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姪の妄想話の世界がガチの異世界だったが、戻るために頑張るし、姪はやらん  作者: siro


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1/4

1 妄想話は本当だった?!

「本当にあった……銅に銀貨…奥には金貨もある。それに服も」


 どこかでカラスが嘲笑うように鳴いている。その声が不気味に地下道に反響していった。

 目の前にある宝箱から急いで数枚の銅銀貨と金貨を一枚だけ取り出し、ポケットに詰め込んだ。

 服は男物と女物が入っている。迷わず男物を取り出して黄ばんだワイシャツを今の服の上から被り、ブカブカのズボンもジーパンの上からはいた。ベルトを締めてベストにジャケットを羽織り、いくつかの細長い布を見て、SNSの動画で見た足首にテーピングのように巻く布に似ていることに気づき、うろ覚えで巻きつけた。

 出来上がりはRPGに出てきそうな村人。帽子を被り、持っていたトートバッグから必要最低限なものだけ取り出して、ちょっと臭う皮の鞄に入れ直した。残りは宝箱に入れて、教えられた不思議な音を唱える。


「qsっох ろлыж m」


 淡い光と共に宝箱は消え、汚い木のリングに変わった。それを指にはめてまた大きくため息をついた。


「まーじで夢見る姪っ子の世界にきてるじゃん」


 今私は異世界にいる。しかも幼い姪っ子が妄想で話していたと思われていた世界にそっくりな場所に。手元には幼い姪っ子が一生懸命描いてくれたこの世界のお話のノートがある。

 妄想逞しいなと思っていたが、今では完全に虎の巻状態、絶対に手放せないノートとなった。


 まずは状況整理だ。


 我が家はサザ⚫︎さん状態で長女夫婦と同居している。姉の子である姪っ子はとても可愛い、都心に行けばタレントにならないか? とか幼児ブランドのモデルにならないか? なんて声がかかるほど。めちゃくちゃ可愛い(叔母馬鹿と言われても間違っていないのだ!)

 そのせいか変な大人に目をつけられやすく、小学校に上がってからも送り迎えは必ず我が家の誰かが迎えに行っていた。家族でまだ学生である、末っ子大学院生である私がほぼ迎えに行っていた。

 そして今日は迎えにいったら、学校の門で手を振る姪っ子を目の前でヤバい男が攫おうとしてきたから、ぶん殴って姪っ子を抱っこし、校内に逃げようとしたら後ろから逆上した男に滅多刺しにされたのだ。

 近くで悲鳴が聞こえたし、怒声も聞こえて、姪っ子は腕の中で無事だというのは覚えている。きっとすぐに警察が来るし、犯人は捕まるだろう。学校には防犯カメラたくさんあるし。

 子供達には、トラウマを与えてしまったかもしれないが……


「ん? そうだ、私、背中刺されたのに無事だな?」


 背中を触ってみるも特に血で濡れた感触もなく、凹んだ場所もないし、痛みもない。


「魔法か? いや、姪っ子曰く、魔工学が発達してるって言ってたな。ちゃんと論理に沿った事しかできないとか。うちらの世界でいう科学がメチャクチャ発達しまくった世界だっけ?」


 多分目覚めた場所が神殿だから傷が治ったんだろう。こちらの世界の神殿は、病院みたいな役割もあると言っていた。原理はさっぱりわからないけど。

 目覚めた場所が神殿とわかった理由は、姪っ子が語っていたのとマークまでノートに書いてくれていたのだ。


 さて、問題なのはこのあとだ。この場所は姪っ子が教えてくれた隠し部屋。

 姪っ子曰く、王族の脱出路にある部屋なのだ。


「ということは、ガチで姪っ子の前世ってお姫様だったのかーーー。嘘だろバーニー! て事は傾国顔の美女だったって話しはマジなの?! だからあんなに可愛かったのか?! うちの子!!」


