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84話--日本の現状--

「なんか揉めてたみたいっすけど、大丈夫っすかー?」


 リビングに戻ると、ソファにだらーんと座っていた七海が、手足を投げ出したまま私たちに声をかけてきた。

 3人ともいつも通りの顔をしているあたり、ああいうのはもう日常茶飯事なんだろう。


「うん、お姉ちゃんが良い感じに言いくるめて、解体場送りにしたよ」


「……えっ? 配給にあの人たちのお肉が並ぶんですか?」


「ウチは反対っすよ!!」


「沙耶。言い方が悪すぎるよ……」


 にしし、と沙耶が悪戯っぽく笑う。


 それからしばらく他愛もない話をして過ごしていたが、特に何か起きることもなく、時間だけが流れ、気付けば昼前になっていた。


 そろそろ皆も動き始めるか――と、ソファに根付いた重い腰を上げたところで、チャイムが鳴った。

 また来客だ。


 ドアスコープを覗くと、厳つい顔の老人と、目の下の隈がひどいサラリーマン風の男が立っていた。

 相田さんと林さんだ。ドアを開けると、相田さんがいつも通りの調子で話しかけてきた。


「おう! 沙耶の嬢ちゃ……? なんか急にデカくなったな!?」


「沙耶ー。相田さんが呼んでるよー」


「今行くー!」


 リビングから声が返ってくる。

 相田さんが私の顔を見て、首を傾げた。何故か分からないので、とりあえず私も首を傾げておく。


「相田さん~、会合お疲れ様~」


「おい、林。沙耶の嬢ちゃんが2人いるぞ?」


「協会長。私にも2人に見えます」


「ねぇ、沙耶。相田さんたちに、私が帰ってきたこと伝えたの?」


「あっ……!」


 本当に今思い出しました、という声だった。

 ……さては、何も言ってないな? ほら、林さんなんて、完全に亡霊を見る目でこっち見てるし。


 どう挨拶するか少し迷ったが、結局いつも通り、手を前に差し出した。


「久しぶり、相田さん。戻ってきたよ」


「……ッ! 嬢ちゃんか!! いったい今までどこに行ってたんだ……!」


 ぎゅっと、固い握手。

 林さんもようやく理解したらしく、目元をハンカチで押さえながら、ほっとしたように笑っていた。


 安堵と疲労が混ざった相田さんの顔を見て、沙耶の言っていた「会合」の雰囲気を察する。


「あらら……見た感じ、会合の様子も悪かったっぽいし、とりあえず上がって~」


 沙耶が2人を手招きし、家に招き入れる。

 そういえば、この2人は海外に行って、日本への武力介入を止めるよう交渉していたんだっけ。

 戻ってきたということは、何かしら結果を持ち帰っているはずだ。


「あー! おっちゃん! 久しぶりっす!!」


「七海さん……一応、日本では総理に次ぐ権力者なんだから、おっちゃん呼びは流石に……」


 アイスを食べながら相田さんに手を振る七海。

 あまりにもフランクな態度に、小森ちゃんが眉をハの字にして注意しているが……まあ、七海が素直に改めるとは思えない。


 会社員時代も、会社の社長のことを“組長”と呼んで、課長に3時間説教されても呼び方を変えなかった奴だ。


「……ん? 老いた人間。久しぶり」


「おー、全盛期時代の『銀の聖女』が勢ぞろいじゃねぇか。こりゃこの老いぼれも長く生きた甲斐があったってもんだ」


 相田さんが腰を下ろすと、会合の内容を話し始めた。


 どうやら、今の日本の立場はかなり厳しいらしい。

 「自国を守る戦力を持たない、弱い国」と見られている、と。


 その結果、「日本を守ってやる」という名目で、各国が自国のハンターを日本に送り込み、日本のハンターごと囲い込もうとしているらしい。

 特にアジア近隣諸国からの圧力が強く、数の暴力で押しかけてきているそうだ。


 既に九州一帯はほとんど乗っ取られているとのこと。

 ここまで荒廃しているのも、どうやら日本だけらしく、それがまた日本の立場を悪くしている要因にもなっているらしい。


「で、日本へのハンター派遣を止めてほしければ『力を示せ』って話になってな。各国代表のハンターを出して試合をすることになっちまった」


 国家間の親善試合――という名目の、疑似戦争。

 昔はスポーツの金メダルの数でマウントを取り合っていたのが、そのままハンター同士の直接対決になっただけだ。


 相田さんが一番懸念しているのは、日本側で動かせる戦力があまりにも少ないことだろう。

 他国に抱き込まれていない、自由に動ける強者が、ほとんど残っていない。


「過去にもそういう話があったんだけどねぇ……私たちは動けないし、日本で活躍してたパーティーもほとんど他国に囲われちゃったし」


「そうっすねぇ。ウチらの次に強かった『開拓者フロンティア』なんて、秒で日本を見捨てたっすからね」


「……いたっけ? そんなパーティー……」


 頑張って思い出そうとしたが、まるで印象に残っていない。

 顎に手を当てて唸っていると、相田さんが続けた。


「なんとか今までは言い訳して逃れていたが、さっきの会合では通じなかった。親善試合を組まされちまったよ……。嬢ちゃんたちに無理を言って出てもらおうと思っていたんだが、お前さんがいるなら話は別だ」


 そう言って、相田さんが私を指差す。


 ――正直、乗り気ではない。


 魔界で過ごした五年間で、私はあまりにも強くなりすぎた。

 真面目にやれば、子ども相手のスパーリングみたいな試合にしかならない。


 言い淀んでいると、沙耶が不思議そうに私を見る。


「……何をそんなに悩んでるの?」


「うーん……。実力が離れすぎてるんだよね……。私も魔界で遊んでた訳じゃないからさ……」


「それに何の問題があるんすか? ぼっこぼこにすればいいんすよ!」


 何も考えていない(ようにしか見えない)七海が、満面の笑みで言った。

 小森ちゃんも、こくこくと真面目に頷いている。


「そっか、実力が離れてるなら……付けさせればいいじゃん」


 ぽん、と答えが降りてきた気がした。


 私が魔界で得た技術や、魔力の扱い方、戦い方を、ちゃんと言語化してみんなに教える。

 そうすれば、日本のハンター全体のレベルアップにも繋がるし、全体が底上げされれば“試合”として見られる程度にはなるかもしれない。


「沙耶、前に配信とかやってたよね? 今もできる?」


「お姉ちゃんが居なくなってから毎日やってるよ……お母さんのチャンネルでだけど、簡単な近況報告みたいな感じ」


「うぐ……ごめんて……。今日まだやってないよね? そこに私も映して」


「いいよ~。じゃあ今から配信するから、外出よっか!」


 沙耶が立ち上がり、スマホを手に取る。

 私も席を立ち、窓の外、よく映える庭先をちらりと見た。


 ――よし。

 帰ってきたからには、やるべきことは山ほどある。まずは、世界に“帰還報告”といこう。

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― 新着の感想 ―
ん?何が問題なんだ? 侵略者の代表を一方的に叩きの飯て釘刺して終わりでは 侵略者を楽しませる必要なんて欠片もないよね 逆恨みしたり危険だから潰すなんて判断したらそれこそ滅ぼせばいい
開拓者のリーダーは我欲が強かったから名声求めて飛び出したんだろうけど、手ほどき受けた魔法使いや、仲間から雑に扱われてた自己強化支援職は喜んで飛びついたのかなぁ?
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