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47話--組み合わせ--

 家の中に戻って、みんなでテーブルを囲みながらカレンからゆっくり話を聞いた。


 まず、カレン自身のこと。

 カレンは、自分の中に流れている4つの種族――ハイエルフ、淫魔、吸血鬼、悪魔――その全部の力を「余すところなく使える」のだという。

 そしてダンジョンについての話。

 こっちの世界に出現するダンジョンは、カレンたちの世界の一部を切り取って、こちら側に投影したものらしい。向こう側には普通に人族の国も存在していて、カレンの国もその中にある。


 今のカレンの方針はこうだ。

 ――こっちの世界でダンジョンに入り、向こう側に「生きている痕跡」を残す。

 ――その痕跡を目印に、家族や仲間に迎えに来てもらう。

 それまでのあいだは、この世界で待つしかない。


 ただし問題がひとつ。

 ダンジョンは、ゲートから入った者の情報を「こちら側」に登録し、攻略されると、その攻略情報をもとに外へ排出する仕組みらしい。

 つまり、カレンがダンジョンに入り、スライムを倒しても――「攻略」として処理されるのはあくまで、この世界側。

 結果として、カレンは向こう側に戻るどころか、きっちりこっちに押し戻されてしまう、というわけだ。


 しかも、あのダンジョンは別の魔族が作ったもので、カレン自身は権限を持っていなかったらしい。

 権限がなければ、構造を弄ることも、出口を変えることもできない。

 つまり――。


「暫くは、お世話になる……対価は何がいい? 溶けるような快楽?」


 さらっと物騒な提案をしてくるあたりが、やっぱり魔族だ。


「それは要らないかな。私たちと一緒にダンジョン攻略してよ、前衛が足りないんだ」


 前衛不足なのは事実だ。

 それに、これだけの実力者が前に立ってくれれば、相当心強い。

 何より――カレンと一緒に戦えば、対人戦の感覚も、対魔族の「勘」も掴めるかもしれない。


「ん、それだけ? もっといいよ?」


「じゃあ、定期的に私と模擬戦してほしいかな」


 あの遺跡での戦いを思い出す。

 こちらが全力を出してやっと拮抗する相手と、何度も手合わせできる機会なんて、そうそうない。


 今度は遅れを取らないためにも、カレンとの模擬戦は絶対にやっておきたい。


「わかった。魔力の使い方も手取り足取り教えてあげる……あーちゃん達、全然使えてない」


「ありがとう……ちょうど気になってたところなんだ」


 図星を刺されて、思わず苦笑いが漏れた。

 魔力増加法や【竜体】のおかげで魔力量自体はとんでもないけれど、その「使い方」は正直、まだ手探りだ。


「ん、どういたしまして。私たちは、生まれた時から魔力に触れてる、だから慣れてる。大丈夫、あーちゃん達もすぐ慣れる」


 カレンは、いつもの無表情のまま親指をぐっと立ててみせた。

 そういう仕草だけは、妙に人間臭い。


 聞きたいことはまだ山ほどあるけれど、ひとまず区切りを付けて最後にひとつだけ、どうしても気になっていたことを口にする。


「カレン、第二王女なのに王位継承権が一位って何で?」


「私の国では強さが全て……パパの子供の中で私が一番強いから私が一位」


 さらっと、とんでもないことを言う。


「遺跡で倒した魔族……ジルドだっけ? そいつは何位だったの?」


「ジルドは15位。30人居る、私は一位」


 あれでたったの十五位。

 あのゴリゴリの化け物が中堅クラスってどういう世界なんだろう。


 カレンは、一位のところだけ少しだけ声に力を込めて言った。

 何となく、褒めてほしいのが見て取れて、私は自然と手を伸ばす。


 頭を撫でると、無表情のまま口元だけが「へへっ……」と緩んだ。

 どうやら図星だったらしい。


 休日で特に予定もなく、さて次は何をしようか――と考えていたとき、家中に呼びベルの音が響いた。

 ドアホンを覗き込むと、画面には相田さんと林さんの姿が映っている。