 うちの姪っ子は何度言っても可愛い。目に入れても良いほど可愛いと言っても良い、まじ可愛い家族に溺愛されている。

 なので姪っ子は物心つくころには自分自身をお姫様だと名乗っていた。まー可愛いし祖父祖母は溺愛、サザ⚫︎さん状態で一緒に暮らす長女夫婦の子供だ。みんなでお世話しているからもう、可愛がる以外ないだろう。

 次女の姉と三女の私は姪っ子を着せ替え人形にしてたし、何着せても可愛いのだ。


「「我が家のお姫様〜!」」

「ファンサお願いしまーす!」

「しちゅこぉい!!」

「「しつこい いただきましたー!」」

「姫はそうかんたんにふぁんさはしないのぉ!」

「「かわいい!!」」


 とふざけながら可愛がっていたので、そう思い込んだんだろうと周りは思っていた。

 姉はそろそろ軌道修正しないと痛い子になるからやめろと言ってたが、私はむしろ想像力豊かである意味芸術系の才能もちなのでは?! とかほざいていた。何故なら姪っ子のいうお姫様の話が事細かかったのだ。

 とりあえず、当時はお小遣いアップのために学校がない日は子守をよくしていたため、一緒にお絵描きや文字を教える過程で気づいたのだ。

 姪っ子の読めない文字は統一性があり、もしかしてと思いアイウエオ表を書いて姪っ子に当てはめさせたらちゃんと文字として成立していた。

 そしてまとめさせたのがこの自由帳に書いてある内容。

 想像力豊かなので、この子は将来作家になれるんじゃない?! と私が言った際には、子供はそういうもんだと家族に鼻でわらわれたが。

 姪っ子も両親に話しても相手にされないために、私には色々話してくれたのだ、ついでに私も外でお話しすると頭がおかしい子に思われるから、2人だけの秘密だよと口止めもした。

 可愛いのに、「私は姫なのよ! そんなふざけた遊びしない!」なーんて小学校で言ったら大問題だし下手したら虐められちゃうだろう。

 なので私はお姫様ごっこの時に


「姫、この世界は地球と言いまして、姫がいる国は日本なのです。サブカルチャーが寛容な時代とはなりましたが、この世界に存在しない国のお話をする人は頭がおかしい子だと思われてしまいますし、下手をしたら虐められます。ですので、今の世界に合わせた子供として演技をしてください」

「どうしてわたくしが?!」

「姫は生まれ変わったのです、いつまでも過去に囚われてはなりません。お話ししたい時は私にのみお話しくださいね。姫の世界で、もし地球の話をする者がいたらどうでしょう? TVアニメのお話をする人がいたらどう思いますか?」

「……気狂いだと思うわ…」

「そうゆう事でございます」

「わかったわ。貴方のいうとおりにする」


 なーんて会話もしてたのだが…。幸い姪っ子の世界でも、違う世界の話をしたらヤバい奴認定されるのはわかってよかった。


「私がいなくなって大丈夫かな…」


 いや、それよりも自分の状況が大問題だ。ここが姪っ子がお姫様として暮らしていた世界であり国だ。そして今さっきの宝箱は姪っ子曰く、もしもの時の隠し財産で、逃亡用の服も一緒に入っているという、いわゆる王家の宝。盗んじゃったから、バレたら大変だが、盗まないとこの先の生活に困る!


 いやーでも本当、目覚めた場所が神殿だったのはありがたかった。部屋の中に垂れ下がっていた布の紋章が姪っ子が描いてくれた神殿のマークだと気づいた自分偉すぎる。

 人の気配がして思わず銅像の裏に隠れた場所が、水路への脱出口という運の良さ!

