表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/128

56話--決定戦1戦目(前半)--

 訓練の日とダンジョン攻略の日を交互に挟んでいるうちに、気が付けば、あれよあれよという間にトーナメント当日がやってきていた。

 会場は――東京ドーム。

 生で見るのは久しぶりだけど、相変わらず「でっかい」の一言に尽きる。格闘技のビッグマッチみたいに、ドーム全体を丸ごと貸し切っての開催らしい。

 ステージ設営、観客席の大型スクリーン、スポンサーのロゴ。ざっと見ただけでも、あちこちにお金がジャブジャブ投じられているのが分かる。


「ほへぇ、なかなかでっかい会場っすね」


 七海が見上げたまま感嘆の声を漏らす。


「あ、ここって僕と握手! のところだよね!」


 沙耶は沙耶で、昔アイドルのイベントか何かで来たことがあるらしく、妙なテンションになっている。


「野球観戦以外で初めて来ました!」


 小森ちゃんも、グローブじゃなくて杖を持ってドームに来る日が来るとは思ってなかっただろう。


 東京に住んでいても、東京ドームなんて人生でそう何度も足を運ぶ場所じゃない。はしゃぎたくなるのも、まあ、分からなくはない。


 ……で、カレンはどこ行った?


 ついさっきまで隣にいたはずなのに、気が付くと影も形もない。またよからぬことでもしているのかと周囲に意識を巡らせたが、敵意らしい気配はどこにも感じない。

 首を傾げながら見回していると、ひょこっと人混みの向こうからカレンが戻ってきた。右手に串焼き、左手にりんご飴をぶら下げて。


「随分と馴染んでるね……」


「ん。郷に入っては郷に従え、あーちゃんが言ってた。その通り」


「確かに言ったけど」


 私の言葉、そういう方向で覚えてたんだ……。

 個人戦に出ないカレンからすれば、これはもう「大きなお祭り」くらいの感覚なのかもしれない。屋台もあるし、人も多いし、派手な演出もあるし。


 私たち『銀の聖女』の出番はブロックの大トリ。

 本日中に準決勝と決勝まで、個人戦をすべて片付けるスケジュールらしい。団体戦は翌日で、トーナメントは合計二日間の開催となる。


 受付で選手登録と身分確認を済ませると、ドーム内部の通路を通って控室へ案内された。


「すみません。選手以外の控室入りは規定で禁止されてまして……」


 振り返ると、小森ちゃんとカレンが係員に止められていた。

 カレンの眉が、ほんの少しだけぴくりと上がる。

 最近はずっと一緒に暮らしているせいで、こういう微妙な表情の変化でも、なんとなく機嫌が読めるようになってきた。今のは、やや「イラッ」としているパターンだ。


「カレン、小森ちゃん。規定だから仕方ないよ。出店とか色々あるから、時間潰しててほしいかな?」


「ん。あーちゃんがそう言うならそうする」


 カレンからにじみ出しかけていた殺気が、すっと引いていく。

 そのまま二人に近づいて、小森ちゃんの耳元でこっそり囁いた。


「悪いけど、カレンの手綱握っといて……パーティー用の資金とか使ってもいいから」


「ひっ、ひゃい……あの、耳弱いので少し離れて……」


「あ、ごめん。じゃあ、よろしくね」


 耳まで真っ赤になった小森ちゃんを見て、ちょっとだけ罪悪感を覚えつつも、背を向けて控室へ向かう。


 最近のカレンは「娯楽としての食事」を覚えたおかげで、魔力の有無に関係なく「味」を楽しんで食べるようになった。

 それがなんだか、回帰前の自分と重なって見えてしまうことがある。あの頃の私は「動くために最低限の燃料を入れている」くらいの感覚で、食事に楽しさなんて求めていなかったから。


 控室に着くと、ドアの札には『銀の聖女』のパーティー名が掲げられていた。

 中に入ると、簡素な椅子と長机があり、机の上にはペットボトルのお茶と、選手用の弁当が人数分並んでいる。


「テレビでよく見かける芸能人の楽屋みたいだね」


「確かに。テレビで戦闘の状況を中継してくれるみたい」


「そうなんすね、ウチらの出番は……14時っすか。5時間も待つのはしんどいっすね」


「もうすぐ1試合目が始まるから、それ見てからどうするか決めよっか」


 今の時刻は、まだ朝の9時を少し回ったところ。

 備え付けのテレビをつけると、既に番組は始まっていて、派手なテロップとともに選手紹介が行われていた。


 雰囲気は完全にプロレス。

 過剰なくらいの煽り文句と、派手なBGM。……自分たちがどう紹介されるのか、想像しただけでちょっと胃が重くなる。


 1試合目は、私でも名前を聞いたことのないパーティー同士の対戦だ。

 こういうのは、きっと沙耶のほうが詳しい。


「『先導者』対『影潜』だね。盤石な構成の『先導者』。パーティー全員が【短剣術】持ちで構成されてる『影潜』……どっちかっていうと『先導者』が有利かな」


「ウチは『影潜』のほうが好みっすね! 全員が忍者みたいな格好してるってコンセプト的に良くないっすか?」


 気付けば、沙耶と七海はどっちが勝つかでさっそく賭けを始めていた。

 掛け金はそれぞれ1ゴールド。テーブルの上で金貨が二枚、ちょこんと並んでいる。


 そんな他愛ないやり取りを横目に見ているうちに、第一試合のゴングが鳴った。


 