「どーぞー」


 玄関の鍵を開けて迎え入れると、相田さんがいつもの調子で笑った。


「家まで来ちまってすまないな、嬢ちゃん」


「いえ、どうぞ」


 廊下を進みながら、私は先にリビングのドアを少し開け、中に向かって声をかける。


「相田さん来たよー」


「声かけあざっす!」


 その一言で、ソファに投げ出されていた三人は、慌てて自室へと引き返していった。

 パジャマだったり、短パンTシャツだったり――まあ、客人を迎えるにはいろいろとアウトだ。

 先に声をかけておいて本当に良かった。


 リビングには、カレンが一人ぽつんと残っていた。

 Tシャツに短パンというラフな格好だが、尻尾さえ出していなければ、ぱっと見はただの外国人の女の子だ。


「おっ、新顔だな? 儂は相田だ、よろしくな」


「ん。私はカレン。よろしく、おじいちゃん」


 即座に「おじいちゃん」呼びしたカレンに、相田さんは一瞬だけ固まり、それから愉快そうに笑い出した。


「かっかっか! こりゃまた良い娘だな!」


 その横で、私は林さんを廊下側に引き寄せ、ひそひそ声で切り出した。


「林さん、ちょっと相談なんだけど……カレンをうちのパーティーメンバーにできないかな?」


 戸籍も何もない、別世界の住人。

 どう考えても普通の登録ルートでは無理がある。


 林さんはちらりとカレンを見やり、微妙な笑顔を浮かべてから肩を竦めた。


「新しいメンバーの方、ですかね。訳アリそうな感じがしますが見なかったことにします」


 と、その瞬間、私の視界の端に入ったカレンの腰元に、しっかりと尻尾が生えているのが見えた。


「……」


 思わず頭を抱えそうになる。

 せめて隠す努力ぐらいしてほしい。


「訳アリなのは間違いないですけど……それでも、大丈夫?」


「可能ですよ。内密にこちらで処理をしておきます。何か起きても橘さんが何とかしますよね?」


「あー、うん。何とかするからお願いね」


 要するに、私が身元保証人だ。

 「もし暴れたら責任取ってね」ということでもある。


 まともにやり合ったことがないので、全力のカレンを止められる自信は正直あまりないけれど……カレンの性格的に、いきなり暴走することはないと信じたい。


 そんな内緒話をしていると、リビングから相田さんの大きな声が聞こえてきた。


「そうだ、本題に入ろう。提案してもらった最強パーティー決定戦だが開催されることになった」


「沙耶の案が通ったんだね……」


 やっぱりか。

 あの子、行動力に関しては本当に容赦がない。


「儂としてはあまりやりたくは無かったんだが『開拓者』と癒着している国の上層部が白黒つけた方がいい、と乗り気でな……」


 嬢ちゃんが煽らなければもっと穏便だったんだがな、と相田さんが愚痴を漏らす。


 私としては「煽った」自覚はないのだけれど、結果だけ見ればそう見えてもおかしくはない。

 報道陣の前で【竜の威圧】をかけてしまったのも、今思えば火に油だったのだろう。


 話を聞く限り、ことはかなりのスピードで進んでいるようで、開催は二週間後。

 形式はトーナメント戦で、既に組み合わせも決まっているらしい。


 林さんから渡された紙を受け取り、ざっと目を通す。


 ブロックは二つ。

 『開拓者』は反対側のブロックに配置されていて、お互いが勝ち上がれば決勝で当たるようになっている。


 参加パーティーは想像以上に多く、一ブロックにつき四十八パーティー。

 紙は二枚あり、どちらも同じようなトーナメント表に見えた。


「同じのが2枚あるように見えるけど……?」


「戦闘方式が違うんだ、1枚目は自分のパーティーから6人選んで相手と勝ち抜き戦をする。2枚目はそのパーティー自体の団体戦だ」


「へぇ……よく考えたね。6人に満たなくてもいいの?」


「大丈夫だ。最後の1人が負けたら敗北だから、1人でも問題はない」


 なるほど。

 勝ち抜き戦は「個人戦の積み重ね」、団体戦はいつものダンジョンみたいな「連携勝負」って感じだ。


