乗合馬車で10分ほどかかったが、ここには劇場が二つもあり遊園地と百貨店とあり、来てる人たちの服装も華やかだ。そしてデートっぽいカップルもちらほら。
「なるほどー。ここで恋の歌を歌ったら稼げそうだな」
人通りの多い場所で一曲披露すると、予想通りカップルからお金が入り込んだ。深々とお辞儀をして移動して、見つけたカフェ屋で稼ぎを確認した。
「これで、昨日のリカバリーできたな。あとは情報収集だよねー」
元の世界に戻りたいが、異世界人とバレたくない、できれば住み込みで働いて稼ぎを安定化させたい。
「宿専属の吟遊詩人とかできるかな? それともやっぱり夜の飲み屋で歌のバイトてきな? この世界にあるかわからないけど、娯楽街だったら需要ありそうだよなぁ」
人気者にはならないだろうから平気だろう。他にも吟遊詩人がいたので歌う人は多そうだし。
そう楽天的に考えていた。