 そのまま姪っ子が教えてくれた脱出経路通りに進むと地下水路の途中の管理室の中、木の指輪に隠された宝箱が本当にあったんだからね! 運使いすぎじゃない? 大丈夫かな、ワタシ。


「ある意味幸運。ある意味不運。さてどうしようか…姪っ子の夢物語がガチだったって事はあの子の前世って、隣の国王に攫われて、結婚を拒否したら閉じ込められて色々貢物がきてると思ったら、ある日汚い格好をした人たちに襲われて広場で殺されたって言ってたけど……。フランス革命みたいな事が起きたって事だよね……もしくは百姓一揆か? でも、生まれ変わりって事は時代的にはそれから数年後のはず」


 部屋の中を物色すれば地図が出てきた。この世界の文字は知らないが、姪っ子ノートがあるので読めるのだ! ありがとう姪っ子よ。

 それと照らし合わせると読み方は分かった。姪っ子が話していた街や村、首都。寺院の場所。姪の地図だと分かりにくかったが、こっちは正確だった。

 ありがたい事に姪っ子のお世話をしていたので、こちらの単語は大体わかる。


「とりあえずこれは写真撮って、ノートの地図は修正するか。スマフォの充電がいつまでもつか……災害用のバッテリーはあるけど、気をつけないとね」


 とりあえず近くの街までこの水路は続いているらしい、地図を頭に叩き込み、2時間ほど歩けば、橋の下に出れた。

 何食わぬ顔で階段を登り街の中を歩く。着替えて正解。みなくすんだ色合いの服だし材質が違いすぎる。

 まずは街の広場に向かう。この世界のニュースは大体、街の広場の掲示板に書かれていると姪っ子が言ってたのだ。

 案の定、簡単に掲示板は見つかった。面白いことに、そこには大きな燻んだ布のような幕があり、生き物のようにインクが動いて文字や絵を形作っていく。余ったインクは模様となって周りを縁取り、次の出番を待っているようだ。そして、数分経つとまた動き出し次のニュースに変わっていく。こうやって、次々と発信されていくようだ。


「電光掲示板のインク版か」


 人々はそれを見ながら雑談をしたり、必要な情報を見ると移動したりと様々だ。何か情報がないかとゆっくりと人の合間を歩いていると。


「姫さんを攫った国はまだ粘っとるのかよ」

「新しい武器を使っちゃいけないのか?」

「そんなことしたら魔塔が黙ってないじゃろ。下手したら魔具を没収されちまう」

「大体悪いのは向こうだろ」

「3年も良く粘るなー。王の言葉を鵜呑みにしたバカな国民だぞ。反省なんてしないだろう」


 周りの人の会話を盗み聞きする限り、どうやら姪の前世である姫君を攫った王国とこの国は絶賛戦争中だった。戦争が始まって3年たっているのか、お姫様が殺されて直ぐ開戦したのか、それとも話し合いの場が設けられたのかは現時点では分からない。


 さて、これからどう過ごそうか。戦争中という事は、余所者に対して目が厳しいだろう。

 どこか住み込みで働ければ良いが、とりあえずこの世界の物価がわからない。

 姪っ子とのおままごとでも、お姫様ゆえに、買い物はしたことがないとか、しても馬車や屋敷の単位くらいでしか表現したことがないと言っていたので情報が0だ。


「とりあえず、姪っ子が言っていた吟遊詩人の真似事でもしてみるか。」


 帽子のおかげでオールバックになった前髪。髪の毛は一本に結べば中性的な顔立ちのおかげで性別は誤魔化せる。

 帽子を足元に置いて、少し喉を慣らしてから姪っ子が教えてくれた、この世界で人気の歌を歌う。

 人々は最初怪訝な顔をしていたが、次第に足を止め、帽子にコインを投げ入れてくれる。お辞儀をしながら歌いながら身振り手振り入れれば、投げられるコインは増えた。

 歌い終われば帽子はそれなりに重くなり、深々と頭を下げれば拍手喝采。

 姪が教えてくれたのは、姫を讃える歌らしく人気だと聞いていたが、本当に人気だった。

 姪っ子曰く「とても良い声だから特別に私を讃える歌を歌わせてあげる! 私の世界だったらにちーちゃんは、国1番の吟遊詩人になれるわよ」と評価を貰っていたが、どうやら本当のようで、聴く人は増えて、かなりの銅貨が貰えた。