 私たちは、カレンを含めても五人。

 あと一人、どうするか。


 椅子に座っている私の背後から、カレンが抱きつくように顔を覗き込み、トーナメント表を一緒に眺めていた。


「出たい?」


「ん、遠慮する。あーちゃんぐらい頑丈じゃないと多分殺しちゃう」


 それはそれで説得力がありすぎる理由だ。


「あぁ、もちろんだが殺しはご法度だ。武器もこっちが用意した木製の物を使ってもらう。できるだけ形は合わせるようにするが……嬢ちゃんの獲物は剣でいいんだよな?」


「うん。こんな感じ」


 右手に魔力を流して剣を顕現させる。

 鍔のない、両刃のまっすぐな刃。

 刀のような反りもなく、ただ「斬る」ことだけに特化した、一見すると無骨な形状だ。


 最初は普通の片刃の剣を使っていたのだが、鍔が視界を邪魔したり、柄とのバランスが気に入らなかったりで、使い込むうちに今の形になった。


 ひとしきり眺めたあと、相田さんから剣を返却してもらい、そのまま魔力を引いて収納する。


 それからしばらく、お茶を飲みつつ今後の日程や注意事項の確認をして、二人は帰っていった。


「トーナメントまで2週間かぁ」


「なんで、悩むの? あーちゃんの実力ならこっちに敵なんていない……」


「強すぎる力を見せちゃうと生き辛くなっちゃうんだよね」


「そうなんだ。私の国は力が全て。だから、隠すのは新鮮。おもしろい」


 カレンの国の方が、私にはずっと生きやすいのかもしれない。

 そう思いつつも、こっちの世界で生きると決めた以上、むやみに「化け物だ」と知られるのは避けたい。


 勝ち抜き戦は、私と沙耶と七海……小森ちゃんは【支援】だから、本人が出たいと言うかどうかを確認してから考えよう。

 団体戦は、今まで通りの隊列で戦えば問題ないはずだ。


「そういえば、カレンがこっちに来た時のダンジョンってどんな感じのだったの?」


「ん。草原の端にスライム1匹だけ。戻るまでには見つからないと思ってた」


「そっ……そうなんだ」


 嫌な汗が背中を伝った。

 そのダンジョンには、身に覚えがある。


 協会に登録されていないゲートは、発見者か土地所有者のもの。

 だから、「誰かに取られる前に攻略しちゃおう」と意気揚々と入ったダンジョンがあった。


 なのに、いくら探してもモンスターの影が一切見つからず、半ば意地で【神速】まで使って走り回り、ようやく端っこでスライムを見つけて倒したら――その瞬間、攻略扱いになってゲートが消えた。


 あの妙なダンジョンだ。


「あーちゃん、今、声上擦った。もしかして、心当たりある?」


「しっ、知らないなぁ」


「……嘘。あーちゃんの魔力がざわついた。動揺してる」


 やっぱり誤魔化せなかったか。

 魔力の状態で心情を読まれるの、地味に厄介だ。


「ごめん、私が攻略した」


 観念して白状すると、カレンがすっと背後に回り、私の頭の上に顎を乗せてきた。

 肩の上から両腕が回ってきて、そのまま首を絞められるのでは――という不安がよぎる。


「うん、素直でよろしい。でも、罰として……また今度、血吸わせて」


「……1回だけだからね」


「やったぁ」


 私の頭頂部に頬擦りしながら、カレンが小さく弾むように喜びを表現する。


 変なダンジョンだな、と思った時点で引き返していればよかった。

 今こうして目の前にいるカレンの状況を考えると、元を辿れば原因の一端は確実に私にある。


 せめて1回分くらいは、罰という名目でその要望を受け入れておこう。

 それくらいの自己満足な罪滅ぼしは、しておいてもいいだろう。

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― 新着の感想 ―
好き勝手させる以外ではかなり穏便な対応だったけどなぁ 人に喧嘩売る奴が自分の弱点とか全部晒してるとか色々指摘できるところほんと最小限しか発言してない
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