表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/128

55話--対人訓練--

 途中から、攻撃がまったく当たらないことに腹を立てたのか、三人の放つ魔法と矢が、空間を埋めるように一気に増えた。

 まるで弾幕ゲームの画面みたいに、色とりどりの魔力光と矢が降り注ぐ。私はカレンと並んで、その中を意地でも一発ももらわないように駆け抜けた。


 針の穴どころか、針山の隙間を通るような軌道を強いられる。

 飛び、跳ね、滑り込み、時には体をひねって紙一重で抜ける。剣もスキルも使わず、純粋な脚力と魔力制御だけで避け続けると、やがて弾幕がぴたりと止んだ。


「――あれ、どうしたの?」


「はぁっ……魔力、切れ……」


「ウチも、もう無理っす……」


 息を荒げてその場に膝をつく二人。七海も肩で息をしていて、三人とも限界まで魔力量を絞り出した顔をしていた。


 なるほど。さっきの高密度の攻撃は、最後のひと踏ん張り、力を振り絞った結果だったわけか。


 カレンと目を合わせて、訓練の総評に移る。


「どうだった? 私としては問題ないと思うんだけど」


「ん。威力は問題ない。あとは速さ」


 こくりと頷くカレン。

 確かに。今回は「私たちが攻撃しない」のを前提にしている訓練だ。実戦のように、こちらが反撃してこない状況なんてまずない。


 現実の戦闘は、ほとんどが速戦即決になる。

 遠距離スキル持ちと近距離スキル持ちが戦えば、基本的に距離を詰められた側――遠距離側が不利になる。


 カレンはそのあたりも含めて、沙耶と七海に「遠距離での対人戦の基本」を噛んで含めるように話し始めた。


「基本は、牽制。設置型の技能を至る所に配置して近づけさせないようにする。魔法陣が光を放つのは最初の1秒もない。魔法陣が光った瞬間、剣に魔力を纏わせて斬るなんてことをしてくるのはあーちゃんだけ」


「やっぱりお姉ちゃんは異常なんだね……」


「大丈夫。接近されたら、その杖で思いっきり殴れば解決」


 カレンが沙耶の杖を指さしてさらっと言い切る。

 確かに、古代竜の杖は私の剣と同じぐらい硬い。魔脈が開いた今の沙耶なら、スキル補正も乗れば一撃でゴブリンぐらいは屠れそうだ。


 沙耶へのレクチャーが一段落したところで、カレンは視線を七海へ移した。


「正直な話をすると、弓は面と向かった対人戦は非常に弱い」


「そうっすよねぇ。近づかれたらアウトっすからね……」


「サブ武器を持つべき。これは秘密だけど【弓術】持ちは短剣ならスキルが乗る……だから短剣を忍ばせて近接も戦えるようにするのが定石」


「うっす! あざす!!」


 【弓術】スキルに短剣も効果が乗る――そんなの、初耳だ。

 今までそれなりに情報は集めてきたつもりだったけれど、ここ最近、私の「知らなかった」がどんどん更新されていく。


 ――悪くない。私はまだ、強くなれる余地があるということだ。


 続いて、カレンは小森ちゃんの方へ向き直る。


「上昇効果型の【支援】は、無理。団体戦ならまだしも1対1は絶対に避けるべき状況」


「ですよね……近接戦闘も最近頑張ってるんですけど、本職には敵わないですし……」


「おすすめはしない。戦って怪我でもしたら大変」


「分かりました! 個人戦は出場を見送ろうと思います……橘さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。団体戦で一緒に頑張ろう?」


「はいっ!」


 にこっと笑う小森ちゃん。個人戦は無理をせず、団体戦に全振り――賢い判断だと思う。


 