「良い声だな、あんた!」


 これ以上いたら他の歌をリクエストされる危険性がある、もう一曲教わっているが他は知らない。ここらでお開きにしようと、お金をカバンに流し込み去ろうとすると聴いていたおじさんが声をかけてきた。


「あんた良い声なのに楽器はどうした? 楽器はないのかね?」

「いやー寝てる間に盗まれまして……金持ちから頂いた良いものだったんですけど」

「命があっただけマシだな」

「全くで」


 愛想笑いしながら、楽器を持っていないことを上手く誤魔化しつつ、そのまま世間話をしながらおすすめの夕飯場所を聞くと、近くの宿屋を紹介された。

 庶民のなかでも中級階級の人が利用する安全な宿らしい。今度は盗まれないように気をつけるように言われてしまった。

 とりあえずお礼を言いながらそこへと向かった


「歌覚えておいてよかったー」


 姪っ子に何度も練習させられた歌だ。もっと感情込めてとか、美しく歌ってとか抽象的なアドバイスだったが。そんな事を思い出しながらたどり着いた宿屋は、繁盛しているらしく一階の食堂はすでに席の半分が埋まっていた。

 とりあえず受付で一泊いくらか値段を聞くと雑魚寝部屋が銅貨50枚、だが今日はもう満室らしく、1人部屋の銀貨1枚の部屋を借りれた。

 食事つきらしく、木札を2枚貰い、とりあえず部屋へと案内される。

 中に入れば、素泊まりという感じの部屋だ。ベットと机と椅子。タンスが一つあるだけ。


「鍵は木の板、だけどこれは魔具だな。ルームキーみたいに施錠が解除される音もしたし、一瞬小さく光ったな……。それにしても風呂は無いのか〜発達してる部分とそうでない部分が激しいなー。庶民の家には風呂はないって言ってたしなー。中流階級からは家にシャワーがあるらしいけど、お風呂は貴族の専売特許だっけ?」


 ノートを開いて確認すると、どうやら公衆浴場はあるらしい。最悪そこに行くしか無さそうだ。幸いなことに日本みたいに湿気はなくヨーロッパのように乾燥しているので、ベタつくことはない。それでもシャワーは浴びたいが。

 一階におりて木札を一枚渡せば、宿泊客はタダで食べられるかわりに2種類だけある料理コースからしか選べないらしい。

 給仕をしていた女性におすすめを聞くと、愛想よく教えてくれた。


「お兄さん広場で歌ってた人よね! オススメは肉の方よ! 今日の魚は生臭さが残っててまずいから」


 最後の情報は小声で教えてくれたが現地の人が言うほど生臭いのか、なら肉一択。

 来た肉料理は香草で臭みを消し、塩胡椒が軽く振り撒いて焼いただけのものと、軽く焼いただけの野菜と薄っぺらいパン。素材の味を楽しむ感じで、薄味の自分にはちょうど良い味加減だ。2番目の姉だったら味がない! 美味しくないって騒ぐ味だ。

 黙々と食べて部屋に戻ろうと思っていたのだが、どうやら店内に広場で歌を聴いた客がいたらしく、吟遊詩人だと勘違いされたため、その場で一曲歌えばまた小銭が稼げた。

 そのまま、おしゃべりに興じていると酔っ払うおじさんたちから話を聞くと、神殿が亡くなった姫君の魂を召喚する儀式をしているとか。どういう事かと聞けば、なんでも異国で惨殺された姫君は、その国でも違法とされる異界の地獄へと魂を送られたらしい。


「地球って地獄なのか……」


 もしかして、姪っ子って神殿の人達によって連れ戻される予定だったのか? でも実際に来てしまったのは私だ……。

 これはやばい。地獄の住人が姫の代わりに来たと思われたら、下手したら殺されるのでは?? とりあえず神殿から離れよう。最初にいた場所は大神殿だったみたいだし。

 辻馬車の停留所を教えてもらい、比較的治安の良さそうな街を聞き出した。次に行く場所はリファエレストという街に決めた。

 



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