 ――そして、20分も経たないうちに、第一試合は幕を閉じた。


「え、ちょっと待って。あんなのと戦わないといけないの!?」


「ウチも沙耶ちゃんに同感っす。まさか――」


「あんなにレベルが低いなんてねぇ……」


 思わず全員で同時に、心の声を漏らしてしまった。

 試合内容は、正直なところ、手に汗握るような攻防とは程遠いものだった。

 沙耶がさっさとレベルを確認してくれたおかげで、数字としても現実を突きつけられる。両パーティーとも、レベルは30後半といったところ。


 ――いや、別に彼らが弱いわけじゃない。

 ダンジョンが広まってからまだ日が浅い今、「レベル30台後半」というのは、普通に頑張っている部類だ。

 ただ、どうしても、私とカレンの模擬戦や、魔族との死闘を基準に見てしまっているせいで、目が完全にバグっている。


 そもそも、今パーティーを組んで戦っている人たちのほとんどは、それまで普通に働いていて、戦うなんてゲームの中くらいでしか経験がなかった人たちだ。

 覚醒して、ハンターになって、ようやく一歩踏み出したばかり。

 最初から研ぎ澄まされた技術や経験があるはずもなく、卓越した戦い方ができるのは、本当に一握り。


 それを頭では分かっていても――自分たちの感覚が、もう普通から離れてしまっているのも自覚せざるを得ない。


「沙耶、七海……力加減間違えないようにね」


「うっす。本気出したら多分、大変なことになるっすよね」


「子供同士のちゃんばらを見てるようだったなぁ。間違いなくお姉ちゃん達のせいで目が肥えたのかな」


 さすがに「児戯にも等しい」は言いすぎかもしれないが……比べる対象が悪すぎるのは事実だ。

 私とカレンの模擬戦なんて、あれはもう魔族同士の殺し合いみたいなものだし。


 観客席も、微妙な空気になっていた。歓声が上がらないわけではないが、どこか盛り上がり切らない。

 結局、第一試合は順当に『先導者』の勝利で終わった。


 その後、私たちはテレビを一度消し、「どうやったら会場が盛り上がるか」を真面目に話し合い始めた。


「1戦目のメンバー表に1人だけ書くってのはどう?」


「いいね。相手に舐めてるのか、って思わせて圧勝しよう」


「誰が行くっすか?」


「沙耶か七海のどっちかかな。私は決勝とかまで控えるよ」


「そうしたほうがいいっすね。沙耶ちゃん、じゃんけんっす」


 沙耶と七海が向かい合って、真剣な顔でじゃんけんをする。

 結果は――七海の負け。

 第一試合の出場枠は、沙耶に決まった。


 ちょうどそのタイミングで、運営スタッフの女性がメンバー表の回収にやってきたので、私たちは迷わず「出場:橘沙耶」の一名だけを書いて渡した。


 書類を覗き込んだ女性スタッフは、ぱちぱちと目を瞬かせる。


「あのっ、一人しか書かれてないようですが……」


「合ってるよ。1戦目は一人……。派手に煽ってね?」


「……はいっ!」


 何かを察したのか、彼女はぱっと表情を明るくして駆け足で走り去っていった。


 別ブロックでは、ひと足先に『開拓者』が試合を終えているらしい。

 話によると、彼らは6人フルでエントリーして、3人残して勝利したそうだ。

 こちらから積極的に喧嘩を売るつもりはなかったけれど、結果的に「銀の聖女は1人で挑む」という図式になってしまったなら、もうそれはそれで受け入れるしかない。


「沙耶。技能は使っていいみたいだから、殺さない程度に派手に使っちゃって」


「わかったよー、派手に、ね。行ってくる!」


「近くまで行くけどね」


「あっ、うん……」


 胸を張って控室を飛び出していこうとした沙耶の背を、私が軽く押してやる。

 私と七海はリングサイド近くまで付き添いで行くつもりだ。


 通路を進んでいくと、アナウンサーの声がスピーカー越しに響いてきた。


「さあ、予選1回戦目の大トリはやはりこのパーティー! 6人まで登録できるこの個人戦に登録した選手は……3人!? しかもこの試合に挑むのは1人と来たぞ!? 強者の余裕か!? 弱者の虚仮脅しか! この一戦を見れば全てが分かる! 『銀の聖女』、入場!!」


「……この放送の後に入りたくないんだけど」


「まあ、行ってきなって」


 突然の煽り文句に足を止めた沙耶の背中を、もう一度ぐいっと押す。

 スポットライトの光が差し込む通路の先へ、沙耶の背中が消えていく。


 会場からは、耳をつんざくような歓声が沸き起こった。

 視線の先、リングの向こう側には、すでに対戦相手が整列している。人数は5人。

 装備を一瞥する限り、タンク1、前衛2、後衛2。バランスだけ見れば、いかにもお手本のような構成だ。


「あっ、ウチらの一回戦目の相手って……」


「どうしたの、七海。何か問題あった?」


「いやっ……大企業っすよ? 居酒屋で有名な」


 企業所属のパーティーか。どうりで装備が一段階いいわけだ。

 タンクの防具は特に頑丈そうで、リーダー格と思しき男の鎧は、スポットライトを受けてやけに眩しく輝いている。武器は、見るからに重量のありそうな大剣。


 登録表を見る限り、出場順は――

 1戦目がタンク。2戦目が魔法使いの後衛。3戦目は剣士の前衛。4戦目は弓使いの後衛。最後はリーダーの大剣使い、という構成らしい。


 正直なところ、私は沙耶に「負けてもいい」と伝えてある。

 ここでの目的は、強さの誇示でも、プライドの勝ち負けでもなく、「これから先を見据えた経験値稼ぎ」だ。

 だから――


 負けても大丈夫。そう言ってあるからこそ、沙耶には気負わずに、自分の戦いをしてきてほしい。


 さて、どんな試合を見せてくれるのか。

 私も観客席ではなく、仲間としての目で、その一戦を見届けよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