 訓練場は一日単位で借りているので、まだ時間はいくらでもある。

 私は剣を出して、技能の制御具合を確かめることにした。


 今、私が磨きたいのは「力」じゃなくて「技術」だ。

 魔力を少量だけ放出し、収束させる。その繰り返しで感覚を研ぎ澄まそうとする。


 【支援】の技能である【探知】――小森ちゃんが使うときの魔力の流れを思い出し、それを自分の中で再現しようと試みる。


「うーん。何かがある、ってのは分かるけど、小森ちゃんの【探知】みたいに明確には分からないなぁ」


 目を瞑って周囲を探る感覚は、視界を奪われた状態で戦うのに近い。

 回帰前の経験上、音や匂い、空気の流れで戦うこと自体はできる。でも今やろうとしているのは、それを「魔力の感覚」でやることだ。


 あと一歩、何かが足りない。

 目の前にうっすらと見えてる扉のノブに、あと数センチ手が届かないようなもどかしさがある。


 気を取り直して、別の技能も試すことにした。【八閃花】を展開し、その剣を維持してみる。


「あれっ、思っていた以上に維持ができるようになってる」


 八本の光の剣を維持しながら、私は苦笑する。

 以前ならすぐ霧散してしまっていたのに、今は魔力の糸がぴんと張られたまま、ほとんどブレない。


「……魔脈の力かな? なんか剣に繋いでいる魔力の線が安定してる」


「ん。魔脈から魔力が安定供給されてる、でも扱い難しそう……」


「うん。難しいよ」


 感覚としては、急に腕が八本増えたようなものだ。

 それぞれの剣を「自分の手足」のように動かそうとすればするほど、頭の中が熱くなり、脳が焼けそうなほど負荷がかかる。


 ……でも、魔脈を開く前よりは、明らかにコントロールしやすくなっている。

 欲張りすぎず、今はこれで良しとしよう。


 剣を消して、その場にへたり込むように座り込むと、すぐ傍までカレンがとてとてと歩いてきた。


「あーちゃん、簡単な模擬戦しよ」


「カレンから誘ってくれるのは初めてだね、いいよ」


 訓練場の中央に、おおよそ三メートルほどの円を描き、その中に向かい合って立つ。

 武器はなし。素手の殴り合いだ。


 カレンがすっと目を閉じる。

 ああ、なるほど。そういう趣向の戦いか。


 私もそれに倣って目を閉じ、正面から向き合う。

 カレンの身体からふわりと魔力が放出されていくのが分かる。波紋のように、空間を撫でて、私の肌に触れてくる。


 その魔力の揺らぎを感じてから動く――そう決めたのだが。


「いった!?」


「あ、ごめんね……鼻に当てるつもりはなかった……」


 考えるより早く、顔面に拳がめり込んだ。

 鼻に鈍い痛みが走り、じわりと血の味がする。慌てて魔力を流して、骨と血管を一瞬で修復する。


 今ので、ひとつ分かったことがある。


 相対した状態で「相手の魔力の動き」を待ってから反応するのは、思った以上に不利だ。

 カレンの場合、元々の魔力量が桁違いで、全身から常に膨大な魔力が放出されている。そのせいで、小さな「動き出し」の揺らぎが、その大きな波にかき消されてしまう。


 視界が奪われた状態で、魔力の感覚だけで戦うなら――

 自分から魔力を広げて「相手ごと包む」くらいじゃないと、細かい動きなんて拾えない。


「ん。流石あーちゃん。もう意図に気が付いた」


「本当にしてやられたよ。もう一戦よろしく」


 鼻血を拭って立ち上がり、もう一度向かい合う。

 今度は私からも魔力を放出し、カレンの魔力に飲み込まれないように対抗する。


 すると、自分の魔力の膜を突き破って、鋭い針みたいな魔力の塊が飛んでくるのが分かった。

 そこへ腕を上げてガードすると――硬い感触。カレンの拳だ。


「なるほどね」


「ん。じゃあこれはどう?」


 カレンが拳を引いた瞬間、今度は一気に複数の魔力が飛んできた。

 ――七つ。感覚的に、確かに七つ。


 それらを掴むようにして受け止めようとしたが、指先には何も触れない。

 空を切る感触だけが残った。


「はっ?」


 思わず間抜けな声が漏れる。

 魔力の気配は、確かにあった。あったのに、触れない。


 私の鼻先ギリギリで、カレンの拳がぴたりと止まっていた。


「ん、今の7つのうち、本物は2つ」


「もしかして……魔力だけ飛ばした?」


「正解。これも戦闘の技術。極限状態で戦っているときに使うと案外引っかかる」


 魔力だけを「拳の偽物」として飛ばし、本物の軌道を紛れさせる――。

 感覚頼りで戦っている時ほど、こういうフェイクに引っかかりやすい。


 いい技を教えてもらった。

 沙耶と七海の魔力もそろそろ回復してきたようだし、もう一度さっきの訓練――「動く私たちに当てる訓練」を繰り返そう。


 今度は、私とカレンは目を瞑ったまま。

 魔力の流れだけを頼りに動く、実戦寄りのバージョンで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
回帰前とは比べ物にならないほど強くなってるだろうなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